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第34話 夏休みの計画


ユアさんの幼なじみとの喧嘩の後は穏やかな日常が続き、あっという間に7月となり、夏休みになる前に大事な学期末テストがある。


勉強はそんなに得意な方ではないが、補習になるほどではないので、そこまでビビる必要はないと思っていた。

いざテストを受けてみると、全然分からない教科が一つだけあった。テストが返却されると、予想通り不安だった歴史だけ赤点を取ってしまった。


「赤点を取った者は夏休み中にこの教室で1週間補習を受けて貰う」


リュウ先生はそう言った。

私の夏休みの最初は補習から始まるようだ。

最悪である。せっかく家に帰ってグータラ生活しようと思っていたのに。

今回赤点をとった歴史のテストはこの世界の歴史についてで、私はてっきり人間界の歴史だと勘違いしていた。だからあまり勉強せず、苦手な数学に力を入れてしまった。


放課後、大人しく1人で反省しようと思い、帰りの支度をする。


「ヒマリどうしたんだ?」


隣の席のイブキくんに話しかけられる。


「いや、何でもないよ」


「その顔はあるだろ?」


私は何にも言っていないのに、何故分かるんだ。

でも、今は誰とも話したい気分ではない。


「何でもないから、大丈夫」


彼の心配を無視して、教室を出ていく。

寮に帰ろうと思ったが、ただ部屋に戻ってもこのモヤモヤが解消されることもないと思い、公園に向かうことにする。


夕方の公園は昼間よりも静かで心地よい。やはり緑が多くて落ち着く。いつものベンチに座ると、学校から帰ってきた子供たちがボールを使って遊んでいる。

そんな平和な様子を見て、ぼんやりする。

すると、ピコンとスマホから通知音がなる。

通知を見ると、シュウヤくんからだ。



シュウヤ:ヒマリ、少し話したいことがある?今、どこにいる?



まだ人と話したい気分ではないので、1度無視する。

するとまた通知音がなり、画面を見る。



シュウヤ:ほんの少しでいいから話せないか?



