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第16話 校外学習 その2


見失わないように人の波に乗りながら、凛ちゃんのところに早歩きで向かう。

近くまでいき、彼女の名前を呼ぶ。私の声に反応し、振り向く。


「あれ?ヒマリじゃん!1人で渋谷?」


凛ちゃんはこの前、写真を見せてくれた友達二人と歩いていた。


「違うよ。友達と迷っちゃって1人になっちゃった。


凛ちゃんも友達と買い物しに来たのところを邪魔しちゃってごめん!」


「ううん!もしや、この前話していた例の美男美女の友達?」


察しが良い。校外学習で来てることは言わないでおく。


「そうそう!みんな渋谷に来るの初めてらしくて、私が張り切ったら迷子になった」


「それは笑っちゃいけないけど、ごめん、笑うわ。早く見つけないとじゃん。


あ、ごめん、2人とも。この子も私のオタク友達だから安心して」


そう言われて凛ちゃんの後ろに隠れていた友達2人は安心していた。


「そういえば、何で平日なのに渋谷にいるの?」


「え?忘れてるの?GWだよ?」


ああ、だからか。世間がGW中だったことをすっかり忘れていた。

いつもより人が多いわけだ。よく見ると私たちぐらいの学生も多く見える。


「忘れてたよ」


「どんだけ忘れっぽいのよ」


彼女は私の発言に呆れながらも笑う。後ろの2人もつられて笑う。

凛ちゃんはスマホで時間を確認する。


「あ、もうそろそろ時間だ。

ポップアップストアの整理券は事前に取ってあって、もう少しで入場時間だから、そこに行ってからひまりの友達探しする?」


「それでお願いします!私は周辺を適当にぶらぶらして待ってるよ」


「おけ!そんな感じで!」


早速みんなでポップアップストアの入ったショッピングモールの中に入る。

ポップストアに着くと、その作品のグッズやキャラクターのパネル、映像等が流れていて、3人はテンションが上がっている。みんなの推しキャラのイツキくんパネルもあったが、遠目で見ても背が高くてカッコイイな。あれはみんな好きになるキャラだ。

3人は待機列に並び、私はとりあえず近くの本屋をチェックする。


漫画コーナーに行くと、私の好きな漫画の新刊が出ていることに気がつく。

本屋のふたりごとやあるチューなどが新刊コーナーに並んでいる。表紙の絵も凄くいい。思わず手を取り、表紙の絵を眺める。

あるチューとはある日キスされてしまった幼なじみに恋愛感情を抱いてしまったというタイトルの少女漫画である。王道ラブストーリーなのだが、この高校生の幼なじみの恋愛めっちゃ良いのよな。この漫画が読みたくなり、近くの椅子を探し、座る。アプリで配信されているあるチューを読む。


漫画に熱中していると、誰かに話しかけられる。

スマホから目を離すと、目の前にイブキくんがいる。

漫画のイケメンを見てからも、顔が整っている。イケメンだなと思えるなんてどんだけ顔が良いんだか。

とりあえずスマホをポケットにしまう。


「ヒマリ……やっと見つけた。どこに行ってたの?」


イブキくんはいきなりその場でしゃがみこむ。


「大丈夫?」


彼のことが心配になり声をかける。


「大丈夫じゃないよ。

でもヒマリも迷子になって怖かったでしょ?」


私の事を心配してくれていたのか、なんだか泣きそうな声だ。そうだった、私、迷子だったんだ。


「ごめん。さまよっていたらここにたどり着いた」


さらりと嘘をつく。イブキくんがしゃがんでいるからか顔が近くで見えて、その潤んだ紫色の瞳に惹かれる。


「もう二度とヒマリと会えないかと思った」


「ホントにごめん。

校外学習が楽しみすぎて1人で突っ走っちゃった」


「ヒマリらしいけど。

これからは手を繋がないと、ヒマリはどこかに行ってしまいそうだ」


本当に手を繋いで歩きそうな雰囲気だったので、思わず断る。


「いや、手を繋ぐのはカップルみたいで流石に恥ずかしいよ」


「僕はそうしたいぐらい、心配だったんだ」


「それは本当にごめんなさい」


私はただ謝ることしか出来ない。実際に迷惑をかけてしまっているから謝る以外は思い浮かばない。


「ヒマリ、これ以上は謝らないで。

僕はヒマリを困らせたいわけじゃないんだ。


ただこれからは僕の目の前から居なくならないで……」


初めて彼の本当の姿が少しだけ見えたような気がする。過去に種族や家族との別れを体験しているから、彼にとって人が居なくなることは測りきれないほど恐ろしいことなんだろう。


