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第34話「初勝利の実感」

訓練を完了した翌日、僕は再び森の中にいた。今度は一人ではない。隣にはソーンさんが並んで歩いている。


「緊張しているか?」ソーンさんが振り返る。


「はい、でも前回とは違う緊張です」僕は正直に答えた。「怖いけれど、逃げ出したいほどではありません」


「それが成長の証だ」彼は満足そうに頷いた。「一ヶ月前のお前なら、もう震えが止まらなかっただろう」


確かにその通りだった。前回この森で敗北した時、僕は恐怖で動けなくなった。でも今は違う。緊張はしているが、冷静に周囲を観察できている。


「あそこだ」ソーンさんが指差した先に、見覚えのある茶色の影が見えた。


体長約2メートルの四足歩行の魔物。茶色の毛に覆われ、熊に似た顔をしているが、背中には小さな棘のような突起があり、赤い目が不気味に光っている。前回の僕の相手だった。


「覚えているか?」


「はい、忘れられません」僕は深呼吸した。「でも、今度は違います」


魔物が僕たちの気配に気づいて振り返る。赤い目が僕を見つめ、低い唸り声を上げた。


「俺はここで見ている。危険になったら即座に助けるが、まずはお前の力を試してみろ」


「分かりました」



僕は小石を一つ手の中に生成した。訓練で身につけた技術を思い出す。観察、回避、側面に投擲をした。


そして魔物が振り返り突進してきた。前回はその速度に対応できなかったが、今は違う。


【空間移動術】


魔力を込めて瞬間移動。1個目の小石を回収し、もう一度瞬間移動、魔物の側面に回り込む。完璧なタイミングだった。


「今だ!」


手の中の小石を魔物の口内に向けて投擲。狙いは正確で、小石は魔物の開いた口の中に飛び込んだ。


「ガルルル!」


魔物が痛みで怯む。その隙に僕は次の小石を生成し、さらに側面に移動。


「連続攻撃だ」


二個目の小石を目に向けて投擲。今度も狙いは正確だった。魔物の動きがさらに鈍くなる。


魔物が再び突進してくるが、僕は冷静に対応した。岩陰に身を隠し、魔物が通り過ぎる瞬間に三個目の小石を後頭部に向けて投擲。


「これで終わりです」


三発の攻撃で魔物は完全に戦闘不能になった。倒れた魔物を見下ろしながら、僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。


