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第42話「時空の狭間で響く叫び」

ガロンの光の粒子が完全に消えた後、僕たちを待っていたのは重苦しい静寂だった。


「レイ、空を見ろ」


ソーンさんの声に促されて見上げると、古代都市の上空に巨大な渦巻きが現れていた。それは透明でありながら、その向こうに見える空の色が微妙に歪んでいる。


「時空歪み…本格的に始まったのね」エルディス長老の声が震えている。


アクアリスさんが心配そうに僕を見つめる。「継承者、あなたの魔力も相当消耗していますね。ガロンの救済は想像以上に困難だった」


確かに、今回は3個の小石すべてを使わざるを得なかった。ガロンの憤怒があまりにも深く、一つや二つでは浄化しきれなかったのだ。


「大丈夫です。明日にはまた3個作れます」


そう言いながらも、残り4つの封印を69時間以内に解決する困難さが重くのしかかる。


「セルヴィンさん、世界調和器の状況はどうですか?」


セルヴィンさんが慌ただしく分析装置を操作している。「レイ殿、状況は更に悪化しています。ガロンの封印が解けたことで、残りの4つの封印すべてが連鎖反応を起こしている。このままでは…」


「どうなるんですか?」


「24時間以内に、最も不安定な封印が完全に崩壊する可能性があります。そうなれば、中の存在が暴走状態で解放されてしまう」


僕の背筋に冷たいものが走る。今まで救済した3体は、封印が完全に崩壊する前に調和的に解決できた。でも、もし暴走状態で解放されてしまったら…


「暴走状態では、救済は不可能になるのでしょうか?」


アクアリスさんが深刻な表情で答える。「極めて困難になります。理性を完全に失った状態では、あなたの調和の光も届きにくくなってしまう」


その時、古代都市全体に響く悲鳴のような音が聞こえた。


「あれは…」


「4番目の封印地点です!」エルディス長老が叫ぶ。「古代都市の西端、嘆きの谷!」


僕たちは急いで嘆きの谷へと向かった。そこは古代都市の外れにある深い谷で、普段は霧に覆われている場所だった。


谷の底から、青白い光が激しく明滅している。そして、その光と共に響いてくるのは、確かに誰かの泣き声だった。


「誰かが…泣いているんですか?」


「4番目の封印存在、『悲痛の歌姫』シリウスです」エルディス長老が説明する。「彼女は古代文明で最も愛された歌姫でした。戦争が始まった時、人々の心を癒そうと歌い続けましたが…」


「でも、戦争の悲惨さを目の当たりにして、絶望に支配されてしまった」アクアリスさんが続ける。「その絶望が、美しい歌声を呪いの歌に変えてしまったのです」


谷の底から響く泣き声が、次第に歌声に変わっていく。でも、それは美しいメロディーではなく、聞く者の心を絶望に染める恐ろしい調べだった。


「みんな、耳を塞いで!」ソーンさんが警告する。


でも、その歌声は耳を塞いでも心に直接響いてくる。


『すべては無意味…希望など幻想…愛も友情も、すべて戦争に踏みにじられる…』


歌詞は直接理解できるわけではないのに、その意味が心に流れ込んでくる。僕の心にも、重い絶望感が広がり始める。


「レイ!」ソーンさんが僕の肩を掴む。「その歌に飲まれるな!」


「で、でも…」


『何を守ろうとしても、すべては失われる…大切な人も、愛する世界も…』


その瞬間、僕の心にカイルたちの顔が浮かんだ。もし時空統合が起これば、僕の仲間たちも危険にさらされる。守りたいと思っても、本当に守れるのだろうか?


