第31話 パーティーが始まる
車から下りると、豪華なお城が目の前に広がる。これがパーティー会場だというのか。
思わず、唖然としてしまう。
3人はいつもと変わらない様子で車から降りてくる。
「僕とチアキはユアちゃんの御家族と挨拶をしてから向かうので、君たちは2人で行動していて欲しい。
この招待状があれば2人で入れるから、ユイトくん、ヒマリちゃんをよろしく頼むね」
イブキくんはおじさんから招待状を受け取り、チアキくんとおじさんは先に会場内に入っていった。
イブキくんは私の手を握り、こちらを見つめる。
「今日は僕にエスコートさせてくれないかな?」
おん。かっこよすぎる。マジで乙女ゲームのヒロインにでもなったかのようだ。夢ではないかと思ってしまう。
「お願いします」
平然を装い、返事する。彼は私に腕を組むように指示する。
入口に立っているスタッフに招待状を見せると、難なく会場に入れた。
外装も豪華だったが、中に入ってもキラキラ輝いていてまるでテーマパークだ。
上を見るとこの会場で1番に目立つ大きくて美しいシャンデリアに、端っこの方では演奏をするオーケストラ、会場の1番奥には王子様とお姫様のための真っ赤なシートに金で装飾されている椅子まで用意してある。
横に並んでいるご馳走もとても美味しそうである。思わずよだれが出そうになる。
パーティーの参加者も多く、うっかりしたら迷子になりそうだ。参加者たちは皆、服装だけでなく姿勢までしっかりとしていて、これが貴族が行うパーティーなんだと、身が引き締まる。
辺りをきょろきょろと見ていると、イブキくんがシャンパンのような飲み物の入ったグラスを受け取る。私も彼のように受け取る。
「これは乾杯用のドリンクだ。まだ飲んじゃダメだよ?」
「はーい」
この瞬間は、父親と子供のやりとりのようなゆるっとした雰囲気が流れる。
私はまだご馳走を食べてはいけないかなとうずうずしていると、主役である2人が現れたのか、周囲が騒めきだす。
チアキくんとユアさんは会場の真ん中にある丸いステージのような場所にあがる。
すると、ユアさんの父親らしき人がステージに上がり、マイクを受け取り、話し始める。
「お忙しい中集まっていただき、誠にありがとうございます。
今宵のパーティー、是非楽しんでください」
そして、みんなの手元に配られたドリンクを持ち、乾杯する。
1口飲むと、炭酸水のようだ。緊張で喉が渇いていたので、飲み干す。
空っぽになったグラスをスタッフに回収して貰い、再び横に並んでいるご馳走に目を向ける。
「そろそろ料理取ってきてもいいかな?」
隣にいるイブキくんに尋ねる。社交界のルールが分からない私はとりあえず、私よりも知っていそうなイブキくんを頼る。
「おそらく。僕もこんなに大きなパーティーには参加したことがないから分からないけど、他の人も料理を取り始めているから、大丈夫だと思う」
彼からの了承も得たことだし、早速ご馳走の並ぶテーブルに行き、中ぐらいのお皿と大きめのお皿が並ぶ中、私は大きめのお皿を持って好きな物をのせていく。
ステーキにローストビーフ、生ハムに、パン。そして、フルーツものせて、完成だ。今食べたいと思ったものをプレートに盛った。見栄えは悪いが、胃の中に入れてしまえば同じだ。
「うわ〜ほぼお肉ばっかりだね」
聞き覚えのある声がすると思ったら、隣にお皿を持ったヒナタくんが来ていた。
ヒナタくんのお皿を見ると、ケーキやゼリーにフルーツと甘いものしかお皿に盛っていなかった。
「ヒナタくんも人のこと言えないよ」
「はは!確かに!
俺も好きな物だけ取っていたらヒマリと同じようになってた!」
くしゃっと笑う彼に影響されて、私も笑う。
彼の後ろからタクトくんとシュウヤくんがやってくる。
「2人も来ていたんだね!」
「それはそうだ。俺たちがいない訳ないだろう」
シュウヤくんは当たり前のことを言っていた。
「確かに、それはそうだった!
みんな、最高にタキシード似合ってるよ!!」
早速、みんなのタキシード姿を褒める。
「ありがとう!
