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第32話「初陣の現実」

古代都市ムーンライト・サンクチュアリの朝は、いつものように柔らかな光に包まれていた。生命の核の修復が順調に進んでいることで、都市全体の照明システムは日に日に明るさを増している。


僕、レイ・ストーンは宿舎の窓から外を眺めながら、昨日習得したばかりの空間移動術のことを考えていた。たった1メートルの短距離転移とはいえ、自分の体が瞬間的に別の場所に移動するという感覚は、まだ慣れないものがある。


「おはようございます、レイ様」


振り返ると、ヴィラさんが朝食を持って部屋を訪れてくれていた。彼女は都市の記録官として、また僕の古代文字理解や空間移動術の個人指導担当として、いつも親切にしてくれている。


「おはようございます、ヴィラさん。いつもありがとうございます」


「今日も空間移動術の練習ですか?」


「はい。でも、その前に少し外の空気を吸いたいと思っているんです。昨日からずっと技術練習ばかりでしたから」


ヴィラさんは少し心配そうな表情を見せた。


「外と申しますと、都市の外ですか?一人で出られるのは少し危険かもしれません」


「大丈夫です。そんなに遠くには行きませんし、何かあれば空間移動術で逃げることもできますから」


僕の言葉に、ヴィラさんは少し安心したような表情を見せた。


「それでは、お気をつけて。何かあったら、すぐに都市にお戻りください」


朝食を済ませた後、僕は軽装で都市の外へと向かった。ソーンさんやエルディス長老には事前に散歩に出ることを伝えてあったが、詳細な場所までは言わなかった。たまには一人で静かに考える時間も必要だと思ったのだ。



古代都市の周囲は深い森に囲まれている。魔法によって保護されているこの一帯は、危険な魔物も滅多に現れないと聞いていた。森の中を歩きながら、僕は自分の成長について考えていた。


転生してからレベルも14まで上がった。小石生成というスキルから始まった冒険は、今では空間移動術まで習得するに至っている。身体調和術のおかげで基礎的な身体能力も向上し、以前のような完全な非戦闘員ではなくなった。


「でも、実戦経験は全然ないんだよな...」


呟きながら歩いていると、森の奥から小さな鳴き声が聞こえてきた。好奇心に駆られて音のする方向へ向かうと、木々の隙間から小さな湖が見えてきた。


湖畔には美しい花が咲き乱れ、まさに絵画のような風景が広がっている。僕は思わず感嘆の声を上げた。


「すごく綺麗だ...こんな場所があったなんて」


湖の近くに座り込み、穏やかな水面を眺めながら深呼吸をする。都市での技術練習は確かに重要だが、こうして自然の中で一人の時間を過ごすことも、心の整理には必要だった。


カイル、フィン、エリック...元の世界にいる仲間たちのことを思い出す。定期的に通信で近況を報告し合っているが、やはり直接会って話をしたいという気持ちは日に日に強くなっている。


「早く帰れるように、もっと頑張らないと...」


そんなことを考えていた時だった。森の奥から、何か大きなものが動く音が聞こえてきた。



音のする方向を見ると、木々の間から大きな影がゆっくりと現れた。それは僕がこの世界に来てから一度も見たことのない生き物だった。


体長は約2メートル、四足歩行で茶色の毛に覆われている。顔は熊に似ているが、背中に小さな棘のような突起があり、目は赤く光っている。明らかに普通の動物ではない。魔物だった。


魔物と僕は、湖を挟んで向かい合う形で静止した。僕の心臓は激しく鼓動を始める。これまで魔物との戦闘経験は狼だけだった。影の研究会との戦いでも、僕は主に後方支援やサポート役に徹していたため、一対一の戦闘は完全に初体験だった。


魔物は僕をじっと見つめている。敵意があるのかないのか判断がつかない。もしかすると、こちらから何もしなければ立ち去ってくれるかもしれない。


しかし、その希望的観測は数秒で砕かれた。魔物が突然大きく吠え声を上げ、僕に向かって駆け出してきたのだ。


「うわああああ!」


反射的に横に飛び退いたが、魔物の速度は想像以上だった。僕の元いた場所を通り過ぎながら、魔物の爪が僕の袖を掠める。幸い怪我はなかったが、あと少しずれていたら確実に傷を負っていただろう。