「やった...本当にやったんだ」


「見事だった」ソーンさんが歩み寄ってきた。「完璧な戦術だ。一ヶ月前とは別人のようだ」


「ありがとうございます」僕は深くお辞儀した。「ソーンさんの指導のおかげです」


「いや、成長したのはお前自身の努力だ」彼は珍しく柔らかい表情を見せた。「俺は少し手助けしただけに過ぎない」




森を出て古代都市に戻る道すがら、僕は勝利の実感を噛み締めていた。確かに勝った。一ヶ月前に敗北した相手に、今度は完勝した。


「でも、これで満足するわけにはいきません」僕はソーンさんに言った。「まだまだ学ぶべきことがたくさんあります」


「そうだな。特にお前には決定打が不足している」彼は指摘した。「小石の攻撃は確実だが、もっと強い相手には通用しない可能性がある」


「はい、それは訓練中にも感じていました」


古代都市に戻ると、エルディス長老たちが待っていた。


「レイさん、お疲れ様でした」ヴィラさんが心配そうに駆け寄ってきた。「怪我はありませんか?」


「はい、大丈夫です。今回は一撃も受けませんでした」


「素晴らしい成長ですね」エルディス長老が微笑んだ。「では、次の段階について話し合いましょう」


僕たちは生命の核の部屋に集まった。美しく光る青い結晶は、僕の小石による修復で以前より透明度が増している。


「レイさんの戦闘能力は十分に向上しました」エルディス長老が始めた。「しかし、ソーンさんが指摘した通り、攻撃面での決定打が不足しています」


「古代魔法の習得を提案したい」セルヴィンさんが古い書物を開いた。「この都市には様々な古代魔法の記録が残されています」


「どのような魔法でしょうか?」僕は興味深く尋ねた。


「レイさんの性格を考慮すると」エルディス長老が慎重に言葉を選んだ。「攻撃魔法よりも防御系や治癒系の魔法が適しているでしょう」


「そうですね」僕は素直に同意した。「正直に言うと、攻撃魔法にはあまり興味がありません。人を傷つけるよりも、守ったり治したりする力の方が欲しいです」


ソーンさんが少し驚いた表情を見せた。


「意外だな。強くなりたいと思わないのか?」


「強くなりたいとは思います」僕は答えた。「でも、誰かを倒すための強さではなく、誰かを守るための強さが欲しいんです」


「なるほど」彼は考え込んだ。「それも一つの強さの形だな」


「では、まず古代防御術から始めましょう」セルヴィンさんが提案した。「『聖なる障壁』という魔法があります。魔力で防御壁を作り出す技術です」


「それに加えて治癒魔法も」ヴィラさんが付け加えた。「『生命の光』という魔法は、軽い怪我や疲労を回復させることができます」


「両方とも学びたいです」僕は即座に答えた。


「ただし、これらの魔法は習得が困難です」エルディス長老が警告した。「特に治癒魔法は、生命力に直接関わるため、細心の注意が必要です」


「分かりました。慎重に学びます」


その日から、僕の新しい修行が始まった。午前中は実戦訓練の継続、午後は古代魔法の理論学習、夕方は実技練習という日程だった。


最初に取り組んだのは『聖なる障壁』だった。セルヴィンさんが古代文字で書かれた教本を読み上げてくれる。


「魔力を体の前面に集中させ、光の膜を形成します。重要なのは、単純な壁ではなく、攻撃を受け流す流線型の障壁を作ることです」


「受け流す?」


「はい。正面から攻撃を受け止めるのではなく、斜めに逸らすことで魔力消費を抑えます」


理論は理解できたが、実践は難しかった。最初は魔力の制御がうまくいかず、障壁が不安定になってしまう。


「焦らなくて大丈夫です」ヴィラさんが励ましてくれた。「魔法は一朝一夕で身につくものではありません」


三日目にして、ようやく薄い光の膜を作ることができた。


「おお、素晴らしい」セルヴィンさんが感嘆した。「この短期間でここまでできるとは、やはり才能がありますね」


「まだ弱い障壁ですが」僕は謙遜した。


「最初はそれで十分です。徐々に強度を上げていけばよいのです」


治癒魔法の『生命の光』はさらに難しかった。自分の生命力を魔力と混合させ、対象の傷や疲労を癒す技術だ。


「最も重要なのは、自分の生命力を過度に消費しないことです」エルディス長老が厳しく指導した。「治癒魔法の最大の危険は、術者が衰弱することです」


「はい、気をつけます」


練習は小さな傷から始めた。指先を軽く切り、そこに生命の光を当てる。最初は全く効果がなかったが、一週間の練習で小さな切り傷程度なら治せるようになった。


「レイさんの学習速度は驚異的ですね」ヴィラさんが感心した。「通常、治癒魔法の習得には数ヶ月かかるものです」


「小石生成スキルが関係している可能性があります」エルディス長老が分析した。「創造の力と治癒の力は、根本的に同じ生命力を源としています」


確かに、治癒魔法を使う時の感覚は、小石を生成する時と似ている部分があった。どちらも自分の内なる力を外に向けて放出する技術だ。


二週間が経った頃、僕は仲間たちに進捗を報告した。


「カイル、フィン、エリック、元気にしてる?こちらは古代魔法の習得を始めたよ」


『おお、レイ!古代魔法って凄いな!どんな魔法を覚えたんだ?』カイルの返事が届いた。


『防御魔法と治癒魔法です。攻撃魔法ではありません』


『それもレイらしいですね』フィンの声が聞こえてきた。『君の性格を考えると、確かにその方が適しています』


『……無理は、しないで』エリックの心配する声も届いた。


「ありがとう、みんな。安全第一で練習してるから大丈夫だよ」


