第22話 リュウ先生と1日 その3
午後の授業も何とか終わり、帰ろうと思うが何か忘れている気がする。
隣の席のイブキくんは放課後にタブレットを開いて文字を打ち込んでいる。
ヴァンパイア族の4人も同じようにタブレットとにらめっこしている。
ようやく状況を理解する。反省文を書かねばならないことを思い出した。現実逃避をしていて、すっかり忘れていた。
早く書かねば放課後が無くなる。
タブレットを机の上に出して、作文モードにし、文章を考える。
私が悩んでいる内にシュウヤくんとユアさんは反省文を出し終えたのか、帰り支度をしていた。まだ5分も経っていないと思う。
「ワタクシとシュウヤは先に帰りますわね」
余りの早さに驚きながら尋ねる。
「もう書き終えたんですか!?」
「ええ、そうよ!お昼休みの時にある程度考えておいたの」
流石だ。私もそうしておけばよかった。今更後悔しても遅いのだが。
「流石ですね!それではまた明日!」
「ごきげんよう」
「また明日な」
ユアさんの後を追い、シュウヤくんも教室を出ていった。
私は『すみませんでした』以外の文字が思い浮かばす唸っていると、ふぅーという声が隣からしたので見る。
「もしかして終わったの?」
「ああ」
隣のイブキくんも書き終えたようだ。非常にまずい。仲間がどんどんいなくなる。ヒナタくんとタクトくんはどうかなと思い、横を見ると、2人も終わったかの喋っている。
私だけがこの反省文クエストをクリア出来ていない。
「ヒマリはもう少しで終わりそう?」
進捗を聞かれて、私はまだ終わらないとは答えられない。
「うん!あと、もう少しで終わるから先に帰っていいよ!」
私はグッドポーズをしながら話す。
「わかった。また明日」
イブキくんが席を立つと、2人も帰るようだ。
「またね!」 「また明日」
3人の背中を見送る。
さて、この教室は私一人だけとなってしまった。
一体どうすればこのクエストをクリア出来るんだ。
ネットで反省文を調べてそのまんま引用する手もあるが、リュウ先生はそれに気が付いてしまいそうな気もするから、下手な小細工出来ない。
正々堂々戦うしかないのか。
タブレットと睨み合いしながら、やがて45分が経つ。
こういう時に語彙力と文才が欲しい。
誰か私を助けてくれ〜!!
そう天に仰ぐと、タブレットがいきなり文字を打ち込み出す。
バグが発生したのかと、タブレットの画面をタップするが、全然止まらない。
どうしようと慌ててる間に止まった。
再びタブレットの画面を見ると、反省文が完成している。
しかも、3枚分も書かれている。
天才すぎる。この天才プログラムを入れてくれた誰かに感謝をしたい。
文章に目を通すが、しっかりと反省している雰囲気が出ていて素晴らしい。文句のない文章が目の前に現れた。
確認が終わり、送信する。
やっと帰れると一安心して、腕を伸ばす。
気を抜いていると、いきなり教室のドアが開き、びっくりする。
「まだ残っていたのか」
声のする方を見ると、リュウ先生が入ってきた。今日会いたくない人ランキング1位だ。
「はい。反省文を書いていまして」
「ああ、そうだったな」
先生、反省文のこと忘れていたんかい!とはツッコミ出来ない。心の中で留めておく。
「何とか先程書き終えまして、そろそろ帰ろうかと」
「それじゃあ、今すぐその書き終えた反省文を見せてみろ」
意外な展開に私は思わずタブレットを隠す。
「何故ですか!?先生は送信したものを見ればいいじゃないですか」
正論でアタックする。
「目の前にあるものを確認してはならないのか?」
正論でカウンターされる。先生は私の様子がおかしいと、疑念を抱いたようにこちらを見る。
「いえ、それでは確認お願いします」
これ以上抗っても無駄だと思い、タブレットを差し出すため、教壇の所まで足を引きずりながら歩いて持っていく。
先生は受け取り、先生用の椅子に座り、反省文をチェックする。
私は自分の席に戻ろと歩き始める。
「すぐに読み終えるから、そこで立っていろ」
そう言われて、その場でステイする。
2分ほど静かな時間が流れて、先生はタブレットから目を離す。
「本当にお前が書いたのか」
また疑いの目でこちらを見る。先生の鋭い視線がこちらの心まで見透かされそうだ。それに負けないように自信をもって答える。
「そうです!」
「そうか……帰っていいぞ」
あっさり帰宅許可を貰える。
タブレットを返して貰い、私は自分席に戻る。
先生は私の様子を見ている。まだ何か気になることがあるんだろうか。
「お前のその足、ガーゼが血を吸いすぎているから、帰りは校長室に寄ってから帰れ」
膝を見ると、ガーゼが赤く染まっていた、
「ありがとうございます!そうします!」
礼を言って、帰り支度をする。
「先生!また明日!」
先生に挨拶をして、校長室に向かう。
教室から校長室まで普通に行けば3分ほどで到着するのだが、足を怪我したせいか道のりが遠く感じる。いつもより倍に移動に時間をかけながらも、たどり着く。
