第26話 ユア、チアキはデートする!!その1
ちょうど10時に入り口付近にチアキくんとユアさんは姿を現した。
後ろにいるイブキくんとシュウヤくんに目配せし、入場口を通りすぎるのを確認してから、私たちも入場する。
遊園地のチケットはおじさんが私の両親に働きかけて事前にチケットの購入してもらったらしい。非常に助かるし、意外とおじさんとウチのお父さんが仲良くてびっくりだ。
入場すると、ファミリー客からカップルが多く見える。梅雨のシーズンだが、天気はよく遊園地日和である。
そんなこと言っている場合じゃない。2人のあとを追わねば。
ついて行くと2人はまず、コーヒーカップに乗るようだ。
偵察がてら、私たちも乗車したいと思い、提案する。
「2人ともこれに乗るよ!」
「何で俺たちも乗るんだよ?」
「だって、2人の後について行くということは同じことをするんじゃないの?」
「いや、それだと2人に見つからないか?」
シュウヤくんはこういう時も正論を言う。その通りだが、見てるだけで指をくわえて待つというのも面白くはない。
「2人だけ楽しんでいるところ見ると羨ましいからじゃん。
じゃあ、1人で乗ってくるからいいよ」
小さい子供みたいなことを言って、乗り場に向かおうとすると、2人ともついてきた。
「ヒマリは子供っぽいところあるんだな」
「シュウヤくんだって、これに乗りたかったんじゃない?」
私は決して乗りたかったわけではないとまだ言い訳してしまう。
「俺はヒマリが1人で乗るのは可哀想だったから付いてきただけだ」
「俺もだ」
「そんなこと言うんじゃ、一緒に乗りたくないね。私は1人で乗るから、2人で乗って」
意地を張ったままコーヒーカップの列に向かって歩き、スタッフさんに何名ですか?と聞かれると、私は1人と答えて、1人でコーヒーカップに乗車する。
2人はマジで1人で乗るのかと驚いているのか、呆れているのか、分からないが、諦めて2人で乗車するようだ。
周りはカップルや友達同士、家族が多い中1人で乗るのは初めてだが、2人が同じコーヒーカップに乗っている様子が面白くて、スマホを構えて動画を回しておく。
すると、2人は私のスマホに気が付いたのか、口パクで「撮るな」と言っている。声を出してしまったら2人にバレてしまうことを危惧しているのは流石だと思う。
私は流れているBGMが大きくて聞こえない振りをし、そのまま撮影した状態でコーヒーカップは動き出す。
私はほとんど回さず2人がコーヒーカップを乗っている映像を撮り続ける。
2人は映りたくないのか、全力でコーヒーカップを回しており、かなりの速さが出ていた。
1番早く回っているので、逆に目立っていて大丈夫か?とも不安になるが、映像としては面白いのでオーケーとする。
1分ほどでコーヒーカップは終わり、2人は次の場所へ行ってしまった。
私たちも追うために、シュウヤくんとイブキくんの所へ行くと、2人とも回しすぎて酔ったのか、とても顔色が悪そうだった。
2人を追うのは一旦止めて、近くのベンチに座らせる。
「お水買ってくるからちょっと待ってて」
私は近くの自販機が無いか探していると、ちょっと離れたところで自販機とユアさんとチアキを見つける。
メリーゴーランドに乗り込むようだ。
私は水を買うのを一旦やめて、2人のことを見守る。
2人はそれぞれの馬に乗ってメルヘンなBGMに合わせて馬たちが回り出す。
まるでおとぎの国の王子様とお姫様みたいだなと思って見惚れる。
この間に、数秒の動画と写真を何枚か撮影しておく。
2人が楽しそうに乗っていて羨ましいと思いつつ、絵になる2人の邪魔はしたくないと思い、撤退する。
2人のメリーゴーランドに感動しながら、イブキくんとシュウヤくんの座っているベンチに向かう。
「水買ってきてくれたか?」
体調が悪いのに、気が利くところさすがだ。シュウヤくん。
だが、私はユアちゃんとチアキくんを見るのに夢中になっていて、本来の目的であった水を買うという行為を忘れてしまっていた。アホである。
「ごめん!買うの忘れてた」
「何してるんだよ」
覇気のないツッコミをイブキくんはする。
「私の1口飲みかけの水で良ければあげるよ」
申し訳なく開封済みのペットボトルを2人の前に差し出す。
まずはとても顔色の悪そうなイブキくんに渡す。
「いや、いいよ」
「いいの!顔色悪いから早く水分取りなって」
「だからいい」
「そんなに嫌なら私が飲ませてあげる」
私は彼の口元にペットボトルの蓋を開けて持っていくと、それが嫌だったのか私からペットボトルを奪い、豪快に水を飲む。中身は半分ほど無くなってしまった。
「じゃあ、シュウヤくんも飲んで」
そのペットボトルを渡す。
「イブキの後のやつをか」
「じゃあ、今から買ってくるからそこで待っていて」
