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第8話「旅路の試練と絆の深化」

「うーん、雲行きが怪しくなってきたね」


ウィルが空を見上げて呟いた。午前中はあんなに晴れていたのに、いつの間にか厚い雲が空を覆い始めている。


僕とウィルがエルムの村を出発してから、もう丸一日が経っていた。初日は順調だったが、二日目の今日になって天候が急変し始めた。


「雨が降り出す前に、どこか雨宿りできる場所を見つけた方がいいでしょうか」


僕は荷物を担ぎ直しながら言った。街道沿いを歩いているとはいえ、周りは森と草原が続いている。建物らしい建物は見当たらない。


「そうだな。この辺りには確か...」


ウィルが記憶を辿るように前方を見詰めていると、突然、森の奥から奇妙な鳴き声が響いた。


「グルルル...ガアアア!」


その声は明らかに野生動物のものではない。もっと不気味で、邪悪な響きを持っていた。


「魔物だ」ウィルの表情が一瞬で険しくなった。「レイ、僕の後ろに」


「え、でも...」


「君の小石の能力は分かっているが、魔物相手では勝手が違う。まずは様子を見よう」


その時、森の木々がざわめき、何かが近づいてくる音が聞こえた。やがて姿を現したのは、狼のような体型だが毛色が不自然に黒く、目が赤く光る異形の生物だった。


「シャドウウルフか...厄介だね」ウィルが小声で呟いた。


シャドウウルフ?聞いたことがない名前ですが、その異様な姿を見れば危険な魔物だということは一目瞭然でした。体長は普通の狼の1.5倍はあり、口からは黒い霧のようなものが漏れている。


「グルルル...」


シャドウウルフは僅かに距離を保ちながら、僕たちの周りを半円を描くようにゆっくりと移動し始めた。まるで獲物を品定めしているような、計算高い動きだった。


「レイ、シャドウウルフは普通の攻撃では効かないんだ。影の力を操り、物理攻撃の大部分を無効化してしまう」ウィルが静かに説明してくれる。「だが、魔力を込めた攻撃なら通用するはずだ」


魔力を込めた攻撃...それなら僕の小石でも可能かもしれません。


「ウィルさん、魔法は使えるんですか?」


「昔取った杵柄でね。基本的な光魔法なら使える。君の小石と組み合わせれば何とかなるかもしれない」


その時、シャドウウルフが突然跳躍した。狙いは僕だった。


「レイ!」


咄嗟に横に飛び退きましたが、シャドウウルフの爪が僕の袖を掠めました。その瞬間、袖の部分が黒く変色し、まるで腐食したように布が破れた。


「影の毒か...直接触れたら危険だ」


ウィルが両手に光を集めながら詠唱を始めた。


「光よ、暗闇を払い給え。ライトボール!」


手のひらサイズの光球がシャドウウルフに向かって飛んだ。しかし魔物は敏捷に躱し、さらに僕たちに向かって突進してくる。


僕は急いで小石を生成しました。いつもより多めの魔力を込めて、青い輝きを強くします。


「こちらです!」


投擲スキルを使って小石をシャドウウルフの足元に投げつけました。狙いを外したように見えましたが、これは計算通りでした。小石が地面に当たった瞬間、込められた魔力が光となって放出され、魔物の動きを一瞬止めた。


