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第37話 シュウヤの気持ち


チアキくんのおかげでなんとか歴史の再試験をクリアし、今日の補習後はシュウヤくんとお昼ご飯を食べに行く約束をしていた。

チアキくんは用事があるからと言って、すぐに教室を出て行ってしまった。

帰りの準備をし、教室を出ようと思う。


「そろそろ終わる頃かと思って来てみたが、ちょうどよかったな」


声のする方を振り向くと、シュウヤくんが自分の椅子に座っていた。彼は席を立ち、私の方に近づき、隣の席に来た。


「いつの間に教室に来てたの!?」


「まだ来たばっかりだ。ヒマリが回答用紙を見て喜んでいたところしか見てない」


それを見ているということは5分ぐらい前から教室にいたようだ。


「全然気付かなかったよ」


「気付かれないようにゆっくり入ったからな」


普段こんなことをするようなイメージがないので、意外な行動に可愛いなと思う。


「そろそろお昼ご飯食べに行くか」


「もちろん!

頭を使って疲れたから、早く食べに行こう!!」


彼は頷く。私はカバンを持ち、彼と一緒に教室を出て行く。


学園を出て、学園通りを歩くと、普段よりも人通りが少ない。

生徒が帰省しているだけでこんなにも殺風景に感じるものなんだ。

そのせいか、今オープンしているお店も少ないように見える。

通りの様子を見ながら、シュウヤくんの後についていき、目的のレストランに到着する。

外観はシンプルなイタリアンレストランのようだ。

お店の中に入ると、茶色を基調としているようで木材のテーブルや椅子で温かみのある店内である。

店員さんに案内されて席に座る。お昼帯にも関わらず、店内にはお客さんがいない。まるで貸切のようだ。まあ本当にそんな訳ないだろう。


「お待ちしておりました。本日はオススメコースの準備をしております。


まずはドリンクをこのメニュー表の中からお選びください」


メニュー表を受け取り、目を通す。

イタリアンだからかまだ未成年だからお酒は飲めないが、ワインとかも書かれていてなんかオシャレだなと思う。

私はオレンジジュースを頼む。

シュウヤくんはトマトジュースを頼んだようだ。

店員さんはメニュー表を回収し、奥のキッチンへ戻って行った。


「すごく落ち着く雰囲気だね」


「そうだろう。俺も初めてこの店に来た時、とても良いなと思ったんだ。

ヒマリにも気に入ってもらえてよかった」


こういう純粋な言葉がとても刺さる。

すると、まずはシャンパングラスに入ったジュースが運ばれてきた。

シュウヤくんはグラスを持つ。私もとりあえずグラスを持つ。


「乾杯するか?」


「うん」


「補習お疲れ様。乾杯」


「乾杯!」


オレンジジュースを一口飲む。酸味があって美味しい。これは私の好きな100%のオレンジジュースだ。ラッキーと思いながら、もう一口含む。


「ヒマリは夏休み中どう過ごすんだ?」


「8月1日に実家に帰ろうと思ってるよ!28日はユアさんの別荘に行くから、その前の日に一旦寮に戻って、チアキくんと一緒に行く予定だよ」


「何故一旦寮に戻るんだ?その日はまだ食堂も寮も閉鎖中のはずだが?」


まずい。チアキくんの家に泊まるなんて言えないから、寮に戻るという嘘をついたが、むしろ嘘付いてるとバレただけではないか。これが墓穴を掘るというやつだ。


「あー!忘れてた!!

それじゃあ、28日の朝に帰ってこなきゃ!」


「ヒマリはそういうとこ抜けてるよな」


そう言ってシュウヤくんは笑う。

よかった。こういう時、アホな人認定されていると、変なこと言っても何とか誤魔化せるのである。


「そういうシュウヤくんは何して過ごすの??」


「俺はユイトと一旦家に帰るが、両親がユイトを家に入れたくないと言うから、小さな別荘があるからそこに2人で泊まるならと許可を得て、そこで過ごす予定だ。

ヒナタとタクトも8月の中旬から来て過ごす予定だから、4人でそのままユアの別荘にも行く」


「そうなんだ!楽しそうだね!!まず、別荘を持ってるのすごすぎる!!」


「そうか?ヒナタの家もタクトの家も別荘は持っているぞ?

持っているのが、普通だと思っていた」


これが住んでいる世界の差ってやつか。

家庭による経済状況は違うというが、ここまでの上流階級の人とは出会ったことないので、私の友達に別荘持っている人いるんだとか自慢しちゃいそう。いや、私が持っている訳じゃないんだから、自慢にはならないか。

現実逃避しちゃうぐらい、この発言には破壊力がある。


「……そっか!私の周りだと別荘がある家柄の子が全然いなかったから、びっくりしちゃった!


