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第18話 仲直り


今日はイブキくんとシュウヤくんの仲直り大作戦の決行日でもあった。

ユアさんはヒナタくんとタクトくんを連れて、教室から出ていた。私もゆっくり教室を眺めている場合ではなかった。

教室から出ていこうと思い、席を立ち、カバンを持つ。


「ヒマリ、待って」


隣にいたイブキくんに呼び止められてしまう。


「どうしたの?イブキくん?」


「帰るの?」


ご主人様がいなくなって寂しい子犬みたいなキュルキュルとした目でこちらを見ないで欲しい。

教室には私とシュウヤくんとイブキくんしかいないとはいえ、そのキャラ崩壊というかギャップを生み出さないでくれ。好きになってしまうだろうが……。チョロいオタクなんだから……。


「そうだけど?」


「俺も一緒に……」


イブキくんに誘われるが断る。


「私、今日他の人と帰る予定あるから、またね」


彼に手を振って、その場から逃げるように立ち去る。


これで舞台は整った。

シュウヤくんファイトだ。

心の中でシュウヤくんにエールを送り、寮に戻ろうと思いつつ、2人のことが気になってしまう。

このまま部屋に戻ってもモヤモヤするだけだと思い、とりあえずB棟の図書室へやってきた。


棚からなんとなく目に入ったタイトルの本を取り、席に着く。本を1ページずつめくるが、私の脳みそが文字を認識せず、内容が入ってこない。

本を閉じて、ぼーっとする。


他のことを考えようと思うが、やはりイブキくんとシュウヤくんのことを思い浮かべてしまう。


大丈夫かな?

ちゃんと話せているかな?

どうにかして2人の会話が聞けないかな?


やっぱり教室に戻るか。でもイブキくんって、察知能力凄いから、廊下にいてもバレるよな。


そう思っていると突然、2人の声が頭に響いてくる。

これは一体なに……?


神経を研ぎ澄ますように聞こえてきた声に集中する。




◇◆◇




「ユイト、すまなかった」


「いきなり、何なんだよ」


イブキくんは不機嫌そうな声で反応する。


「10年前のことを謝るのは、今更すぎるとは分かっている。だが謝罪させて欲しい。

ーーすまなかった」


凛とした誠実な声で謝るシュウヤくん。


「謝れば済むと思ってるのか?」


イブキくんは勢いよく立ったのか、ガターンと椅子が倒れたような音がする。


「ふざけんなよ。今更謝ったって母さんは帰って来ないし、あの家もない。

僕は1人ぼっちなんだよ」


彼は怒りながらもすすり泣いているような声を出す。


「ユイト……」


シュウヤくんは彼の気持ちを理解したのか、切なく呟くように名前を呼ぶ。私の心臓がギュンと引っ張られるような胸の苦しさを感じる。


「シュウヤ、お前は僕に謝る必要は無い。

だって、お前は悪くないからだ。


最後まで僕に寄り添ってくれようとしてくれてただろ。だから、僕はシュウヤに謝って欲しいわけじゃないんだ。


ただ僕がシュウヤとどうやって接したらいいか分からなかっただけなんだ」


「そうか。でも、俺の家族はお前たちの家族に悪いことをしたのは間違いない。

俺はユイトたちを傷つけてしまったことは忘れないし、許されないことをしてしまった過去は変わらない」


「シュウヤ……」


「でも、こんな俺ともこれから仲良くしてくれないか?俺はユイトともっと話したい。昔みたいにな」


シュウヤくんは先程までの苦しかった雰囲気を吹き飛ばすような明るく、昔の友達に寄り添うような優しい声で提案する。


「僕もだ。シュウヤと話したいし、出来ればまた前みたいに仲良くしたい」


「ユイト」


そこで音声は途切れる。

めちゃくちゃ良いところだったのに。

でも仲直り出来てよかった。

素敵なラジオドラマを聴いた後のような、心の温かさを感じる。


そういえば、何で2人の会話が聞こえたんだろう。盗聴器はそもそも持っていないし、脳に直で聞こえてきたからテレパシーの1種なのか。もしや、ヴァンパイア族が使える異能力的なものか。

分からないことを考えても無駄な気がしてきたので、ここでこの考えはストップさせる。


先程の現象を不思議に思いながらも、2人が仲直りして私もハッピーな気分になり、スキップしそうなぐらい軽い足取りで寮に戻ろうと、取ってきた本を元に戻して、B棟を出る。


すると、先程仲直りしたばかりの2人と遭遇してしまう。仲良さそうに話しながら並んで歩く姿を見て、ちょっと涙が出そうになる。


私はこんな最高な2人の仲に水を差すにはいかないと思い、木の後ろに隠れて、彼らがいなくなるのを待ちつつ、こっそり見守る。


するとシュウヤくんと目が合ってしまう。10m程離れているのに。何故分かるんだ。

シュウヤくんは私を手招く。私は仕方なく、2人の元に向かう。


「シュウヤくん、何で分かったの?」


「ヒマリの匂いがしたんだよ。風に乗って微かにだけど、その方向を見たら偶然居ただけさ」


「凄く嗅覚が優れているんだね」


まるで警察犬みたいな嗅覚だ。

将来立派な警官になれそうだな。この世界に警察はあるのか知らないけれど。


「ヒマリは俺たちが仲直り出来たのか、聞かないの?」


イブキくんが不思議そうに私に尋ねる。

そういえばそうだったことを思い出す。でもこの様子を見れば、誰でも分かる。

私はニヤニヤを隠せないまま、2人を見る。


「仲直り出来たんでしょ?」


「ああ」 「うん」


2人は照れくさそうに返事する。その言葉を聞いて、更に喜びが込み上げる。


「よかった!!


