第63話 スポーツデイ前日
スポーツデイまで授業が半分ほど練習になってから、日々が流れていくのは早かった。
私はリレーの練習を見つつ、応援団の練習にも参加していた。応援団の練習と言っても、ユアさんがリーダーで副リーダーがナルミさんの2人がメインで前に立ち、掛け声やエールの言葉を復唱する。
ユアさんはそういう掛け声をするイメージがなかったのだが、彼女はそういうのに憧れがあったようで凄く楽しそうに言っていた。
ナルミさんもユアさんに負けじとしっかり声を上げて、応援の練習をしていた。
私を含めた競技に参加しないクラスメイトもそんな2人に引っ張られて、応援の練習はしっかりと声を出して、やる気があるので楽しかった。
当日は各クラスのリーダーと副リーダーは好きな衣装を選んで着て、自分たちのクラスを盛り上げる。
衣装は安定のチアリーダーから学ランなど色々とあるらしいと聞いているが、リーダーと副リーダーしか衣装の内容は教えて貰えないので、知ることはできない。彼女たちが何を着るのか気になるが当日のお楽しみにしたいため、あえて聞かないでおく。
◇◆◇
なんだかんだで日々は過ぎていき、体育祭の前日となった。
今日は授業がなく、一日中体育祭の練習ができる日だ。私は応援団の練習ではなく、リレーの監督をお願いされてグラウンドにいた。
みんなのバトンパスは最初の時よりもとてもスムーズになっており、タイムもかなり早くなっていた。私が見る必要がないぐらい優勝が出来そうな走りをしていた。
「さっきの走りどうだった?」
走り終えたイブキくんに尋ねられた。
「もう完璧だよ!これなら優勝出来ると思う!!」
彼は嬉しそうに頷いた。
「よかった。最近ヒマリが応援の練習行っててこっちには顔を出せてなかったから、その間に早くなりたいと思ってたくさん練習してたんだ。
だからそう言ってもらえて嬉しい」
すると、他のリレーメンバーの3人も私たちのところに集まってきた。
3人もイブキくんと同じことを聞きに来たようだ。
「4人の走り、とても良くなってるよ!!明日もこの調子で走れれば優勝間違いなしだよ!」
みんなは良い顔で頷いた。
「俺たちもさっきの走り凄くよかったと思っていたんだ」
タクトくんはそう言った。
「うん!だから、もう今日は練習せずに明日に備えて終わりにしよう」
するとイブキくんが不安な顔をした。
「今日全然走ってないし、他のチームはまだ練習してるのにいいの?」
「むしろここで体力を温存して、明日に力を発揮して貰いたいの!みんなは十分練習をしてきてるし、むしろ明日疲れが出る方が良くないから、今日はしっかり休んで、明日に備えよう」
みんなは納得し、私の提案を受け入れてくれた。
「ありがとう!明日は頑張ろうね!」
5人でグータッチをして、明日の勝利を祈った。
私たち以外のチームは練習をしていた。
まだ午前中なので当然ではある。
私も教室に戻ろうとすると、練習中のはずのヨルくんがこちらにやって来た。
「ヒマちゃん、もう練習終わりなの?」
「うん!明日に備えて終わりにしたよ」
「随分と自信があるみたいだね?」
(確かに、他のチームからしたら余裕に見えるかも)
「まあね!」
「いいね!俺も明日楽しみになってきた!」
「ヨルくんはここで喋ってて大丈夫なの?」
「俺たちのチームも凄く良い感じだから、練習を続けるか悩んでたところだったんだ。
だから、そっちのチームが解散してるのを見て、俺たちも終わりにしようって流れになったんだ。
ーーそれで、これからどうする?」
彼は悪い顔で誘ってきた。これはこの後一緒にいたいと言うべきなことを察した。
「一緒に帰りましょう」
「はい、よく出来ました!ジャージのままでいいから、昇降口で集合しようか」
「わかった!」
私たちはカバンを取りに各々教室に戻った。
教室に戻ると、リレーのメンバーで何か話していたようだった。
私は静かに教室に入ると、イブキくんは気が付き、「一旦聞いてくると」と言って、私のところに来た。
「この後、時間ある?」
「ごめん、先約が出来ちゃって行けない」
「……そっか」
悲しそうにみんなの元へ戻ってしまった。
もしかしたら、リレーのメンバーでご飯でも食べに行く予定だったのかなとか思ったが、私はヨルくんとの予定がある。無理に参加するのはよくない。
申し訳なさそう感じつつ、みんなに挨拶をして教室を出る。
「明日頑張ろうね!!またね!」
4人は各自返事をして、私はヨルくんの元へと歩き出した。
昇降口を出ると、すぐに見えるところに彼は立っていた。
彼は私が見えたからかおそらく私の名前を言って手を振ってくれた。本物の彼氏みたいで思わずときめく。
「どこに行きたいところとかある?」
「うーん。特に言って無いんだけど、お腹が空いたから、ご飯食べに行きたいな」
「おっけー!それじゃあ、美味しいお店行こうか」
そう言って私の手を取り、歩き出した。
彼の手は温かくて大きく、包み込んでくれていた。
自然と距離が近くて緊張してしまう。
「手、繋がなくてもよくない?」
「何で?」
「私たちはあくまで仮婚約者でしょ?
