第55話 ドキドキ
いつもご覧いただきありがとうございます!
お待たせしました!是非楽しんで読んでください!
そして、今週は休載いたしますので、来週の土曜日の夜に投稿いたします。
よろしくお願いします!
みんながリビングに集合すると、シェフに外に出て欲しいとお願いされて庭に向かうと、コンロやテントのような屋根の下にテーブルや椅子が綺麗に並べられており、今夜はBBQをするようだ。
コンロの近くのテーブルにはお肉や野菜が彩り良く串に刺さっていたり、海鮮なども用意されており、豪華な食材が並んでいた。
夕食の内容を聞かずにみそ汁を作ってしまったので、みそ汁を出すのはやや場違い感があり、やってしまったと思った。
私が考え事をしていた内に、みんなは用意されていた椅子に座っていたので、慌てて私も空いてる椅子に腰をかけた。
一旦現実逃避するために、まずはテーブルに置いてあるサラダを食す。
サラダを完食すると、周囲はお肉の香ばしい香りで満たされ、私の中の期待を上昇させる。
そして、炭火焼きされた串が各々に配られて、いただく。
まずはお肉から1口かぶりつく。
「美味しい!!」
1人だけ盛り上がっていることに気が付き、声を抑える。
他のみんなは私の様子を見終わってから食べ始めた。
ユアさんは串にかぶりつくのに抵抗があるのか、串から具材を1つずつ外して、ナイフとフォークで1口ぐらいの大きさに切って食べていた。私が食べていたやり方がなんだか品がなかったように感じてしまうが、BBQといったらそのままかぶりつくイメージがあるので、私はそれで食べ進めた。
みんなと楽しく食事をし、中盤に差し掛かった頃、ユアさんに罰ゲームで作った料理の話題を振られて、食べたいと言われたので、みそ汁の入ったお鍋を庭に持ってこようとキッチンに向かった。
何か底の深いお皿は無いかと棚を見るも、ココットのようなものしかなく、どうしようかと悩む。
すると、スっと執事さんが背後に現れて、声を掛けられた。少しビビるも彼を見た。
「ヒマリ様、何かお困りですか?」
「みそ汁を入れるお皿を探しているのですが、スープ用のお皿はどこにありますか?」
「スープ用でしたら、こちらの棚にございますよ」
すんなりとみそ汁を入れる器は見つかった。灯台もと暗しだった。
「ありがとうございます!」
7人分の食器を持つが、トレーがないことに気が付き探していると、執事さんが料理を運ぶ台車を持ってきてくれた。
流石は執事さんだと感心し、感謝を述べようとすると、執事さんはもうどこかへ消えていた。
スープのお皿を7つ置き、みそ汁の入ったお鍋とお玉をのせて、庭に運ぶ。
私が庭にやってくると、みんなの期待の眼差しが注がれる。
「こちらの料理はなんですの!!」
ユアさんは凄く気になっているのか、テンション高めに尋ねてきた。私は鍋の蓋を開けて、みんなに見せた。
「私たちが作ったものはみそ汁です!」
「みそ汁!?」
そのワードに驚いてる人、頭にはてなマークを浮かべているような表情をしている人がいた。
「シンプルなものですが、丹精こめて作ったので食べてみて下さい」
みんなの分のみそ汁をよそって、各々の前に置いた。
不思議そうに見ているメンバーと嬉しそうに見ているメンバーで分かれていた。
みんなはスプーンを持って、1口みそ汁を飲んだ。
ユアさんは神妙な面持ちでこちらを見た。
「これは一体何を使ってるのかしら?」
「味噌です」
「ミソ!?」
彼女は驚きながら聞き返した。
「ちょうど執事さんが味噌を用意してくださっていたので、それを使わせてもらいました!」
「ヒマリさんはミソを知っていたのですか!?」
「はい」
「ワタクシもミソという存在は知っていたのですが、ミソを使用した料理を初めて食べました。ヒマリさんは本当に人間についてよくご存知なのですね」
「いえいえ、そんなことありませんよ」
「いいえ、謙遜しないでください!
ワタクシ、本当にヒマリさんを尊敬いたしますわ。実はチアキさんが忘れられない料理でみそ汁とお話されていて、ワタクシはその料理を再現出来ないかとシェフと執事にお願いしていたの。
......でも、2人とも食べたことがないから、作るのが難しいと言われてしまったから、諦めていたの。
ーーだから、ヒマリさん作ってくれてありがとうございます」
すると、チアキくんもこちらを見て、口を開いた。
「それは僕からも言わせて欲しい。
まさか、ここでみそ汁をまた飲めるなんて思ってもみなかったから、作ってくれて嬉しいよ!
