第5話「宝石と影、そして魔力の導き」
メイプルウッド村の朝は静かに始まった。レイは早起きして、昨夜も寝る前まで触っていた青みがかった小石を手のひらに乗せ、窓から差し込む朝日に透かして見ていた。
「不純物が少なくて、光の通り方がいい…」
下宿先の老人ウィルから教わった鉱物学の知識を総動員して、レイは自分の生成した小石を分析していた。昨日、村を訪れた宝石商ヘルムに見せる約束をしていたのだ。
「レイ、朝食だぞ」ウィルの声が階下から聞こえた。
「はい、今行きます」
食卓には粗末ながらも温かい朝食が並んでいた。パンとチーズ、そして季節の果実。レイは自分の皿に注がれた牛乳を一口飲んでから切り出した。
「ウィルさん、石に魔力を込める方法ってご存知ですか?」
ウィルは食べかけのパンを皿に戻し、興味深そうにレイを見た。
「ほう、ついにその段階か。基本は魔力循環法だが、素人がやるには難しい。まずは…」
朝食後、レイはウィルから簡単な魔力操作の基礎を教わった。呼吸を整え、意識を集中させ、自分の内なる魔力の流れを感じる。そして、それを指先へと導く。
「最初は成功しなくて当然だ。何度も練習するんだぞ」
レイは何度も試したが、指先がわずかに温かくなる感覚があるだけで、目に見える変化は起きなかった。
「時間だ。宝石商との約束があるんだろう?」
「はい。帰りが遅くなるかもしれません」
レイはポケットに青い小石を入れ、宝石商の店に向かった。
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ヘルムの宝石店は村の中でも一際目立つ建物だった。外壁は白く塗られ、窓枠には金色の装飾が施されている。店内に入ると、様々な宝石が陳列されており、その輝きに目を奪われた。
「やあ、来てくれたね、レイ君」
カウンターの向こうからヘルムが笑顔で手を振った。50代半ばの男性で、白髪交じりの髪と整えられた口髭が特徴的だ。
「約束通り来ました。これが私の作った石です」
レイは青みがかった小石をカウンターに置いた。ヘルムは片目に宝石鑑定用の拡大鏡をはめ、慎重に石を観察した。
「なるほど…純度はまだまだだが、均一性がいい。天然ではなく人工的に作られたとしか思えない構造だ」
ヘルムは鑑定台の上に石を置き、様々な器具で調べ始めた。
「これが君の…スキルの成果なのかね?」
レイはうなずいた。「はい。まだ未熟ですが、少しずつ成分の調整ができるようになってきました」
「君、錬金術に興味はあるかい?」
「錬金術ですか?」
「そう。物質の変成、特に鉱物の変換と加工を扱う学問だ。君のようなスキルを持つ者には向いているかもしれない」
ヘルムは奥の部屋から古い本を持ってきた。『初学者のための鉱物錬金術入門』と表紙に書かれている。
「借りていきなさい。読んでみて興味があれば、また話をしよう」
レイが礼を言って本を受け取ったとき、店のドアが開き、黒いローブを着た男が入ってきた。店内の明るい雰囲気とは不釣り合いな、重苦しいオーラを漂わせている。
「ヘルム、注文の品は揃ったか?」低く渇いた声だった。
「ああ、ソーンか。少し待ってくれ。奥にある」
ヘルムはレイに小声で言った。「少し待っていてくれ」
レイはカウンターの隅に立ち、黒ローブの男——ソーンと呼ばれた人物を観察した。ローブのフードで顔は隠れているが、時折見える手には古い傷跡が走っている。
ヘルムが小箱を持って戻ってきた。「確かに見つけたよ。でも量は少ない」
ソーンは箱を開け、中身を確認した。青白く光る小さな結晶がいくつか入っている。
「これだけか。転移石の材料にはまだ足りん」
「無理もない。アズライト鉱脈の枯渇は広域で起きている。今これだけ集められただけでも奇跡だよ」
「わかった。代金は約束通り払う」
ソーンは小さな袋をカウンターに置いた。中から金貨の音が聞こえる。そして、レイの方を向いた。フードの下から鋭い眼光が感じられる。
「その少年は…」
「ああ、彼は採石場で働いているレイ君だ。鉱物に詳しくてね」
ソーンはしばらくレイを見つめていたが、何も言わずに店を出て行った。
「あの人は…?」レイが尋ねると、ヘルムは溜息をついた。
「辺境魔術師ギルドの調査員らしい。詳しくは知らないが、各地の鉱物資源を調査している」
「転移石って何ですか?」
「空間魔法の触媒になる特殊な鉱石だ。正確にはアズライトという青い鉱石を加工して作る。希少で高価だよ」
レイは自分が生成した青い小石のことを思い出した。偶然似た成分になっただけかもしれないが…。
「ヘルムさん、私にも魔力の込め方を教えてもらえませんか?」
「魔力の…?なるほど、そういう段階か」ヘルムは興味深そうにレイを見た。「基礎から教えよう。まず魔力を感じることからだ」