今日ユアが主役だから、結構キメて着たんだ!」
ヒナタくんはキメ顔をしながら話す。2人も頷いているので、気合いを入れてきたようだ。
ヒナタくんとタクトくんは知り合いの人に呼ばれたようで、私に軽く挨拶し、2人とも行ってしまった。シュウヤくんと2人っきりになる。
「その皿、栄養が偏っているぞ」
パーティーぐらいはいいでしょと言いたい。私専用の栄養士ではないんだから、そういう観点では見ないで欲しいと思う。
シュウヤくんは野菜を入れるようにと言うので、仕方なく、近くにあったサラダを少々のっける。
彼は満足そうに私のお皿を見る。
「それでいい。ユイトはどうした?」
端っこの壁にいると教える。そう伝えると、彼はそちらを横目で確認してから私の方を再び向く。
「今日のヒマリはいつもより可愛いな」
「かわいい?」
普段褒められない言葉のため、思わず繰り返してしまう。
彼は私の言葉に頷いた。
「ああ。その水色のドレス、よく似合っている」
「ありがとう」
素直に褒められるのはくすぐったいが、褒めてくれるのは嬉しい。
「シュウヤくんこそ、今日はいつにも増して本当にカッコイイよ!写真撮りたいぐらいだよ」
そういっていつものポケットの場所に手を置くと、ドレスだから入っていないのと、そもそも持ってくるのを忘れていた。
「俺も今日はスマホを持ってきていないから、目に焼き付けなきゃだな」
真剣に赤い瞳で見つめられて私は恥ずかしくなる。
彼も私の照れが移ったのか、顔をそむけた。
「俺もそろそろ挨拶回りに戻らないとならないから、ヒマリはユイトの所に戻った方がいい」
「ありがとう!そうするよ」
ここでシュウヤくんと分かれて、イブキくんの所に戻る。
彼は不機嫌そうにこちらを見ている。
「長かったね?」
思った通り彼は機嫌が悪いので、手に持っていたお皿から1番美味しいそうなステーキを譲る。
「ごめん!!ステーキあげるから機嫌直して!
ほら、あーん?」
私はステーキをのせたフォークを彼の口に運ぶ。
彼は満更でもなく、食べる。間接キスは気になるのに、これはOKなのはどうかと思う。
彼は「おいしい」と言って、今度は彼がフォークを持ち、私のお皿からステーキを選び取る。
「ほら、ヒマリも食べなよ?あーん」
なんというカウンターだ。恥ずかしくなり、どんどん頬が熱くなってくる。
このままキープも恥ずかしいので、かぶりつく。
「恥ずかしいだろ?」
イタズラっ子のように笑う彼。こんなに恥ずかしいことだったのかと理解し、反省する。
「はい。すみません」
「わかったなら、よろしい。
今後、人前でこんなことしないように」
彼は先生みたいな口調で言い終わると私の頭を撫でる。私はペットの気分になる。イブキくんの温かい手が心地よく撫でてくれる。とても落ち着く。
「ーーあら、お熱いところをお邪魔するわ」
声がする方を見ると、ユアさんが現れた。一部始終見られていたのは恥ずかしい。
主役なのに何故こんな端っこに来たんだ。
「何故ユアさんがここに?」
後ろからチアキくんが追うように来る。
「ユア、勝手にいなくならないでくれ」
「2人がラブラブなところを見たかったんですもの」
「私たちがラブラブ?」
ユアさんは変な誤解をしているようだ。確かに仲は良いが、カップルでは無い。
「そのように見えたけれど?
とても羨ましいわ。チアキさんも私にあーんしてくれないかしら?」
普段よりも一段と可愛くて美しいユアさんにそんなことを言われたら女子である、私もやりたくなる。
チアキくんもユアさんの言葉に困惑しているようだ。
「ダメだ。僕たちはまだ婚約を発表していないんだから」
断る理由そこなんだ。チアキくんって面白い人なんだと思った。
「残念ですわ。
この後、私たちの発表があるので見守っていて欲しいわ」
するとユアさんたちを呼ぶ人たちが来て、あっという間にまた人の輪に戻ってしまった。忙しい中で、わざわざこちらに来てくれたのは嬉しかった。
お皿に乗せた食べ物を食べ終わり、2週目に行こうと思った時に、ステージにライトが集中し、司会者が話し始める。
「本日お集まりいただき、誠にありがとうございます。
皆さんにユアさんとチアキさんからお伝えしたいことがあります」
話を振られて、2人もステージに上がり、ライトがあてられる。
「私、ユア・ミズホとチアキ・ナカタは婚約を結ぶことになりました」
すると、会場中がどよめく。
私たちは事前に知っていたのでさほど驚かないが、知らなかったらそうなるよねと思いながら2人を見つめる。
「これからも僕たちのことを温かく見守っていただけると嬉しいです」
2人は簡潔に挨拶をしお辞儀し、ステージを降りた。アイドルの結婚発表でも見ているような気分だった。
再び2人に視線を戻すと、遠目だが周りに先ほどよりも色々な人に囲まれていて大変そうだ。頑張れと心の中でエールを飛ばす。
「気分転換する?」
イブキくんの提案に頷き、ついて行くと外庭に出た。
今日は満月なのか、月が大きく明るく見える。
