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第52話 ボートと海と昔話


ビーチにたどり着くと、遠目からでも4人のキラキラオーラが発生していたが、近くで見るとより輝いて見えて、太陽ぐらい眩しかった。

いつの間にか太陽も昇っていて、夏らしい景色と気温になっていた。

みんな私たちに気が付いたのか、こちらを見て待ってくれている。

私はその目線に慌てて早歩きしようと思ったが、隣にいるユアさんはゆっくりと堂々としているので、私も彼女の真似をして歩いた。


「お待たせしましたわ」


「2人とも待っていたよ」


チアキくんは乙女ゲームの爽やか王子様みたいなことを言ってきた。

みんな上半身は体が引き締まっていて、ヒナタくん以外は腹筋がしっかりと割れていて、凄いなと感心する。


「みんな揃ったということで、まずは水上スポーツで遊ぼうか!ユアの執事さんが小型船を操縦してくれるみたいだ。あのボートに乗り込もう」


彼が指を差した方向を見ると、船乗り場にオレンジ色の円型のボートが浮かんでいた。その隣にはバナナボートと思わしき物が置いてあった。


「まずは男子陣から乗ろうか」


そう言って、5人は簡単にボートに乗った。


チアキくんは不安定であるはずのボートの上に立ち、ユアさんに手を差し出してエスコートしていた。


「どうぞ」


「あら、ありがとう」


そのやりとりを見て、ユアさんのことが羨ましいと思いつつ、お姫様みたいだと思った。

ユアさんが座ったの見てから乗ろうとしたら、イブキくんとシュウヤくんの手が差し出された。


「危ないから」


「そそっかしいからな」


2人は各々違う言葉だが、私のことを心配して手を差し出してくれているので、2人の手を借りて無事ボートに乗り込めた。

ボートに何故か取っ手のような掴む場所がボートの壁側に付いており、そこをとりあえず握ってスタンバイする。

先程の出来事が現実味がなかったなと思っていたら、船から執事さんが出てきた。


「このボートは徐々にスピードを出して、急カーブしたり回ったりするので、お気を付け下さい」


簡潔に説明を言って、執事さんは船にまた戻ってしまった。

彼の言葉に緊張しながらも、船は動き始めた。


最初はゆっくりとボートも動き始めたが、だんだんスピードに乗っていき、水しぶきを上げながら進む。みんなも色々な歓声や悲鳴を上げる。私はやばいしか言っていない。

船が右を向くと、遠心力で大きく揺れる。

遠心力が凄すぎて、思わず取っ手を離してしまいそうになるが、踏ん張る。

すると、左隣に座っていたイブキくんが私の手を被せて取っ手を握っていた。

私が困っていたことに気が付いてくれたのだ。

私よりも一回り大きい手が重なり、水しぶきが凄くて冷たいのに、重なり合う手だけは熱く感じた。


船が徐々にスピードを落とすと、先程の船乗り場に戻ってきたようだ。

最初は面白かったが、途中は生命の危機を感じて怖かった。

イブキくんが居てくれたから何とかここに戻って来れたけど。

このボートから降り終わると、隣にはバナナボートに視線は集まった。


「隣にバナナボートもあるけど、乗る人いる?」


チアキくんはみんなに尋ねた。


「僕乗りたい〜!!」


ヒナタくんは元気よく挙手した。

次にユアさんも挙手していた。チアキくんは少し顔を引きつらせながらも、「俺も乗るよ」と言って、乗ることが決まった。

搭乗人数が4人までなので、あと1人乗れるようだ。私が乗ろうかと挙手しようと思ったら、タクトくんが乗るようで、バナナボートに座っていた。


居残り組の私とイブキくんとシュウヤくんはみんなのことを見送る。

どんどんスピードが出て、遠くなっていくボートを何となく見つめる。


「そういえば、何でヒマリは今回は乗らなかったんだ?」


シュウヤくんは純粋な疑問を投げかける。

確かに普段の私ならユアさんの次に手を挙げるところだが、もしさっき手が離れて水に落ちてしまったらと想像してしまい、怖くなってしまったとはなんだかかっこ悪くて言えない。


「今日は乗りたい気分じゃなかったかな!」


「そうか。実の所、俺もあれには乗りたくないと思っていたから、ヒマリが挙手しなくてホッとしていたんだ。さっきのも結構怖かったしな」


笑ってそのように言葉をこぼしたシュウヤくんに意外だなと思いつつも、表情ではそんな風に見えなかったので、気付けなかった。


「オレも。さっきのは怖かったな。遠心力凄かったし、みんなよく楽しそうに乗れるなって感心してた」


イブキくんはぼそっと話した。


「2人ともそんな風に見えなかったよ!

