第24話 チアキくんとデートプラン
最近の帰りはイブキくんかシュウヤくんのどちらかに送って貰うことが多かったが、今日はチアキくんからご指名を貰い、帰ることになった。
みんなも何でチアキくんが私と帰ると言ったのか分からないようだった。不思議に思われながら、みんなと分かれる。
ユアさんはいつも実家で夕食を食べるため、チアキくんは1人になる。だけど、何で私と帰るんだろう。私がいとこだと覚えているのかな。だからこのタイミングで接触してきたのかなと思う。
彼とはほとんど接点も無いため、話すことがあるだろうか。
そんな不安を抱えながら、チアキくんと横並びになって歩く。
「ヒマリちゃん、久しぶりだね。
ーー俺のこと、覚えてる?」
チアキくんは先程までの改まっていた口調から気さくに声をかけてくれる。
「5、6歳の夏休みに一緒に遊んだことは覚えてますよ」
私はまだ距離感が掴めないので、丁寧な言葉を使うようにする。
「ヒマリちゃんに他人行儀で話されるとなんだか違和感があるから、昔みたいにタメ口で話して貰えると嬉しいな」
彼は私に優しく笑いかけて、私もその提案を受け入れる。
「わかった!単刀直入に聞くんだけど、チアキくんはユアさんのことどのくらい知ってる?」
彼は私の質問に少し困った様子で、頬をかく。
「……実はさ、ユアのことはほとんど知らないんだ。
もちろん、ユアのご実家のことや実力だったり、学力などの情報は知っているけれども、ユアの本当の性格だったり、何が好みとかは分からないんだ。
だから、ユアと急にデートするって話になってどこで何をしたいのか、すぐに思い浮かばなかったんだ。婚約者失格だよね」
チアキくんは自分の行動に反省していた。たぶんこの婚約話は割と最近決まったものではないかと疑問に思う。
「ねえ、チアキくん?この縁談っていつ頃決まったの?」
「4月ぐらいかな?」
まだ2ヶ月も経っていないじゃないか。
それじゃあ、相手のことが分からなくても当然である。
「それならそこまで落ち込む必要はないと思うよ。
同じ学年ならともかく別の学年だと交流する機会も少ないから仕方ないよ。
ユアさんも基本的に放課後はお父さんと夕食を食べたりするから、早く帰宅しなきゃいけないって言っているし、私たちとティータイムしちゃうから、2人の時間を取るのってかなり難しい話じゃないのかな?」
少し憶測を混じえながら話しているが、彼は私の言葉に納得するように頷いていた。
「確かに、2人の時間を取るのは難しかったかもしれないね。
ユアさんと夕食を共に取ることはあったけど、親を含めたものだから2人きりではなかったし、2人の時間を貰えなかったと言い訳してしまえば楽だよ。
でも、もっと関わりを持とうと思えば、いくらでも時間は作れたはずだから、これは俺が悪いんだ」
なんて責任感が強いんだろう。そこまで考える必要ないとは思うんだけど、ここがチアキくんの良いところでもあるんだろう。
「そっか!なら次のデートで挽回しないとね!
チアキくんはユアさんとどうしたいの?」
「え?」
「だって、チアキくんは婚約者であるユアさんと仲良くなりたいんだよね?
ーーだから、デートにも行くってことだよね?」
「そうだよ。ユアは俺の事をどう思っているか分からないけれど」
彼は不安そうに語る。まあ、まだチアキくんに興味が無さそうなので、そう思う気持ちも分からなくもない。だからこそ、ここで好感度をあげれば、ユアさんにも気に入って貰えるかもしれない。
「それなら、チアキくんが行きたい所に行くべきだと思うよ!
例えば……さっき言っていた遊園地とかさ!」
私は無茶な提案を彼に持ちかける。
遊園地に行くということは、人間界でデートすることを意味している。
彼は信じられないものをみるように私を見た。
「そんなこと出来ない。人間界に行く魔法をかけることは今の俺には出来ないんだ。
父さん以外出来る人はこの世界を隅々まで探したって存在しない」
今は出来ないってことはいずれか出来るようになる予定なの凄いな。
そこに感心している場合じゃない。
その父親にお願いしてみようというのが、私の提案である。
実の息子からのお願いを聞かない親には見えないのでもしかしたら通るかもしれないと一か八か賭ける。
「そのお父さんにお願いしてみたらいいんじゃないかな?」
彼は私の発言に目を見開く。
「父さんにだって!?」
彼は今日1番の大きな声を出した。
初めて動揺する姿を見て私も驚く。
彼は「ごめん」と謝って、話を続ける。
「何て無茶なことを言うの……。
俺は1度も父さんにはお願いなんてしたことがないし、こんなことして失望されてしまったら、俺は……」
彼から見たら、おじさんはそんなにも恐ろしい存在らしい。私から見たら意外と何でも要望を通してくれる良い人なのに。
でもここは彼に交渉して貰わないといけない。
「大丈夫。私も一緒にお願いしに行くから。
もしダメって言われてから、また考え直そうよ」
「でも、父さんになんて言われるか……」
「でもじゃないよ。
まず、やってみたいことを伝えるのって凄く大切だと思うよ。とりあえず話だけでもしてみよう?」
彼の目を真剣に見る。
彼は私の本気を察したのか、それとも私を止められないと思ったのか、とりあえずは理解したようだ。
「わかった。一旦父さんのところへ行こう。まだこの時間なら校長室にいるはずだ。
今から連絡してみるよ」
そう言って彼は胸元のポケットに入っているスマホを取り出し、電話をかける。
「父さん、今から話したいことがあるですが、時間は大丈夫ですか?