私が買いに行こうと歩き出すと、彼はイブキくんの飲んだあとのペットボトルを飲んだ。あと、1口のところで飲み干さない。
「2人とも回復した?」
「まあ」 「少しは」
私もシュウヤくんからあと1口の水の残ったペットボトルを貰い、喉が乾いたので、間接キスになってしまうが、生きるためには水分は必要だと割り切って飲む。
そして、近くのゴミ箱に捨てる。これで荷物が軽くなった。
そしてベンチに戻ると、2人は驚いた顔をしてこちらを見ている。
「ヒマリは気にならないのか?」
イブキくんは私に問う。
「あ?間接キス?」
「そうだ。俺の後に飲んだだろう?」
「だって、友達同士だったらやるじゃん?だから、私も喉が渇いていたし、飲んだだけ。別に深い意味はないよ?」
自分自身にも言い訳をする。そう思わないと恥ずかしくて死にそうだ。
「確かに、友達同士なら飲み物や食べ物を共有するのは理解出来るが、だが、男女は別じゃないか?」
シュウヤくんはそう指摘する。イブキくんもシュウヤくんの意見に賛同するように頷く。確かに、その意見も正しい。だが、何故そこまで間接キスにこだわる?別に飲み物が飲みたかったからみんなでシェアしただけだ。
「そうかもだけど、今回は喉が渇いてたから飲んだだけじゃダメなの?」
「だから、それで勘違いするやつだって出てくるだろ?」
イブキくんは指摘する。そんな私如きがしたところで勘違いなんてしないし、むしろ気持ち悪がられるだけだ。もしかして、キモイと思われてしまったのか。そうだよな。これから気をつけないといけない。
「まさか他の人にもやったことがあるとか?」
シュウヤくんは私に尋ねる。
「女の子同士ならよくやるけど、男の子とは初めてだったよ」
「女子同士はよくやるなのか」
シュウヤくんは衝撃を隠せていなかった。まあ貴族はそもそも食べ物や飲み物をシェアする価値観を持ち合わせていなさそうだから、まあ理解出来る。
「今後もし、男にまた同じことやるなよ。約束な」
イブキくんに忠告される。
「わかった。もし2人がまた飲み物に困っていても飲みかけの水、渡さないようにするね。
そうだよね。常識がかけていたよ。ごめん」
イブキくんは頭を少しかいていたが、「話は終わりだ」と言って、2人の尾行をスタートする。
「そういえば、2人は今どこに行ってるのか分かるのか?」
「うん。スマホに搭載されているGPS機能を使って今どこにいるか、把握出来るよ。
事前にチアキくんのスマホと位置共有アプリを連携させてあるから、起動させると出るはず」
そういってアプリを開くと、私たちがいる位置に赤い丸のマークが示され、チアキくんとユアさんがいるのが緑の丸マークで表示される。
「この緑色のマークのところに行ってみよう」
マークの所をめがけて向かうと、晴れているのにそこだけほの暗い雰囲気を漂わせた建物が目の前にある。お化け屋敷のところにマークは示してあった。
カップルといえば、どちらかが怖がればお互い距離感が近くなってスキンシップが取れて、かつ守れば好感度が上がるという最高の場所だ。
「ここには入らないのか?」
イブキくんは私に不思議そうに聞く。いつもなら乗り気の私もあまり気乗りしないのである。
「うん」
「何故だ?」
シュウヤくんも疑問だったようだ。
このまま何にも言わなずに乗らないと主張し続けるのもよくないと思い、白状する。
「私、お化け屋敷苦手なんだよね。ビビりだからさ〜。出来れば入りたくないんだよね」
そう伝えると2人は悪い顔をしだす。
さっきの復讐なのか、私は何故かお化け屋敷に連行されている。
抵抗しようとしたが、2人の力が強くて手が外せない。諦めて入っていく。
2人はビビりではないのか、ズカズカと進んで行き、距離がどんどんひらいていく。
2人は後ろを振り向き、私の片手を各々握り、引っ張ってくれる。
「ホントに怖がりなんだな。手がとても冷たい」
シュウヤくんは私の手の冷たさを心配する。
「言ったじゃん。口に出していないけど、割と怖がってるよ」
「身体は素直だな」
イブキくんは余計な一言を言う。
なんか変な意味に聞こえるからやめい!とはツッコミ出来なかった。
早く終わってくれと思いながら、心臓がバクバクしながら、声も上げずに1人でビビりまくる。
やっとの思いで出ると、どっと疲れが出る。
「はあー、やっと出れた」
「ビビってる割には声は出なかったな」
イブキくんは私に叫び声をあげて欲しかったかのように言う。ビビりには声を出せないタイプもいるのだと教える。
「私はビビりすぎると逆に声出ないから一緒に入ってもつまらないよって言いたかったよ。
普通の女の子だったら、キャーキャー言いながら楽しむけど、私にはやりたくても出来ないね」
