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16.5話 校外学習 迷子になったヒマリ ユイト視点


シブヤに着き、僕たちは初めて見る渋谷の街に感動していた。人間たちが何かの合図で動き出すと、ヒマリも前を歩き案内すると言った1分後、彼女は僕たちの前から姿を消した。


最初はまさか本当にいなくなったとは思わなかった。だから、ヒマリが行った方向を見て、冗談はよしてくれと思った。


あの時と同じようにまたいなくなってしまったのだろうか。

ヒマリの匂いを追うとするが、人が多すぎてすぐに匂いは混ざり合い、分からなくなってしまった。


この人の波にのまれてしまったのが、周囲を見たがいない。

この前もそうだが、彼女は隠れるのが上手だ。だから見つけ出すには骨が折れるだろう。


だがそんな時のためのスマートフォンだ。

みんなも同じことを思ったのか、道の邪魔にならないところで集まり、1人ずつ電話をかけてみることする。


まず僕からかけることに。

ポケットからスマホを出し、チャット欄のヒマリのところをタッチして通話する。

着信音はずっとなったままで、やがて不在着信になる。何故だろう。

朝、ヒマリがスマホを持っていたのはこの目で見たはずなのにどうしてだ。もしかして、朝バタバタしてきたと言っていたから、充電をし忘れたのか。彼女ならやりそうだ。


みんなもかけてみたが、ヒマリは出てくれない。

連絡が出来ないので、みんなで手分けして探すことになった。


先程まで歩いた駅周辺や交差点のところを探してみるが、ヒマリらしき子は見つからない。

一体どこに行ってしまったんだろう。


人も多くてなかなか見つけられないと思い、近くの商業施設の中にいるかもしれないという意見になった。

次はまだ僕たちも行ったことがない場所に行ってみる。大きなお店だ。こんな大きい建物はあまり見たことがない。

みんなで入ってみると、店内は人とキラキラ輝くライトや物でいっぱいだった。


手分けしてワンフロアごとに探してみることになった。

僕が探すのは本屋が大きく占めているフロアだ。なんだか、ヒマリの香りがする気がする。微かにだけど、温かくて不思議な匂いを感じた。

本屋を抜けると、近くの椅子に座っているヒマリを見つけて、ひとまず安堵する。

グループチャットにヒマリを発見したことを伝える。


何故こんなところにいるんだろう。


ヒマリはスマートフォンの画面に夢中になっているようだ。真剣に見つめている。

スマホの充電が無いわけじゃなさそうだ。それじゃあなんで、僕たちの電話に出てくれなかったんだろう。


もしかして、電話があったことに気が付いていないのだろうか?それとも無視をした?

ヒマリはそんなことをするような子ではない。分かってはいるけど、でも……。


色々な考えや想いが頭の中で混ざり合いながらも、このまま突っ立ていてもわからないと思い、彼女の元に向かう。


「ヒマリ……やっと見つけた。

どこに行ってたの?」


ヒマリと会えて嬉しいのか、それとも安心したのか、体の力が抜けて彼女の前にしゃがみこむ。


「大丈夫?」


彼女は優しい声で話しかけた。

不甲斐ない姿を見せてしまう。


「大丈夫じゃないよ。

でもヒマリも迷子になって怖かったでしょ?」


僕の声は震えていた。今にも泣き出しそうな声だった。

顔を見上げると、ヒマリは僕と同じように泣きそうな顔で僕の顔を見ている。


「ごめん。1人でさまよっていたらここにたどり着いた」


そうだったのか。1人で寂しかっただろうに。


「もう二度とヒマリと会えないかと思った」


僕が寂しかったって伝えるのは今は違うのに、何でこんなことを言っているんだろう。もっと、彼女に言うことがあるだろう。


「ホントにごめん。私、校外学習が楽しみすぎて1人で突っ走っちゃった」


ヒマリに謝らせたい訳じゃないのに。


「ヒマリらしいけど、これからは手を繋がないとヒマリはどこかに行ってしまいそうだ」


僕は何を言っているんだ。感情が抑えられない。彼女の手に触れようと右手を近づける。


「いや、手を繋ぐはカップルみたいで流石に恥ずかしいよ」


断られて、僕は思わず手をひっこめる。彼女が言うことは正しい。でも……。


「僕はそうしたいぐらい、心配だったんだ」


これは本心だ。


「それは本当にごめんなさい」


彼女は申し訳なさそうに謝る。僕は君の笑った顔が好きなのに。


「ヒマリ、これ以上は謝らないで。僕はヒマリを困らせたい訳じゃないんだ。


でも、これからは僕の目の前から居なくならないで」


「わかったから、その泣きそうな顔はやめて」


彼女は僕に微笑み、頭を撫でる。

彼女の撫でる手は冷たいが柔らかく、先程までの不安や恐怖が消えていくような感じがする。


安心していたら、シュウヤたちがここに集合する。

僕はすぐに立つ。彼女は僕を撫でいた手を引っ込めてしまい、先程の出来事はなかったことのように空気が変わる。もう少しだけあの時間が続けばよかったのに、と思ってしまう。


彼女は僕たちの顔を見て、謝罪した。


「みんな迷惑をかけてごめんなさい」


「いいわよ」 「問題ない」 「大丈夫」


彼女を責めるようなことを誰も言わない。異世界なんだから迷っても仕方はない。


「みんなありがとう。これからは気を付けます」


そしてもう1回みんなに頭を下げる。


もう二度と僕の目の前では居なくならないでね。ヒマリ。

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