ーーありがとうございます。今から向かいます」
業務的な連絡だった。
とりあえずアポは取れたので、いざ校長室へ。
彼は父親の元へ行くのに緊張しているのか、足取りが重そうだった。
そんなに親子仲が良くないことに驚きを隠せないが、とりあえず彼を励まさないと。
「きっと、大丈夫だよ!!
隣にいるのが私で頼りないけどだけど、でもきっと大丈夫」
私も自分の言葉で自分自身を鼓舞させる。
そして、校長室までたどり着く。
チアキくんはノックをする。「入りなさい」と声をがし、扉が開く。私もその後ろについて行く。
「よく来たね。あれ、ヒマリちゃんも一緒かい?
てっきり、チアキだけだと思っていたよ」
そういえば、私が行くことは伝えていなかったな。
でも、今はそこはどうでもいい。
彼はフッと呼吸を整えて話し出す。
「父さんに頼みがあって、ここに来たんだ。
ーーユアと仲を深めるために人間界へ行きたいです。お願いします」
そうして、彼は父親に頭を下げる。
「お願いします」
私も彼に続いて頭を下げる。
おじさんはすぐに私たちに頭を上げるように言った。
そして、良いのか悪いのかよく分からない表情で話を始める。
「まさか、息子からこんなお願いされる日が来るとは夢にも思わなかったよ」
これは良い意味なのか、それとも悪い意味なのか。
引き続き、おじさんの言葉に耳を傾ける。
「こんな願いを叶えるのは傍から見たらバカな父親だと思われるかもしれない。
だが、僕としては息子が婚約者である女の子とデートするために人間界に行きたいなんて可愛いお願いを聞かない親はここにはいない。
ーーそれで、彼女とのデートはいつ行くんだい?」
間髪入れずに彼は答える。
「今週末です」
「ああ、来週末のパーティーに向けての口実作りというわけか」
私たちの考えはお見通しのようだ。しかし今はこちらの要求が通ればなんでもいい。
「ちなみにヒマリちゃんもこのデートにはついていくのかい?」
おじさんは突拍子もないことを言う。
そんな訳ないじゃないか。気にならないと言われれば嘘になるが、流石にヤバい奴すぎる。
「いやいや、そんな野暮なこと出来ませんよ!
人間界のことに詳しいとはいえ、2人の仲にズケズケと入っていけるようなそんな神経は持っていません」
本心を伝えると、おじさんは笑う。
「君はやっぱり変わっているね。
僕が言いたいのは、チアキの保護者代わりとして君に付き添って欲しいとお願いしたかったんだ」
え?そういうこと?でも、付き添うとはどういうことだろう。
「付き添うとはどういう意味ですか?」
私の聞きたかったことをチアキくんが代わりに尋ねてくれた。
「チアキもユアも人間界には慣れていないよね?
そこで人間界に慣れているヒマリちゃんが後ろから見守ることで、チアキがもし上手くエスコート出来なくてもヒマリちゃんにアドバイスを貰えればユアさんを楽しませることが出来るだろう?もちろん、このことはユアさんには内緒で、だ。
ーーどうかな?」
期待の眼差しを感じる。
これはいわゆるストーキングしろと言われている。まあ親が子を心配するのはわかる。だが、本当に私が付いてきていいんだろうか。
そう思い、隣のチアキくんを見るが、父親に意見に納得していそうだった。
やはり親子だ。
「名案ですね!父さん!」
「そうだろう!
ーーという訳で、ヒマリちゃんには今週末、チアキとユアのデートに尾行して貰う」
尾行ってハッキリ言うんだ。まあ面白そうだからいいか!彼らの提案を受け入れる。
「わかりました!私の誇りをかけて、チアキくんとユアさんのデートが成功するように協力します!」
「頼もしいな!
チアキ、お前もヒマリちゃんを見習って自信をもって、デートに行くように」
「はい」
そんなこんなで話はまとまり、今週の土曜日の朝10時に校長室に集合。そこから遊園地に行って、19時に帰るという約束となった。
時間厳守だということで、あまり羽目を外してはいけない。
校長室を離れると彼は気が抜けたのか、今にも倒れ込みそうなぐらい疲れた様子で私にお礼を言う。
「ヒマリがいなかったら、俺たぶん、父さんには言えていなかった。
本当にありがとう」
「いえいえ、チアキくんがちゃんと気持ちを伝えられてよかった!私は本当にただ横にいただけだから何にも力にはなれていないよ。
チアキくん頑張ったね」
彼はその場にしゃがみこむ。
私よりも身長の高い彼がしゃが見込むと小さく見えて可愛いな。
思わず母性が働き、彼の頭を撫でる。
「よく頑張ったね」
緊張で力が抜けているのか、小さな声で「母さん」と言ったのが、聞こえた。
私、ママになれる素質があるんだと実感する。
彼は急に立ち上がって、私の背を一瞬で追い抜く。
「あ、ごめん。
つい、君の撫でる感じが心地よくて」
彼は頬を赤くしてそう言った。
「いや、いいの。息子を持つってこんな気持ちになるんだっていう追体験出来て楽しかったよ」
何を言ってるんだと思うが、口から漏れ出していた。
変な空気になるが、彼は私にツッコミする気力もないのか、帰ろうという空気になる。
女子寮まで送って貰う。
「今日は本当にありがとう。
土曜日もよろしくね、ヒマリ」
「はい!こちらこそ2人のデートが成功するように祈っています!」
彼に手を振り、寮に入る。