「ヒマリはビビりなのに、声は出ないなんて珍しいタイプなんだな」
「まあね、もうこの話はやめてご飯食べよ!!」
私は2人をついてことという感じで、先程のビビっていた身体をほぐすように歩く。
少し歩くと、外のワゴンがある。看板に書いてあるメニュー表を見ると、飲み物とホットドッグが売っているようだった。
近くの席に荷物を置いて場所取りする。
「私が買ってくるよ?何がいい?」
「いや、俺たちが行くからヒマリは座ってて」
「ああ、飲み物は何がいい?」
「それじゃあ、ウーロン茶で」
「わかった。買ってくる」
そう言って、2人は仲良く買いに行った。
2人が仲良くなってよかったと思う。本当に兄弟みたいに仲良くてなんだか羨ましい。
2人の写真を隠れて撮る。
何を話しているか分からないけど、良い顔してる。
ホットドッグとドリンクを買ってきてくれた。
「ありがとう。お金払わないと」
「いいんだ。さっきヒマリを困らせてしまったからその分のお詫びだ。受け取ってくれ」
そう言われて有難く、ホットドッグとドリンクを受け取る。本当に気が利くなと感心する。同い年だと思えないぐらい周りが見えているな。
まず、ホットドッグを1口かじる。美味い。ソーセージがジューシーでマスタードとケチャップが相まって良さを引き出してくれる。そして、ちょっと固めのパンが逆にいい味を引き出してくれている。
私はお腹が空いていたからか無言で食べ進めすぐに食べ終えてしまう。
「あ〜美味しかった」
「そんなにお腹空いていたのか?」
シュウヤくんは驚きながら聞く。将来良いパパになれる。
「うん。朝ごはん食べている時間なかったから、まだ全然食べるよ!追加で何か買ってくるけどいる?」
2人ともまだホットドッグを食べている最中だったので、要らないようだ。
私はワゴンのメニューに書いてあったソフトクリームを購入するため列に並ぶ。
すると、後ろに並んだ私と同い年ぐらいの女の子たちの会話が耳に入ってくる。
「あそこに座っている男たちめっちゃイケメンじゃない?」
「どこどこ?」
「すぐそこのテーブル」
後ろの子たちが指を差した方を見ると、イブキくんとシュウヤくんが座っているテーブルだった。
「マジじゃん!あんな良い男2人も連れてるってことは相当美女なんだろうな」
目の前にその男たちと歩いている女いるんですが。
そうだよな。普通に考えたらあんなイケメンと歩けるなんて夢だよな。
めっちゃ戻りずらいじゃん。
そう思いながらも列は進む。
周りの席の人も彼らのことを見ていて、女子の目線怖い。
私の番になると、どうしようと悩みながらソフトクリームを2個買っていた。
バニラとチョコ味のそれぞれを購入し、両手にアイスを持ったまま、テーブルに戻る。
やけ食いする気持ちで、他者の視線を気にしないように着席する。
「2つも食べるのか?」
「うん」
「お腹冷やさないか?」
私は小さい子供か。
シュウヤくんがオカンポジすぎて、1家に1台シュウヤくん欲しい。
「ありがとう!お腹強いので問題ないよ」
バニラアイスをパクリ。冷たくて美味い。
次にチョコ味も食べる。こちらの方が甘さがダイレクトに伝わってきて疲れていた体に癒しを与えてくれる。
美味すぎる。
私は黙々と交互にアイスを食べる。
すると、日中は暑いからかアイスが溶けるスピードが早くてコーンから垂れて手にまで流れてくる。
拭かないといけないと思うが、もう片方もアイスを持っているので、ティッシュで拭けない。
「ごめん、シュウヤくん。チョコアイス持ってくれない?」
「ああ」
そう言って渡してる間に、イブキくんは私の手についたバニラアイスを舐める。
「甘くて美味しいな」
「え?」
私は困惑する。イブキくんの先程の行動は普通で当たり前みたいな雰囲気で話を続ける。
「もったいないから、落ちる前に食べただけだ。ほらまた溶けそうだよ?」
そういって、また私の手に付いたアイスをなめようと顔を近づける。私は彼の顔をさけるように椅子から立ち上がる。
「いやいや、さっき間接キスでビビってた人が公共の面前でなんて破廉恥なのことするの」
私の心臓はまだバクバクしながら、彼の行動に腹を立てる。
「それとこれは別だよ。何でそんなに怒ってるの?」
彼は私の表情を不思議そうに見る。
「一旦トイレに行ってくる」
イブキくんにバニラアイスを渡し、トイレに向かう。
はー。めっちゃ恥ずかしいし、何であんなところで手なんて舐めるんだよ。異世界じゃあるまいし。
いや、異世界人だった。冷静なツッコミをし、頭を冷やす。
バニラアイスで汚れた手を洗う。
舐められたところは赤くなっている。顔を上げて鏡に映る自分を見ると顔が赤い。暑さのせいじゃないよね。
2人の前に戻るか迷う。どうしよう。今の熱を下げるためにもう一度手を洗う。




