第65話 スポーツデイ その1
とうとうスポーツデイがやってきた。
昨日は眠りすぎて朝早く目が覚めたため、珍しく散歩に出かけた。
公園の方に向かうと朝からランニングしている人や今日の体育祭に向けて準備している生徒も見かけて、朝から活気があった。
そんな風景を眺めていると、後ろからイブキくんに声をかけられた。
「おはよう」
「おはよう!」
「朝からヒマリと会えるなんて嬉しい」
(朝からストレートな甘い言葉だ)
彼は本心でそう思っていそうな優しい顔をしてそう言っていた。
「今日も朝から走っていたの?」
「うん。今日が本番だから軽く走ってた」
「今日のコンディションどう?」
「バッチリだよ」
「よかった!イブキくんの走り楽しみにしてるね!」
「うん」
「それじゃあ、また学校でね」
私は手を振り、寮へ戻った。
9時までに登校すればいいので、ふだんよりもゆっくり朝ごはんを食べて、ジャージで教室に入っていく。
そして教室でのHRが終わり、グラウンドで開会式が行われた。
ついに、スポーツデイが幕を開けた。
各クラスごとのテントでスタンバイする。席順は教室と同じ席に座ることになっているが、多少動いてもよいと言われている。
スポーツデイで行われる種目は借り者競争と騎馬戦、リレーの3つである。各競技で1位を取ると10ポイント、2位は5ポイント、3位は3ポイントと加点されて、最後に校長先生が選ぶMVPに選ばれるとプラスで10ポイント加点され、総合点が高いクラスが優勝である。
リレーの前に各クラスの応援合戦もあり、優勝への士気を高める。
このスポーツデイで優勝すると、来月に行われるハロウィンパーティーで好きなことをやっていいという権利を得られるそうだ。しかも、校長先生が魔法でお手伝いしてくれるようで、これはかなり激アツな優勝景品であるため、どのクラスも優勝を目指しているし、私たちのクラスも同様だ。
まずは借り者競争である。
ナルミさんとヒナタくん、そしてナルミさんと同じゾンビ族のマオくんが出場する。
出るメンバーにみんなで「頑張って」とエールを送った。
ヒナタくんは1番目で出場するようでスタートラインの手前で軽くストレッチしていた。
そして横1列に3人が並び、合図と共に皆一斉に走り出した。ヒナタくんは他の人よりやや遅れ気味だがこの競技は足の速さではないので大丈夫だろう。
トラックを一周してから、お題の書いてあるボックスから紙を引く。
どんなお題が書かれているか気になる。
ヒナタくんはお題を引き、私たちのクラスの元へやってきた。
そして彼はユアさんを呼び、颯爽と一緒にゴールへ走っていった。
順位は最後になってしまった。
判定員をしているのが、チアキくんとリュウ先生という異様なコンビであり、ジャッジが厳しそうだが、無事にクリアしていてよかった。
戻ってきたユアさんは少し不満そうな顔で戻ってきた。
「お題は何だったんですか?」
「ワタクシ変わった人らしいですわ。
てっきり、美しい人で呼ばれたかと思って優雅に走ってしまいました。その様子をチアキさんに見られていたのが、非常に恥ずかしいですわ」
(可愛い。ユアさんも乙女のようだ)
「大丈夫ですよ!チアキくんはそういうユアさんの部分もきっと可愛いと思ってますよ!」
「励まして下さり、ありがとうございます。でも、ヒナタのことちょっと許せませんわ」
そういえば、一緒に戻ってくるはずのヒナタくんがいないので、彼も悪いなとは思っていそうだ。
同じクラスのマオくんは2位を取り、次は女子が走る。ナルミさんが1位を取らないと優勝への道は遠くなる。
ここでナルミさんに頑張って貰わないとだ。
ナルミさんの動きにクラスのみんなが注目する。
そんな視線を気にしていないのか、ナルミさんはいつも通りの明るい表情でスタートラインに立った。
合図がしてナルミさんは風を切るように走っていた。一周しても勢いはそのままで借り者のお題を引いていた。
ナルミさんはこちらに来て誰かを探しているようだった。彼女の動きを見ていると、目があった。
彼女は笑顔で私の方に「来て」と言って私の手を引いた。私は特にストレッチとかもしていなかったので彼女の足の速さについていけず、足がもつれて転んだ。彼女は体幹が強いのか転ばずに済んでいた。私は早くゴールをしなきゃと気持ちが焦ってすぐに立ち上がり、ゴールに向かって走った。
何とか1位でゴールした。お題は何か確認しようと思ったが、リュウ先生に「早急に保険室へ向かいなさい」と言われたので、保険室へ向かった。
保険室には誰もおらず、とりあえず傷口を洗い、ハンカチで拭いた。
ここには絆創膏がないことを思い出したが、教室にまで取りに行くのが面倒だと思い、魔法を使おうと思った。
「絆創膏の箱よ、保険室にやってきて」
気持ちを込めて唱えると、絆創膏の箱がテーブルの上に置かれた。
魔法が成功したようだ。
「よし!」
絆創膏を取り出し、膝に貼った。傷口はやや痛むが、絆創膏の箱を教室に戻そうと椅子から立ち上がり、保健室を出た。
ゆっくりと教室に戻り、ロッカーの中に箱を入れると、柱をトントンと叩く音がした。振り返ると、そこにはヨルくんがいた。
「足大丈夫?」
心配そうに近づいてきたが、彼はぴたっと立ち止まった。
「凄く良い匂いがする。もしかして、血を拭いたもの持ってる?」
真剣な顔で尋ねてきたので、ポケットからハンカチを出した。
「早く洗ってきた方がいい。あと、香りが充満しないように換気しよう」
彼は廊下の窓を全開にした。
私は急いで水道でハンカチの血を洗い流して、教室の窓に干した。
「俺だったからよかったけど、他の者が来ていたら危なかったかもしれない」
「ヨルくんありがとう」
前にリュウ先生にも血はすぐに拭き、拭いたものはすぐに捨てるか洗い流すようにと言われていた。誰もいないからと油断していた。
「俺も危なかったし、襲わなくてよかった」
彼からそんな物騒な言葉が出てくることに驚き、思わず体がこわばった。
すると彼は私をゆっくり抱きしめて、緊張を解すように背中を撫でた。
「大丈夫だよ」
優しい声で言った。そのひと言と優しい手が私を安心させてくれた。
徐々に正常な脳みそに戻ってきた。彼から離れようとした時、また柱をトントンと叩く音がした。
「2人の世界に浸っているところ申し訳ないけど、そろそろ戻らないの?」
不機嫌な声のイブキくんが教室にやってきていた。
私たちが抱きあっていたが、すぐに離れた。
凄く気まずい状況だ。
(なんて言い訳すればいいんだろう)
「そうだね。戻ろうか」
ヨルくんの言葉に私はこくりと頷く。変に言い訳する方がおかしいことに気が付き、ヨルくんが返事をしてくれて命拾いをした。3人でグラウンドに戻ろうも歩き出したが、その間は無言で移動し、気まずい空気はそのままでヨルくんと分かれて、2人でクラスの元へ戻った。