流石に2度も無視するのは申し訳ないので、返事をする。



ヒマリ:公園にいるよ


シュウヤ:わかった、今から向かう



チャットは終わるとスマホの画面から目を離し、茜色の空を見て、大きいため息を吐く。

何で正直に赤点取ったって言えなかったんだろう。普通に恥ずかしいかっただけなんだけど。別にあんな風に冷たくしなくてもよかったよな。

もう一度ため息を吐き、反省する。


「ヒマリ」


声のする方に顔を向けると、シュウヤくんがもう着いていた。


「シュウヤくん早かったね」


「ああ、ちょうど近くにいてな」


シュウヤくんは私の隣に座る。


「浮かない顔をしているが、どうしたんだ?」


「え、何で分かるの?」


「いつもヒマリの顔を見ているからわかるよ」


イケメン台詞に心が弱っている私にはぶっ刺さる。シュウヤくんには正直に話そう。


「あの、実はさ……。

恥ずかしい話なんだけど、今回の歴史のテストで赤点取っちゃってさ、夏休みに補習を受けないといけないんだよね」


学年1の成績であるシュウヤくんからは考えられないだろうな。

隣を見ると予想通り、ちょっと驚いた顔している。心の中では私のこと馬鹿だと思っているかなと思ってしまう。


「なんだそんなことか」


彼は少し笑う。シュウヤくんからの意外な言葉が出てきたが、煽っているように聞こえたので、私は怒る。


「そんなことかって、シュウヤくんは頭良いからそんなこと言えるんだよ。

みんな赤点取ってないのに私だけ赤点取ったことが、どれだけ恥ずかしいことか」


シュウヤくんから顔を逸らしていじける。


「ごめん、ヒマリ。


君を怒らせたくてそう言った訳じゃないんだ。

ただ赤点を取ったから、素っ気なかったなんて思わなかっただけなんだ」


シュウヤくんはいつもより優しい声で謝ってくれている。

それでも私はまだ怒りはおさまらない。


「……」


「……」


2人とも黙りする。


「こっちを向いてくれ」


シュウヤくんは私の耳元で囁く。

彼に肩をトンと掴まれて、ヒィーと奇声をあげながら彼の方に向かされる。


「やっとこちらを向いてくれた」


「ズルいよ」


私はまだ小言を言う。そんな小言も気にせず彼は私を見つめる。


「前から気になっていたんだが、ヒマリはユイトのこと好きなのか?」


「いきなり何でそんなこと聞くの?」


「さっき、ユイトと喧嘩していたじゃないか」


「あー、あれは私が赤点取ったのが恥ずかしくて冷たくしちゃっただけだよ」


私の言葉を聞くと、彼は安心したような顔をする。


「そうだったのか。

あの後、ユイトが凄く落ち込んでいたぞ。ヒマリに何かしてしまったんじゃってね」


イブキくんになんだか申し訳ないと思う。


「だから様子を見てきて欲しいとお願いされて、俺が来たわけだ」


なんてシュウヤくんは面倒見の良いお兄ちゃんなんだろう。おそらくシュウヤくんは長男だな。


「わざわざありがとね」


「いや、俺もヒマリの様子が気になっていたからよかった」


普段キリッとしている表情から急に微笑みを向られるとギャップ死しそうになる。

マジで良いお兄ちゃんすぎて同い年だが、お兄ちゃんと呼ばせて欲しい。


「それでさっきの質問に戻すが、ヒマリはユイトのこと好きなのか?」


何でそんなことが気になるんだろう。


「うーん。ユイトくんのことは友達としては好きだけど、恋愛的な意味の好きではないかな」


彼は私の言葉を聞くとまた微笑む。


「なるほどな。じゃあ、俺にもチャンスがあるということだ」


「そうだね、うん?」


待てよ、俺にもチャンスとはどういうことだ。まるで、シュウヤくんは私のことが好きみたいだ。いやいや、そんなことはない。だって、シュウヤくんはユアさんのことが好きだから。でも婚約者がいるから諦めて私に乗り換えようとしている可能性もなくはないが、そういうことをする人には思えない。


「ヒマリ、夏休みの予定は決まっているか?」


頭に思い浮かべた予定は補習と家でゴロゴロ過ごすこと意外は特になし。


「補習以外はまだ予定はないよ」


「それなら、補習が終わる日に一緒にご飯食べに行かないか?」


「うん!いいよ!何食べに行く?」


「学園通りに美味しいレストランがあるそうで、そこのティラミスが絶品だそうだ」


コーヒーは得意では無いが、何故かティラミスが大好きな私はもうそこに行きたくなっている。


「そこにしよう!」


そうして補習の最終日はシュウヤくんとご飯を食べに行くことになる。


「補習は何時からあるんだ?」


「たしか、10時〜12時の2時間だって言われたよ。1教科で2時間もやるなんて長すぎるよね。しかも最終日はテストだから、ティラミスをご褒美に頑張るよ」


「ああ、そうだな」


日が暮れてきて少しずつ街頭に明かりが灯り始める。


「そろそろ帰るか?」


私はまだイブキくんに謝っていないのでここで連絡してから帰ろうと思う。


「シュウヤくんは1人で帰っていて。


ーー私はやるべきことをやってから帰る」


「わかった。気を付けて帰れよ?」


颯爽と帰っていく彼の背中を見送り、スマホを取り、チャットを開く。



ヒマリ:イブキくん、さっきはごめんなさい。

私、歴史のテストで赤点を取ってしまって、落ち込んでいたの。だから冷たくしてしまってごめん。


ユイト:よかった。

俺、ヒマリに何か酷いことしちゃったかなって焦ってたんだ。

今、どこにいる?


ヒマリ:ホントにごめんね!!

学園通りの近くの公園にいるよ


ユイト:わかった。今すぐ行く



ここでチャットは終了する。

このやりとり、なんだか付き合ってカップルみたいで恥ずかしい。確かに面と向かって謝りたかったからちょうどよかったけど。


色々と考えていたら、イブキくんを見つける。

ここだとわかるように立って手を振る。

ちょうどここは街頭の下のベンチなので、分かりやすいはずだ。


「お待たせ」


そういって、ナチュラルにハグをする。

あまりにムダのない動きで私は一瞬何をされたか分からなかった。


「不安だったんだ。ヒマリに嫌われたらどうしようって」


「ごめんね。私がただイブキくんに八つ当たりしちゃっただけ」


「本当によかった」


耳元で彼の言葉がいつもよりダイレクトに聞こえるので、思わず体が力んでしまう。


「あの、そろそろ離してもらってもいいですか?」


「ああ、ごめん」


そう言うと彼は惜しみながらも離してくれた。

ずっとあんな状態でいたら、私の自我は保ってはいられない。


「ヒマリは夏休み予定とかある?」


またこの質問をされる。本日2度目だ。


「補習以外はまだ予定ないよ」


私の返事を聞くと嬉しそうにしている。


「それじゃあさ、どこか出かけない?」


「うん、いいよ!どこへ行く?」


「僕、前から行きたいところがあったんだ」


するとスマホを取り出して、写真を見せてくれる。


「学園通りをもう少し先にいくと、大きなフラワーズパークがあるのは知っているか?」


もちろん知らない。そもそもこの学園通りのこともユアさんのカフェとナルミさんの知り合いが経営しているレストラン以外はあまり知らないのである。そんな公園があることすら知らなかった。