「今だ!」


ウィルの光魔法が直撃し、シャドウウルフが苦しそうに鳴いた。しかし、まだ倒れない。


「手強いな...もう一度だ、レイ」


「分かりました!」


今度はより慎重に狙いを定めます。シャドウウルフが体勢を立て直そうとしている隙に、魔力を最大限に込めた小石を生成しました。青い輝きがいつもより鮮やかになります。


投擲の瞬間、僕は小石に込めた魔力を意識的に操作してみました。魔力操作スキルの応用です。小石が空中で軌道を微調整し、シャドウウルフの側面に命中した。


「ガアアア!」


魔物の体が青い光に包まれ、やがて黒い霧のように消散していきました。


「やりました...」


僕は膝をついて息を切らしました。戦闘はそれほど長くありませんでしたが、集中力を使い果たした感じでした。


「見事な連携だったよ、レイ」ウィルが僕の肩を軽く叩いてくれました。「君の小石の魔力操作、あれは応用が利きそうだ」


「魔力操作でしょうか?」


「空中で小石の軌道を調整しただろう?あれは高度な魔力制御技術だ。君が思っている以上に、その小石には可能性がある」


そうは言われても、僕自身まだよく理解できていない部分が多いです。でも、実戦で使えることが分かったのは収穫でした。


「それより、雨が降り出しそうだ。急いで雨宿りできる場所を探そう」


ウィルさんの言葉通り、空の雲はさらに厚くなり、今にも雨が降り出しそうな気配でした。


僕たちは街道を急いで歩き、やがて小さな石造りの休憩所を見つけました。屋根があり、簡単なベンチも置かれています。旅人用の施設らしいです。


「ここで雨をやり過ごそう」


休憩所に入ると同時に、大粒の雨が降り始めました。タイミングが良かったです。


「ウィルさん」僕は雨音を聞きながら切り出しました。「さっきの戦闘で思ったんですが、ウィルさんの魔法、とても基礎的とは思えませんでした」


ウィルは苦笑いを浮かべました。


「鋭いね、レイ。実は...僕はただの事務員ではなかった。昔、魔術師ギルドで戦闘魔法の研究もしていたんだ」


「戦闘魔法の研究ですか?」


「ああ。だが、ある事件をきっかけに研究から身を引き、事務の仕事に回ったんだ」


ウィルさんの表情が少し暗くなりました。


「その事件というのは...?」


「ソーン・ブラックウッドに関わることだ」ウィルは雨を見詰めながら続けました。「彼が危険な研究に手を染めていることに最初に気づいたのは、実は僕だった」


僕は息を呑みました。そんな深い因縁があったなんて。


「ソーンは優秀な研究者だった。アズライトの研究において、彼の右に出る者はいなかった。だが、次第に禁忌の領域に足を踏み入れるようになった」


「禁忌の領域ですか?」


「生命エネルギーを直接操作する魔法だ。アズライトを触媒にして、生物の生命力を吸収し、自分の魔力に変換する技術を開発していた」


それは確かに危険すぎます。


「僕が上層部に報告したことで、ソーンの研究は中断され、彼は追放された。だが同時に、僕も研究から外され、事務職に回されたんだ」


「それは...ひどいです」


「組織というのはそういうものだ。内部告発者は、たとえ正しいことをしても疎まれる」ウィルは肩をすくめました。「だが後悔はしていない。あの研究が続いていれば、もっと大きな災いが起きていただろう」


雨は相変わらず激しく降り続いています。休憩所の中は薄暗く、外の世界と隔絶されたような静けさがありました。


「だからソーンさんはウィルさんを恨んでいるんですね」


「おそらくね。彼にとって僕は、夢を奪った憎むべき存在だろう」


「でも、僕を狙う理由は何でしょうか?」


「君の小石生成能力だ」ウィルは真剣な表情で僕を見ました。「ソーンの研究していた生命力変換魔法には、高純度のアズライトが大量に必要だった。だが天然のアズライトは希少で高価だ」


なるほど、それで僕の能力が狙われているのか。


「君が無限にアズライト様の石を生成できるなら、彼の研究は一気に進展する。それを阻止するためにも、君をラインガルドの魔術師ギルドに連れて行く必要がある」


「ギルドに行けば安全なんでしょうか?」


「完全に安全とは言えないが、少なくともソーンが公然と活動することは難しくなる。それに、君の能力を正式に評価してもらえれば、ギルドの保護を受けられる可能性もある」


僕は自分の手のひらを見詰めました。こんな小さな石を作る能力が、これほど大きな問題に発展するなんて、転生したばかりの頃は想像もしていませんでした。


「ウィルさん、ギルドではどんな評価を受けることになるんでしょうか?」


「まず基本的な魔力測定、そして能力の実演だろうな。君の小石の特殊性質については、詳しく調べてもらえるはずだ」


「拘束魔法の無効化能力のことですね」


「それだけではない」ウィルは興味深そうに言いました。「今日の戦闘で見せた魔力の操作能力、それにアズライトとは異なる独自の性質...君の能力には、まだ発見されていない側面があるような気がする」