「継承者!」アクアリスさんの声が僕を現実に引き戻す。「その絶望は、シリウスの心の傷です。あなた自身の感情ではありません!」


僕は必死に頭を振る。そうだ、これは僕の本当の気持ちじゃない。僕は諦めない。絶対に諦めない。


「シリウスさん!」僕は谷に向かって声を張り上げる。「僕には届いています!あなたの絶望が!でも、それは本当のあなたじゃないはずです!」


歌声が一瞬止まる。


「あなたは人々を愛していた!だから歌ったんでしょう?みんなの心を癒すために!」


『…誰?』


か細い声が響く。それは絶望の歌声とは違う、本来のシリウスの声だった。


「僕はレイ・ストーン。継承者です。あなたを救いに来ました」


『救う?…もう遅い…すべて失われた…』


「失われていません!」僕は強く叫ぶ。「あなたの愛した古代文明の人々の子孫たちが、今も生きています!エルディス長老も、ヴィラさんも、セルヴィンさんも!」


『本当に?』


「本当です!そして僕には、大切な仲間がいます。あなたと同じように、その仲間たちを守りたいんです」


青白い光が少し穏やかになる。


「一緒に来てください。谷の上に」


しばらくの沈黙の後、ゆっくりとした足音が谷底から響いてきた。そして現れたのは、透明感のある美しい女性だった。でも、その瞳には深い悲しみが宿っている。


「私は…シリウス」か細い声で自己紹介する。「でも、もう歌うことはできません。私の歌は呪いになってしまった」


「そんなことありません」僕は優しく言う。「今も、あなたの本当の心は歌いたがっているはずです」


僕は今日最後の力を振り絞って、小石を生成した。もう3個使ってしまったので、これは明日の分を前借りするような状態だ。消耗の重圧が全身を蝕む。しかしシリウスさんのためなら。