4人で過ごせるなら、楽しい夏休みになりそうだね!」


「ああ、ヒマリもタイミングが合えば遊びに来てもいいぞ?」


「うーん、ユアさんもいれば行きたいけど、今回は遠慮しておきます!」


「冗談だ」


イタズラをする子供みたいに笑う。初めて見る表情に驚くが、いつものテンションで話す。


「え!?冗談か〜!!

シュウヤくんも冗談を言うんだね」


「言わないと思ってたのか?」


「うん!正直意外だけど、いいと思うよ!」


「意外に見えるか……」


彼は少し考え込む。

言い過ぎたかもしれないと私も反省する。

すると、タイミングよく前菜の生ハムがのったサラダが届く。

早速口に運ぶ。野菜が新鮮で美味しい。生ハムも美味しい。


「美味しい!」


「口に合ってよかった。

ここは前菜から美味しいんだ。この後も楽しみにしててくれ」


前菜が食べ終わるとメインのミートソーススパゲッティが届いた。

フォークでパスタ巻いて口に運ぶ。パスタにソースがよく絡んでおり、こちらも美味である。


「このスパゲッティもめっちゃ美味しいね!」


「そうだな」


彼は嬉しそうに相槌を打つ。

あっという間に、スパゲッティも食べ終わり、今日の私のメインであったティラミスが届く。


真っ白なお皿の上に正方形のケーキが乗っている。スプーンですくうと、クリームとスポンジの層が見える。ワクワクしながら口に運ぶ。

言わずもがな、美味い。

これはコーヒーから美味いやつだ。クリームとコーヒーのスポンジの相性が抜群すぎる。

味わって食べたいやつだ。


「どうだ?」


シュウヤくんは私がティラミスを無言で味わっているから、感想が知りたいからか少し不安そうに聞いている。


「これは本当に美味いよ。美味しい以外の言葉が見つからないぐらい本当に美味すぎる」


「俺もヒマリと同じ感想だ。こんなに美味しいティラミスはなかなか無いと思う」


「ホントにそれな!!