雨音が少し弱くなってきました。空の一部が明るくなり、雲の切れ間から薄日が差し込んでいます。


「雨が上がりそうだ」ウィルが立ち上がりました。「もう少し歩けば、今夜泊まれる宿場町がある」


僕も荷物を担ぎ直しました。シャドウウルフとの戦闘、ウィルさんとの深い話、そして明日にはラインガルドに到着する予定...この旅は僕にとって大きな転機になりそうです。


「ウィルさん」僕は歩きながら言いました。「ありがとうございます。一人だったら、今日の魔物にも対処できませんでした」


「お互い様だよ、レイ。君の機転がなければ、僕の魔法だけではシャドウウルフは倒せなかった」


確かに、連携が上手くいったからこそ勝てた戦いでした。


「それに」ウィルが振り返って笑いました。「君と旅をしていると、昔の冒険心を思い出すよ。年を取ってからこんな刺激的な経験ができるとは思わなかった」


僕も思わず笑顔になりました。この世界に転生して、最初は戸惑うことばかりでしたが、こうして信頼できる仲間と出会えたことは本当に幸運でした。


雨上がりの街道を歩きながら、僕は明日のことを考えました。ラインガルドの魔術師ギルド...そこでは一体どんな出会いが待っているのでしょうか。


「そういえば」ウィルが思い出したように言いました。「ラインガルドのギルドには、僕の古い知り合いがまだ何人かいるはずだ。特にマスター・エルドラという人物は、君のような特殊能力の評価に長けている」


「どんな人なんですか?」


「厳格だが公正で、優秀な魔術師だ。彼女なら君の能力を正しく理解し、適切な指導をしてくれるだろう」


彼女...女性のマスターがいるのですね。この世界の魔術師ギルドについて、まだまだ知らないことが多いです。


夕暮れが近づく頃、ようやく宿場町の建物が見えてきました。石造りの家々が立ち並び、街道沿いには「旅人の宿アルドリッチ」という看板を掲げた二階建ての建物がありました。


「ここで一泊しよう」ウィルが宿の扉を開きました。


宿の中は温かく、暖炉の火が心地よい光を放っています。宿の主人らしい中年男性が愛想良く迎えてくれました。


「いらっしゃいませ。お二人部屋でよろしいでしょうか?」


「ああ、頼む」ウィルが銅貨を数枚手渡しました。


部屋に案内されて荷物を置くと、僕は一日の疲れがどっと押し寄せてきました。シャドウウルフとの戦闘、ウィルさんとの深い話、そして明日への不安と期待...


「レイ、夕食の前に少し小石の練習をしてみないかい?」ウィルが提案してくれました。「今日の戦闘で新しい応用法が見えてきた。それを整理しておけば、明日のギルドでの評価に役立つかもしれない」


「そうですね」


僕は手のひらに小石を生成しました。いつものように青い輝きを放つ石ですが、今は以前より魔力の制御が上手くなっているのが分かります。


「魔力を込める量を段階的に変えてみろ」


言われた通りに、魔力の込め方を調整してみます。少量の魔力なら薄い青色、多く込めると鮮やかな青色になります。そして最大限の魔力を込めると...