ありがとう」
2人から感謝されて、くすぐったいなと思いつつ、そんなに凄いことした訳ではないので、自惚れないようにする。
「これがみそ汁というものか。初めて聞いたし、初めて飲んだ。こんなスープがあるのだな」
感慨深そうにシュウヤくんは話した。
「僕も!!ヒマリちゃんが作ってるのを味見してこんなスープがあるんだって知ったんだ!
ねえ、タクト?」
「ああ、俺もそこで初めて知ったから、シュウヤと同じだ」
「よかった。俺が知らないだけかと思っていたが、2人も知らないなら普通は知らないことなんだろうな」
「オレも初めて飲んだ。シュウヤたちも初めてだったのは驚いたな。流石はヒマリだね」
イブキくんまで褒めてくれた。
その後もみそ汁でしばらく盛り上がり、鍋の中身は空っぽになり、みそ汁は完食した。
みんなに喜んでもらえてよかったと安心して、再び串焼きを楽しんだ。
夕食も食べ終わり、各自自由時間だったので、自室に戻りシャワーを浴びたら、体がリラックスしたのか眠くなり、そのままベッドに横になった。
気が付くと、カーテンから差す光はなく暗かった。時計を見ると、朝の8時。かなり寝ていたことに驚きつつ、眠りすぎて逆に頭が重かった。
目を覚まそうと顔を洗い、歯磨きをし、着替える。キッチンで水を注ぎ、飲んでから、昨日と同じようにプライベートビーチに向かった。
ビーチを見渡したが、今日はイブキくんはいないようだ。
心を休めるように一定のリズムで波打つ音に耳を傾ける。波音は心地のよく、気持ちを穏やかにしてくれる。
しばらく聞いていると、こちらに近づいてくるような足音が聞こえて音のする方を見ると、そこにはユアさんのいとこのヨルさんがいた。
「ーーやあ、昨日ぶりだね?
またここで何をしているの?ヒマリちゃん」
ヨルさんは初めて会った印象と変わらず、女の子慣れしていそうだなと思った。
「波音を聞いて癒されていました」
「そうなんだ、実は俺もそれをしにここに来るんだ。ここは誰にも邪魔されずに1人になれて、ゆっくり出来るから俺も好きだよ」
この人のことをまだあまり分かっていなかったが、1人の時間が好きなのは共通点だなと思った。
「昨日の彼はどうしたの?
イブキくんだっけ?恋人?」
「違います!友達です!」
「そうなの?
ーーなら、ちょうどいいかも」
彼は不敵な笑みを浮かべた。
「君に頼みたいことがあるんだけど、ちょっと聞いてくれる?」
怪しい顔でそう聞いてくる彼に不信感を抱きながらも、耳を傾ける。
「僕の婚約者になって欲しい」
「はい!?」
「たった3ヶ月だけでいいから、僕の婚約者になって欲しい」
「何故、私が!?」
「それは君が適しているからだ」
「どの辺がですか!?」
「ーー君、人間だよね?」
「......違います」
「そっか、俺は君が人間だってことをみんなに話すことだって出来るよ」
「どうやってですか?」
「君の血を調べれば簡単さ!」
確かに、調べられたらバレてしまう。流石のおじさんもそこまで手出しは出来ないだろうし、彼に私のことを調べれられたら、私は退学になってしまう。それはまずい。
「.....それで3ヶ月の間だけ婚約者になるというのは一体何をすればいいんですか?」
「俺の父さんを安心させてくれればいいんだ。
俺が地下ドルやってるって昨日話したけど、実は両親は知らないんだ。
だから、どこでほっつき歩いているかとか俺の将来が心配みたいで、今婚約者探しをさせられていたわけ。そこで、ユアから君のことをちょっと聞いて、気になってここに来てみたわけさ!
今日も無事に会えてよかったよ。
ーーそれで君にやって欲しいことは、3つ。
まず1つは、表面上は婚約者らしいことをやって欲しい。具体的に言うと、登下校は出来る限り一緒だとか、月1でデートをするとかなら疑われなさそうと考えている。
2つ目は、俺の家族と1回だけ会って食事をして欲しい。婚約者候補を見つけたと話をしてしまっているので、来週までに君には俺の家族と食事をしてもらう。
最後3つ目は、俺のことを好きにならないこと。
たぶん、3ヶ月しかないから本気になることはお互い無いとは思うけど、好きになってもしんどいと思うから、本気にならないでね!