これはね、マジで美味い。このレストランのシェフを呼んでお礼を言いたいぐらいだよ」


「わかった」


2人ともティラミスが食べ終わった後、シュウヤくんはテーブルに置いてあった呼び出しのベルを鳴らした。

彼には先ほどの例えが伝わらなかったようだ。

すぐに店員さんがやってきた。


「このティラミスを作った者を呼んで欲しい」


「かしこまりました」


店員さんはそそくさとキッチンに行き、ティラミスを作ってくれた方を呼んでくれてしまう。

こんなことになるなんて思わず、油断していた。私はどうしたらいいかと困惑する。


「このティラミスの考案と制作をした、シューマルと申します。


シュウヤ様が私を呼びましたか?」


「いいや、そこの彼女だ」


私が指名される。

シェフはシュウヤくんから私に視線を移す。もちろんこちらを不思議そうに見つめる。

自分の発言のせいでこんなことになったので、自分で方を付ける。


「ーーあの、このティラミスとても美味しかったです!それをお伝えしたくてお呼びしました」


そう正直に話すと、シェフは嬉しそうに口角を上げる。


「それはご丁寧に、ありがとうございます。

こんな風に感想を言っていただけるのは珍しいことなので、とても嬉しいです」


「俺からもこんなに美味しいものをありがとうございます。また彼女や両親と食べに来たいと思います」


「それはまた嬉しい言葉をありがとうございます。

次回お越しになった際もこうしてお声がけして下さると嬉しいです。

それでは、失礼します」


シェフはキッチンに戻っていった。

今回は喜んでもらえてよかったし、私も感想を言えてよかったが、やはり、シュウヤくんの前ではネタを言わないように気をつけないといけない。


「ヒマリに感謝しないとな」


「え!?急になんで?」


「ヒマリがシェフを呼ぼうと言ってくれなかったら、この機会を逃していたところだった。

両親や友人とレストランに食べに行ったとき、気に入った料理があったら、こうしようと思う。新しい発見をくれてありがとう」


「ううん!こちらこそ!私も初めてこんなことをしたから、どうなるかと思ったけど、やってみて良かったなって思ったから、ありがとう!」


お昼ご飯を食べ終えて、散歩がてら近くの公園を2人で歩く。


「シュウヤくん、さっきは美味しいお昼ご飯をありがとう!そして、奢ってくれてありがとう!」


「俺が誘ったから、奢るのは当然だ」


「ううん!当然ではないと思うけど、次は私がオススメのお店を見つけた時に奢らせて!」


「わかった。楽しみにしている」


「話変わるんだけど、そういえば、シュウヤくんって何でこの学園に入ってきたの?」


「話が変わりすぎだ」


彼は私の突発的な発言に驚きながらも、顔は笑っている。


「そうだね、ごめん!この質問はなしで」


「ーーいや、ちょうどそこにベンチがあるから、そこで話そう」


彼は近くのベンチを見つけて、指をさす。そのベンチに横並びに座る。


「俺がイシュタリアン・スクールに入学した理由は分かると思うが、ユアの影響が大きい。


昔からユアと一緒にいて、ユアは好奇心旺盛だったからか、色々なことを知りたがる子供だった。俺もユアと一緒に調べたりして、ヴァンパイア族はかつて人間を生贄にしていたことを知って、そこから人間について調べるようになってから、ユアと共に人間のことが好きになっていったんだ。

今でもヴァンパイア族の中では人間に対して奴隷だと認識を持った者もいるが、俺たちは人間に対して友好的に接したいと考えていた。

そこでこの学園だ。ここに通えば、人間について学べたり、校外学習などで人間界にも行ける機会もあるのはこの世界にいたら滅多にないことだから、倍率がとても高くて流石の俺も少し心配になるレベルだったが、この学園に通えてよかった」


やっぱり、人間オタクであるユアさんの影響がデカいのはなんとなく知っていた。

でも、シュウヤくんも人間が好きなことを知れてよかった。

ーー待ってくれよ?

シュウヤくんが心配になるぐらいの倍率の高さということは、優秀な生徒ばかりが入っているということなのか。あっちの世界で言う、日本一頭がいい大学に入るぐらい難しいのだろうか。赤点を取った生徒が私しかいないと言っていたが、そういうことなのか。


「ヒマリどうした?」


「ううん!何でもない!教えてくれてありがとう!」


「ああ。そういうヒマリはなんでこの学園を選んだんだ?」


「私!?」


やばい。考えていなかった。

とりあえず、おばあちゃんが人間という設定にしているから、知りたかったぐらいでいいよな。


「ご存じのとおり、私の祖母が人間だからっていうのが大きいかな。昔から人間についてよく聞かされていたから、人間について学べる学校ってなったらここしかないから、ここを選んだんだ!」


シュウヤくんは優しく頷きながら、話を聞いてくれた。


「そうだよな。俺もヒマリと同じ立場だったら、ここに来ると思う。話してくれてありがとう」


「いえいえ!みんなが何で入ってきたのか聞きたいな!」


「ユアに聞いてみたらたっぷり教えてくれると思うから、2人の時に聞いてみて欲しい」


これはみんなの時には聞かないで欲しいと遠回しに言ってるように聞こえる。

別荘に行った時に聞いてみよう。


「わかった!そろそろ寮に帰る?」


「いや、まだ話したいことがある」


急に真面目な顔をして引き止める。


「どうしたの?」


「俺はヒマリのことが気になっている」


「それはどういう意味で?」


意地悪な質問をしているのはわかっている。でも聞きたい。


「友達とは違う、恋愛的な意味で気になっている」


「それって……」


「そうだ。俺はヒマリのことが好きだ」


「え!?」


「驚くよな」


「ーー待って、私のことが好きなの!?」


「ああ。改めて2人でご飯を食べて気が付いた」


「なるほど。告白されたのは人生で初めてでどうすればいいかわからない。

まさか告白されるとは思ってもなかった。」


「すまない、ヒマリを戸惑わせたかったわけじゃないんだ。


ーーただ、まだ一緒にいたかっただけなんだ」


そんなイケメンセリフを言われてときめかないわけないじゃん。

ここで告白の返事をしないとシュウヤくんに失礼になっちゃうよな。


「まだ返事はいらない。ここで告白する気は本当はなかったんだ。

でも、少しでも俺のことを意識して考えて欲しいと思って、話した。

だから、返事はもう少し後で欲しい」


むしろそれはそれで申し訳ないし、私はシュウヤくんを見る度に告白されたことを思い出するのは心臓に悪いな。

でもここですぐに断ってしまうのは悪いと思うので、ここは彼の言うとおりにしておこう。


「わかった。シュウヤくんのお言葉に甘えて、ゆっくり考えさせてもらうね」


「ああ。そうして欲しい」


「……」


さっきまでシュウヤくんをどうやって見ていたかもう忘れてしまった。シュウヤくんは私のことが恋愛的な意味で好き。好き。好き?

もうわからない。


「帰るか」


「うん」


彼の横に並んで歩くが、帰り道はほとんどシュウヤくんの顔を見ることは出来なかった。

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