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第11話「暗雲」

研修開始から一ヶ月が過ぎた頃、ラインガルド魔術師ギルドに不穏な空気が漂い始めていた。


「おはよう、レイ」


朝の光が差し込む寮の部屋で、カイルが大きく伸びをしながら声をかけてくる。隣のベッドではフィンが既に起き上がり、古代文字の資料に目を通していた。


「おはようございます、カイルさん、フィンさん」


レイは丁寧に挨拶を返しながら、窓の外を見つめた。空は晴れているのに、なぜか胸の奥に重いものを感じる。昨夜、セリアから受けた警告が頭から離れなかった。


『ソーンが動き出します。あなたの周りの人たちが危険です』


あの金髪の女性の言葉は、まるで氷の刃のように心に突き刺さっていた。セリアが味方なのか敵なのか、まだ判断がつかない。しかし、あの真剣な表情は嘘には見えなかった。


「レイさん、大丈夫ですか?」


フィンが心配そうな声をかけてくる。眼鏡の奥の瞳に、友人への気遣いが宿っていた。


「ええ、すみません。少し考え事をしていまして」


「何か悩みがあるなら、俺たちに相談しろよ」


カイルが真剣な表情で言った。普段の豪快さの裏に、仲間への深い思いやりが感じられる。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」


レイは微笑みながら答えたが、内心では迷いが募る一方だった。セリアの警告を仲間たちに話すべきなのか。しかし、根拠のない話で彼らを不安にさせたくない。


食堂に向かう途中、エリックが合流した。


「……おはよう」


「おはようございます、エリックさん」


エリックの緑の髪が朝日に輝いている。彼もまた、レイにとって大切な仲間の一人だった。この平和な日常が、もしソーンによって脅かされるとしたら―


「レイ、なんか顔色悪くない?」


カイルが肩を叩いてくる。


「いえ、本当に大丈夫です」


しかし、レイの心配は現実のものとなった。


午後の実技訓練中、突然ギルドに緊急警報が鳴り響いた。


「全研修生は直ちに寮に避難してください!繰り返します、全研修生は―」


エルドラ教官の緊迫した声が魔法伝達装置から響く。


「何が起きたんだ?」


カイルが拳を握りしめる。


「……危険な気配」


エリックも表情を引き締めた。


「皆さん、教官の指示に従いましょう」


フィンが冷静に提案するが、レイの胸に嫌な予感が走る。これは偶然ではない。セリアの警告が現実になったのだ。


寮に向かう途中、レイたちは奇妙な光景を目にした。ギルドの中庭に、見知らぬ黒いローブの人物が立っている。その周囲には、光の縄のような拘束魔法が複雑な模様を描いていた。


