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(3-3)

「ま、このくらいでいいかな」と、クローレが手をはたき、鉄鍋からスープを木の椀に注ぎ、串焼きを添えてキージェに差し出した。「はい、師匠の分、特製スープと香草焼きね」


「おっと、椅子が足りねえか」


 料理を室内のテーブルに運んで椅子を用意する。


 元々一つしかないから、もう一つの椅子の代わりに丸太を転がして運び入れた。


 クローレも自分の椀と串焼きを並べる。


「さあ、どうぞ、召し上がれ」


「おう、いただくよ」


 お椀を手にしたキージェは立ち上る匂いをかいだ。


「久しぶりにまともなものを食う気がする」


「焼くか煮るかと大して変わらないけどね」


「味付けが全然違うよ」


「ふだん、何食べてるの?」


「町に出て飯屋で食うとか、パンを買ってきて、カビなければずっと食ってる」


「男の一人暮らしだねえ。じゃあ、今日は味わって食べてね」


 キージェはスプーンを口に運び、一口飲むと、目を見開いた。


「ほう……うまいな!」


「でしょ、でしょ!」


 クローレは満面の笑みで、香草やら岩塩の話をするが、キージェは適当に返事をしながらスープを飲み干し、串焼きをくわえた。


 いい具合の焼き目に、中はほどほどに火が通って、香草の香りと一緒に絶妙な味わいが口に広がる。


「飯屋で食う料理よりうまいな」


「おかわりもあるからね」


「おっさんになるとそんなに食えねえんだよ」


「師匠は、そんなに年取ってないよ。若いじゃん。動きなんか、私でも全然かなわないんだし」


 経験が物を言う分野と、絶対的な若さの区別がつかないのが本当の若さなのだろう。


 今さらうらやましくはないが、どこか切なさがこみ上げてくる。


 キージェはクローレを見つめながらひょいぱくと串焼きを平らげた。


 串焼きにかじりつく白い歯、肉汁で光る唇。


 一緒に飯を食う相手がいる。


 ――贅沢な食事だった。


「いや、ごちそうさん。うまかったよ。ものすごく」


「ホントに? 味付けとか、口に合った?」


「ああ、もちろん。大満足だよ」


「よかった」と、無邪気な笑顔を見せる。


「どれ、じゃあ、俺が茶でも入れてくるか」


 クローレが荷物に手を伸ばす。


「だったら、精力がつくお茶、あるよ」


「はあ? なんでおまえがそんな物持ってんだよ」


 おまえ自身が一番の精力剤だろうが。


 クローレに言われただけで、枯れていた男が反応しそうになる。


「え、だって、疲労回復って大事じゃん」と、無邪気に首をかしげる。


「あ、ああ……そっちかよ」


 ――また言い方間違えやがって。


「そっちって、どっち?」


「知らねえよ。迷子にでもなってろ」


 きょとんとした表情のクローレを一人残して、キージェはかまどにポットを持っていった。



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