第12話「救いの小石」
翌朝、ギルドの食堂は異様な緊張感に包まれていた。ベルンハルト村の被害報告が正式に発表され、研修生たちの顔には不安の色が濃く浮かんでいる。
「村人の半数が原因不明の衰弱で倒れているそうです……」
フィンが手にした報告書を読み上げると、カイルが拳を握りしめた。
「くそっ、ソーンの実験のせいか……許せねぇ」
「みんな、落ち着いてください」
レイは仲間たちの様子を見回しながら、自分の中に湧き上がる感情を整理しようとしていた。昨夜、セリアから聞いた話が頭から離れない。ソーンの目的は生命力変換魔法の完成。そのために必要なのは、レイの小石の力だった。
「つまり、僕のせいで……」
「レイさん、それは違います」
フィンが眼鏡を押し上げながら、きっぱりと言った。
「ソーンの暴走は彼自身の選択です。あなたに責任はありません」
「……そうだよ、レイ」
エリックも珍しく強い調子で頷いた。
「悪いのは、ソーンだけ」
その時、食堂の扉が勢いよく開いた。マスター・エルドラが立っていて、その表情は普段の厳格さに緊急事態の焦燥が加わっていた。
「レイ、そして君たちも。すぐに私の研究室に来なさい」
---
研究室では、ウィルが地図を広げて険しい表情を浮かべていた。
「レイ君、状況は思ったより深刻だな」
ウィルがレイを見つめる。
「ベルンハルト村の被害、これはソーンの実験やけど、同時に君を誘い出すための罠でもある可能性が高い」
「罠……ですか?」
「ああ」
エルドラが地図の上の赤い印を指差した。
「村は我々の本拠地から半日の距離。救援に向かえば、移動中に襲撃される危険性が高い。しかし……」
彼女は一度言葉を切り、レイの目を見つめた。
「君の能力があれば、村の人々を救える可能性があります」
「僕の小石で?」
「ええ。生命力変換魔法で奪われた魔力を、君の石で補填できるかもしれません。アズライト純度70%の魔力密度なら、理論上は可能なはずです」
レイは自分の手のひらを見つめた。1日3個しか作れない小石。それでどれだけの人を救えるのだろうか。
「でも、村人の半数となると……数が足りないのでは?」
「いや、君の石の魔力増幅効果を使えば、他の魔術師の回復魔法を何倍にも強化できる」
アレンが興奮気味に説明した。
「つまり、君の石を核にして、複数の魔術師が同時に治療魔法を唱える。そうすれば、一度に多くの人を救えるはずです」
カイルが立ち上がった。
「なら、俺たちも行くぜ。レイ一人を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「僕も行きます」
フィンも決意を込めて頷いた。
「古代文字の知識が、何かの役に立つかもしれません」
「……僕も」
エリックも小さく、しかし確実に意志を示した。
「植物魔法で、みんなを守る」
レイは仲間たちを見回した。皆の目に、自分への信頼と友情が宿っているのを感じる。
「ありがとうございます、みなさん。でも、危険な任務に巻き込んでしまって……」
「何言ってんだ」
カイルが豪快に笑った。
「俺たちは仲間だろ?困った時はお互い様だ」
エルドラが咳払いをした。
「では、作戦を説明します。まず、転移石を使ってベルンハルト村の手前まで移動。そこからは徒歩で接近し、村の状況を確認します」
「転移石……高価なものを使っていただいて」
「レイ君、君の能力の価値を考えれば、これくらいの投資は必要だな」
ウィルが苦笑いを浮かべた。
「それに、村の人たちの命がかかってる。金で買えるもんやない」
「護衛として、私とリナ、マルコも同行します」
エルドラが続けた。
「ソーンが罠を仕掛けている可能性を考慮しての判断です」
---
準備を整えた一行は、ギルドの転移陣の前に集まった。青く光る魔法円の中央に置かれた転移石は、レイの小石ほどではないが、確かに高純度のアズライトで作られている。
「初めての転移魔法か?」