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夕方、レイは採石場に立ち寄った。ダンカンに借りた本のお礼を言うためだ。
「おう、レイ!今日は休みじゃなかったか?」
「はい。ちょっと宝石商の店に行ってきました」
「そうか。お前の目は確かだからな。いずれ大きな宝石店で働くことになるかもしれんな」
レイはダンカンから借りた本を返し、ヘルムから借りた本を見せた。
「錬金術か。難しいぞ。だが、お前なら向いているかもしれん」
帰り道、レイは村はずれの小川のほとりで立ち止まった。誰もいない場所で、ヘルムから教わった魔力操作の練習をするためだ。
「呼吸を整え…意識を集中させ…」
レイは手のひらに小石を一つ生成した。普通の灰色の小石。これに魔力を込められるだろうか。
一時間ほど集中し続けたが、目に見える変化は起きなかった。疲れと共に失望感が押し寄せる。
「やはり難しいか…」
諦めかけたとき、レイは小石を生成する過程そのものに意識を向けてみた。スキル発動時の感覚…そこに何か、エネルギーの流れのようなものがあるのではないか。
「生成するときに魔力を…」
レイは再び小石生成のスキルを発動したが、今度は通常とは違う意識の向け方をした。石が形作られる瞬間に、自分の意志を込める。
手のひらに現れた小石は、ほんのわずかだが内側から淡く光っていた。
「できた…!」
興奮したレイは、もう一度試してみた。今度は青みがかった石を意図して生成する。石は青く、そして前よりもはっきりと光を放った。
魔力を帯びた小石。その可能性に、レイの心は高鳴った。
しかし、突然の疲労感で膝から崩れ落ちそうになる。魔力を使い過ぎたのだ。それでも、レイの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。
帰り道、遠くからソーンの姿を見かけた。黒いローブの男は村の外れに向かって歩いていく。レイは直感的に身を隠した。
ソーンが振り返ったとき、その視線がまるでレイの隠れている場所を見透かしているようだった。しかし、何も言わず立ち去った。
「あの人は何を探しているんだろう…」
宿に戻ったレイは、ウィルに今日の出来事を話した。青い小石の生成と、わずかながら魔力を込めることができたこと。
「すごい進歩だ」ウィルは驚いた様子で言った。「だが、くれぐれも無理はするな。魔力の扱いは危険が伴う」
「はい、気をつけます」
その夜、レイはヘルムから借りた本を読みながら考えていた。
転移石。アズライト。魔力を込めた石。
自分のスキルの可能性は、まだまだ未知の領域が広がっている。レイは手のひらに青く光る小石を生成し、その光を見つめた。
弱くても、小さくても、この光は確かに自分の力だ。
「これからどこまで行けるか…試してみよう」
レイの目には、新たな決意の光が宿っていた。
━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス】 ━━━━━━━━━━━
【名前】レイ・ストーン 【レベル】5(↑1)
【称号】石の目利き
【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳
【職業/クラス】採石場評価係
【ステータス】
HP: 105/105 MP: 20/20 (↑2)
攻撃力: 5 防御力: 6
魔力: 8 (↑2) 素早さ: 7
命中率: 8 運: 5
【スキル】
・小石生成 Lv.4→5: 手のひらに小石(直径1cm以下)を1日3個まで生成できる。成分調整の精度が上がり、魔力を微量に込められるようになった。
・投擲 Lv.1: 物を投げる基本的な技能
・鉱物知識 Lv.3→4: 鉱物の魔力的性質についての理解が深まった。アズライトなど特殊鉱物の知識を獲得。
・魔力操作 Lv.1(New!): 自身の魔力を感知し、微弱ながら外部に発現させる初歩的な技術。
【関係性】
・ウィル:下宿先の老人、魔力操作の基礎を教えてくれた(親密↑)
・ダンカン:採石場の親方、レイの将来性に期待している(信頼)
・ヘルム:宝石商、錬金術の基礎知識を教えてくれる新たな師匠(協力関係↑)
・ソーン:黒ローブの謎の魔術師、レイに何らかの関心を持った可能性(警戒)
小石に宿った、ほんのわずかな魔力の光。
それは、レイの努力と直感が生んだ確かな成果。
錬金術、転移石、そしてソーンという謎の存在――
少しずつ世界の「奥行き」に触れ始めたレイの前に、
新たな道が広がっていきます。
次回、第6話では「魔力の光」をきっかけに、レイがさらなる選択と出会いを重ねていく予定です。
少年の手のひらに宿る奇跡を、どうぞお楽しみに!
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