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第58話 自称マネージャー兼監督もどき


2学期最初のテストを何とか乗り越え、今月の28日にはスポーツデイという体育祭のようなイベントがあるため、放課後にその練習をするためみんな忙しくなるようだ。


他人事のように言っているが、私は競技には出ないが、何故かリレーの監督をやって欲しいとお願いされて、このグラウンドでリレーのバトンパスの練習を見ている。

以前にバトンパスの大切さについて意見を言ったことをユアさんは覚えており、私が監督として見るのが最適だと思われてしまい、今ここに立っている。

まずはバトンパスから始めようと指示をし、近距離でバトンの受け渡しの練習をやってもらっている。


リレーのメンバーは第1走者はマミー族のリクくん、第2走者はゾンビ族のカナトくん、第3走者はヴァンパイア族のタクトくん、アンカーはイブキくんとなっている。


初めてみんなの走りを見ているがなかなかに筋がよく、立候補しただけの実力はあるようだ。

イブキくんはリレーに出ることを嫌がってはいたが、走ることは好きなようで、走っている時は楽しそうに見えた。


バトンパスを終了し、本番のように走ってみようと私はみんなに提案し、各々はトラックの中に入り、位置につく。

他クラスの生徒も練習をしているので、私は邪魔にならないところで見る。

すると、トラックの中に向かったはずのアンカーのイブキくんに話しかけられた。


「ヒマリが合図しないと始まらないよ?」


第1走者のリクくんは走る姿勢のまま止まっている。


「え!?練習なんだから、好きなタイミングで始めるかと思ってた」


「あの掛け声、また聞きたいな」


あの掛け声とはこの世界では普通ではなかった掛け声で合図しろと言うイブキくんを少し意地悪と思いつつ、私はリクエストには応える。

リクくんに合図するよと目線で送る。


「位置について、よーい、どん」


周りにいた人達は一瞬私の方を見たが、何事もなかったようにまた練習を続けた。やっぱりこの掛け声が普通ではないことを実感する。


リクくんはトップバッターとして、軽快な走りをし、先程バトンパスを練習したからか、スムーズにカナトくんにバトンを繋いだ。

次に第2走者のカナトくんは好調な走り出しをし、スピードはそのままでタクトくんにバトンを渡そうとするが、タクトくんがそのスピードに間に合わず、バトンは上手く渡らなかった。

カナトくんは急ブレーキを踏むようにスピードを急激にゆるめて、タクトくんにバトンを渡した。タクトくんは先程のミスを挽回しようと勢いよく走っていた。とうとう最後のイブキくんにパスをし、そこは上手くいき、イブキくんは華麗な走りをし、フィニッシュとなった。


イブキくんは少し息が上がりつつも、爽やかに私のところへ戻ってきた。

みんなが集合したところで、先程の走りの反省会をする。


「実際やってみてどうだった?」


すると、カナトくんが申し訳なさそうな顔をして挙手をした。


「ごめん。俺の走りが今回足を引っ張った」


すると、タクトくんが「いいや、そんなことはない」と言った。


「俺もカナトのスピードに合わせて走り始めていればよかったんだ」


タクトくんも自分の走りにも問題があったと話すが、それもあるかもしれないと思ったが、とりあえず、ミスを並べても仕方ないので、今後それに気をつければいいように、とみんなに伝える。


「今回のミスは誰にでも起ってしまうことだから、4人全員がそれに気を付けつつ、バトンを渡すときは相手が取りやすいように心遣いをするのを意識して、もう一度走ってみようか」


4人は返事をして、トラックに各自位置についた。

私はまた合図をし、4人の走りを見た。

今回は先程の言葉を気にして走ってくれたのか、バトンパスは綺麗にいき、先程よりもタイムは早くなっていた。


「みんな凄いよ!タイムが早くなったし、バトンパスがスムーズになっていたよ」


4人を私は褒めたが、みんなそんなに嬉しくなさそうだった。


「ヒマリ、褒めるのはまだ早いよ。まだまだ改善するべきところは各々ある。

だから、そんなに甘やかさないでくれ」


イブキくんは真剣な顔でそう話した。リレーに対して本気だからこその言葉だった。


「わかった。でも、私はさっきのは走りはよかったと思ったから、言っただけだよ!

みんなはまだまだとか思っているかもしれないけど、あんまり自分を追い込みすぎないでね」


自称マネージャー兼監督もどきの私はアドバイスを言って、みんなにスポーツドリンクを渡した。

これは練習が始まる前にこっそりと自販機で買っておいたものだ。

一度マネージャーになるなら、こういう風なこともやってみたい憧れから、渡してみた。みんなは私の思惑には気が付かず感謝を述べて、喉が渇いていたのか、ごくごくと勢いよくスポドリを飲んでいた。


1時間のリレーの練習は終わりにしたが、タクトくんは個人的に練習をすると言って、走っていってしまった。残りの私たちは教室に戻った。



教室に戻ると、騎馬戦のメンバーである、シュウヤくんと獣族のレオくん、ソラくん、ジンくんが話し合いをしていた。


シュウヤくんは私たちが戻ってきたことに気が付くと、騎馬戦組の作戦会議はちょうど終わったのかお開きにしていた。


彼の近くに行くと、ノートに何か位置取りだったりのメモが書いてあるのが見えた。


「そっちの練習はどうだ?」


シュウヤくんは私とイブキくんにそう尋ねた。


「まあまあ」 「良い感じ」


私とイブキくんはほぼ同時に反応した。


「そうか。思ったより良さそうでよかった」


「シュウヤくんの方はどう?」


「基本的に3人は頭を使って動くのが苦手なようでな、俺が考えたものを覚えて動いて貰おうというはこびになった」


確かに、下手にみんなで考えるよりは優れた人が戦略を考えるのは1つの手ではあるが、それはシュウヤくんにかなり負担があるのではと心配になる。


「その分、3人には体力向上トレーニングをしてもらうように言った。そもそも獣族はポテンシャルは高いものの、他のクラスも獣族で編成してくることは目に見えているから、よりスムーズに的確に動いて貰うためにトレーニングは必須だと考えた」


