第29話 私と彼の不安な日
ついにユアさんの婚約者を発表するパーティーが明日の夜に開かれる。
この前のデートでユアさんはチアキくんのことを好きになっていたことを女子会で確認出来て嬉しかった。でも、チアキくんはユアさんのことどう思っているのか分からないのでそこは不安ではあるけど、ユアさんに惚れない男の子はいないと思うので大丈夫だと思う。
話は少し変わるが、私は明日のパーティーに着ていくドレスが無くて困っている。
今回開かれるパーティーはかなり盛大なものらしく、婚約発表もかねているからか、校長でありチアキくんの父親であるおじさんを始めとしたヴィザードの方々やヴァンパイア族のお偉いさん方も参加されるという大規模なパーティーのようだ。
もちろんドレスコードがあったり、テーブルマナー等も最低限は知らないとマズイのだけど、私はそれも教えて貰っていないし、そもそもドレスが無いということに今更ながら気が付いた。
こういう時に頼りになるのが、チアキくんだと思い、チアキくんに連絡する。
ヒマリ:急に連絡してごめん!
明日のパーティーのドレスが無くて今から買いに行く時間もなくて焦ってます。
どうしたらいいかな?
チアキ:大丈夫だよ。
そっか、ヒマリはドレス持っていないのか。
父さんなら何とかしてくれるかもしれないから、一旦聞いてみるよ。
少し待っていて。
流石はチアキくんだ。頼りになる。
彼に感心しながら、数分後に連絡がくる。
チアキ:父さんが明日、校長室に17時頃来て欲しいと言っていたよ。
そこでヒマリを変身させてくれるらしい。よかったね!
ーーいやいや、おとぎ話じゃないんだから、魔法を使って変身させるなんてそんな。そういえばおじさん魔法使いだった。魔法使えるじゃん。
ヒマリ:本当にありがとう!!
了解しました!
チアキ:いえいえ。
明日のパーティー楽しもう。
ヒマリ:もちろん!
そういってチアキくんのチャットが終わり、おじさんにも連絡する。
ヒマリ:おじさんありがとうございます!
明日はよろしくお願いします。
おじさん:いえいえ。
ヒマリちゃんがドレスを持っていないことは分かっていたから、この前探しておいたよ。
せっかくいとこが婚約発表するところを見れる訳だから、僕も精一杯君をかわいくするからね!
ヒマリ:ありがとうございます!!
おじさんの手際の良さには本当に頭が上がらない。私がドレスを持っていないことも把握済みでしかも探してくれていたなんて有り難い。
連絡は終わり、寝て起きたらパーティーが始まる。
テーブルマナーなどはあんまり知らないけど、大丈夫じゃないよな。今から図書室へ行くって行っても遅くて本は借りれないし、そもそも読む気力もない。一か八か一発勝負だ。
◇◆◇
ベッドの上でずっとゴロゴロと過ごしてしまったら、お昼になってしまった。不安と緊張であまり眠れなかった。コンディション最悪な状態で向かうことになる。朝から大きなため息を吐いて、ベッドから出る。
イブキくん以外は家族とパーティーに出席するらしく、私はイブキくんとおじさんとチアキくんと共にパーティーに参加する予定だ。
パーティーの時間は18時〜20時まで。
その1時間前に校長室に向かう。
時計を見るとまだ13時。
集合時間の17時までまだ時間はあるが、全然落ち着かない。
とりあえず誰かと話したいと思い、イブキくんに連絡する。
ヒマリ:イブキくん、ちょっと公園でお話しない?パーティーが始まるまで落ち着かなくてさ、誰かと話して心を落ち着かせたいの。
彼からすぐに返信がくる。
ユイト:わかった。僕もちょうど外を走ってて、そろそろ帰ろうと思っていたから、先に公園で待ってる。
ヒマリ:おっけー!ありがとう!今から行くね!!
洗顔や歯磨きをし、着替えて、公園に向かう。
天気も良いので、ランニングしている人たちや子供連れの家族もおり、いつもより公園は賑わっているように見える。
前にイブキくんと出会ったベンチにまた座っていた。近くに時計台があって、隣に大きな木があるベンチだ。
私は背後からゆっくり近づいて驚かそうとする。
ゆっくり足音を立てないように背後に忍び寄ると、彼は寝ているようだった。
心地よく眠っているので起こすのは野暮だと思い、隣に座る。すると、私の気配に気が付いたのか、肩にイブキくんの頭がストンと乗る。
よく電車で夕方帯見かけるやつである。疲れすぎると無意識に隣の人の肩を借りてしまっているやつ。
寝息を立てて寝ている姿を見ると、普段は割とクールでいるからか、寝てる時は無防備で可愛いなとか思ってしまう。オタク的にこういうギャップは好きである。
可愛さのあまりに頭を撫でようと手を伸ばすと、彼は起きてしまった。
「ーーあ、ごめん。寝てた?」
私は伸ばしていた手を元に戻す。
「全然大丈夫だよ!5分ぐらいしか寝てないから全然問題ない!」
彼はまだ起きたばかりなので、頭が回っていなさそうだ。彼は腕を上げて体を伸ばし、深呼吸をして、目覚めたようだ。
「今日全然眠れなかったから、ここは気持ち良くて寝ちゃったよ」
「え!私も!!
