(1-2)
ついにヴェルザードが一線を越えた。
「クローレ、お前の両親はな、お前が逃げたせいで炎に焼かれたんだ。剣士どころか、家族すら守れなかった無能な女! どうせ毎晩ベッドで泣きながら自分の無力さを呪ってるんだろ?」
その言葉に、クローレの理性が崩壊した。
「貴様ァッ!」
怒りにまかせ、フレイムクロウを抜き放つ。
剣が赤く燃え上がり、炎の尾を引いてヴェルザードに斬りかかる。
「お前なんか!」
だが、ヴェルザードは杖を軽く振るだけで黒い魔力の障壁を展開し、クローレの炎は触れた瞬間、煙となって燃え尽きた。
「愚かだな!」
ヴェルザードが指を鳴らすと、魔力の鎖がクローレの手足を絡め取り、地面に叩きつける。
あられもない姿で転がるクローレをリリスが手を叩いて笑う。
「あら、みっともない! その自慢の体、地面に這うのがお似合いよ!」
クローレは這うように立ち上がろうとするが、鎖が彼女を締め上げる。
「くぅっ……!」
炎の剣を握り直し、力を振り絞って再び斬りかかるが、ガルドが一歩踏み出し、巨大な戦斧で彼女の剣を軽く払いのけた。
「ハッ! こんな弱い女が剣士だとよ! 俺の靴でも舐めてろ!」
その言葉に、群衆がさらに哄笑する。
クローレの体が震え、汗と涙で銀髪が張り付く。
もろくなっていた鎧はさらに崩れ、ほとんど下着の役割しか果たしていない。
群衆の猥雑な視線と、下品を極めた野次が彼女をさらに追い詰めた。
「見るな……やめろ……!」
彼女は叫ぶが、声はか細く、群衆の笑い声にかき消されてしまう。
リリスが近づき、クローレの顎を掴んで顔を上げさせる。
「ほら、皆に見せてあげなさいよ、その情けない顔! 剣士なんて仮面、剥がれちゃったわね!」
その瞬間、クローレの心が枯れ枝のように折れた。
フレイムクロウが地面に落ち、誇りの炎が消える。
彼女は膝をつき、肩を震わせながら嗚咽を漏らした。
「私は……私は……!」
言葉にならない悔しさと無力感が、折れた心を粉々に砕く。
「どうせ、どうせ……私なんか……」
こらえていた涙が頬を伝い、地面に滴り落ちる。
彼女は両手で顔を覆い、子供のよう泣きじゃくった。
ヴェルザードが冷たく笑う。
「カッハッハッ、これがSランク剣士様だ! 見ておけ、この惨めな姿を!」
リリスが付け加える。
「こんな女に期待した皆がバカみたいね!」
ガルドが地面に唾を吐き、「いつものように布団でもかぶって泣いてろ!」と叫ぶ。
群衆の嘲笑と野次が、クローレの泣き声を飲み込んだ。
広場の喧騒の中で、クローレの誇り高き心は完全に折れ、彼女はただ泣き続けるしかなかった。
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