「知らなかったよ!そこに行ってみたいな!」


「よかった!補習が終わってからがいいよね?


じゃあ、補習が終わった翌日の土曜日はどう?」


「うん!予定ないから行けるよ」


「じゃあ、学校の中庭に11時に集合しよう?」


「了解」


そういって、2日間の予定が決まった。

まだまだ夏なので日が暮れるまでに時間はあるが、時計を見ると18時手前であった。


「イブキくんは夏休みの予定とかあるの?」


「夏休みは特に予定はないけど、実家に帰るぐらいはするよ」


そういえば私も家に帰ることを伝え忘れていた。


「私も家に帰るから、1ヶ月ぐらいは寮には戻らないよ」


「そういえば、ヒマリの実家ってゾンビタウンの方なんだよな?」


そういう設定にしていたことを今思い出す。


「そうだね」


「それなら遊びに行ってもいい?」


遊びに来られたら、私が人間であることがバレてしまう。全力でお断りさせてもらう。


「ダメ!!」


「何で?」


不思議そうに私を見るイブキくん。

どのように言えば諦めてもらえるだろうかと必死に頭を使って考える。


「家はそんなに広くないし、人をあげるのは親から許しを得ないと難しいの」


「友達なら家にあげてくれるでしょ?」


「確かに、そうかもしれないけど」


彼の反論に負けそうになる。

さて、この危機をどう回避すればいいんだろう。


「ヒマリの実家、気になるな」


そんな可愛い顔で言われても絶対に無理である。


「いやいや、ホントに無理」


「そっか。そこまで拒否されると悲しいから、今回は諦めるよ」


「本当にごめんね」


「いや、いいんだ。そろそろ帰ろ?」


ベンチから立ち上がり、寮に戻る。

夏の夕方だというのにそこまで蒸し暑くはないな。異世界だと40度超えるはないのは羨ましい話だ。

窓を開けると風が吹き込み、涼しい空気を運んでくれてとても気持ちが良い。


すると通知音が鳴り、スマホの画面を見ると、6人のグループチャットにユアさんからメッセージが入っている。



ユア:夏休みのご予定についてお尋ねしたいことがありますの。

夏休みに入ったら、ワタクシは別荘で一ヶ月ほど過ごす予定なのですが、もしよかったらみなさんで夏休み最後の1週間ほど一緒に過ごしませんか??



素敵な提案だ。ユアさんの別荘といったら相当豪華な別荘に違いない。もしかしたら、美味しい食材も用意してくれるかもだし、これにのらない理由はない。だが、一週間は少し長いので、3日ほどで十分なことを伝える。



ヒマリ:ユアさん素敵な提案ありがとうございます!

私もユアさんと別荘で過ごしたいです!!

でも一週間ではなく、私は3日で十分なので、3日間だけ滞在させてください!


ユア:本当に3日でいいのかしら?


ヒマリ:はい!3日間も一緒に過ごせるだけで幸せです!


ユア:分かりましたわ!他の4人も3日間でいいのかしら?



4人からも賛成の返事が来て、28〜30日はユアさんの別荘で過ごすことになった。

そういえば、おじさんに夏休みは家に帰りたいことを伝え忘れていたので、連絡をする。



ヒマリ:おじさん、こんばんは!お願いしたいことがあり、連絡しました。

夏休み期間に家に帰りたいのですが、約1ヶ月程戻ることは可能ですか?


おじさん:もちろん。ヒマリちゃんは補習を受けるみたいだから、8月1日から31日行くってことかな?


ヒマリ:そうですね!行く日は1日でいいのですが、帰る日は26日の夜辺りでお願いしたいです。


おじさん:わかった。1日の12時頃校長室に来て欲しい。26日は20時には帰ってくるように。


ヒマリ:分かりました!ありがとうございます!!



補習はあるが、もうすぐワクワクな夏休みがやってくる。

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