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「ま、このくらいでいいかな」と、クローレが手をはたき、鉄鍋からスープを木の椀に注ぎ、串焼きを添えてキージェに差し出した。「はい、師匠の分、特製スープと香草焼きね」
「おっと、椅子が足りねえか」
料理を室内のテーブルに運んで椅子を用意する。
元々一つしかないから、もう一つの椅子の代わりに丸太を転がして運び入れた。
クローレも自分の椀と串焼きを並べる。
「さあ、どうぞ、召し上がれ」
「おう、いただくよ」
お椀を手にしたキージェは立ち上る匂いをかいだ。
「久しぶりにまともなものを食う気がする」
「焼くか煮るかと大して変わらないけどね」
「味付けが全然違うよ」
「ふだん、何食べてるの?」
「町に出て飯屋で食うとか、パンを買ってきて、カビなければずっと食ってる」
「男の一人暮らしだねえ。じゃあ、今日は味わって食べてね」
キージェはスプーンを口に運び、一口飲むと、目を見開いた。
「ほう……うまいな!」
「でしょ、でしょ!」
クローレは満面の笑みで、香草やら岩塩の話をするが、キージェは適当に返事をしながらスープを飲み干し、串焼きをくわえた。
いい具合の焼き目に、中はほどほどに火が通って、香草の香りと一緒に絶妙な味わいが口に広がる。
「飯屋で食う料理よりうまいな」
「おかわりもあるからね」
「おっさんになるとそんなに食えねえんだよ」
「師匠は、そんなに年取ってないよ。若いじゃん。動きなんか、私でも全然かなわないんだし」
経験が物を言う分野と、絶対的な若さの区別がつかないのが本当の若さなのだろう。
今さらうらやましくはないが、どこか切なさがこみ上げてくる。
キージェはクローレを見つめながらひょいぱくと串焼きを平らげた。
串焼きにかじりつく白い歯、肉汁で光る唇。
一緒に飯を食う相手がいる。
――贅沢な食事だった。
「いや、ごちそうさん。うまかったよ。ものすごく」
「ホントに? 味付けとか、口に合った?」
「ああ、もちろん。大満足だよ」
「よかった」と、無邪気な笑顔を見せる。
「どれ、じゃあ、俺が茶でも入れてくるか」
クローレが荷物に手を伸ばす。
「だったら、精力がつくお茶、あるよ」
「はあ? なんでおまえがそんな物持ってんだよ」
おまえ自身が一番の精力剤だろうが。
クローレに言われただけで、枯れていた男が反応しそうになる。
「え、だって、疲労回復って大事じゃん」と、無邪気に首をかしげる。
「あ、ああ……そっちかよ」
――また言い方間違えやがって。
「そっちって、どっち?」
「知らねえよ。迷子にでもなってろ」
きょとんとした表情のクローレを一人残して、キージェはかまどにポットを持っていった。
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