「あれは…」


レイの血が凍る。あの魔法パターン、あの立ち姿。間違いない。


「ソーン…」


「え?」


カイルが振り返る。


「知っているのか、レイ?」


フィンも驚いた表情を見せる。


その時、黒いローブの人物がゆっくりと振り返った。フードの下から現れたのは、レイの記憶に深く刻まれた冷酷な顔だった。


「やあ、レイ・ストーン君。久しぶりだね」


ソーンの声が、まるで毒を含んだ蜜のように響く。


「君の友人たちも一緒とは、好都合だ」


「レイ、こいつを知ってるのか?」


カイルが警戒を込めて問いかける。


「彼は…僕を狙っている危険な人物です」


レイは震える声で答えた。


「みなさん、すぐに逃げてください」


「何を言ってるんだ!仲間を置いていけるわけないだろう!」


カイルが炎を手に宿す。


「そうです。私たちは仲間じゃないですか」


フィンも風の魔力を集中させる。


「……みんなで」


エリックも植物の蔦を地面から伸ばした。


仲間たちの結束した姿に、レイの胸が熱くなる。しかし同時に、彼らを危険に巻き込んでしまった自分を責める気持ちも湧き上がった。


「感動的な友情だね」


ソーンが嘲笑を浮かべる。


「しかし、君たちでは私の相手にはならない。特に、拘束魔法に対しては無力だろう」


ソーンが手を振ると、光の縄が一斉に襲いかかってきた。


「くそっ!」


カイルの炎が光の縄を焼こうとするが、魔力が拘束魔法に吸い込まれていく。


「物理的な攻撃は無効か…」


フィンの風刃も同様に無力化される。


「みんな、危険です!」


レイは必死に叫んだ。このままでは仲間たちが―


その時、レイの手が自然とポケットに向かった。小石。昨日生成した三個の石がまだ残っている。アズライト純度70%、拘束魔法無効化の特性を持つ石が。


「待ってください」


レイが一歩前に出る。


「僕が何とかします」


「レイ、無茶するな!」


カイルが制止しようとするが、レイは小石を取り出していた。


「興味深い」


ソーンの目が光る。


「君の能力を実際に見せてもらおうか」


レイは小石に魔力を込めた。石が青い光を放ち始める。これまでの経験から、石の魔力構造を変化させる方法を学んでいた。拘束魔法を無効化するだけでなく、その魔力を周囲に拡散させることも可能なはずだ。


「行きます!」


レイが小石を投げると、石は空中で激しく光り、拘束魔法の光の縄を次々と消去していく。


「素晴らしい!やはり君の能力は本物だ!」


ソーンが歓喜の声を上げる。


「その力があれば、私の研究は完成する!」


しかし、レイの狙いは別にあった。石の魔力拡散効果により、周囲の魔力環境を不安定にしたのだ。


「今です!みなさん、一斉攻撃を!」


「了解!」


カイルの炎、フィンの風、エリックの植物魔法が同時にソーンに向かう。魔力環境の不安定化により、ソーンの拘束魔法が正常に機能しなくなっていた。


「ちっ、小賢しい」


ソーンが舌打ちする。


「だが、これで終わりだと思うな」


ソーンが何かの道具を取り出そうとした時、突然別の声が響いた。


「そこまでです、ソーン」


現れたのはエルドラ教官と、見覚えのない複数の魔術師たちだった。ギルドの上級職員らしい。


「マスター・エルドラ、お久しぶりですね」


ソーンが皮肉な笑みを浮かべる。


「まさか教え子を盾にするとは、堕ちたものですね」


「教え子を危険にさらしたのはお前の方だ」


エルドラの声に怒りが込められている。


「研修生たち、すぐにここから離れなさい」


「でも、マスター…」


レイが迷うが、エルドラが首を振る。


「これは我々が処理します。君たちの安全が最優先です」


「分かりました」


レイは仲間たちと共に後退する。しかし、振り返った時のソーンの表情が忘れられなかった。まるで獲物を見つけた捕食者のような、恐ろしい笑みだった。


寮に戻った後、四人は部屋で事態を整理していた。


「それで、あいつは一体何者なんだ?」


カイルが膝を組んで聞く。


「詳しいことは分からないのですが…元ギルドの研究者で、危険な研究をしていたと聞いています」


レイは知っている情報を慎重に伝える。転生者であることや、ソーンが自分の正体を知っていることは言えない。


「それで、レイさんの能力を狙っているということですね」


フィンが推測する。


「……君の石、すごかった」


エリックが小さく呟く。


「あれで拘束魔法を無効化するとは…」


「僕の能力なんて、大したことないです」


レイは謙遜するが、内心では複雑だった。今日の戦闘で、自分の石の価値を改めて実感した。魔力増幅効果、拘束魔法無効化、そして魔力環境の操作。これらの特性は、確かに他にはない貴重なものだ。


