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(3-6)


   ◇


 いつの間にか寝入っていたらしい。


 キージェは何か悪い夢にうなされている気がして目を覚ました。


 ――ん?


 頭がぼんやりしているが、どうやら自分が夢を見ていたわけではないらしい。


 うなされているのはベッドで寝ているクローレだった。


 自分の小屋に他人が寝ていることを理解するのに少し時間がかかってしまって、何が起きているのか分からなかったのだ。


 ベッドをのぞき込むと、クローレは泣いていた。


「おい、どうした?」


「ん……村が……」


 昔のことを思い出しているのか?


 黒衣騎兵に村を襲われた記憶。


 家族や仲間を失った惨事。


 もしかしたら、毎晩こいつはそんな悪夢にうなされながら生きてきたんじゃないのか。


「村が焼けちゃって……みんな……みんなが……」


「おい、大丈夫か」


 毛布越しに肩を揺すってやると、クローレが薄く目を開けた。


「ん……」


「夢だよ。大丈夫だ。みんな無事だよ」


「きゃあっ!」


 思いっきり両手で突き飛ばされてキージェは床に尻餅をついた。


「わ、悪かった。俺だ。キージェだ。分かるか」


「ん、あ、あれ?」と、闇の中でクローレがじっと目をこらしている。「あ、ああ、師匠?」


「ああ、俺だ」


「ごめん。いやな夢見ちゃって」


「ああ、昔の記憶がよみがえったのか」


 暗闇の中で、うなずく気配がした。


「まあ、夢だよ。心配ないから、安心して寝ろよ」


「うん、ごめんなさい」


「いや、大丈夫だから」


 床で寝ようとすると、クローレが涙声でささやいた。


「師匠、お願い」


「なんだ?」


「手、握ってて」


「ん」


 キージェはゴツゴツとした手を柔らかな手に重ねた。


「心配するな。ここにいるよ」


「ありがと」


「おやすみ」


 キージェは子供を寝かしつけるように、静かに手をさすってやった。


 少しして穏やかな寝息を立ててクローレが寝付いた。


 それでもキージェはもうしばらくの間、暗闇の中でクローレの手をそっと握り続けていた。


 ――だから言ったんだよ。


 同じ部屋の中で落ち着いて眠れるわけねえんだよ。



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