(2-7)
苦笑するキージェに、クローレが目を輝かせながら顔を突き出す。
もれなく胸も迫ってくる。
「ねえ、今の技、師匠があいつらを一撃にした技でしょ」
「ああ、そうだ。嵐撃絶刃だ」
「あんな技、どうやって身につけたの?」
「まあ、実戦かな」
――死線をくぐり抜けた者だけに見える世界もある。
決して、いいもんじゃねえけどな。
過去に意識が引きずられそうになって、キージェは軽く首を振って話を変えた。
「おまえの剣、悪くねえよ。きっと良くなる」
クローレは目を輝かせ、痛みを堪えながら笑う。
「ほんとに?」
「ああ。動きもいい。Sランクだけのことはある。ただの経験値の積み上げだけじゃねえよ」
「けど、やっぱりまだまだだよね」と、クローレは口をとがらせ銀髪をかきあげた。「師匠の技はもっとすごいもん。全然動きが分からない。軽くかわされちゃうし、受けるのもやっと」
「そう簡単に見切られてたまるかよ」
「えへへ」と、クローレはなぜか照れくさそうに笑う。
「なんだよ」
「あたしの師匠はかっこいいなって」
「はあ?」
「やっぱり尊敬しちゃう」
耳まで赤く染めたクローレの表情に、キージェまで胸がざわつく。
「くだらねえこと言ってんじゃねえよ。だから怪我するんだろ。今日はもう終わりだ」
キージェは立ち上がり、クローレに手を差し伸べる。
「立てるか、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんじゃないって! 剣士だよ!」
クローレは笑いながら手を握り、ゆっくり立ち上がる。
「師匠、おなかすいたでしょ。あたし、お礼に夕飯作ってごちそうするよ」
「お礼なんて、いいさ」
「えー、じゃあ、何で払えばいいの?」
とっさにクローレから視線をそらしたが、意識しすぎてかえって顔が熱くなる。
「そういう言い方はやめろって」
「そういうって、どういうこと?」
純朴な瞳で見上げられ、滝のような汗が噴き出る。
――まったく、困ったお嬢ちゃんだよ。
「ああ、もういい、わかったよ。夕飯ごちそうになるよ」
「やったあ、そうこなくっちゃ」
鼻歌交じりに腰を振りつつ歩き出すクローレの後ろを、キージェは肩をすくめながらついていった。
――いやな予感しかしねえよ。
若さをうらやんだことはなかったし、歳を重ねたことを後悔したこともなかった。
だが、若い女の後ろ姿を眺めていると、過ぎ去った時間と遅すぎた出会いになんとも言えないもどかしさを感じてしまう。
なんで出会っちまったんだろうな。
めでたしめでたし、なんて結末にはなりそうもねえのにさ。
ほてった顔を撫でて風が吹きぬけていく。
泉の水面が静かに揺れ、森に夕暮れの影が落ち始めていた。
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