「おお」ウィルが驚いた声を上げました。「それは...」


小石が強い青い光を放ち、まるで小さな星のように輝いています。これまでで最も美しい光でした。


「これだけの魔力密度があれば、様々な応用が可能だろう」ウィルが興味深そうに見詰めます。「明日、ギルドでこれを見せれば、きっと驚かれるぞ」


夕食は宿の食堂でとりました。他の旅人たちもいて、様々な話が聞こえてきます。商人の話、冒険者の武勇伝、各地の情報...この世界の豊かさを感じることができました。


「明日の朝早くに出発すれば、昼過ぎにはラインガルドに到着できる」ウィルが地図を確認しながら言いました。「ギルドは街の中央部にある。立派な建物だから、すぐに分かるはずだ」


「緊張します」僕は正直に言いました。


「大丈夫だ。君の能力は本物だし、僕も一緒にいる。きっと良い結果になる」


その夜、僕は窓から夜空を見上げました。明日からは新しい章が始まります。ラインガルドの魔術師ギルド、そこで僕はどんな評価を受けるのでしょうか。そして、ソーンさんは本当に追ってくるのでしょうか。


不安と期待が入り混じった気持ちで、僕は眠りにつきました。明日という日が、僕の人生を大きく変える予感がしていました。


翌朝、僕たちは早起きして宿を出発しました。いよいよラインガルドへの最後の道のりが始まります。街道は徐々に整備され、交通量も増えてきました。大都市が近いことを実感できます。


「レイ」歩きながらウィルが言いました。「ギルドでは謙虚に、しかし自信を持って自分の能力を示すんだ。君の小石には、きっとまだ知られていない素晴らしい可能性が眠っている」


僕は頷きました。この旅で学んだこと、身につけたこと、そして信頼できる仲間...全てを胸に、新しい挑戦に向かう準備はできていました。




━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス】 ━━━━━━━━━━━

【名前】レイ・ストーン 【レベル】8(↑1)

【称号】小石の魔術師

【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳

【職業/クラス】冒険者/錬金術見習い


【ステータス】

HP: 125/125 (↑10) MP: 32/32 (↑4)

攻撃力: 7 (↑1) 防御力: 8 (↑1)

魔力: 17 (↑3) 素早さ: 9 (↑1)

命中率: 10 (↑1) 運: 7 (↑1)


【スキル】

・小石生成 Lv.6→7: 魔力を込めた青い小石を生成。拘束魔法を無効化する特殊性質を発現。アズライト純度70%相当の石を安定生成可能。魔力密度の段階調整が可能。

・投擲 Lv.2→3: 魔力石の投擲で敵を怯ませることができる。軌道予測精度が向上。

・鉱物知識 Lv.5: 錬金術的観点での鉱物理解。アズライト粉末の活用法を習得

・魔力操作 Lv.3→4: 魔力を外部放出可能。光による拘束魔法の中和技術を獲得。空中での小石軌道調整が可能(New!)


【関係性】

・ウィル:元魔術師ギルド職員の下宿先老人。レイを守るため共にラインガルドへ向かう旅の同行者。ソーンとの因縁が判明(信頼↑↑↑)

・ヘルム:宝石商、アズライト粉末を提供してくれた恩人(感謝↑)

・ダンカン:採石場の親方、レイの帰りを待っている(友好維持)

・ソーン・ブラックウッド:元魔術師ギルド研究者、ウィルによって研究を阻止された過去を持つ。レイの能力を狙う危険人物(敵対↑↑)

・マスター・エルドラ:ラインガルド魔術師ギルドの女性マスター、ウィルの知り合い(未会見)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第8話では、ついに初の“本格的な魔物との戦闘”が描かれました。

ウィルの過去やソーンとの因縁、そして主人公レイの小石スキルの可能性が、少しずつ見えてきた回でもあります。


今回の「シャドウウルフ戦」では、レイが初めて魔力操作を応用して戦う姿を描きました。

ただの地味スキルかと思いきや、「おや、意外とやるじゃないか?」と感じていただけたら嬉しいです。


また、ウィルさんの過去が明らかになったことで、旅が単なる移動だけでなく「人間関係の深化」の時間でもあると伝わればと思っています。

彼のような“大人の事情”を持つキャラって、書いてて味わい深いですね(笑)


次回はいよいよ、魔術師ギルドがある都市「ラインガルド」へ!

新キャラも登場予定なので、ぜひ楽しみにしていてください!


それでは、第9話でお会いしましょう!


感想・コメント、励みになります。お気軽にお寄せください!


※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨

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