「わかったから、その泣きそうな顔はやめて」


イブキくんが小さな子供のように見えて、思わず彼の頭を撫でる。怖いの怖いの飛んでいけと心の中で唱える。


すると、イブキくんはみんなに連絡してくれていたのか、ここに集合する。


私は急いでユイトくんを撫でていた手を引っ込めて、立ち上がる。イブキくんも瞬時に立ち上がる。


みんなの顔を見る。せっかく楽しみにしていた校外学習だったのに、心配そうに私を見ていた。


「みんな、迷惑をかけてごめんなさい」


「いいわよ」 「問題ない」 「大丈夫」


私を責めるようなことを誰も言わない。なんて良い人たちなんだろう。


「ありがとう。これからは気を付けます」


そしてもう1回、みんなに頭を下げる。


すると、奥の方で買い物が終わった様子の凛ちゃんたちが私たちのことを見てる。たぶんこの雰囲気では近づきにくいだろう。そのまま解散してもらうように合図を送ろうとする。


「ヒマリ、どこを見ている?」


私の視線に気がついたのか、シュウヤくんに指摘される。


「いや、どこも見てないよ」


とりあえず、とぼけてみる。


「嘘ね。さっきあの子たちを見ているように見えたわ」


ユアさんにも気付かれた。

私はしぶしぶ彼女たちを呼ぶ。歩きながら凛ちゃんに小声で伝える。


「私たち友達って言わないでね」


「なんで?」


「バレたら私が退学になるから」


「そんなに重罪なの!?」


彼女は思わず大きな声を出す。ハッとして、また小声で話し始める。


「そうなの。初めてあった(てい)で話をしてくれると助かります」


「りょーかい」


ここからは私たちの演技が始まる。


「この子たちは道に迷っている私を助けてくれた恩人です」


彼女たちに自己紹介するように促す。


田村(たむら) (りん)です。あとは私の高校の友達のさゆりと千夏(ちなつ)です」


みんなよろしくと軽く挨拶が終わり、私が話を回す。

とりあえず挨拶してしまったのと、凛ちゃんたちに何にもお礼しないで帰すのは申し訳ないので、ご飯に誘ってみる。


「私を助けてくれたお礼に、お昼ご飯を一緒に食べませんか?」


みんな、私の提案に驚く。

凛ちゃんたちまで驚くことなのか。


「私たちはいいけど、そちらのみなさんは大丈夫ですか?」


「ワタクシたちも是非お食事に参加させていただきたいわ」


ユアさんはいつもの優雅な笑顔をする。いや、少し好奇心も混ざっていそうだ。

話は決まり、通りを歩くとスイーツとサンドイッチが美味しそうなカフェを見つけ、入店する。まだお昼前だったおかげか、店内はまだ空いていて、すぐに席に座れた。


まずはドリンクを頼み、席につく。

壁側のソファー席に左からタクト、ヒナタ、ユア、シュウヤ、イブキ、そしてお店側の椅子にさゆり、ちなつ、凛、私が座る。まるで合コンのような並びとなった。

やっぱりユアさんは紅一点である。あらゆるイケメンの間に挟まれても可愛くて美しいユアさんは流石だ。


凛ちゃんたちも目の前の光景が2次元のようだと思っているだろう。


オタクたちは先程店員さんが運んできてくれたドリンクをゴクゴク飲んでいた。気を紛らわすために。私もその1人だ。

隣に座っている凛ちゃんに話かけられる。


「ねえ、これ夢なの?」


「違うよ、現実だよ。信じられないよね」


「そこのお2人、何をこそこそお話しているの?