「落ち着け、落ち着くんだ...」


自分に言い聞かせながら、魔物との距離を取る。相手は僕を敵と認識して攻撃してきている。逃げるか戦うか、選択を迫られた。


ヴィラさんに言ったように、空間移動術で逃げることもできる。しかし、ここで逃げてしまったら、僕は一生実戦での戦い方を学ぶことができないかもしれない。


「僕だって...もう前とは違うんだ!」


魔物が再び襲いかかってくる。今度は僕も準備ができていた。身体調和術で向上した素早さを活かして右に回避し、同時に1個目の小石生成を発動する。


手の中に現れた小石を、投擲スキルを使って魔物に向けて投げつける。石は魔物の脇腹に命中したが、ダメージを与えた様子はない。それでも、魔物の動きが一瞬止まった。


「やった!当たった!」


しかし、喜んでいる場合ではなかった。魔物は怒りを露わにして、さらに激しく攻撃してきた。今度は前足で引っ掻こうとしてくる。


僕は慌てて後ろに下がろうとしたが、足元の石に躓いてしまった。バランスを崩して転倒し、魔物の攻撃が迫る。


「やばい!」


咄嗟に空間移動術を発動した。1メートルという短い距離だったが、魔物の攻撃範囲から脱出することができた。転移先に着地した瞬間、魔物の爪が僕の元いた空間を掠め抜ける。


「間に合った...」


しかし、安堵している暇はなかった。魔物は僕の新しい位置を素早く確認し、再び突進してくる。



戦闘が始まってまだ数分しか経っていないが、僕の体力は既に消耗し始めていた。実戦の緊張感と恐怖は、練習とは比べものにならないほど体力を奪う。


魔物の攻撃パターンを観察しながら、僕は次の行動を考える。直接的な攻撃力では到底敵わない。投擲した小石も、相手にはほとんど効果がなかった。


「どうする...どうすればいいんだ」


魔物が再び突進してくる。今度は少し余裕を持って回避することができた。身体調和術の効果で、以前より身体の動きが良くなっているのを実感する。


回避した直後、僕は新しい作戦を思いついた。小石を直接攻撃に使うのではなく、魔物の動きを制限する道具として使えないだろうか。


先ほど投げた小石を回収し小石を、魔物の足元に投げつける。小石は魔物の前足近くの地面に落ち、小さく跳ねた。魔物は一瞬足元を気にしたが、すぐに僕への攻撃を再開した。


「うーん、やっぱり小さすぎるか...」


しかし、完全に無駄だったわけではない。魔物の注意を一瞬でも逸らすことができれば、その隙に空間移動術で有利な位置に移動できる。


魔物との戦いが続く中で、僕は少しずつ戦闘のリズムを掴み始めていた。相手の攻撃パターンを読み、回避のタイミングを計り、反撃の機会を伺う。これが実戦というものなのだと実感した。


ただし、根本的な問題は解決していない。僕の攻撃は魔物にほとんどダメージを与えることができていないのだ。小石の威力では、この魔物の毛皮や筋肉を傷つけることは困難だった。


「このままじゃ、僕の体力が先に尽きる...」


実際、戦闘開始から10分ほど経った頃には、息切れがひどくなってきていた。空間移動術を頻繁に使うことで魔力も消耗している。一方で魔物の方は、まだまだ元気そうに見えた。



追い詰められた状況で、僕は昨日ソーンさんと練習した技術融合のことを思い出した。空間移動術と小石生成を組み合わせて、何か新しい攻撃方法を編み出せないだろうか。


魔物が再び突進してくる。僕は空間移動術で魔物の側面に回り込みながら、同時に2個目の小石を生成した。そして、至近距離から魔物の頭部に向けて石を投げつける。


今度は確実に命中し、魔物が短く鳴き声を上げた。至近距離からの攻撃は、多少なりとも効果があったようだ。


「よし!この方法なら...」


しかし、魔物も学習していた。僕が空間移動で接近してくることを予測し、着地点付近を爪で薙ぎ払ってきたのだ。


「うわっ!」


間一髪で魔物の爪を回避したが、バランスを大きく崩してしまった。魔物は追撃を仕掛けてくる。


咄嗟に地面を転がって距離を取ったが、背中を地面に強く打ちつけてしまった。痛みで一瞬動きが止まる。


その隙を狙って、魔物が飛びかかってきた。大きく開いた口から鋭い牙が見える。このままでは確実に噛まれてしまう。


「まずい...」


空間移動術を発動しようとしたが、体勢が悪く、うまく集中できない。魔物の体重が僕の上に覆いかぶさってくる。


その瞬間、僕は最後の手段として、魔物の口の中に向けて3個目小石を生成した。魔物が口を開けている今なら、口の中の柔らかい部分に石を直接当てることができるかもしれない。