しかし同時に、それが仲間たちを危険にさらす原因にもなっている。


「レイ」


カイルが真剣な表情で言う。


「俺たちは仲間だ。どんな危険があろうと、お前を見捨てたりしない」


「そうです。一人で抱え込まないでください」


フィンも頷く。


「……一緒に戦う」


エリックの短い言葉にも、強い決意が込められていた。


仲間たちの言葉に、レイの目頭が熱くなる。


「ありがとうございます…本当に」


その夜、レイは一人で中庭に出ていた。月明かりの下で、今日の出来事を反芻している。


「考え込んでいるのね」


振り返ると、セリアが立っていた。月光が彼女の金髪を銀色に染めている。


「セリアさん…」


「予想通り、ソーンが動き出した」


セリアの表情は深刻だった。


「あなたの友人たちが素晴らしい連携を見せてくれたようだけど、ソーンはまだ本気を出していない」


「では、今日のは…」


「様子見よ。あなたの能力の真価と、周囲の人間関係を確認しただけ」


セリアが一歩近づく。


「彼の真の目的は、あなたの能力を利用した禁断の魔法の完成。そのためなら、どんな手段も使う」


「禁断の魔法とは…?」


「生命力変換魔法。他者の生命力を自分のものにする邪悪な術」


レイの背筋に寒気が走る。


「あなたの石の魔力増幅効果があれば、その魔法の効率は数十倍になる。つまり…」


「大勢の人の命を奪うことができる、ということですか」


「その通り」


セリアが頷く。


「だからこそ、あなたは狙われている」


「あなたは一体…なぜそんなことを知っているのですか?」


レイが問いかけると、セリアは少し躊躇うような表情を見せた。


「…私は、かつてソーンの研究に関わっていた。共犯者と言ってもいい」


レイの目が見開かれる。


「でも、彼の研究の真の目的を知った時、私は逃げ出した。そして今、その償いをしようとしている」


「償い…」


「あなたを守ること。そして、ソーンを止めること」


セリアの瞳に、強い決意が宿っている。


「信じてもらえないかもしれないけれど、私はあなたの味方」


「…分かりました」


レイは深く息を吸う。


「でも、僕一人の問題じゃありません。仲間たちも巻き込まれています」


「だからこそ、準備が必要」


セリアが真剣な表情で続ける。


「ソーンの次の手は必ず来る。そして今度は、今日よりもはるかに危険なものになる」


翌日、エルドラ教官から緊急召集がかかった。


「昨日の件について、君たちに説明する必要があるだろう」


エルドラの執務室で、レイたち四人は椅子に座っていた。


「ソーン・ブラックウッド。元はこのギルドの優秀な研究者だったが、禁断の研究に手を出してギルドから追放された」


エルドラが重い表情で説明を続ける。


「彼の専門は生命力変換魔法。他者の生命力を奪い、自分の力とする邪悪な術だ」


「それって…」


カイルが拳を握りしめる。


「ああ、魔法界では最も忌み嫌われる禁術の一つだ。そして昨日の様子から判断するに、彼はレイ君の能力を狙っている」


「僕の能力を…?」


「君の石の魔力増幅効果があれば、生命力変換魔法の効率は格段に向上する。つまり、より多くの犠牲者から生命力を奪えるようになる」


エルドラの言葉に、部屋の空気が重くなった。


「しかし、心配することはない」


エルドラが立ち上がる。


「ギルドとして、君たちの安全を最優先に対策を講じる。当面は外出禁止、そして特別な護衛を配置する」


「でも、それじゃあ研修は…」


フィンが心配そうに言う。


「研修は続行する。ただし、安全が確保された範囲内でだ」


その後、四人は寮に戻った。部屋は重苦しい雰囲気に包まれている。


「くそっ、なんで俺たちがこんな目に…」


カイルが壁を叩く。


「でも、これは僕のせいです」


レイが俯く。


「僕の能力のせいで、みなさんを危険に巻き込んでしまって…」


「何言ってるんだ!」


カイルが振り返る。


「お前のせいじゃない。悪いのはそのソーンって奴だ」


「そうです。レイさんは何も悪くありません」


フィンも頷く。


「……みんな、仲間」


エリックの言葉が、レイの心を温める。


「ありがとうございます…」


その夜、レイは小石を手に取りながら考えていた。今日生成した三個の石。アズライト純度70%、自然界に存在しない魔力構造を持つ石。


この力をどう使えば、仲間たちを守ることができるだろうか。ソーンの脅威から逃れる方法はあるのだろうか。