まずは注文をしましょう?」


メニュー表をこちらに渡してくれる。

私を含めたオタクの4人はこのお店の人気メニューっぽいパンケーキを頼む。


ユアさんたちにメニュー表を返し、ユアさんとヒナタくんは私たちと同じパンケーキを、残りの3人はサンドイッチを頼んだ。


注文が終わり、気を抜いていると、ユアさんは好奇心に溢れた目で凛ちゃんたちを見ている。


「リンさんとサユリさんとチナツさんだったかしら?あなた方は何をしにシブヤに来たの?」


彼女たちに単刀直入に聞く。事情聴取のように見えてきた。


「買い物しに来ました」


オタバレしないように模範的な回答だ。流石だ、凛ちゃん。


「何を買ったのかしら?」


これはユアちゃん(心の中でだけ呼びます)、もしかして、人間がどんなものを買ったのか知りたい知的好奇心というやつか?

だが、オタクはそれを言いたくない。さて、どう切り返す?


「このグッズを買いに来ました」


おっと、さゆりちゃんは大胆にもオタクだと明かしていくスタイル。今のオタク像ですな。

そして、2人も諦めてみんなに買ったグッズを披露する。


この前凛ちゃんが布教してくれた作品のイケメンな男の子のイツキくん目当てでグッズを購入しているようだ。


「まずは、アクスタ。アニメのキービジュアルのイラストなんだけど、そもそもイツキくんがかっこよすぎてこれは、最初に見た瞬間買いって思ったよね」


凛ちゃんに賛同する2人と私。グッズ紹介をしてくれるようだ。


「次にランダムで出る缶バッジ!缶バはみんなそれぞれ5個ずつ買ってみたんだけど、私はヒロインのミコちゃん2つと幼なじみのヒロキ2つとイツキ1つだったよ」


凛ちゃんは引きの悪さに落ち込んでいた。


「凛ちゃんは1つ出たからいいじゃん。私は先生3個とミコちゃんとアニメロゴ缶バだよ」


1番ハズレを引いてるな。さゆりちゃん。これはもう1回買いに行きたいやつだな。


「私はイツキ3個とアニメロゴ1 そして、2人には言っていなかったけど、私ゲットしたの!」


そういって大事そうに銀の袋から出す。


「シークレットの原作版イラストのイツキだよ」


「し、シークレットだって!?」


3人はオタクのノリで言う。


「これ見てよ。マジでやばくない!?」


「ホントにそれな」


「マジで神引きすぎて運良すぎ、マジで羨ましい」


オタクたちの会話はヒートアップする。


「缶バとブロマイドはランダムなのズルいよね。お金あったらイツキ引くまで何回も買っちゃうよ」


「ホントにそれな」 「わかる」 「それそれ」


「オタクって推しを無限回収したくなるのよね」


「ホントそれ」 「ねえー!」 「わかるわ」


すると、残りの5人を置いてけぼりにして会話していたことを思い出す。


「ごめん。ずっと意味分からない話してたよね」


私は謝る。3人も続いて謝る。


「いいえ、あなた方が凄く楽しそうに話していてワタクシたちは本当に何を言っているかほとんど理解出来なかったけれど、素敵な関係性だと思ったわ。


でも、何故ヒマリさんも初めて会ったはずなのに、話に入れるのですか?」


ギクッ。凛ちゃん以外は初対面だけど、オタクとは好きな物が同じなら話せるのさ。


「私もオタクだからだよ。同じ物が好きな人ならすぐに意気投合出来るんだ!」


私は得意気に話す。オタクの意味を知らない5人は凄いと感心していた。

実際のオタクは違うが、そこは見栄を張らせてくれ。


注文していたサンドイッチとパンケーキが届いた。


みんなイツキのアクスタと一緒に撮って、オタ活してて楽しそうだった。

私もオタ活したいな。みんなを羨ましく眺める。


「ヒマリどうした?」


向かい側に座っているイブキくんが話しかけてくれる。


「いや、何でもないよ!パンケーキ美味しそうだなって思ってただけ!いただきます!」


そういってパンケーキを頬張る。生地がフワフワしていてメープルも相まって凄く美味い。フルーツもイチゴやブルーベリー、ラズベリー、そして生クリームがお皿にのっている豪華なパンケーキプレートだ。