じゃあ、仲直りした2人の時間をこれ以上は邪魔したくないので、私はここら辺で失礼するね!」


立ち去るタイミングとしてはバッチリなところで、反対方向に歩き出すと、ほぼ同時に手首を掴まれる。


「行くな」 「待ってくれ」


引き止められたことに驚く。何だこの展開。

とりあえず状況を確認したいと思い、振り向こうとしたら両方の手首を掴まれているためか振り向けなかった。


「あの振り向けないので、2人とも離してくれない?」


そう言うと手首を解放してくれる。

私は改めて2人の方に向き直すと、今度はイブキくんが私の左手を握る。


「何故?手を握るんですか!?」


戸惑いすぎて、思わず敬語になってしまう。


「もう逃がさないために」


私は逃亡者か。逃げも隠れもする気は今のところはない。


「いやいや、そんな逃げないよ」


「ダメだ。だって今日居なくなっただろ?」


確かに。ぐうの音も出ない。言葉の火力が高すぎて、(ひる)む。

するとシュウヤくんも私の右手を握る。


「そうだな。また勝手にどこかに行かれたら困るから、このまま手を握っておこう」


はーん?何なんだ2人とも。一体何がしたいんだ。

2人の考えが読めないが、これがホントの両手に花だな。


イブキくんは男の子の手の割に華奢な感じがし、シュウヤくんの手の方がゴツゴツしていて大きいな、とか思っている場合じゃない。


こんなところを誰かに見られたら、私が学年1のイケメンたちを天秤にかける二股最低女というレッテルを貼られてしまう。

どうにかして、手を離さないとこのままじゃまずい。


「2人は仲直り記念に何かしないの?」


「そういえば、俺とヒマリで友達になった日に写真を撮ったな」


「おい、それ聞いてないぞ!?」


イブキくんは急に声を荒らげる。

そういえば、彼には伝えていなかった。でも、あの写真を見られるのは恥ずかしい。


「だって言ってないもの」


「何で!?」


「え!?わざわざ言う必要ある?」


「別に……無いけど」


イブキくんが今度は不貞腐れてしまった。

シュウヤくんはスマホを取り出して、イブキくんに見せていた。


「これがヒマリと撮った'初めて"の写真だ」


「うわー、マジかよ。羨ましい」


「そうだろう?」


彼らは私たちの写真のことで盛り上がっている。

その写真を自慢されるのは恥ずかしさのあまり顔が燃えるぐらい熱くなる。あれは黒歴史認定したものだから、掘り起こさないで欲しい。


「あの、本人がいないところでそれやって貰ってもいいですか?物凄く恥ずかしいです」


「ごめん、ヒマリ。嬉しくて」


シュウヤくんが嬉しそうな顔をする。おいおい、可愛いじゃないか。


「話すのはいいんだけど、私のいないところやってね」


「わかったよ」


「いいよ。僕は今週末にヒマリとデートするの決まりな?」


「え?何で!?」


この話の展開でその提案は一体どういうことだ。


「言ってたじゃん。僕に何でもするって」


そんな話も言っていな。自分の発言に責任をもっていないことがバレてしまう。


「あ〜そういえば言ってたね」


他人事みたいに話す。


「だから、今週末デートしよ?」


なんだそのゲームのスチルみたいなポーズとセリフは。

私に向けられている言葉なのが、信じられない。夕日がスポットライトみたいにイブキくんを照らしていて、首をこてんとさせながら、普段のクールな声でなく、甘い声で私に問いかける。そのポーズ。オタクは好きなやつです。これを断れるのは相当な強者だ。


「拒否権はないですよね?」


「もちろん。約束だから」


約束を破るのは良くないので、受け入れる。


「はい。わかりました」


「傍から見ていると、お前ら2人は変だな。何か不思議な空気だった」


シュウヤくんはボケてるのかツッコミをしているのか微妙なラインだ。


「失礼な!今この状況だって、不思議というか変だよ!これ誰かに見られたら私二股女だって、来週、クラスの皆から白い目で見られてしまうかもじゃん」


2人はようやく、自分たちがやっていることを客観視したようだ。


「ユイト、お前がヒマリの手を離せ」


「嫌だ、シュウヤこそ先に手を離せよ」


「ユイトが先に手を繋いだろ」


「俺はシュウヤより先にヒマリと仲良くなったんだから、いいんだよ」


2人の不毛な言い争いをしていて呆れる。そんな小さい子が幼稚園の先生を取り合いするような図に見えてきて可愛い。

すると、手がするりと抜けた。2人の手を握らせてしまえばいいんだ。

2人の手を握らせようとくっつかせると、2人は気がつく。

私の手が外れていることに。


「やっと解放された!!

私は帰るから、2人は仲良く言い合いしていてよ!」


「待ってくれ、ヒマリもう少しだけ」


「ヒマリ、俺と話そうよ」


「もう無理!!またね!!」


私の我慢は限界になり、逃げるようにこの場を去る。2人の顔は見れなかった。


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