仲間たちの励ましで、僕のやる気はさらに向上した。



三週間目に入った時、僕は初めて実戦で新しい魔法を使う機会を得た。ソーンさんとの実戦訓練で、前回よりも強い魔物と戦うことになったのだ。


「今回の相手は前回より一回り大きい」ソーンさんが説明した。「お前の攻撃だけでは倒しきれない可能性がある。新しい魔法を実戦で試してみろ」


「分かりました」


現れた魔物は確かに前回より大きく、体長は3メートル近くあった。同じ種類だが、明らかに格上の個体だ。


戦闘が始まると、僕は習得した戦術を実行した。しかし、今回は魔物の攻撃が激しく、完全に避けきることができない。


「聖なる障壁!」


魔物の爪攻撃に対して、光の障壁を展開した。攻撃は完全には防げなかったが、威力を大幅に削減することができた。


「おお、実戦で使えるじゃないか」ソーンさんが驚いた。


僕は小石攻撃と空間移動を組み合わせて反撃したが、魔物の体力は前回より遥かに多い。長期戦になりそうだった。


戦闘が続く中で、僕は疲労を感じ始めた。そこで治癒魔法を試してみることにした。


「生命の光」


自分の疲労に向けて治癒魔法を使用。疲れが和らぎ、集中力が回復した。


「凄いじゃないか」ソーンさんが感嘆した。「戦闘中の自己回復ができるなら、持久戦で有利になる」


結果的に、この戦闘は20分以上続いた。前回の戦闘が5分程度だったことを考えると、大幅な成長だった。魔物を倒した時、僕は新しい可能性を感じていた。


「レイ」ソーンさんが戦闘後に言った。「お前の戦闘スタイルが見えてきた」


「どのようなスタイルでしょうか?」


「持久戦特化型だ」彼は分析した。「強力な一撃で敵を倒すのではなく、空間転移術と防御と回復を駆使して相手を消耗させ、最終的に勝利する戦術だ」


「それは僕に向いているでしょうか?」


「非常に向いている」彼は断言した。「お前の性格、技術、そして新しく習得した魔法、全てが持久戦に最適化されている」


古代都市に戻ると、エルディス長老たちも僕の成長を高く評価してくれた。


「実戦での魔法使用、見事でした」エルディス長老が微笑んだ。「レイさんの戦闘スタイルが確立されましたね」


「はい、自分でも実感できます」僕は答えた。「攻撃力では劣るかもしれませんが、持久力と生存力では自信が持てるようになりました」


「それで十分です」ヴィラさんが安心したように言った。「無理に攻撃的になる必要はありません」



その夜、僕は仲間たちに詳しい報告をした。


「今日、新しい魔法を実戦で使えたよ。防御魔法と治癒魔法、どちらも手応えを感じた」


『さすがレイだ!』カイルが興奮して答えた。『お前らしい成長の仕方だな』


『持久戦特化というのは興味深いですね』フィンが分析的に言った。『理論的にも合理的な選択だと思います』


『……安全で、良かった』エリックも安堵している様子だった。


「ありがとう、みんな。おかげで自信を持って進むことができる」


翌日、僕は新たな決意を固めていた。攻撃的な強さではなく、守り支える強さ。それが僕の目指すべき方向性だった。


「エルディス長老」僕は言った。「もっと高度な防御術と治癒術を学びたいです」


「素晴らしい心がけですね。では、これからも修行を続けましょう」


僕の古代都市での成長は、まだ始まったばかりだった。しかし、方向性は明確になった。誰かを倒すためではなく、誰かを守るための力。それこそが、僕が本当に求めていた強さだった。


初勝利の実感と共に、僕は新しい段階へと歩を進めた。



━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス更新】 ━━━━━━━━━━━

【名前】レイ・ストーン 【レベル】15

【称号】小石の魔術師・古代都市の来訪者・生命の核修復者・古代技術発見者・空間術習得者・実戦経験者・実戦訓練生・初勝利達成者(NEW!)・守護戦士(NEW!)

【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳

【職業/クラス】冒険者/古代魔法継承者


【ステータス】

HP: 200/200(+20) MP: 80/80(+20)

攻撃力: 17(+2) 防御力: 20(+2)

魔力: 32(+4) 素早さ: 14(+1)

命中率: 15(+1) 運: 11


【スキル】

・小石生成 Lv.8: 1日3個・戦術的使用法習得

・投擲 Lv.4: 精密攻撃精度向上

・鉱物知識 Lv.5: 錬金術的鉱物理解

・魔力操作 Lv.8: 古代魔法陣統合制御

・身体調和術 Lv.2: 持久力30分維持

・古代文字理解 Lv.2: 古代技術書詳細解読可能

・空間移動術 Lv.1: 実戦での精密運用可能

・聖なる障壁 Lv.1: 基礎防御魔法・攻撃威力削減(NEW!)

・生命の光 Lv.1: 基礎治癒魔法・疲労回復(NEW!)



【重要な関係性】

・仲間3人:継続的励まし・成長報告

・ソーン・ブラックウッド:指導者から戦術パートナーへ

・エルディス・ムーンストーン:古代魔法指導統括

・ヴィラ:安全管理・魔法指導サポート

・セルヴィン:古代魔法理論指導


感想・コメント、励みになります。お気軽にお寄せください!


※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨

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