あっという間に食べ終わる。


イブキくんが食べているサンドイッチが美味しそうに見えてガン見してしまう。その視線に気が付いたのか、イブキくんはお皿に残っているサンドイッチをこちらに渡してくれる。


「食べる?」


「え?いいの?」


「いいよ」


サンドイッチを1つ貰い、そのまま口に運ぶ。

美味しい。甘いものを食べたあとはしょっぱいものが食べたくなるので、サンドイッチがちょうどよく心も満たしてくれる。


みんなが食べ終わったタイミングで「お手洗いに行ってきます」と言って、トイレに向かう。


手を洗うと、緊張も水に流れていったように心が落ち着く。

すると、凛ちゃんもトイレにやってきた。


「なんかさ、凄く緊張したわ」


「わかる。それな」


「ヒマリの友達、マジで想像以上の美男美女だし、なんか悪役令嬢と貴族の王子様たちって感じであの5人だけ異世界人って感じさ、現実味なかったわ」


改めて客観的に見るとその通りなんだよな。分かりみが深すぎる。実際、凛ちゃんが言ってることはある意味では合っている。


「確かにね、住む世界違いすぎて疲れるかもね」


「それな、よくずっと一緒に居れるね」


凛ちゃんは私に感心する。


「慣れるまでに時間はかかったけど、みんな良い人だからホントに夢見てるみたいなんだよね」


「確かに、乙女ゲームの世界みたいかも。


そういえば、さっきヒマリにサンドイッチあげてた子、ヒマリのこと凄く夢中で見てたけど、彼氏?」


予想外の話を振られ、びっくりする。


「彼氏なわけないじゃん!!あれは友達」


凛ちゃんは私の言葉で納得しない。


「じゃあ、何でサンドイッチ貰えたの?」


「え?それは私が食べ物が好きだから?」


「それもあるだろうけど、ヒマリのこと好きだからくれたんじゃないの?」


そう言われてピンとこない。

私のことを好きになんて有り得ない。

確かに、距離感は縮まってきてはいるが、それは恋愛的な意味ではなく、友情である。


「いやいや、そんなわけないない!」


「ホントに??」


私の反応に一段と怪しがる凛ちゃん。

すると、さゆりちゃんと千夏ちゃんもトイレに逃げ込んできた。


「あの5人が美男美女すぎて、私たちのルッキズムが耐えられません」


千夏ちゃんがSOSを出す。さゆりちゃんも千夏ちゃんの意見に凄く頷いていた。


「わかるよ。オタクだもの。でも、流石に誰も居なくなるのはまずいので、私が先に戻っておくよ。

みんなは好きなタイミングで戻っておいで」


「ヒマリ」 「ヒマリさん」


「イケメンな対応すぎる。あざす」


3人の感謝を背中で受け取る。


そして恐る恐るテーブルを覗くと、そこのテーブルだけで世界観の違う空間が生まれていた。


私の視線に気が付き、みんな私を見る。ささっと何事もなかったように戻る。


「ごめんなさい、お待たせしました」


「随分長かったようだけど?」


やばい。会議していたことがバレる。


「それはお待たせてしまってごめんなさい」


ユアさんは寂しそうな表情をする。


「ワタクシは謝って欲しいから言っている訳ではないのよ。


ただヒマリさんが初めて出会う人たちに心を開くから羨ましいって思ってしまっただけなのよ」


もしや嫉妬というやつでは?

とても可愛いじゃないか。私のユアさんの好感度はかなり上がる。


「それは失礼しました!あの3人とはここで別れて、残りの2時間は皆さんと過ごします!


彼女たちを呼んできますね!」


そういってまたトイレに向かう。


「みんなここでお開きだよ。お疲れ様!」


「ヒマリありがとう」


凛ちゃんが代表して私に感謝を述べる。


「こちらこそ巻き込んでごめんね」


「ううん、むしろ美男美女見たら心の栄養が取たよ!ありがとう!」


そして3人も席に戻り、お会計を済まし、3人とはここでお別れをした。

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