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第6話「青き光と黒き影」

メイプルウッド村の下宿屋の裏庭。朝露に濡れた草地に座り込んだレイは、右手を眼前に掲げて深く息を吸い込んだ。


「集中…魔力を指先へ…」


昨日ウィルから教わった通り、体内の魔力を意識する。最初は霧のように捉えどころのなかった感覚が、少しずつ実体を持って感じられるようになってきた。


「そして…生成」


掌の中心に小さな光が宿り、それが凝縮されて淡い青みがかった小石が姿を現した。直径8mm程度の、表面が滑らかな石だ。


「できた…」


石を指でつまみあげ、朝日に透かすと、わずかに青い光が内側から漏れ出ている。純度の高いアズライトに近い性質を持った石の生成に成功したのだ。


「おや、朝から熱心だね」


振り返ると、老人ウィルが杖をつきながら近づいてきた。


「ウィルさん、見てください!昨日よりも魔力の含有量を増やせました」


レイは嬉しそうに小石を差し出す。ウィルは石を手に取り、眼鏡越しに慎重に観察した。


「うむ、なかなかだ。均一に魔力が行き渡っている。石の純度も高い」


「ヘルムさんの本で読んだんです。鉱物に魔力を込める時は、結晶構造を意識すると良いって」


ウィルは小石を返しながら、不思議そうな表情を浮かべた。


「普通、魔力操作の初心者が均質に魔力を込めるようになるには、最低でも数ヶ月はかかる。君の進歩は…異例だね」


「それは…僕のスキルのおかげだと思います」レイは恥ずかしそうに答えた。「小石を生成する時、どんな構成にするか意識できるんです」


ウィルは思案顔で杖をつきながら座り込んだ。


「レイ、今日はヘルムの店に行くつもりだったね?」


「はい、錬金術の基礎を教えてもらう約束をしたんです」


「その前に、一つ試してみないか」ウィルは懐から小さな水晶のペンダントを取り出した。「これは基礎的な魔力検知具だ。本来は鉱脈探索に使う」


レイは興味深そうに水晶を受け取った。透明な水晶の中心には、螺旋状の模様が刻まれている。


「その青い小石を水晶に近づけてごらん」


言われた通りにすると、水晶が淡く光り始め、内部の螺旋模様がゆっくりと回転し始めた。


「おお!」レイは驚きの声を上げた。


「反応している。つまり、君の石には確かな魔力が宿っている」ウィルの声には、驚きと何かしらの懸念が混じっていた。「ところで、昨日来ていた黒ローブの男のことだが…」


「ソーンさんですか?」


「あの男、辺境魔術師ギルドの調査員を名乗っていたが…」ウィルは周囲を見回してから声を落とした。「実はギルドの記章が偽物だった」


レイは息を呑んだ。「どういうことですか?」


「昔、私も魔術師ギルドと関わりがあってね。本物の記章は銀の縁取りに三つの青い宝石がはめ込まれているんだ。あの男のは、宝石の配置が違った」


不安がレイの胸に広がった。「彼が探していたのはアズライト…」


「そして君の青い石は、アズライトに近い性質を持っている」ウィルは真剣な表情でレイを見つめた。「用心したほうがいい。あの男、まだ村を離れていないらしい」


---


宝石商ヘルムの店は、村の中でも一際目立つ建物だった。レンガ造りの壁面には、色とりどりの鉱石や宝石のサンプルが飾られている。


「おや、来たか!待っていたぞ、少年」


髭を蓄えた中年の男、ヘルムが明るい声で迎えてくれた。店内には様々な原石や加工された宝石が並び、奥には錬金術の器具が置かれた作業台がある。


「今日は錬金術の基礎を教えてくださるとのことで…」


「ああ、約束通りだ」ヘルムは作業台へとレイを案内した。「だが、その前に見せてほしいものがある。昨日話していた、君が生成した青い石だ」


レイは朝作ったばかりの青みがかった小石を取り出した。ヘルムは眼帯のような拡大鏡を装着し、石を細かく観察する。


「驚くべきだ…」彼は呟いた。「構造がアズライトにとても近い。だが自然のものより…純度が高い」


「本当ですか?」


「ああ」ヘルムは作業台から小瓶を取り出した。「これは基礎的な錬金反応液だ。アズライトと反応すると…」


小石を液体に浸すと、瞬時に液体が青く発光し、小さな渦が発生した。


「素晴らしい!反応している!」ヘルムは興奮した様子で声を上げた。「君、この石、もう一つ作れるか?」


レイは頷き、集中して二つ目の小石を生成した。今度は意識的に、前回より魔力の含有量を抑えてみる。


「見てください。今度は魔力を少なめにしました」


ヘルムは二つ目の石も同じように反応液に浸した。今度は光は弱く、渦も小さい。


「なるほど…魔力量を調整できるのか」ヘルムは思案顔になった。「少年、君の能力は錬金術との相性が非常に良い。今から基礎を教えよう」


次の一時間、レイはヘルムから錬金術の基礎知識を教わった。鉱物の特性、魔力の触媒としての使い方、基本的な変成反応について。


「魔力を込めた鉱物は、錬金変成の核となる」ヘルムは説明した。「特にアズライト系の鉱物は空間に関わる変成に適している。だから転移石の材料として珍重されるんだ」


「転移石って何ですか?」


「空間転移の魔法を固定化した道具だ。本来は上級魔術師しか使えない複雑な魔法を、誰でも使えるようにしたもの」ヘルムは棚から古い巻物を取り出した。「ここに基本構造が…」