ノートにはシュウヤくん考案のトレーニングメニューが書かれたメモがあった。

ランニング10kmや腹筋やスクワット、プランクなど基礎トレーニングの内容が書かれていたが回数が1日100回と書かれていて、このメニューをこなすのは私には無理だと思った。


「このメニューは俺も今日から取り組む予定だ。

ーーそうだ、2人も一緒にやらないか?」


とても良い顔で誘われたが、私は断った。


「俺はやろうかな。ちょうどトレーニングしないとって思ってたところだったから、ちょうど良い。

シュウヤ、一緒にやってもいいか?」


「もちろんだ。俺もユイトと出来るなら最後までやり遂げることが出来そうだ」


2人の熱い友情を目の前で見て、素晴らしいと思った。私は2人の空気を邪魔しないよう、気配を消して、自分の席で帰りの支度をする。


2人も細かいことを話し終えたら、帰り支度をし始めた。


「ヒマリって、監督の経験とかあるの?」


隣で支度を終えたイブキくんに聞かれた。


「いいや、ないよ?」


彼の質問の意図が読めなかった。


「そうなんだ。アドバイスが的確だったし、みんなを励ますのが上手だったから、てっきりそういう経験があるのかなって思っただけ」


「そうかな?

普通に思ったこと言ってただけだから、少しでも力になれてたなら嬉しいな」


「ホントにそういうところ、ズルいな」


イブキくんは前髪をかきあげて、そう言った。すると、耳元に顔を近づけてこそこそ話をするように私に言った。


「婚約者がいるんだから、簡単に人を喜ばせるようなこと言っちゃダメだよ。


ーー僕はまだ君のこと好きなんだからさ」


私はその言葉で顔が赤くなり、手で口を押さえる。

イブキくんは私の反応を確かめて満足そうにしていると、シュウヤくんがこちらに来た。


「ヒマリ、顔が赤いが大丈夫か?」


「うん、大丈夫。少し熱いだけ」


よく分からない言い訳を言ったが、シュウヤくんは「そうか」と流してくれた。


「俺とユイトはこのまま走ってくるが、ヒマリはどうする?」


「私は2人の足でまといになるから、走らないよ?」


「いいや、大丈夫だ。

俺たちも最初から早く走る訳じゃなく、今日はウォーキングから始める予定だ。だから、ヒマリも少しだけ歩かないか?」


シュウヤくんが何故か私と歩きたいようなので、とりあえず受け入れる。


「少しだけ歩くくらいならいいよ。今日はみんなジャージ着てるし」


制服だったら歩かないが、監督も何故かジャージを着るようにとユアさんに言われて着替えていたので、運動不足だったしちょうど良いと思った。


3人で学校を出てから公園に向かっている最中、シュウヤくんは質問をしてきた。


「何で、ヨルくんの婚約者になったんだ?」


いきなりそんなことを聞いてきたので、私は動揺をする。


「え、この前も話したじゃん?」


「あれはヒマリの本音ではないだろう?」


「そうだよ、僕たちにだけでも正直なことを話して欲しい」


イブキくんもシュウヤくんに加勢してきた。


「いやいや、そんなことないよ!話したことが全てだよ」


「普段のヒマリならそんな曖昧な態度は取らないよ」


「そうだ。何かしら、あの男に言われたのではないか?」


2人にそんな確信迫るようなことを言われて何にも言えなくなる。


「……」


「……」


「……わかった。そこまで言えないのなら、これ以上はヒマリには聞かない」


シュウヤくんは私が言えない事情を察してくれたのか、引いてくれるようだ。


「ありがとう」


「俺もまだ全然納得していないよ。

だけど、俺たちのせいでヒマリの困った顔は見たくないから、今日は聞かないよ」


イブキくんは正直な気持ちを伝えてくれつつ、私のことを気遣ってくれた。


公園に到着し、2人は走るのか、ストレッチをし始めた。

私は散歩しに来ただけなので、帰ろうと思う。


「それじゃあ、私はそろそろ帰るよ」


「送っていかなくても大丈夫か?」


「うん!大丈夫だよ!スポーツデイが近いからか、普段よりも歩いてたり走ってる人多いから、問題ないよ!」


「そうか、わかった」


シュウヤくんは私のことを心配してくれているようだ。ありがたいなと思いつつ、彼に感謝をする。


「心配だけど、俺たちが送って帰るのも婚約者さんには悪いからね。


ーー気を付けて帰ってね」


イブキくんは少し皮肉混じりではあるが、彼なりに私のこと気遣ってくれている気持ちを感じたり、少し可愛いなと思った。


「2人ともありがとう!気を付けて帰るね!2人も怪我とかしないように無茶せず、トレーニング頑張ってね!」


「ああ」 「うん」


そう言って分かれる。同時に走り出した2人を少し見て、遠くなったのを感じてから私も寮に向けて歩き出す。

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