ドアをノックすると、声が聞こえて入室する。
ドアが開かれると、おじさんはいつもみたいに校長用の立派な椅子に座って出迎えてくれる。
「ヒマリちゃん待っていたよ。さあ、座って」
近くにあった来賓用の椅子に座るよう言われる。おじさんは机の引き出しを漁って、何を持ってきてくれたのかと気になり見ると、絆創膏の箱を手にしていた。
この世界にも絆創膏はあるんじゃないか。
「絆創膏は僕しか持っていないから、内緒だよ」
やっぱり存在しないのか。
絆創膏がないと不便だと思い、おじさんに提案する。
「絆創膏はとても便利だから、保健室に設置しましょうよ。ちょっとした擦り傷にも使えますし、ガーゼよりもいいと思いますけれど」
ちょっとした文句も込めながら話すと、彼は私の言葉に少し難色を示す。
「アンデッドはね、絆創膏をするほど出血しないだ。
僕たちみたいなウィザードや人間よりも回復力が早いみたいで、1日経ったら治っているみたいだから、ガーゼをあてておけばいいという考えのようだ。
僕も設立当初は絆創膏を保健室に設置していたのだが、使う生徒ほとんど居らず、撤去した訳さ」
なるほど。そういえばここはアンデッドの世界だった。人間よりも回復するスピードが早いという認識が抜け落ちていた。
「だから、ヒマリちゃんには絆創膏を渡しておくね」
絆創膏の数十枚入った箱を貰う。
「ありがとうございます!」
和やかな雰囲気からおじさんは珍しく真面目な顔をする。
「そういえば、ヒマリちゃん。
校外学習の時に迷子になったと聞いたけど、どうしてなのかな?」
ここでも事情聴取をされるようだ。おじさんには正直に全てを話す。
「あの日遅刻しそうになって、焦って人間界で使っていたスマホを持ってきてしまいました。それで連絡が取れず、友達が偶然渋谷にいたので、合流しました」
「なるほど」
おじさんは私の言葉を咀嚼するように頷く。
「事情はわかった。それなら、先に私に話せばよかったじゃないか」
確かに。あの時おじさんもあの場にいたのだから、報告するべきだった。
「すみません。そこまで頭がまわりませんでした」
素直に謝罪をする。
「反省もしているみたいだから、今回は注意だけで終わりにするけど、もしまた同じようなことがあったら、その時は何かしらの処分は与えないといけなくなるから、気を付けてね」
優しい口調で話してくれる。
「はい」
「君の人間界のスマホはここで使えないのだから、僕が回収しておいた方が良さそうだ。また間違いをしないように」
おじさんの言っていることは正しい。でも預けるのに少し抵抗があるが、渡すしかない。カバンの中に入れていた人間界のスマホを渡す。
「ありがとう。君が人間界に帰る時は必ず返すから安心して欲しい」
おじさんは真ん中の立派な机の引き出しにしまった。
「これで僕からの話は終わりだけど、何か聞きたいこととかある?」
聞きたいことがあったような気がするが、すぐに思い浮かばない。
「えーっと……じゃあヴァンパイア族は何故人間の血が好きなんですか?」
安直な質問をしてしまう。
「昔からヴァンパイア族は人間の血を吸わないと、長生き出来ないみたいだ。
自分たちでも血の生成すること自体は出来るらしいのだけど、人間の血は至高の飲み物らしくて、貴族のヴァンパイアたちはこぞって飲みたがる。
美味しそうな血の匂いがすると、理性がなくなって吸血行為をしてしまうようだ。
君も今日体験したみたいにね」
なるほど。人間の血は高級な飲み物。やっぱりここにいてはいけない存在ではないか。
改めて私がここにいることのイレギュラーさを実感する。
「もし血が出たらすぐに拭くことと、ヴァンパイア族からは離れて欲しい。そうじゃないと襲われてしまう」
おじさんは私を心配そうに見ながら対処法を話した。
「吸血行為を防ぐことって無理なんですか?」
「そうだね、力があれば止められるかもしれないけど、ヒマリちゃんはか弱き乙女だから、とりあえず走って逃げた方がいいね」
か弱き乙女なんて生まれて初めて言われた。あと、なんかゾンビ映画みたいな対処法で少し面白い。
「分かりました」
「他に聞きたいことはある?」
「特に思い浮かばないので、聞きたいことが思いついたらまた連絡してもいいですか?」
「もちろんだよ。いつでもウェルカムだからね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、夕日も落ちてきたから気を付けて帰ってね」
私は返事をして、席を立つ。
校長室を出て窓を見ると、夕焼けと夜の切り替え時なのかオレンジから紺色のグラデーションが綺麗だった。思わずスマホをポケットから出して写真を撮る。
その景色を見ながら寮に戻る。
2日後、私の怪我はマシになり、先生にこき使われるが、先生の良いところを知る機会となった。