周囲には誰もいないし、わざわざ手を繋ぐことはないと思う」
「いやいや、俺たちが見えていないだけで意外と見てる人もいると思うんだ。だから、学校出るまで手を繋いでおこう?ね?」
彼の意見も一理あると思い、学校を出るまでは手を繋いでおくことにした。
「ヒマちゃんは明日のスポーツデイ楽しみ?」
「楽しみではあるけど、不安もあるかな」
「どうして?」
「私リレーのメンバーに明日優勝出来るとか言っちゃったけど、本当に出来るかどうかはまだ分からないし、そのエールの送り方大丈夫だったかなとか」
「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ」
「そうかな」
「俺がもし彼らと同じだったら、変にマイナスことを言われるよりも優勝しようって言われる方が嬉しい!
むしろ、そうやってチームの士気を上げてくれる方が俺はいいと思うよ」
彼は私を優しく励ましてくれた。
「ありがとう!ヨルくんもリレー出るんだよね?頑張ってね」
「ヒマちゃん俺のことも応援してくれるんだね?」
「まあ一応敵チームだけど、婚約者なので」
「優しいね」
「いやいや普通でしょ?」
「いいや、応援してくれるなんて思わなかったから、嬉しいな」
しみじみと話した彼に本当にそう思っていなかったんだろうなと感じた。敵に塩を送るようなことをしているが、友達兼婚約者として応援しないのは違うので、表では応援しないが本人にエールを送るぐらいはいいだろう。
「でも、みんなが見えるところでは自分のクラス応援するからね!」
「それはもちろん。ただ2人っきりの時にだけ応援してくれるのは特別な感じがしていいよ」
「もう校門出たから手を離そう」
私は手を離そうとすると、彼は握ったままで離してくれない。
彼の顔を見ようと思ったら、向き合う形となった。
「俺正直スポーツデイあんまり楽しみじゃなかったんだけど、ヒマちゃんが応援してくれたおかげで明日本気で走ろうと思った。ありがとう」
彼は私のおでこにキスを落とした。
私は思わず驚いて、自分のおでこに手を当てた。
「君って初心だよね」
私の行動にくすっと笑う彼。
「初心で悪かったですね」
「可愛いな」
ぼそっと言って私を包み込んだ。私はここ校門前なのですが!?と心の中で焦る。だが、この甘くて温かい時間を解くことは出来ない。
「ヒマちゃん。俺の活躍するところ見ててね」
「うん」
彼は満足したのか解いてくれた。そして、並んで歩き出す。
「ヒマちゃんはオムライス好き?」
「うん!好きだよ!」
「今から行くところがね、オムライスが美味しいお店でさ、店内の雰囲気も落ち着いてて良いんだよね」
もしかして、イブキくんと行ったところではないかなとか頭に浮かんだが、他にも美味しいお店があるのかもしれないと思い、黙っておく。
「そうなんだ!楽しみ」
そうして他愛のない会話をしている内にたどり着いた。やはり、フラワーズパークの近くのレストランだった。