マルコがレイたちに声をかけた。
「少しめまいがするが、すぐに慣れる」
「はい、よろしくお願いします」
レイが深呼吸をした時、研究室の扉が開いた。セリアが現れ、複雑な表情でこちらを見つめている。
「セリア?」
「私も……行かせてください」
彼女の声は震えていた。
「ソーンの手口を一番よく知っているのは私です。きっと、皆さんの役に立てます」
エルドラが眉をひそめた。
「君は元々ソーンの協力者だった。信用できるという保証は……」
「マスター・エルドラ」
レイが割って入った。
「セリアさんは昨日、僕たちを救ってくれました。今も、償いのために行動しようとしています。信じてみませんか?」
カイルが腕を組んだ。
「レイがそう言うなら、俺は信用するぜ」
フィンとエリックも頷いた。エルドラは少し考えてから、ため息をついた。
「分かりました。ただし、何か怪しい行動を取ったら、即座に拘束します」
「ありがとうございます」
セリアの目に涙が浮かんだ。
「必ず、皆さんの役に立ってみせます」
---
転移魔法の眩しい光が収まると、一行はベルンハルト村の近くの森に立っていた。確かにマルコの言った通り、軽いめまいがしたが、すぐに回復した。
「村まで約1キロです」
フィンが地図を確認しながら報告した。
「この辺りから、慎重に進みましょう」
一行は森の中を静かに進んだ。やがて、木々の間から村の屋根が見えてきた時、エリックが立ち止まった。
「……おかしい」
「何がだ?」
ウィルが振り返った。
「植物が……元気がない。魔力の流れが乱れてる」
エリックの植物魔法による感知能力が、異常を察知したのだった。
「ソーンの魔法の影響ですね」
セリアが顔を曇らせた。
「生命力変換魔法は、対象だけでなく周囲の生命力も少しずつ吸収してしまうんです」
レイは自分のポケットに手を入れ、今朝作った小石の感触を確かめた。アズライト純度70%の魔力が、確かにそこに宿っている。
「きっと、みなさんを救えます」
小さく呟いた言葉を、カイルが聞きとがめた。
「ああ、俺たちがついてるからな」
村の入り口に到着すると、想像以上に深刻な状況が広がっていた。普段なら畑仕事をしているはずの人々の姿はなく、家々から聞こえてくるのは苦しそうなうめき声ばかりだった。
「村長さんはどちらに?」
エルドラが近くにいた比較的元気そうな老人に声をかけた。
「魔術師ギルドの方ですか……ありがたい」
老人は安堵の表情を浮かべた。
「村長は村の中央の家に。でも、もう意識を失って……」
「大丈夫です。必ず皆さんを救います」
レイは老人に深々と頭を下げた。
「お任せください」
---
村の中央広場に到着すると、エルドラが指示を出した。
「被害者をここに集めてください。レイの魔力石を中心にした治療陣を展開します」
村人たちの協力で、意識を失った人々が次々と広場に運ばれてきた。その数は確かに村の半数に当たる、約50人にも及んでいた。
「これほど多くの人を……」
レイは自分の小石を見つめた。3個だけで、本当に全員を救えるのだろうか。
「レイさん、大丈夫です」
フィンが励ますように言った。
「あなたの石の力を、僕たちが最大限に活用してみせます」
アレンとリナが治療陣の準備を始めた。魔法円を描き、その中央にレイの小石を配置する。
「魔力増幅効果を最大限に引き出すための陣です」
アレンが説明した。
「これで、通常の回復魔法の効果が10倍以上になるはずです」
「ただし」
リナが注意を促した。
「魔力の流れが非常に強くなります。レイ、あなたは石を通じて魔力操作を続ける必要があります」
「分かりました」
レイは治療陣の中央に立った。足元に置かれた小石から、温かい魔力が立ち上ってくる。
「では、始めましょう」
エルドラの合図で、複数の魔術師が同時に回復魔法の詠唱を開始した。レイは小石に意識を集中し、そこから放たれる魔力を精密に制御する。