「レイ、まだ起きてるのか?」


カイルが声をかけてくる。


「はい、少し考え事を…」


「俺たちも眠れないんだ」


フィンとエリックも身を起こす。


「明日からどうなるか分からないけど、俺たちは負けない」


カイルが拳を掲げる。


「レイさんの能力も、私たちの友情も、決して悪用させません」


フィンが眼鏡を押し上げる。


「……絶対に守る」


エリックの静かな決意が、部屋に響いた。


四人の絆が、この困難な状況でより深く結ばれていく。しかし、窓の外の闇の中で、新たな脅威が着実に近づいていることを、まだ誰も知らなかった。


翌朝、ギルドに衝撃的なニュースが飛び込んできた。


「隣町のベルンハルト村が襲撃されました」


エルドラが青ざめた顔で報告する。


「村人の半数が謎の病気で倒れ、生命力が急激に低下しています」


レイの血が凍る。これは偶然ではない。


「ソーン…」


「恐らくは。彼が生命力変換魔法の実験を行ったのだろう」


エルドラが拳を握りしめる。


「そして次の標的は…」


エルドラの視線がレイに向けられる。言葉にしなくても、その意味は明らかだった。


ソーンの脅威は、もはや個人的な問題を超えて、多くの人々の生命に関わる事態へと発展していた。そして、その中心にいるのは、小石を生成するという一見地味な能力を持つ少年だった。


レイは手の中の小石を見つめる。この小さな石に、果たしてどれほどの可能性が秘められているのだろうか。そして、その力で大切な人たちを守ることができるのだろうか。


外では雲が空を覆い始めていた。嵐の前触れのように。


━━━━━━━━━━━━ 【第11話 完】 ━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス】 ━━━━━━━━━━━

【名前】レイ・ストーン 【レベル】9

【称号】小石の魔術師

【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳

【職業/クラス】冒険者/魔術師ギルド研修生


【ステータス】

HP: 130/130 MP: 35/35

攻撃力: 7 防御力: 8

魔力: 18 素早さ: 9

命中率: 10 運: 8


【スキル】

・小石生成 Lv.7: アズライト純度70%相当の魔力石を生成。拘束魔法無効化、魔力増幅効果、魔力環境操作が可能。1日3個まで。

・投擲 Lv.3: 投擲精度向上

・鉱物知識 Lv.5: 錬金術的鉱物理解

・魔力操作 Lv.4: 魔力の精密制御、拘束魔法中和


【重要な関係性】

・ウィル:信頼する保護者(信頼↑↑↑)

・マスター・エルドラ:指導教官、危機を共有(協力関係↑)

・カイル:同室の親友、危機で結束深化(友情↑↑↑)

・フィン:知的な友人、古代文字研究(友情↑↑↑)

・エリック:優しい友人、植物魔法使い(友情↑↑↑)

・ソーン:レイを狙う危険人物、本格行動開始(敵対↑↑↑↑)

・セリア:元ソーンの協力者、現在は味方(協力関係↑)


ついにソーンが本格的に動き出しましたね…!研修開始から一ヶ月という平和な日常から一転、レイたちに本格的な危機が迫ってきました。


今回の見どころは何といっても仲間たちの絆の深さでしょうか。レイを置いて逃げるなんて選択肢は最初から彼らにはなかったんですね。カイルの「仲間を置いていけるわけないだろう!」という台詞、書いていて胸が熱くなりました(´;ω;`)


そしてセリアの正体も少し明かされましたね。元共犯者からの味方転向…彼女の過去には一体何があったのでしょうか?今後の展開で徐々に明かしていく予定です。


レイの小石能力も新たな使い方を発見!拘束魔法無効化だけでなく、魔力環境の操作まで…この能力、実はとんでもないポテンシャルを秘めているのかもしれません。


そして最後のベルンハルト村の件…ソーンの実験が既に始まっているという恐ろしい事実。生命力変換魔法という禁術、これがレイの能力と組み合わさったら…考えただけでも恐ろしいですね(((;゚Д゚)))


次回はいよいよソーンとの本格的な対決が始まりそうです。レイたち四人組の友情と連携、そして小石の真の力が試される時が来るかもしれません…!


感想・コメント、励みになります。お気軽にお寄せください!


※執筆にはAIも相談相手として活用しています✨

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