第4章 黒き刺客(4-1)
朝の森は静寂に包まれ、薄霧が針葉樹の根元を流れていた。
目を覚ましたキージェは視線を感じ、飛び起きた。
――来たか。
「あ、おはよう」と、ベッドであくびをしているクローレと視線が合う。
――お、おう、そうだった。
キージェは苦笑しながら、毛布の下でそっと腹肉をつねった。
巨乳娘と一晩過ごしたのは夢じゃないらしい。
鼾かいて嫌われてないだろうか。
ま、嫌われて出ていってくれた方がありがたいんだけどな。
「早いな。起きてたんだな」
「昨日は恥ずかしいところ見られちゃったね」
うなされて泣いていたことらしい。
「ん、ああ、べつに気にすることはねえさ」
今のおまえの格好の方が恥ずかしいんだけどな……見てる俺の方が、な。
クローレはベッドの上で胸元の大きく開いた服を引き上げながら大きく背伸びをした。
一枚の布に頭を通す穴を開けてかぶり、両脇を紐で縛った貫頭衣は、腕を上げた状態で体をひねると脇腹が丸見えだ。
――だが、しかし。
じっくり拝んでる場合じゃねえか。
キージェはストームブレイドを握りしめて立ち上がった。
「どうしたの?」と、見上げるクローレに、人差し指を立てる。
「身支度を調えてじっとしてろ。だが、絶対に外に出るなよ」
キージェは細くドアを開けると、素早く外へ飛び出した。
瞬間、矢が頬をかすめた。
前方跳躍でかわし、前転から立て直したキージェに黒マントの男が一直線に突っ込んできた。
「見つけたぞ、クアジャ!」
水平に剣を振る相手に軽くストームブレイドを合わせ、懐へ飛び込み体当たりを食らわせる。
胸から血を噴き倒れる相手に背を向け、キージェはすかさず剣を頭上に構えた。
屋根の上から二人の刺客が同時に飛びかかる。
――かかったな。
キージェはしゃがみこみ嵐撃絶刃で打突を受けると、刺客は吹き飛び、一人は木の幹に背中を強打し悶絶、もう一人は後転しながらも体勢を立て直し、剣を突き出して構えた。
――この三人だけか。
残り一人を片付けようとしたときだった。
ドアが開き、クローレが姿を現した。
虚を突かれた刺客が攻撃をためらった瞬間、フレイムクロウを逆手に構えたクローレが突進する。
「キージェに何するのよ!」
二対一の不利が予想外だったのか、うろたえた刺客はもろに打突を受け、のけぞりながら吹っ飛ぶ。
だが、転がりながらもすぐに起き上がると、剣を構え直し、クローレとにらみ合う。
――やっかいな野郎だな。
クローレが三人目と対峙している間、キージェは木の根元にへたり込んでいる二人目の刺客の背後に回り込んだ。
首にストームブレイドをあてがうと、うめきながら男が意識を取り戻す。
「く、おまえ、我らの襲撃、なぜ予見してた」
キージェは冷静に男の首を掻き切りながらつぶやいた。
「森が静かすぎた」
――鳥にも嫌われてるようじゃ、不意打ちなんてできねえよ。
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