魔法円が青白く光り始めた。その光は小石を中心にして波紋のように広がり、倒れている村人たちを包み込んでいく。
「効果が出ています!」
リナが興奮気味に報告した。
「生命力の数値が回復しています!」
実際、何人かの村人が目を開け始めていた。しかし、レイは魔力の制御に必死で、周りの状況を確認する余裕がなかった。
「レイ、大丈夫か?」
カイルが心配そうに声をかけた。
「はい……でも、まだ半分の人が……」
「無理するな。2個目を使おう」
「そうですね」
レイは2個目の小石を取り出し、魔法円の別の位置に配置した。2つの石から放たれる魔力が共鳴し、治療効果がさらに高まる。
「すごい……」
セリアが息を呑んだ。
「こんなに純粋で強い魔力、見たことがありません」
さらに多くの村人が意識を取り戻し、立ち上がり始めた。しかし、重症の患者がまだ十数人残っている。
「最後の一個を……」
レイが3個目の小石に手を伸ばした時、森の方から不穏な魔力の波動が伝わってきた。
「来たな」
マルコが武器に手をかけた。
「ソーンです」
セリアが青ざめた。
「計算通り、治療に夢中になっている隙を狙って……」
その時、村の入り口から黒いローブの人影が現れた。ソーン・ブラックウッドだった。
「素晴らしい光景ですね、レイ君」
ソーンの声は、表面的には穏やかだったが、その奥に冷たい計算が隠されていた。
「多くの人を救う姿、まさに理想的です。その力こそ、私が求めていたものです」
「ソーン!」
エルドラが立ち上がった。
「貴様のせいで、これだけの人が苦しんだのです!」
「苦しみも、救いも、すべては研究のためです」
ソーンが手を上げると、周囲に拘束魔法の光が走った。しかし、レイの小石の影響で、その効果は大幅に減衰している。
「なるほど、アズライト純度70%の効果は絶大ですね」
ソーンが興味深そうに頷いた。
「ますます欲しくなりました」
「レイを渡すわけにはいかん!」
ウィルが前に出たが、ソーンは攻撃魔法を繰り出すのではなく、懐から奇妙な装置を取り出した。
「実は、今回
の実験で、面白いデータが取れました」
ソーンが装置を掲げると、それは淡く赤い光を放った。
「生命力変換魔法の効率を高める増幅器です。あなた方が治療に使っている魔力を、逆に吸収することもできるのですよ」
「そんな……」
レイは治療を続けながら、恐怖を感じた。まだ重症の村人たちがいる。今止めるわけにはいかない。
「レイ!」
カイルが叫んだ。
「俺たちがソーンを止める!治療を続けろ!」
「そうです!」
フィンも魔法の準備を始めた。
「僕たちに任せてください!」
エリックは植物魔法で地面から蔦を伸ばし、ソーンの足元を狙った。しかし、ソーンは余裕の表情で装置を起動させた。
「無駄ですよ。この距離なら……」
その時、セリアが前に飛び出した。
「待って!」
彼女はソーンと装置の間に立ちはだかった。
「セリア君、邪魔をしないでください」
「あなたのやり方は間違ってる!」
セリアの声に、初めて強い意志が込められていた。
「力を奪って何かを成し遂げても、それは本当の成果じゃない!」
「綺麗事を……」
ソーンが装置の出力を上げようとした瞬間、レイが3個目の小石を魔法円に投入した。3つの石が共鳴し、これまでにない強力な魔力の波動が発生した。
その波動は、ソーンの装置にも影響を与えた。赤い光がちらつき、装置が不安定になる。
「これは……魔力干渉?」
ソーンが狼狽した。
「レイさんの石が、装置の魔力回路を乱してるんです!」
フィンが分析した。
「今です!」
マルコとリナが連携してソーンに攻撃魔法を放った。ソーンは装置を庇うように後退し、憎々しげにレイを睨んだ。
「今日のところは引きますが、これで終わりではありません」
「待てよ!」
カイルが追いかけようとしたが、ソーンは煙幕魔法で姿を消してしまった。
「逃がしましたか……」