生成された小石は魔物の口の中に入り、喉の奥に当たった。魔物は驚いて後ずさりし、僕の上から離れる。


「今だ!」


すかさず空間移動術で安全な距離まで離脱した。魔物は口の中の異物に困惑しているようで、しきりに首を振っている。



口の中に石を入れられた魔物は、明らかに動揺していた。しかし、それも一時的なものだった。数回咳き込むような動作をした後、石を吐き出してしまった。すぐに、空間転移術を使用し最後の小石を回収した。


そして、今度は明確な怒りを込めた目で僕を睨んできた。これまで以上に攻撃的になっている。


「怒らせちゃった...」


魔物の攻撃が激しくなる。これまでの突進や引っ掻き攻撃に加えて、後ろ足で立ち上がって前足で叩きつけてくるような攻撃も繰り出してきた。


僕は必死に回避を続けるが、体力的な限界が近づいていることを痛感していた。汗が目に入って視界が悪くなり、足の動きも重くなってきている。


「このままじゃ本当にまずい...」



魔物の攻撃が更に激しくなり、僕の回避も限界に近づいていた。空間移動術を使いすぎて魔力も残り少ない。体力的にもあと数分が限界だろう。


その時、魔物が今までで最も大きな攻撃を仕掛けてきた。後ろ足で立ち上がり、両前足を振り上げて僕に向かって叩きつけようとする。


僕は最後の力を振り絞って空間移動術を発動し、魔物の側面に回り込んだ。そして小石を生成し、魔物の目に向けて投げつけた。


石は魔物の右目付近に命中し、魔物は痛みで大きく鳴いた。視界を妨げられた魔物は、一時的に攻撃の手を緩める。


「今のうちに...!」


僕はこの機会を逃さず、森の奥へと全力で駆け出した。魔物も追いかけてきたが、目の痛みで動きが鈍くなっている。


そのまま必死に走り続けた。幸い、森の地形を利用して木々の間を縫うように逃げることで、大型の魔物を振り切ることができた。



息も絶え絶えで古代都市に戻った僕を見て、ヴィラさんが驚いて駆け寄ってきた。


「レイ様!どうされたのですか?お怪我は?」


「大丈夫です...魔物に遭遇して、何とか逃げてきました」


すぐにエルディス長老とソーンさんも集まってきた。僕は戦闘の経緯を詳しく報告した。


「無事で良かったが、一人で外出するのは危険だということがよく分かっただろう」エルディス長老が心配そうに言った。


ソーンさんは僕の戦闘を分析するように尋ねた。


「技術的には悪くない判断だった。だが、実戦経験の不足は明らかだな。今後は段階的に訓練を積む必要がある」


「はい...今回本当に実感しました。技術を覚えても、実際に使えるかどうかは別問題なんですね」



その夜、一人で今日の戦闘を振り返った。確かに負けて逃げることになったが、完全に無駄だったわけではない。


実戦での空間移動術の使い方、小石生成の応用方法、そして何より自分の現在の実力を正確に把握することができた。


「まだまだ弱いけど、以前の僕だったら最初の攻撃で終わってた」


身体調和術による基礎能力向上と、習得した技術によって、確実に成長していることも確認できた。


翌日から、エルディス長老とソーンさんの指導の下で、より実戦的な訓練を開始することになった。今回の経験は、僕にとって貴重な第一歩となったのだった。


「今度こそ、本当に強くなって仲間の元に帰ろう」


窓の外の星空を見上げながら、僕は改めて決意を固めた。実戦の厳しさを知った今、成長への道のりはより明確に見えていた。


━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス更新】 ━━━━━━━━━━━

【名前】レイ・ストーン 【レベル】14

【称号】小石の魔術師・古代都市の来訪者・生命の核修復者・古代技術発見者・空間術習得者・実戦経験者(NEW!)

【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳

【職業/クラス】冒険者/古代魔法継承者


【ステータス】

HP: 165/180 MP: 35/60(実戦消耗)

攻撃力: 10(+2) 防御力: 12(+2)

魔力: 28 素早さ: 12(+1)

命中率: 13(+1) 運: 11


【スキル】

・小石生成 Lv.8: 1日3個

・投擲 Lv.4: 実戦で精度確認

・鉱物知識 Lv.5: 錬金術的鉱物理解

・魔力操作 Lv.8: 古代魔法陣統合制御

・身体調和術 Lv.2: 実戦での効果実感

・古代文字理解 Lv.2: 古代技術書の詳細解読可能

・空間移動術 Lv.1: 実戦応用経験(緊急脱出成功)


【重要な関係性】

・仲間3人:定期通信で絆維持

・ソーン・ブラックウッド:実戦訓練指導者

・エルディス・ムーンストーン:総合指導者

・ヴィラ:心配してくれる指導担当

・セルヴィン:技術融合実験サポート


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※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨

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