まだまだ遊ぶだろうから、ここで一旦休憩だね!」


2人とも頷いて、遠くで荒波を立てながら移動するボートを眺める。


数分後、ボートはこちらに戻ってきた。

ユアさんとヒナタくんは楽しかったと言いながら、軽快にボートから降りたが、チアキくんは死にそうなぐらい青白い顔をしており、タクトくんも少々動きが怪しく、少し休憩したいと言った。


「一旦、お昼休憩しようか」


チアキくんは提案し、私を含めたみんなは賛同の頷きをした。

大きなテントの下には、テーブルの上にお水とサラダやサンドイッチがセッティングされていた。いつの間にやったんだろうと疑問に思いながらも席に着く。


手を洗いたいと思ったら、テーブルの上に各自のフィンガーボールが置いてあり、指先をすすぐ。


そしていただきますをして、まず水を飲む。氷も入っていて、キンキンに冷えていて美味い。

そして、上に大きなエビが乗ったサラダをいただく。とても美味である。さっぱりめのドレッシングなので、暑くてもスルスルと口の中に入っていく。

テーブルの真ん中には大皿があり、サンドイッチが山のように盛り付けされていた。こちらはカツサンドやたまごサンド、サラダサンドなど6種類ほど置いてあり、好きなものが選べる仕様であった。

私は真ん中の席で取りやすかったので、とりあえずみんなの様子を見ながら、少量ずつ手に取った。


美味しかった昼食も終わり、お腹いっぱいになったが、流れで海に入ることになった。

入ると言っても、足先だけつける感じで遊ぶ訳ではない。

みんなで波に近づき、足先が濡れそうなところで止まった。ヒナタくんは波が引いている内に結構前に進んでいた。みんなはそれよりちょっと後ろで波が来るのを待ち、波はやってきた。思ったよりも引く力が強くて、私は足が持っていかれて、腰を付く。頭と顔以外はびちょ濡れになった。

みんなは大丈夫?と心配して駆け寄ってくれようとするが、その間にも波はこちらにやってきて私は立ち上がる前にまた襲われる。今度は全身が濡れた。


「やばい!めっちゃ濡れた!!」


そう言って私はなんだかおかしくなって笑う。みんなも心配してくれていたが、私の笑いにつられて笑いだした。


「僕も濡れるぞ!!」


ヒナタくんは大きな声で宣言して、先程よりも前に出て自ら波を浴びに行っていた。

みんなも前に出て、波と戯れる。

私もそれに便乗する。

その後も水の掛け合いをしたりして、みんなは水も滴る良い美男美女となっていた。


男子陣は前髪が濡れて髪の毛を上げて、いつもよりも男の子っぽさが出ていて、またカッコよく見えて、ユアさんは水に濡れても綺麗なままだ。


遊び疲れたので、近くのパラソルの下に置いてある椅子に腰をかける。

遠くでまだ水で遊ぶみんなを見て、なんだか私はここにいなくてもいいのでは?と思ってきてしまう。あまりにも場違いすぎる自分に少し嫌気がさす。

すると、いつの間にか隣にいた執事さんに声をかけられた。


「ヒマリ様、お飲み物は入りますか?」


「はい!お水をお願いします」


すると、すぐにグラスに入ったらお水をくれた。

お礼を言って受け取り、1口飲む。

この()が気まずいと思い何か話さないという気持ちが生まれた。


「執事さんはユアさんのことどれぐらい前から知っているんですか?」


(わたくし)はお嬢様が小さい頃からお使いしているので、何でもとまでは言いませんが、お嬢様のことで知っていることは他の者よりも多いと思います」


ベテラン執事さんのようだ。執事長とかのレベルなのかなと推測する。


「ユアさんって小さい頃はどんな子だったんですか?」


「お嬢様は今も昔も変わらず、行動力のある人でした。昔の方がもっと凄かったので、今は昔よりもかなり落ち着いてきて、私は安心しております」


昔からユアさんは天真爛漫だったのだなと執事さんの言葉を聞いて知ることができた。


「お嬢様は昔から大人しそうな見た目をしていたので、新しく入ってきた者はお嬢様のギャップによく驚いていた印象があります。例えば、お嬢様がいきなり海に行きたいとおしゃっれば直ちにこの別荘に行けるように手配をしたり、不思議なものを探しに行きたいと言われたら、私たちがみんなで協力して調べて提案し、そこに言ったり、お嬢様は1度やりたいと思ったことは実行しないと気が済まないお方だったので大変でした」


大変だったと言っているが、楽しそうに思い出している執事さんを見て、ユアさんは愛されていたのだなと実感する。

すると、ユアさんもこちらにやってきた。


「2人で何を話していたの?」


「ユアさんのことですよ!」


「ワタクシのこと!?それはどんなことですの!?」


「それは秘密です!ね!執事さん?」


「はい、ヒマリ様がそうおっしゃったら、(わたくし)からも何も言えません」


執事さんは流れを読み取れるタイプみたいだ。


「何を話していたか気になりますが、今回は手を引きましょう!

そろそろビーチバレーをしないかという話になっていて、チーム分けをするためにヒマリさんを呼びに来ましたの!

ーーさあ、行きましょう!」


私は頷き、彼女に手を引かれながら太陽が降り注ぐ砂浜に戻った。


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