その時、店の入り口のベルが鳴った。


「いらっしゃい…」ヘルムの言葉は途中で止まった。


入ってきたのは黒いローブの男、ソーンだった。


「やあ、宝石商」低く落ち着いた声が店内に響く。「アズライトの在庫について聞きたい」


レイは本能的に身を引いた。ウィルの警告が頭に浮かぶ。


ソーンの鋭い目がレイに向けられた。「おや、君は昨日の…何をしているんだ?」


「錬金術を学んでいます」レイは緊張しながらも答えた。


「錬金術か…」ソーンは作業台に近づき、反応液の入った小瓶に目を留めた。青い光はほぼ消えかかっていたが、まだかすかに残っている。「面白い反応だな」


「一般的な練習だよ」ヘルムは体でレイを守るように立ちはだかった。「アズライトなら、残念ながら在庫はない。近隣の鉱山でも採れていない」


ソーンはヘルムとレイを交互に見つめ、不気味な微笑みを浮かべた。「そうか…残念だ」


彼はゆっくりと店内を見回し、展示棚に並ぶ様々な鉱石を眺めた。


「東の大都市ラインガルドでは、アズライトの価格が高騰している」ソーンは何気ない口調で言った。「辺境でも見つかれば、一躍金持ちになれるだろうね」


「東の…ラインガルド?」レイは思わず聞き返した。


「ああ、魔術師ギルドの本部がある大都市だ」ソーンはレイを見つめた。「君のような好奇心旺盛な若者なら、いずれ行ってみるといい。見るべきものがたくさんある」


ソーンは最後にもう一度作業台を眺め、「また来よう」と言い残して店を出て行った。


沈黙が流れる中、ヘルムが深いため息をついた。


「あの男、君の石に気づいたかもしれん」


「でも見せてないですよ」


「反応液の青い光を見た。あれだけで察しがつく」ヘルムは真剣な顔でレイの肩に手を置いた。「レイ、君の能力は貴重だ。だが、それゆえに危険も伴う」


「どうすればいいですか?」


「今は村に留まり、技術を磨くんだ。そして…」ヘルムは棚から小さな本を取り出して渡した。「これを読みなさい。基礎的な防御魔法と鉱物の知識が書かれている」


レイは本を受け取りながら尋ねた。「ラインガルドって、どんな都市なんですか?」


「魔術と錬金術の中心地だ。学びたいことがあるなら、いずれは行くべき場所だろう」ヘルムは店の窓から外を見やった。「だが今は、あの男に注意するんだ。彼の目的は単なる鉱物探しではないと見える」


---


夕暮れ時、レイは村の小高い丘に座り、ヘルムから借りた本を開いていた。しかし、思考は本の内容よりも、今日起きた出来事に向いていた。


「転移石…ラインガルド…」


ふと手の中の青い小石を見つめると、夕日に照らされて美しく輝いていた。この小さな石が、大きな可能性を秘めているとは。


レイは立ち上がり、小石を握りしめた。


「僕の力は小さいけど…」


彼は石を高く掲げた。夕日に照らされた青い石が、まるで未来への道しるべのように輝いている。


「この小さな石で、大きな奇跡を起こしてみせる」


村を見下ろしながら、レイは決意を固めた。魔力を込めた小石の可能性を極め、そしていつか…東の大都市ラインガルドへ。


しかし知らぬ間に、村はずれの木陰から一人の黒ローブの男が、レイの姿を冷たい目で見つめていた。


「見つけたぞ…アズライトの生成者」


ソーンの口元に、不吉な笑みが浮かんだ。


━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス】 ━━━━━━━━━━━

【名前】レイ・ストーン 【レベル】6(↑1)

【称号】石の目利き

【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳

【職業/クラス】採石場評価係/錬金術見習い


【ステータス】

HP: 105/105 MP: 24/24 (↑4)

攻撃力: 5 防御力: 6

魔力: 11 (↑3) 素早さ: 7

命中率: 8 運: 5


【スキル】

・小石生成 Lv.5→6: 手のひらに小石(直径1cm以下)を1日3個まで生成できる。魔力含有量と純度の調整が可能になり、アズライトに近い性質を持つ石が作れるようになった。

・投擲 Lv.1: 物を投げる基本的な技能

・鉱物知識 Lv.4→5: 錬金術的観点から鉱物の性質を理解できるようになった。アズライトの特性と転移石への応用を学んだ。

・魔力操作 Lv.1→2: 魔力を均一に石に込められるようになった。基礎的な魔力検知が可能。


【関係性】

・ウィル:下宿先の老人、ソーンの危険性を警告してくれた(親密↑)

・ヘルム:宝石商、錬金術の知識を教えてくれる師匠(信頼↑)

・ダンカン:採石場の親方、レイの仕事を見守っている

・ソーン:正体不明の黒ローブの男、レイの能力に強い関心を示している(警戒↑↑)


お読みいただきありがとうございました!


今回はレイの“魔力操作”と“錬金術”に焦点を当てたエピソードでした。これまで感覚的だった魔力の流れが、ようやく彼自身の手の内に収まり始め、物語としても次の段階へ進みつつあります。


青く光る小石=アズライト系の素材は、今後の物語の鍵となる重要なアイテム。今回登場した「転移石」や「ラインガルド」の話も、これから広がっていく世界観への伏線です。


一方で、黒ローブの男・ソーンも本格的に動き出しましたね。不気味な笑みとともに、レイの存在に何かしらの価値を見出している様子…。平穏だった村の時間に、確かな“影”が差し込んできたのを感じていただけたら嬉しいです。


次回は、レイの技術修行と並行して、ソーンの正体に少しずつ迫っていきます。舞台はまだ村の中ですが、静かな緊張感が高まっていく流れをお楽しみに!


それでは、第7話でお会いしましょう!


感想・コメント、励みになります。お気軽にお寄せください!


※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨

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