第10話「仲間たちとの絆」
ラインガルドの魔術師ギルド本部に併設された研修生寮での最初の朝は、レイにとって新鮮な驚きの連続だった。
「おはよう、レイ!」
元気な声で起こしてくれたのは、昨夜遅くに到着した同室の仲間だった。
「おはようございます」
レイは慌てて起き上がり、丁寧に挨拶を返した。
「俺はカイル・フィンレー、18歳。火炎魔法が専門なんだ」
短い赤毛に緑の瞳、がっしりした体格の青年が手を差し出す。
「レイ・ストーンです。16歳で、えーっと……」
「『小石の魔術師』だろ?昨日ギルド内で噂になってたぜ」
カイルは豪快に笑った。
「『自然界に存在しない魔力構造』って、マスター・エルドラが興奮して話してるのを聞いちゃったんだ」
レイは頬を赤らめた。そんなに話題になっているとは思わなかった。
「僕はフィン・アルカード」
隣のベッドから、眼鏡をかけた細身の少年が本を片手に声をかけてきた。
「17歳、風魔法と古代文字の研究をしています。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
レイは深々と頭を下げた。
「あ、もう一人いるんだ。エリック! 起きろよ!」
カイルが奥のベッドに向かって大声で呼びかけると、緑色の髪をした少年がもぞもぞと起き上がった。
「うーん……おはよう……」
「エリック・ヴェルデは植物魔法の使い手でな。おとなしいけど、いいやつなんだ」
「エリックさん、よろしくお願いします」
「うん、よろしく……」
エリックは眠そうな目をこすりながら、ぽつりと答えた。
こうして、レイの新しい生活と仲間たちとの出会いが始まった。
–
朝食を済ませた後、研修生たちは大講堂に集められた。約30名の同世代の若者たちが、それぞれ異なる専門分野を学ぶために全国から集まっている。
「皆さん、おはようございます」
講壇に立ったのは、髪に白いものが混じった初老の男性だった。
「私は理論魔法学のドクター・クレメンツです。今日から3ヶ月間、皆さんの基礎教育を担当させていただきます」
クレメンツ博士は温和な笑顔を浮かべながら続けた。
「まず、魔法とは何か。これを正しく理解することから始めましょう」
講義は魔力の本質から始まった。レイは必死にメモを取りながら聞き入った。
「魔力とは、生命体が持つエネルギーの一形態です。しかし、単純にエネルギーを放出するだけでは魔法になりません。『意志』と『構造』、この二つが組み合わさって初めて魔法として機能するのです」
レイは自分の小石生成を思い返した。確かに、ただ魔力を込めるだけでなく、「石を作る」という明確な意志があって初めて能力が発動する。
「ここで興味深い例をご紹介しましょう」
クレメンツ博士の視線がレイに向いた。
「昨日、非常に珍しい魔力構造を持つ研修生が入学されました。レイ・ストーン君、前に出てきていただけますか?」
レイは顔を真っ赤にしながら立ち上がった。周囲の視線が一斉に自分に向けられる。
「あの、僕なんて……」
「謙遜する必要はありません。科学的事実として、あなたの能力は貴重な研究対象なのです」
レイは恐る恐る講壇の前に向かった。
「では、実演していただけますか?」
「はい……」
レイは深呼吸をして、右手のひらに意識を集中した。青い光がぼんやりと浮かび上がり、小さな石が形作られていく。
「おお……」
講堂内にどよめきが起こった。
「皆さん、よく観察してください」
クレメンツ博士が魔法の道具を使って、レイの魔力を可視化した。空中に青白い複雑な模様が浮かび上がる。
「通常の魔法では、魔力構造は自然界に存在するパターンを模倣します。しかし、レイ君の構造は……」
博士は別の図を空中に描いて見せた。
「このように、既知のどのパターンにも当てはまらない独自の形をしています。これは魔法学的に極めて貴重な現象です」
レイは自分の能力がこれほど特殊だったとは知らず、改めて驚いた。
「それでは席にお戻りください。ありがとうございました」
レイが席に戻ると、カイルが小声で話しかけてきた。
「すげぇな、レイ。まさか教材になるとは」
「そんなに大したことじゃありませんよ……」
「いやいや、大したことだって」
フィンも振り返って言った。
「古代文字の研究でも、未知のパターンを発見するのは研究者の夢なんです。レイさんは生きた発見そのものですね」
エリックも珍しく興味深そうに見ていた。
「植物の魔力パターンも独特だけど……レイのは全然違うね……不思議……」
仲間たちの反応に、レイは少し安心した。驚かれはしたが、誰も引いたり恐がったりはしていない。むしろ純粋な好奇心を向けてくれている。
-
昼食後は、各専門分野に分かれての実技訓練だった。レイは特殊能力研究部門の訓練場に向かった。
「レイ、調子はどうかしら?」
リナが明るく迎えてくれた。
「はい、少し緊張していますが、頑張ります」
「今日は基礎的な魔力操作の確認から始めましょう。まず、あなたの小石を使わない純粋な魔力放出を見せて」
レイは手のひらを前に向け、集中した。青い光がぼんやりと浮かび上がる。
「いいわね。制御も安定している。では次に、小石生成時の魔力の流れを意識してみて」
今度は小石を生成しながら、魔力の流れを感じ取ろうとした。魔力が手のひらに集まり、複雑に組み合わさって形を作る感覚が分かる。
「素晴らしい! 魔力の流れを感覚的に理解しているのね」
リナは感心した様子で記録を取った。
「今度は密度の調整を試してみましょう。昨日の評価で、魔力密度を段階的に変えられることが分かったから」
レイは意識を集中し、いつもより軽い魔力を込めた小石を作った。次により重い魔力を込めたものを作る。
「完璧よ! こんなに自在に調整できる人は見たことがないわ」
「ありがとうございます。でも、まだ3個までしか作れませんし……」
「それは制限じゃなくて、安全装置かもしれないわね」
リナは真剣な表情になった。
「これほど純粋で密度の高い魔力石を無制限に作れたら、魔力枯渇で倒れてしまうかもしれない。あなたの身体が自然に制限をかけているのかも」
その時、アレンが興奮した様子で駆け込んできた。
「レイ君! 君の石を分析した結果が出たんだ!」
「どうでした?」
「驚くべきことに、アズライト純度70%に達している! しかも……」
アレンは息を弾ませながら続けた。
「君の石を粉末にして他の魔法道具に使ったところ、通常の倍以上の効率で魔力が伝導された!」
「それって……」
「つまり、君の能力は単なる石の生成じゃない。魔力増幅器を作り出す能力なんだ!」
レイは目を丸くした。自分の能力にそんな可能性があったとは。
「でも、1日3個までしか作れないんです」
「それでも十分すぎるよ」
マルコが訓練場に入ってきて言った。
「君の石一個で、普通の魔術師が10回分の魔法を使える計算になる。戦略的価値は計り知れない」
「そんなに……」
レイは改めて自分の能力の重要性を実感した。同時に、大きな責任も感じた。
–
夕食後の自主研究時間、レイは図書館で魔力理論について調べていた。隣にはフィンが座り、古代文字の本を読んでいる。
「レイさん、面白い記述を見つけました」
フィンが古い本のページを指さした。
「古代魔法文明では、『天然に存在しない魔力構造』を『創造の力』と呼んでいたようです」
「創造の力……」
「既存のパターンを模倣するのではなく、全く新しいものを生み出す力。古代人はそれを神に近い能力だと考えていたみたいです」
レイは身が引き締まる思いだった。そんな大それた力が自分にあるとは思えない。
「でも僕は、ただ小石を作ってるだけで……」
「『ただ』じゃないですよ」
フィンは眼鏡を上げながら微笑んだ。
「レイさんは無から有を生み出している。しかも、自然界にない構造で。これ以上ない『創造』じゃないですか」
その時、カイルとエリックもやってきた。
「よう、勉強熱心だな」
「カイルさん、エリックさん、お疲れ様です」
「今日の火炎魔法の訓練、きつかった〜。レイはどうだった?」
「僕の能力について、いろいろ新しいことが分かりました」
レイは今日の発見について話した。仲間たちは興味深そうに聞いてくれた。
「魔力増幅器か。すげぇな」
「僕の火炎魔法も、レイの石があれば威力が上がるのかな?」
「植物の成長促進にも使えそう……」
エリックが珍しく積極的に発言した。
「みんなで協力すれば、いろんなことができそうですね」
レイは仲間たちとの会話を楽しみながら、ここに来て良かったと心から思った。
–
その夜、レイたちが寮に戻る途中、ふと不自然な視線を感じた。振り返ると、街灯の影に人影が見えたような気がしたが、目を凝らしても誰もいない。
「どうした、レイ?」
カイルが心配そうに声をかけた。
「いえ、何でもありません」
きっと気のせいだろう。レイはそう思い直して歩き続けた。
しかし、実際には彼らを見つめる冷たい視線があった。
「順調に成長しているようだな、レイ君」
街灯の死角から、黒いローブの男が姿を現した。ソーン・ブラックウッドだった。
「仲間もでき、能力も開花し始めている。だが、それは私の計画にとって好都合だ」
ソーンは懐から小さな魔法道具を取り出した。
「君の能力の真の価値を知る者は、まだ少ない。しかし、時が来れば……」
彼は薄く笑いながら、レイたちの後を追った。
–
「おはよう、レイ!」
カイルの元気な声で目を覚ましたレイは、昨夜の不安を振り払うように笑顔で答えた。
「おはようございます、カイルさん」
「今日は合同訓練があるんだって。各専門分野が協力する実習らしい」
「それは楽しそうですね」
フィンとエリックも起きてきて、4人で朝食に向かった。
食堂で他の研修生たちと談笑していると、一人の女性が近づいてきた。
「失礼します。レイ・ストーンさんでしょうか?」
「はい、そうですが……」
振り返ると、美しい金髪に青い瞳の女性が立っていた。年齢は20代前半だろう
「私はセリア・ローゼンバーグと申します。魔法道具商の娘で、ギルドとも取引をさせていただいております」
女性は優雅に一礼した。
「あなたの作られる魔力石について、ぜひお話を伺いたくて」
「僕なんて、まだ研修生ですから……」
「謙遜なさらないでください。アズライト純度70%の石を生成できる方は、世界でもあなただけです」
セリアの言葉に、レイは戸惑った。確かに珍しい能力だとは聞いているが、そこまで特別なものとは思っていなかった。
「もしよろしければ、今度お時間をいただけませんか? 魔法道具への応用について、ご相談したいことがあるのです」
「それは……」
レイが答えに窮していると、カイルが割って入った。
「おい、レイはまだ研修生なんだ。商談なら指導教官を通せよ」
「あら、失礼いたしました」
セリアは慌てたように謝った。
「つい、素晴らしい能力に興奮してしまって。正式な手続きを取らせていただきます」
彼女は再び礼をして去っていった。
「なんか怪しくない?」
カイルが眉をひそめた。
「突然現れて、いきなり商談の話とか」
「でも、魔法道具商なら興味を持つのは自然じゃない?」
フィンが冷静に分析した。
「レイさんの石は確かに商業的価値が高いし」
「うーん……でも気をつけた方がいいかも……」
エリックもなんとなく不安そうだった。
レイは仲間たちの心配を嬉しく思いながらも、その女性の正体について考えていた。
–
午後の合同訓練では、各専門分野の研修生が4人1組でチームを作り、模擬的な冒険クエストを行うことになった。
レイのチームは、火炎魔法のカイル、古代文字研究のフィン、植物魔法のエリック、そして自分の4人だった。
「今日の課題は、『魔法の森の奥にある古代遺跡から、封印された魔法書を回収する』です」
マルコが説明した。
「森には魔法的な障害や仕掛けがあります。各自の能力を活かして協力してください」
訓練用の森に入ると、すぐに第一の障害が現れた。道を塞ぐように、光の壁が立ちはだかっている。
「これは拘束魔法の応用だな」
フィンが古代文字を読み上げた。
「『純粋なる魔力によって道は開かれん』とある」
「拘束魔法なら……」
レイは小石を取り出した。昨日の発見で、自分の石には拘束魔法を無効化する性質があることが分かっている。
石を光の壁に向かって投げると、壁は一瞬で消失した。
「やったな、レイ!」
カイルが嬉しそうに背中を叩いた。
次の障害は、毒性の植物が生い茂る沼地だった。
「僕に任せて」
エリックが前に出て、植物に語りかけるように手をかざした。すると、毒性の植物たちが道を開けてくれた。
「エリックさん、すごいです!」
「ありがとう……植物さんたちが協力してくれた……」
エリックは恥ずかしそうに微笑んだ。
最後の障害は、古代遺跡の入口を守る石像だった。
「これは戦闘系の仕掛けだな」
カイルが炎を纏った拳を構えた。
「待って、古代文字を読んでみる」
フィンが石像の台座を調べた。
「『四つの力が一つになりし時、扉は開かれん』……みんなで同時に魔力を注ぎ込むみたいだ」
4人は手を重ね合わせ、それぞれの魔力を石像に向けて放った。レイの青い光、カイルの赤い炎、フィンの風の流れ、エリックの緑の光が混じり合い、扉がゆっくりと開いた。
「やったー!」
「みんなで協力したからだね」
「チームワークばっちりだ!」
4人は喜びを分かち合った。レイは心から嬉しかった。仲間たちと力を合わせて困難を乗り越える達成感は、一人では味わえないものだった。
–
その夜、レイが一人で図書館にいた時、あの女性・セリアが再び現れた。
「こんばんは、レイさん」
「あ、セリアさん」
「一人でいらっしゃるのね。丁度よかった」
セリアは周囲を見回してから、レイに近づいた。
「実は、あなたにお話ししたいことがあるのです」
「僕に?」
「あなたの能力について、知っておくべき真実があります」
セリアの表情が急に真剣になった。
「あなたを狙っている危険な人物がいます」
「危険な人物?」
「ソーン・ブラックウッドという男です。元魔術師ギルドの研究者で、生命力変換魔法を研究していました」
レイはその名前に聞き覚えがあった。ウィルさんが言っていた、自分たちを追ってきた男の名前だ。
「その人が、僕を?」
「あなたの能力を利用して、禁断の魔法を完成させようとしています」
セリアは声を潜めた。
「でも、なぜそれをあなたが?」
「実は私……」
セリアが答えようとした時、図書館の扉が開いた。
「レイ! いたのか!」
カイルが駆け込んできた。
「みんなで探してたんだ……あれ、その人は?」
セリアは慌てたように立ち上がった。
「失礼します。また改めて」
彼女は急いで去っていった。
「なんだったんだ?」
「分からないです……でも、重要な話があるみたいで」
レイは不安になった。ソーン・ブラックウッドという男が、本当に自分を狙っているのだろうか。
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寮に戻ると、フィンとエリックも心配そうに待っていた。
「レイさん、大丈夫でしたか?」
「急にいなくなるから心配したよ」
「すみません、図書館にいたんです」
レイは今日の出来事を仲間たちに話した。
「ソーン・ブラックウッド……聞いたことがある名前だ」
フィンが眉をひそめた。
「確か、数年前にギルドから追放された研究者の名前だったような」
「追放?」
「禁断の研究をしていたって噂があった。人体実験とか……」
カイルが拳を握りしめた。
「そんなやつがレイを狙ってるって言うのか?」
「でも、その女性の正体も分からないし……」
エリックが不安そうに呟いた。
「情報が本当かどうか……」
「とりあえず、明日マスター・エルドラに相談してみよう」
フィンが提案した。
「一人で抱え込むのは危険だ」
「そうですね」
レイは仲間たちの支えを心強く思った。
「ありがとうございます、みなさん」
「何言ってんだ、俺たちは仲間だろ?」
カイルが豪快に笑った。
「困った時はお互い様だよ」
「みんなで守り合おう……」
エリックも珍しくはっきりと言った。
その夜、レイは不安を抱えながらも、仲間たちがいることの心強さを実感していた。
しかし、窓の外では黒い影が寮を見上げていた。
「順調に信頼関係を築いているようだな」
ソーンが薄い笑みを浮かべた。
「だが、それも私の計画の一部だ。仲間がいる方が、君を操るには都合がいい」
彼は懐から小さな魔法道具を取り出した。
「明日から、本格的に動き始めるとしよう」
月明かりの下、ソーンの目が異様に光っていた。
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━━━━━━━━━━━ 【キャラクターステータス】 ━━━━━━━━━━━
【名前】レイ・ストーン 【レベル】9
【称号】小石の魔術師
【種族】人間(転生者) 【年齢】16歳
【職業/クラス】冒険者/魔術師ギルド研修生
【ステータス】
HP: 130/130 MP: 35/35
攻撃力: 7 防御力: 8
魔力: 18 素早さ: 9
命中率: 10 運: 8
【スキル】
・小石生成 Lv.7: アズライト純度70%相当の魔力石を生成。拘束魔法無効化、魔力増幅効果を持つ。1日3個まで。
・投擲 Lv.3: 投擲精度向上
・鉱物知識 Lv.5: 錬金術的鉱物理解
・魔力操作 Lv.4: 魔力の精密制御、拘束魔法中和
【重要な関係性】
・ウィル:信頼する保護者(信頼↑↑↑)
・マスター・エルドラ:指導教官(協力関係)
・カイル:同室の親友、火炎魔法使い(友情↑↑)
・フィン:知的な友人、古代文字研究(友情↑↑)
・エリック:優しい友人、植物魔法使い(友情↑↑)
・ソーン:レイを狙う危険人物(敵対↑↑↑)
・セリア:正体不明の女性(不明)
今回はレイの新たな舞台、魔術師ギルドでの研修生活がスタートしました。
個性的な仲間たち——熱血火炎魔法使いのカイル、知性派風魔法&古代文字オタクのフィン、植物を愛する癒し系エリック。レイの周りが一気に賑やかになりました!
そして、いよいよ彼の「小石生成」の真価が明らかになってきましたね。
単なる石じゃなかった…なんと魔力増幅器!? まだまだ謎だらけですが、少しずつ明かしていく予定です。
この作品は「最弱スキル」からの逆転劇を描きつつ、仲間たちとの信頼や成長も大切にしています。
「誰かに必要とされる自分」へと変わっていくレイを、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです!
次回は、初のチーム演習で早くもトラブル発生!?
どうぞお楽しみに!
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