パーティーのこと考えてたら緊張と不安で、全然眠れなかったよ!一緒だね」
彼の顔を見ると私と一緒では無いのか、いやいやというように首を横に振る。
「僕の場合、他のヴァンパイア族の人たちにも受け入れて貰えてないからさ、この10年間ぐらいパーティーに出てなくて怖かったんだ」
口元は笑いながら明るい声で話す姿を見て、切なくなる。
「情けないよな。もう16になるってのに、未だにヴァンパイア族が怖いって」
本人の口からは聞いていないが、家や種族からも追い出されてしまっているのに、ヴァンパイア族が集まるパーティーに行くのは相当メンタル的にキツイことだと今更ながら気付く。
「イブキくん、パーティーには行かなくていいと思うよ」
「何で?」
彼は今にも泣きそうな辛そうな顔をしている。だから、私は彼が無理をしてまでパーティーに参加する必要はないと思った。
「だって、そんなにも泣きそうで怯えている人に一緒に行こうって言えないよ」
彼は私の言葉にショックを受けたのか、顔を俯かせる。
「僕、そんな酷い顔しているんだ。笑えるな。
ヒマリの前では強がっていたかったのに」
その後も顔は上げずに、顔を隠すようにそっぽを向く。私は彼の方を向いて話をする。
「イブキくん、無理して笑わなくていいんだよ。
誰にだって泣きたい時はあるし、怖いことを怖いって言ってもいいんだよ?
だからこういう時ぐらいは自分の気持ちを素直に話してくれていいんだよ。
ーー私たち友達なんだからさ」
すると、彼の顔は私の方を向き、紫色の瞳から涙が零れている。私は彼の瞳から目が離せない。
「僕、本当は......パーティーには参加したくない。
せっかくユアとチアキのためのパーティーなのに本当に申し訳ない」
彼は再び顔をそむけて、袖で涙を拭いている。私には見られたくないようだ。
そうだよね。友達が主役のパーティーに参加しないのは友達としては良くないことだものね。
「それじゃあ、私も今日のパーティー参加するのやめようかな」
私の言葉が良くなかったのか、彼は私の顔を見て、怒っているようだ。泣いていたからか少し目頭が赤い。
「それはダメだ。ヒマリは参加しないと」
「何で??
イブキくんだけ参加しないのは気まずいでしょ?
私も参加しなければ、イブキくんだけが苦しくなる必要はないし、そもそもドレスもテーブルマナーもない私が行ったところで恥をかくだけだったから、行かない仲間が出来て安心したよ」
彼はまだ顔がムスッとしている。
「ヒマリ、これはどういうことかわかる?
行かないってことは僕と同じような扱いを受ける可能性があるんだよ?」
「イブキくんと同じような扱いとは?」
「せっかく仲良くなったのに、無視されるかもしれないよ」
それは地味にしんどいかもしれないな。
でも、パーティーに行かなかったぐらいでそんなことになるのか。
「このパーティーってどれぐらい大事なことなの?」
「僕にもハッキリとは分からないけど、この国全体が揺らぐかもしれないぐらい大きなことが発表される大事なパーティーだということはわかる」
なるほど、ウィザードとヴァンパイアの結婚は私の住んでいた世界からすると、総理大臣の息子と大手企業の財閥の娘が婚約するということは国全体でニュースになるかもだし、めちゃくちゃ大きく言うと、今後の国の情勢も変わるかもしれないということか。
こういう時はおじさんに聞いてみるか。
「わかった。校長にこのパーティーに行かなくてもいいか、聞いてくるね」
「そんな無茶なこと言わないでくれ」
「何でよ。ついでに、私たちが参加しないってことも伝えられるし、一石二鳥じゃん」
「いやいや、そういうことじゃなくて......。
ヒマリの立場だって悪くなるのに、僕なんかのためにそんな自分のことを苦しめようとしないでくれ」
イブキくんは私の手を握る。だが、私はその手を離す。
「目の前にいる人が悲しんでいるのに、私だけ楽しむのは違うでしょ?
とりあえず、聞いてみるだけ聞いてみて、ダメだったらその時はその時で臨機応変に動こう!ーーそれじゃあ、善は急げだ」
私はそう言ってイブキくんの手を掴み、学校に向かって走り出す。
「え、いきなり、走るなよ」
「急ぎたいときは走らないとじゃん」
「走るのはいいけど、校長がどこにいるのか分かるの?」
そう言われてアポも取っていないのに行ってしまっては失礼だよな。
とりあえず走るのやめて、校長に連絡を入れないと。
「ヒマリは校長先生の連絡先知ってるの?」
確かに、ただの生徒が校長先生の連絡先知ってるのはおかしいよな。でも、聞かないと無理だし、話を作らないと。
「先週さ、チアキくんとユアさんのデート場所を考えていた時に、校長先生とチアキくんと私の3人で話していたのね。人間界に行きたいっていう交渉をしに。その時に人間界で迷った時用で校長先生の連絡先を聞いていて、知っているんだよね」
辻褄も合うし、そこで交換していても何らおかしくはない。
彼は先程の疑いの目は薄くなり、私の話を信じたようだ。
「なるほどな、とりあえず今居るか確認しないとだな」
私は頷き、おじさんに連絡する。
ヒマリ:今から少しお話したいのですが、お時間ありますか?
おじさんから返事が来ない。やはり、この時間帯は忙しいよな。
「忙しいみたい」
「そうだよな。実の息子の晴れ舞台だから、当然だな」
そう諦めモードになっていると、いきなり目の前にブラックホールのような穴が出現した。
これはもしやワープホール?
とりあえず入ってみようと歩き出す。すると、手を掴まれる。
「ちょっと待って!こんなに怪しいものに入るの?」
イブキくんの方に振り向き、彼を説得する。
「これはたぶんだけど、校長が出したワープホールだと思うから私は行くよ」
そういって、再び歩き出す。彼も怪しがりながらも私の後をついて来た。
すると、見たことない家が目の前に広がる。大きすぎて家というか、屋敷のようだ。




