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第36話 補習


今日から補習が始まる。


補習は9時からなのでいつもよりゆっくりと朝の支度ができる。

食堂に向かうと、貼り紙がある。


女子寮食堂休止期間 8月1日〜31日


今週末までのようだ。気をつけないと。

朝ごはんを食べに食堂に向かうと、いつもより静かだ。

食べに来てる人はあまりいなさそうだ。

昨日までで実家に戻っている生徒がほとんどのため、食堂を開けていてもという感じなのだろう。


注文をして、いつものおにぎりとサラダを受け取り、カウンター席につき、食べる。

静かだからか、普段よりもゆっくりと時間が流れている感覚になる。


まったりとご飯を食べ終わり、部屋に戻り支度をする。

時計を見ると、8時30分。

まだ時間に余裕はあるが、早めに教室に行っておこうと部屋を出る。


寮を出て、少し歩くと中庭がある。

すると、見覚えのある人を見つける。

中庭のベンチで、イブキくんは私服で読書をしている。

誰か待っているのか、それとも気分転換なのかわからないが、とりあえず挨拶する。


「おはよう!」


イブキくんは本から私に視線を動かす。


「おはよう」


「まだ帰ってなかったんだね?」


「うん。寮が閉まる間はシュウヤの家に泊まらせてもらおうと思っているけど、シュウヤもまだ帰らないみたいだから」


シュウヤくんが帰らない理由は私である。

補習終わりに、ご飯食べに行こうとか言ってしまったから、2人とも帰れないんだ。

まず、2人で帰るなら早く教えて欲しかった。


「そうなんだね。私も補習があって、今週末に帰るから、一緒だよ」


「ヒマリがいてよかったよ。補習頑張ってね」


「うん!ありがと!じゃあ、またね!」


8時50分なので、急いで教室に向かう。

教室に入り自分の席に着いて、先生が来るのを待つ。

9時になり、扉が開くと、何故かチアキくんがこの教室に入ってきて、驚く。


「おはよう、ヒマリ」


「おはよう、チアキくん?」


「とりあえず、席が遠いから一番前の席まで来てくれるかな?」


そう言われて、私はカバンを持ち、移動する。


「ありがとう。


本当はリュウ先生が補習を担当する予定だったんだけど、父さんいや校長から今年の補習者はヒマリ1人だけだから、せっかくなら今後色々な人を教え、導く存在になるのだからと、僕を推薦にしたみたい。リュウ先生もその提案に納得してくれたみたいで、僕が今週の補習を担当することになりました。


ーーこれから、1週間よろしくね!」


なるほど。おじさんが言うことも一理ある。リュウ先生と1週間過ごすより、チアキくんの方がはるかにマシである。


「こちらこそよろしくお願いします!」


「さて、ヒマリは歴史で赤点を取ったようだけど、具体的にはどの辺がわからなかったのかな?」


「わからなかったというか、単に暗記し忘れただけというか……」


「なるほど。


ヒマリはまだここに来て日も浅いから、わからないのはしょうがないけど、今回の歴史のテストは結構みんなが知っていて当然みたいな、常識の範囲の部分も答えられていないから、歴史で赤点を取ってしまう生徒がヒマリだけしかいなかったのも頷ける」



なんだと……。

私は一般常識すらない、おバカな人認定されてるということか。

ものすごく恥ずかしいやつじゃないか。

しかも、私以外に歴史で赤点取った人いないのもものすごくショックだ。


「そう落ち込まないで!


ただ知らなかっただけなんだから、今から覚えられれば大丈夫だよ!」


チアキくんは優しい言葉をかけてくれる。

とりあえず、やるしかいないと思い、タブレットで歴史のテキストを開く。

チアキくんには私の回答用紙と答案用紙を渡す。

チアキくんは私の回答用紙を頷きながら確認をし、見終わると口を開いた。


「それでは問題です。

アンデッド達がそれぞれの街や村などの土地の行き来ができるようになったのは何年でしょうか?」


確か、割と最近だったような気がする。


「1980年?」


「惜しい!1975年だよ」


そうだ。まだそんなに経ってはいなかった。


「1975年に、ウィザードがこの国に住む4種族を統合するように宣言したんだ。

ウィザードたちが魔法で管理すれば、昔みたいな不毛な争いが無くなると考えて、今もそれが続いている。

実際、統合されたからは争いは格段に減ったそうで、この学園も最初はウィザードとヴァンパイア族しか通えなかったけれど、今ではゾンビ族、マミー族、獣族も優秀なら通えるようになったと言われている。


ーー次の問題、この学園の創業された年は何年でしょうか?」


「今度こそ、1980年?」


「また惜しい、正解は1985年。


最初の10年はさっきも話したけれど、うちの学園も2種族のみの生徒だけ募集していたんだけど、宣言が出されてからの20年で争いや犯罪が90%も減少して、1995年から他種族たちとも交流が出来るようになったことにより、4種族が入学出来るようになったんだ」


昔の方が種族間の区別がしっかりとされていたのだなと感じる。たしか、アメリカで黒人と白人の差別が酷くて、それを訴えて有名になった人物もいる。異世界でもそういうことが起こっているのはなんだか悲しいなと思う。


「なるほど」


「それでは1995年以降、我が校で4種族の受け入れが始まり、校長である我が父は何代目の校長でしょうか?」


こんな問題あったかなと思い、テスト用紙に目を通すと、書いてある。もちろん私の答えも間違えている。適当に答えるしかない。


「5代目?」


「違います!3代目校長だよ!