エルドラが悔しそうに呟いた時、村人たちから歓声が上がった。
「みんな、元気になった!」
「ありがとうございます!」
3つの小石による治療は完璧に成功し、全ての村人が回復していた。
「やりましたね、レイさん」
フィンが安堵の笑顔を浮かべた。
「はい……でも、まだソーンの脅威は続きます」
レイは使い切った小石を見つめた。今日の限度はもう使い果たした。明日まで新しい石は作れない。
「大丈夫」
ウィルが肩を叩いた。
「君は今日、50人の命を救った。それは誇っていいことや」
「セリアさんも、ありがとうございました」
レイはセリアに頭を下げた。
「あなたがいなかったら、もっと危険でした」
「私は……償いをしただけです」
セリアは複雑な表情を浮かべたが、その目には確かな決意が宿っていた。
「これからも、皆さんと一緒に戦わせてください」
村人たちに見送られながら、一行はギルドへと帰路についた。レイの心には、新たな決意が芽生えていた。
自分の小石は、人を救うためにある。ソーンに渡すわけにはいかない。そして、これからも仲間たちと共に、この力を正しく使っていこう。
夕日が森を照らす中、レイたちの絆はさらに深まっていた。しかし、ソーンの野望もまた、新たな段階に入ろうとしているのだった。
---
━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス更新】 ━━━━━━━━━━━
【名前】レイ・ストーン 【レベル】10
【称号】小石の魔術師・村の救世主
【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳
【職業/クラス】冒険者/魔術師ギルド研修生
【ステータス】
HP: 140/140 MP: 40/40
攻撃力: 8 防御力: 9
魔力: 20 素早さ: 10
命中率: 11 運: 9
【スキル】
・小石生成 Lv.8: アズライト純度80%相当の魔力石を生成。拘束魔法無効化、魔力増幅効果、魔力環境操作、複数石による共鳴効果が可能。1日3個まで。
・投擲 Lv.4: 投擲精度向上
・鉱物知識 Lv.5: 錬金術的鉱物理解
・魔力操作 Lv.5: 魔力の精密制御、拘束魔法中和、複数石の同時制御
【重要な関係性】
・ウィル:信頼する保護者(信頼↑↑↑)
・マスター・エルドラ:指導教官、実戦を共にした仲間(協力関係↑↑)
・カイル:同室の親友、共に戦う仲間(友情↑↑↑↑)
・フィン:知的な友人、戦略パートナー(友情↑↑↑↑)
・エリック:優しい友人、植物魔法の協力者(友情↑↑↑↑)
・ソーン:レイを狙う危険人物、本格的な敵対関係(敵対↑↑↑↑↑)
・セリア:完全に味方に転向、償いの決意(協力関係↑↑)
今回はいよいよレイが本格的に人を救う場面を描きました。小石の力を使った大規模治療シーン、いかがでしたでしょうか?
レイの小石の能力も着実に成長していて、複数の石による共鳴効果や魔力増幅効果など、戦略的な使い方ができるようになってきました。純度70%→80%への成長と、1日3個制限の中でどう立ち回るかが今後のカギになりそうです。
仲間たちとの絆も深まりましたね!特にカイル、フィン、エリックの三人組は、もうレイにとって欠かせない存在になっています。そしてセリアの完全な味方転向も大きなポイントでした。
一方でソーンとの対立も本格化。彼の「生命力変換魔法」とレイの「小石」という対照的な力の構図が、今後どう展開していくか…。
村人50人を救ったレイですが、まだまだ成長の余地がありそうです。次回以降、ギルドでの新たな修行や、より強大な敵との戦いが待ち受けているかもしれません。
感想・コメント、励みになります。お気軽にお寄せください!
※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨




