決行前夜。
「あぁ、あぁ、愛してるよ。あぁ、2人ともだ。ハハ、愛してるよ、あぁ、もう失礼するよ。ゴットハルトに宜しく頼む、何かあれば彼に言うようにしてくれ。では」
さて我々は明日の朝、クーデターを決行する。ヴルグス帝国首都ウルシア。ここにあるウルシア王宮と議事堂を同時に制圧する。
――白い婦人は私だ。
基本的に議事堂は武力を持たない為、即制圧可能だろう。では王宮側が大変かと言われると、戦力差を考えるとそうでも無いはずだ。王宮警護などという戦場も知らん奴らに我々が負けるはずもない。しかし、向こうが最後の抵抗してくる可能性もある。油断は出来ない。死者が出るのは避けたいからな。
「将軍、失礼します」
外から声がした。
「ハインリヒか。入れ」
「はっ。既に準備は完了しました。今すぐにでも突入出来る状態です」
「ご苦労だった。キチンと休めよ」
「将軍も、そろそろお休みになられてはいかがでしょう」
「そうだな、そうする。……ハインリヒ、家族は息災か?」
「は、おかげさまで」
「そうか。お前の所の嫁は私の家内とも仲が良い。とても良い人となりだ、大事にしろよ」
「……相変わらずですね」
そういう彼の顔は薄い笑みが浮かんでいた。
「ハハ、すまない。余計な世話だったか」
「いえ、お気遣い感謝します」
「下がって良いぞ」
「はっ、失礼しました」
そう言い出ていった男の背中を見て、私は美に置いてかれるような気がした。
「……背負うものが……些か多すぎるな」
溜息と共に出たその本心は、私の体を置いていく勢いのものだった。
一つ、引っかかることがある。私は今、国民のために国を変えようとしている。しかしそれは全くの民衆が望んでいないものである。なぜなら私は民からクーデターを起こせという声は聴いていないからだ。確かに街中でも声をかけられ、期待の声は貰う。だが、その真意はなんであるのか。私はそれを掴めてはいない。私が政権を奪取したときに彼らがどの様な反応をするか、これが重要である。
……しかし、だからと言って先のこと考えても仕方あるまい。
……今は少し休もう。
そして私は横になった。