少し歩くとテラスのようなものがあり、そこのベンチに座る。
月に照らされるイブキくんは本当に王子様のように見えてかっこいい。
「今日のイブキくん、本当に素敵だね」
改めて彼を褒める。彼は耳を赤くする。
「ヒマリだって、今日は本当に可愛い」
彼から可愛いと言われて、いつもなら冗談だと受け流すが今日は雰囲気にのまれる。
「さっき言いかけていたことここで言ってもいいかな?」
さっきとは......あ、屋敷のときのことか。
彼は深呼吸をし、紫色の瞳で私を再び見つめる。
「僕は......ヒマリのこと、気になってる」
あまりに真剣な顔で見つめるものだから、好きだよと告白されるかと思った。いやいや、まず告白される前提でいるなよ、自惚れるなと自分にツッコミする。
「そうなんだ」
私はあっさりとした返事をしてしまう。なんか変に期待していたからか、少し残念。いや、何でへこんでいるのだろう。
「ヒマリ……」
呼ぶ声の方を向くと、私のおでこに口付けをした。思わず目を丸くする。
「ごめん、我慢出来なかった」
「え、え?」
いきなりの展開に私の脳みそは追いつかない。
「ヒマリが可愛すぎて、僕のものにしたいって思った」
私はその口説き文句にやられる。
「ーーそれじゃあ、戻ろうか?」
先程のことがなかったように、彼はベンチから立ち上がり、私の手を握る。私の頭は働かず、その後のパーティーも無心でスイーツを食べて自分を取り戻そうとするが、先程のことばかり思い出して、スイーツを喉につまらせる。
咳き込んでいると、イブキくんが急いで飲み物を持ってきてくれて受け取る。私は一気飲みをして生き返る。
「大丈夫か?」
今は彼の顔を真っ直ぐ見ることが出来ない。
「大丈夫!ありがとう」
再びスイーツに視線を戻し、食べ続ける。
やっとパーティーが終わり、主役であったチアキくんとおじさんがこちらに来てくれて合流できた。
「ユイトくんとヒマリちゃんはこのパーティーを楽しめたかな?」
イブキくんは間髪入れずに、「はい」と返事していた。私も遅れながらも返事をし、おじさんは満足そうにしていた。
「僕たちもそろそろ帰ろうか」
おじさんの言葉で行きと同じ車に乗り、学園の正門前に送って貰う。
私とイブキくんは車から降り、おじさんも降りてきた。
「今日はありがとうございました」
イブキくんがお礼の言葉を言い、私も彼の後に続いて感謝を述べる。
「いえいえ!君たちとパーティーに参加出来てよかったよ。
あと、そのドレスとタキシードは君たちにプレゼントするよ」
「いえ、大丈夫です!」
私はすかさず断る。イブキくんも隣で頷く。
「いやいや、今日のお礼だから受け取って」
おじさんは指をパチンと鳴らし、私たちを私服に戻し、おじさんから袋を渡される。袋の中には先程のドレスとパンプスが入っていた。
「それじゃあ、今日はありがとう」
おじさんはそう言って、颯爽と車に乗り込んでしまった。
この場には私とイブキくんの2人のみとなる。
さっさと寮に戻ろうと歩き出すと、彼は「待って」と言って、私の手首を掴む。
私は振り向いて彼を見る。
「もう帰ろう?」
「いいや、まだ一緒にいたい」
なんだか恋人に向けるような言葉でむず痒い。私は先程の件でイブキくんとは一旦距離を置きたいので、申し訳ないが寮に戻りたい。
「ごめん、私疲れちゃったから戻りたいの」
「......わかった。でも、女子寮まで送らせて」
彼は名残惜しそうに言って、歩き出す。
正門から女子寮までは5分も満たない距離なのであっという間に着く。
「それじゃあ、また学校でね!おやすみ!」
「おやすみ」
私は寮に入り、急いで自分の部屋に向かう。
やっと1人になり、感情を吐き出せる。
何でイブキくんが私のおでこにキスしたのか。それがずっと引っかかっている。私に好意を持っているのかと勘違いしそうになるが、そもそもここは異世界だから、みんなは距離感が近くてスキンシップも多いからその延長上でやったことなのかもしれない。
以前にも、イブキくんは私とツーショットの写真を撮った時に頬にキスしていた。それと同じだ。その時は確か、友人として好きだからって言っていたからそれと同じ。だから、今回のことはそこまで深く捉える必要ない。
するとスマホの通知音が鳴り、画面を見るとイブキくんからメッセージが来ていた。
ユイト:今日は一緒に行ってくれてありがとう。たぶん、僕1人だったら絶対にパーティーには行けていかなかったと思う。
今日はヒマリと過ごせて楽しかった。
ありがとう。
感謝のメッセージだった。私も返信しなきゃと思い、文字を打つ。
ヒマリ:こちらこそ!今日はありがとう!!
イブキくんと行けて楽しかったよ!!
ありがとね!!
簡潔なメッセージを送り、即既読が付く。
グッドのスタンプが送られてきて、チャットは終了する。
この文面を見た限り、イブキくんの方は全然私の事意識していなさそうで安心する。
私もあのことは気にしないようにするため、シャワーを浴び、就寝する。