「これは?」


「アズライト。調和の石です。あなたの心の傷を癒し、本来の歌声を取り戻すために」


シリウスは小石を見つめながら、ぽろぽろと涙を流す。


「私…本当は歌いたい。みんなを幸せにする歌を。でも、恐ろしい光景を見すぎて…」


「大丈夫です。その恐ろしい記憶も、あなたの一部です。でも、それがすべてじゃない。あなたが人々を愛した気持ちも、確かにあったはずです」


僕は『深癒の光』を発動させる。今度は、シリウスの心の奥底にある、愛と希望の記憶に光を当てるように意識する。


光がシリウスを包み込むと、彼女の表情が少しずつ変わっていく。


「思い出した…子供たちが私の歌を聞いて笑顔になってくれたこと…恋人たちが私の歌で結ばれたこと…」


「それが本当のあなたです」


シリウスが小さく歌声を上げる。今度はとても美しく、心が温かくなるような調べだった。


『希望の光は消えない…愛は永遠に続く…大切な人を守る力を…』


その歌声が谷全体に響くと、周囲の空気が浄化されていくのを感じる。


「ありがとう…継承者」シリウスが微笑む。「私、やっと思い出しました。歌うことの喜びを」


光の粒子がシリウスを包み込み、彼女の姿が透明になっていく。


「私の歌声を、あなたに託します。きっと、あなたの心を支えてくれるはず」


シリウスの光の粒子が僕の心に溶け込んでいく。すると、心の奥底で美しい歌声が響き始めた。これは、絶望に負けそうになった時に僕を支えてくれるだろう。


4番目の封印が解除された瞬間、世界調和器の光がまた一段と激しくなった。


「残り3つ…」僕は呟く。


「そして45時間」ソーンさんが厳しい表情で時間を確認する。


空の時空歪みも、さらに大きくなっている。向こう側に見えるのは…現代の空だ。


「仲間たち…」


カイル、フィン、エリック。みんなは今、どうしているだろう。時空の異常に気づいているだろうか。


「レイ」ソーンさんが僕の肩に手を置く。「今日はもう休め。明日からが本当の勝負だ」


「でも…」


「君が倒れてしまったら、すべてが終わる。体力を回復させることも、重要な任務の一つだ」


アクアリスさんも心配そうに僕を見ている。「継承者、今日は小石を4個も生成されました。体への負担が心配です」


そうだった。最後のシリウス救済で、明日の分まで使ってしまった。


「明日は小石が作れないかもしれません」


「それでも、今日シリウスを救済できたことは大きな意味があります」エルディス長老が言う。「彼女の歌声は、残る3つの封印存在にも影響を与えるでしょう」


確かに、心の中でシリウスの歌声が響いている。これは、僕だけでなく、苦しんでいる封印存在たちの心にも届くかもしれない。


神殿に戻る途中、ヴィラさんが僕の体調をチェックしてくれる。


「レイ様、魔力の消耗が激しすぎます。このペースでは…」


「大丈夫です。必ず乗り越えてみせます」


でも、正直に言えば、体はかなり限界に近い。残り3つの封印を45時間で解決するのは、本当に困難な挑戦だ。


その夜、僕は神殿の一室で休息を取りながら、心の中でシリウスの歌声に耳を傾けていた。


『大切な人を守る力を…希望の光は消えない…』


そうだ。僕には守りたい人たちがいる。カイル、フィン、エリック。そして、この古代都市の人たちも。


時空歪みを通して、微かに現代世界の気配を感じる。仲間たちも、何かを感じ取っているかもしれない。


「待っていてくれ、みんな。必ず帰る。そして、君たちの世界を守ってみせる」


窓の外では、時空歪みが夜空に不気味な影を落としている。残り45時間。3つの封印存在。


明日からの戦いは、今まで以上に困難になるだろう。でも、僕は諦めない。シリウスから受け継いだ歌声が、僕の心を支えてくれている。


ガロンから継承した守護の意志、シリウスから受け継いだ希望の歌声。そして、仲間たちへの愛。


これらすべてを胸に、僕は最後の戦いに挑む決意を新たにした。


世界調和器の光が、神殿の壁に複雑な影を描いている。時間は刻一刻と過ぎていく。でも、僕の決意は揺らがない。


必ず、みんなを守ってみせる。

━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス更新】 ━━━━━━━━━━━

【名前】レイ・ストーン 【レベル】22

【称号】小石の魔術師・古代都市の来訪者・生命の核修復者・古代技術発見者・空間術習得者・実戦経験者・実戦訓練生・初勝利達成者・守護戦士・英知の探求者・試練突破者・真実の受容者・協力の達人・世界調和の守護者・調和の戦士・魂の救済者・守護者の継承者・希望の歌声継承者(NEW!)


【ステータス】

HP: 100/290(-190) MP: 130/190(-60)

攻撃力: 17(+0) 防御力: 28(+0)

魔力: 58(+0) 素早さ: 18(+0)

命中率: 19(+0) 運: 16(+0)


【スキル】

・小石生成 Lv.9: 1日3個・アズライト純度90%・明日分前借り済み

・投擲 Lv.4: 精密攻撃精度向上

・鉱物知識 Lv.6: 古代アズライト理論完全理解

・魔力操作 Lv.10: 古代文明技術統合制御

・身体調和術 Lv.2: 持久力30分維持

・古代文字理解 Lv.4: 古代文明全知識習得

・空間移動術 Lv.1: 実戦での精密運用可能

・聖なる障壁 Lv.2: 協力者保護・古代防御術融合・都市規模防御

・深癒の光 Lv.4: 調和促進・精神安定・魂の浄化・治癒大賢者救済・守護騎士救済・歌姫救済


【重要な関係性】

・仲間3人:継続的励まし・成長報告・45時間の危機意識

・ソーン・ブラックウッド:完全統合術・時空危機共有

・エルディス・ムーンストーン:都市防衛同盟総指揮

・ヴィラ:治癒サポート・体調管理警告

・セルヴィン:世界調和器分析・時空制御理論

・アクアリス:癒しの聖女・治癒協力者

・シリウス:希望の歌声継承・心の支え


感想・コメント、励みになります。お気軽にお寄せください!


※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨

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