ーー以上の3つを守って欲しい。守ってくれたら、君の好きなことやものを叶えるよ」
簡単なことみたいなテンションで説明した彼だが、私からしたら2つはかなりハードル高めで正直これを受け入れたくないが、人間だということがバレるのも良くないので従う他ない。
「分かりました。この条件お受けします」
「ありがとう!じゃあ、早速ツーショット写真撮ろう?」
彼は、私の隣に来て、自分が盛れる角度で写真を撮った。
彼は写真を撮るのが上手なのか、とてもよく撮れていた。
アイドルだから、カメラ映りも抜群に良くかっこいい。
「ありがとう!
ーーこれから3ヶ月よろしく」
そう言って彼は右手を私の前に差し出した。
私も右手を出すと、彼は私の手を握り、手の甲に唇を落とした。
「え」
「婚約者になるんだから、これぐらいで動揺されちゃ困るな〜」
いたずらっ子のように笑う彼を見て、そんな風に笑うんだと意外に思った。
「あと、呼び方決めようか!俺はヒマちゃんって呼ぶよ」
「ヒマちゃん!?」
「嫌だ?普通に呼ぶと特別っぽく聞こえないからさ?」
「別に嫌ではないけど」
「それじゃあ、決まり!俺のことはヨルくんで良いよ?」
「私はそのまんま呼ぶ感じでいいの?」
「いいよ!俺、ヒマちゃんより1つ上だから、あんまり馴れ馴れしく呼ぶのは周りの印象がね?」
「え、1歳上なの!?」
「うん」
「何で早く教えてくれなかったの、ですか?」
彼は不服そうな表情を浮かべる。
「そうそう、それ。俺、変に丁寧に話されるの苦手なんだよね。
だから、仲良くなりたい人とかにはタメ口で話して貰えるように、あえて言わないんだ」
「なるほど」
まあ彼の言い分も分かるので、これ以上は何も言わないことにした。
「とりあえず呼び方も決まったことだし、最後に連絡先交換しようか?」
彼はQRコードを出してくれたので、私が読み取り、交換も完了した。
「連絡も出来れば、1日何回かやり取りしようか?」
「そうだね、変に話してないのも怪しいもんね」
「そうそう!
何でもいいから気軽に連絡してね」
「わかった!」
「良い子だ」
ヨルくんは紅い瞳でまっすぐ私を見ながら、私の頭をペット愛でるように優しく撫でた。
「顔赤いよ?照れてるの?」
再び意地悪な笑みでこちらを見る彼に少し悔しいと思う。
「ヨルくんは意地悪だね」
「そう?優しくしているつもりなんだけどな〜」
さっきの行動は優しくしてくれているのは分かるが、まだそんなに仲良くなっていないのに、そんなことするなんて早いと思う。
「とりあえず、俺はこの3ヶ月間は君の婚約者だから、たくさん優しくするから慣れてね?」
怖いことを言う彼に何にも言えず、小さく頷く。
「それじゃあ、俺はそろそろ帰るね?あ、そういえば、君も今日で帰るんだよね?
ーーそれなら、俺と一緒に帰る?」
何で流れるようにそんな言葉が出てくるんだろう。アイドルだからなのか。
「いいえ、結構です」
「僕の婚約者様は手厳しいな!
まあ、今日のところはここまでにしておくよ!
じゃあ、またね」
彼は別荘の方に颯爽と歩いて帰っていった。
やっと、心が落ち着けた。
でも、普通に考えてまずい展開である。
婚約者になることを受け入れてしまったが、ヨルくんって確か、ユアさんのいとこだから、ユアさんのいとこってことは良いとこの坊ちゃんの可能性大である。
そもそも婚約者候補なんてたくさん居ただろうに何故私を選んだのか謎であるし、もしパーティーなんて参加することになったら、またマナーとか色々叩きこまないとだし、むしろこれから凄く大変な予感しかない。
目の前の波はいつの間にか荒波に変わっていて、私の心と連動しているように見えた。
とりあえず、帰る準備をしようと自室に戻った。その後はみんなでお昼ご飯を食べて、私は予定通り帰ることにした。
もちろん、ユアさんに引き止められたが、今はヨルくんのことで頭がいっぱいで1人になりたかったので申し訳ないが、帰る選択を取った。
みんなは車の前まで見送ってくれた。
「お気を付けて、帰ってくださいね?」
「はい!ありがとうございます!また学校で会いましょう!」
「もちろんですわ!」
彼女やみんなに手を振り、車に乗り込んだ。
あっという間に夏休みが溶けるように終わり、いよいよ2学期が始まる。