ちなみにこの学園の校長はヴィザード以外にもヴァンパイアも校長になれるみたい。二代目校長がヴァンパイア族だったらしく、今後も優秀な人なら種族問わずなれるような社会になるといいよね」


「そうだね」


「ヒマリはあまり授業を聞いていない感じだね?」


まずい。そもそも歴史にあまり興味がなくて、頭に入っていないことがバレてしまった。


「ごめんなさい。これからはちゃんと聞きます」


「うん。今度は赤点を取らないように気をつけようね?」


「はい」


その後もチアキくんは私がつまずいたところの問題を出しながら解説してくれて、楽しく勉強ができた。


「ーー今日はここまで。

わからないところは少しは理解できたかな?」


「チアキくんの教え方が上手いおかげで、理解できたよ!ありがとう!」


「それはよかった。また明日もよろしくね!」


ここで今日の補習は終了となる。

机の上にタブレットと答案用紙などを片付けながら、彼に質問をする。


「チアキくんはまだ寮にいるの?」


「うん、そうだよ」


「それじゃあ、8月1日に実家に戻るんだね?」


「そうそう。父さんもその日に帰るから一緒に帰宅する予定だよ。

あと、ユアの別荘にも1週間滞在する予定だから、たぶんヒマリたちとも日付が被っていたかな」


「え!?チアキくんも28〜30日いるの?」


「うん。ユアにせっかくなら来て欲しいってお願いされて。そもそも1週間は一緒に過ごす予定ではいたから、みんなで過ごすのも良いなって思ってね!」


これはチアキくんとユアさんの仲をより一層深めるための何かを考えておく必要がある。

早めに教えてもらえて助かった。


「急に黙って、どうしたの?」


「ううん!何でもない!チアキくんも一緒なんてとっても楽しみだなって思ってただけだよ」


「俺も楽しみだよ。


ーーそういえば、ヒマリはお昼ご飯は1人で食べるの?」


「うん!そのつもりだけど?」


「それなら、男子寮の食堂で一緒に食べない?」


「え!?男子寮って入っていいの?」


「今ほとんどの生徒は帰省していて、男子寮にいるのは僕とシュウヤとユイトぐらいなんだ」


「いやでも」


「女子寮もほとんどいなかっただろう?


少しいたとしても今日までに帰るだろうし。校内の食堂はもう閉まっているから利用できないし、父さんも男子寮でご飯を食べることは許可してくれているから、来て大丈夫だよ」


おじさんからも許可を得ているなら、安心だ。


「わかった!じゃあ、補習の後はお昼ご飯一緒に食べていいんだね!」


「もちろん。それじゃあ、行こうか?」 


学校を出て、男子寮に着くと、一度も男子寮には行ったことがなかったので、入る時に少し緊張しつつ、食堂に入る。

チアキくんの言っていた通り、誰ともすれ違うことなく、ここまでやってこれた。

女子寮と中の構造は同じようだ。


「何食べる?」


「ラーメン!」


「いいね!僕もラーメンにしようかな!」


チアキくんが私の分も注文してくれて、各々ラーメンの乗ったトレーを受け取り、テーブル席に座る。


「いただきます」


ラーメンを一口すすり、これだよという思い頷く。


「本当にヒマリは美味しそうに食べるね」


「本当に美味しいんだもの」


またラーメンを口に入れる。


足音がこの静かな食堂に響く。誰か来ているようだ。

音のする方を見ると、シュウヤくんとイブキくんがこちらを見て驚いていた。


「何故ここに?」 「なんでここに?」


2人は同時に言った。


「それは、僕から話すよ。


まずは、2人ともご飯を持ってきてからにしようか?」


チアキくんに提案されて、2人は注文しに行き、ラーメンののったトレーを持ってきて、チアキくんの隣にシュウヤくん、私の隣にイブキくんが着席する。



「今男子寮には僕ら3人しかいないのは知っているよね?

今日、ヒマリは僕と補習を受けていて、お昼ご飯を1人で食べるって話していたから僕と一緒にご飯でもって誘ったんだ」


彼らは納得したように頷いていた。


「さっきちょうどヒマリのことを話していたから、いきなり現れて驚いた」


シュウヤくんはクールに話しているので、本当に驚いたのかと疑う。


「本当に?」


すると、隣に座っているイブキくんが口を開く。


「本当だよ」


「ちなみに私の何の話をしていたの?」


「……」


2人とも黙ってしまった。

まさか私の悪口でも言っていたのかと不安にぬる。


「ーーもしかして、私の悪口言ってた?」


「違う」 「そんなわけない」


2人とも同時に言う。


「よかった!2人とも黙るから不安になったよ。私には言えない話といったら、悪口ぐらいしか思い浮かばなかったからさ」


「俺たちがヒマリのことを悪く言うことは絶対にないから安心してくれ」


シュウヤくんは優しい言葉をかけてくれる。


「そうだよ。僕たちは絶対にヒマリを傷つけるようなことは言わないよ」


「2人ともありがとう!ラーメンがのびちゃう前に食べよ?」


2人ともラーメンに手をつけていなかったので、食べるように言うと、橋を持ち、麺を食べ始める。

私も引き続き、残りのラーメンを楽しむ。


「ごちそうさまでした」


お昼ご飯が食べ終わり、私はそろそろ女子寮に戻ろうと思い、帰ることを伝える。


「そうだね。部屋に戻ったら、今日の復習を忘れないで!また明日もよろしくね!」


「こちらこそ!明日もお願いします!


それじゃあ、私帰るね!お見送りは結構なので、3人はここで話していて!

ーーまたね!」


「また明日」 「ああ」 「うん」


私は食べ終わったどんぶりとトレーを戻し、男子寮を出る。

まだお昼に寮に戻るのは不思議な感覚で部屋にたどり着く。

そしてベッドに横になり、昼寝をする。

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