第49話 2人きりの勉強会
談話スペースでシュウヤくんに勉強を教えてもらうことになったが、隣の席に座るシュウヤくんがなんだか新鮮で少し集中ができない。
だけど、彼の教え方が分かりやすく理解しやすい。家庭教師とかも出来そうだなと思った。
90分ほど勉強して私が疲れてしまったので、ここで勉強会は終了となった。
「勉強教えてくれてありがとう!!」
「俺も復習ができてよかった」
彼は満足そうに笑った。
「シュウヤくんの教え方はホントに分かりやすくて、将来は先生とかにもなれそう!」
「そうか?」
「うん!!それぐらい理解できた!
また分からないことが聞いてもいいかな?」
「もちろんだ」
「私はテキストを戻してから、部屋に戻るね」
テーブルの上にある教科書を閉じ、椅子から立ち上がろうとすると、彼に左手を握られた。
「待ってくれ」
振り向くと、彼は寂しそうな顔でこちらを見ていた。
「まだ何か用でも?」
「夏休みの最初の方で遊びに行ったことを覚えているか?」
これってもしや、告白の返事が聞きたいとか言われるやつなのでは。
まだ返事するつもりはなかったから、非常にまずい。
とりあえず、話題をそっちにもっていかれないように話を逸らす方法を取る。
「覚えてるよ!楽しかったよね」
「ああ、とても楽しかった。だから、今の時間も2人だけで勉強できてとても嬉しかったし、俺はもっとヒマリといたいと思っている」
今度は真剣な顔で私を見て話した。イケメンにこんなセリフを言われたら、思わずニヤついてしまうが、我慢しないとならない。表情筋を制御しないと気持ち悪い顔を晒してしまう。
「そう言ってもらえて嬉しい。
でも、シュウヤくんのことをまだ恋愛的な意味で好きになれていないかな」
思わず、正直なことを口に出していた。彼の誠意にはしっかりと向き合い、答えないといけないと思った。ずっと思わせぶりなままなのもよくないと思い伝えてしまった。
彼は寂しそうに笑う。
「そうか。でも、俺のことをまだ好きになる可能性はあるということだよな?」
「そうだね?
私は誰のことも好きになっていないから」
すると突然足音が聞こえて、やってきたのはイブキくんだった。
「ヒマリはまだ誰のことも好きになっていないの?」
まずい。聞かれてはいけない人物の耳に入ってしまった。ここは正直にイブキくんにも伝える良い機会だと思い、自分の今の気持ちを話してみようと試みる。
「2人のことを考えてみたんだけど、いまだに分からなくて、それは私の恋愛経験がないからと思ってる。
このままだと2人を振り回してしたままなのは、良くないと思ったの。
こんな私のことを好きでいてくれるのは嬉しいけど、2人の迷惑になっているよね?」
「そんなわけない!」 「そんなわけないだろ」
2人はほぼ同時に同じことを言った。
「俺はヒマリのことを好きになれて楽しいから、むしろ感謝している。
ーーだから、好きでいてもいいか?」
シュウヤくんは柔らかい声で話した。
最後の一言に私の乙女心のキャパシティはオーバーする。
「俺だって、ヒマリと出会ったからここにいるんだ。ヒマリがいなかったら、シュウヤとも仲直り出来ていなかったかもしれないし、ずっと1人ぼっちのままだったかもしれない。だから、僕もヒマリには感謝をしているよ。
ーー僕も好きでいてもいいよね?」
「......とりあえず、部屋に戻らない?」
2人の告白に答えられず、何とか口に出した言葉はこれの自分に情けなさを感じる。
「そうだな」
すると、隣の席に座っていたシュウヤくんが私の左手の甲にキスを落とす。
「え?」
それを見たイブキくんも私の方に近づいて右手の甲にキスをした。
「俺たちも戻るよ」
そう言って、2人とも何事もなかったかのようにこの場から去ってしまった。
私はさっきの状況が理解出来なくて、少しフリーズする。
そして、教科書を書庫に戻さないといけないことを思い出して、やっと動き出す。
書庫に教科書を戻し、自分部屋に足音をあまり立てないよう忍び足で急いで戻る。
さっきのことを思い出しても、やっぱり2人はまだ私のことが好きみたいだ。
私も好きって気持ちをちゃんと理解したい。
だから、残り2日間で2人との各々話す時間を取らないと。向き合うんだ。しっかりと、彼らを見る。
目標を立てて、シャワーを浴びて、眠りにつく準備をする。
クローゼットにはパジャマが入っているが、ローズピンク色のパジャマで生地はシルクっぽくて着心地が良さそうで、同じ色と生地の半ズボンがハンガーにかけてある。
一応、学校のジャージをパジャマ代わりにしようと考えていたが、別荘の世界観とあまりに合わなすぎて、こちらのものを借りることにした。普段ピンクなんて着ないので、鏡で着ている自分を見るのは不思議だが、ユアさんが着ていることを想像すると、可愛いなと思う。すぐに妄想をする癖をやめたいなと毎度思うが癖なので難しい。
何も考えないように、大きなベッドに飛び込む。弾力のあるマットレスとふわふわの毛布が私を包んでくれる。
寝心地が良さそうだ。壁にかかっている時計を見ると23時15分。まだ寝るには時間は少し早いが、もうこのまま体を預けて眠ろうと、目を閉じた。




