第13話 放課後ティータイムと過去
放課後、私たちは学校からカフェまでみんなで歩いていくことになった。
私とユアさんが前で、後ろを男子たち4人が並んで歩いていた。
ユアさんの隣を歩くのは少し緊張する。彼女の歩き方は背筋をピシッと伸ばしており、無駄な動きがなく気品溢れている。幼い頃から指導されている人の歩き方だ。
私もユアさんを習って歩いてみようと試みるが、千鳥足のようになっていて不格好な歩き方になる。
「ヒマリさんどうしたのかしら?」
変な歩き方を目撃される。隣にいたら嫌でも目に入ってしまうようだ。
「ユアさんの歩き方が美しくて、つい真似してしまいました」
正直に話すとそれを聞いた彼女は鳥の囀りのように小さく笑った。
「そんなこと初めて言われましたわ。幼い頃は歩き方が不自然と散々怒られていましたもの。
ーーだから、嬉しいですわ」
彼女の顔はほころんだ。
私も彼女のそんな表情を見て、自然と口角が上がる。
あっという間にカフェ着き、入店すると店員さんが待っており、前と同じように2階に案内される。
前回と同様にたくさんのお菓子がテーブルの上に並んでいた。これはパラダイスだ。思わずお腹が鳴りそうになる。別に空腹ではないのに、とても食欲がそそられる。
椅子に座り、まずは紅茶で優雅に乾杯する。
一口紅茶をいただいたが、とても上品な味であった。
「紅茶に合うスイーツをご用意したので、是非召し上がって」
ユアさんにそう勧められ、私は手前にあったクッキーを取り、口に運ぶ。美味い。もう1枚パクり。美味い。もう1枚。と気がつけばクッキーを5枚食べていた。
満足して周囲を見渡すと、誰もお菓子に手をつけていないので、私も空気をよみ、1度手を止める。
「あら、みんなもスイーツ召し上がっていいのよ」
ユアさんにそう言われてもみんな何故だか口にしない。神妙な面持ちで、ユアさんの顔を見ず、お菓子を見ているようだ。
少し様子がおかしいと思うが、みんな甘いものが苦手なのかな。苦手な食べ物があると、私もそういう表情になってしまうので、分からなくもない。
私はみんなのこの謎の緊張感に包まれた空間を無視して、次にプリンを口にする。スプーンでプリンを下まですくうと、やや固めなのか弾力があり、スプーンに張り付く。そのスプーンに乗ったプリンを口にすると、卵よりはミルク感が強いがカラメルがその分ほろ苦くて美味しい。
5口程度でプリンは終わってしまい惜しみつつも、その次はこの前も食べたマフィンを手に取る。美味い。持ち帰りたいレベルで美味い。どうやって作っているだろうと気になるぐらいここのお菓子は全部美味しい。
「ほら、ヒマリさんみたいに美味しそうに食べている姿をワタクシは見たいの。だから、みんなも食べてください」
そう言って、ユアさんはクッキーがのったお皿を持って、みんなに1枚取るように指示した。
ユアさんのこの雰囲気が断れないのか、仕方なさそうに1枚のクッキーを手に取り、食べていた。
「美味しいかしら?」
「美味しいです!」
私だけ大きい声で言う。
他のみんなは小さい声で何か言ったようだ。黙々と食べている。
「ワタクシ、やはりヒマリさんと2人でお茶会したいわ。皆さん帰ってくださる?」
ユアさんは私を除く4人の態度が気に入らないのか、辛辣なことを言う。
でも実際、私以外楽しんでいなさそうなのは確かだ。何故なのだろう。
「じゃあお言葉に甘えて、帰ります」
そう言ってイブキくんは席を立ち、階段を降りて、カフェのドアが閉まった音がする。
本当に帰ってしまったようだ。2人の時はそんなキャラじゃないのに、一体どうしたんだろう。
「あら?冗談で言ったのに、本当に帰ってしまいましたわ」
「それはそうだ。あの言い方は流石にキツイぞ」
シュウヤくんはユアさんをお母さんみたいに注意していた。
「せっかく楽しい時間を過ごしたいというのに、1人でもムスッとした人が居たら、楽しくないのですもの」
ユアさんのその言い分もわかる。
「だとしても、だ。どんな相手も平等に誠実に接するのが教えなんだから、従え」
ヴァンパイアの教え的なものがあるのかな。でも、人間としてもそのマインドは大事だと思う。これはなかなか難しいことではあるけれど。
「分かっているわよ。でもシュウヤだって、ユイトにだけはいつも違う態度取っているじゃない?
あなたも人の事言えないわ」
ユアさんもシュウヤくんのことをよく見ている。確かに、イブキくんとは一切目を合わせていなかったし、イブキくんに対してだけやや冷たい印象を受けた。
「確かに。ユイトを見る時、切なさそうな顔するよね、シュウヤ」
タクトがそう言うと、ヒナタも賛同する。
「どうしてユイトとシュウヤは仲が悪いの?」
単刀直入にヒナタくんが尋ねる。
それは私も気になると思い、彼の顔を見つめる。
「昔、色々あってな……」
シュウヤくんは寂びそうな顔をしながら、はぐらかす。
これ以上は聞いて欲しくはなさそうだ。
ユアさんはこの重い空気を払うようにパンと手を叩き、仕切り直しの合図をする。ユアさんにみんな注目する。
「それではユイトくんは居ませんが、シブヤでやりたいことを決めましょうか?
ヒナタはやりたいことはないのかしら?」
「うーん?俺は何か美味しいものが食べられればいいかな」
「なるほど。ワタクシも流行しているものを食べてみたいと思っているから、いいわね!
タクトはどうなの?本当にやりたいことはないの?」
タクトくんは考え込む。顎に手をあてて、うーんと唸っている。これは本当に無さそうな雰囲気だ。
「まあ強いて言うなら、この世界では見られないものが見れたらいいかな」
結構抽象的な答えだなと思った。
ユアさんはうんうんと頷いていた。タクトくんの言っていることが理解出来るようだ。
「シブヤならあなたが見た事ないものが見えるわよ!楽しみにしていなさい!」
自信満々にそう話すユアさんを私たちは疑いの目で見る。本当にそんな不思議なものを見えるのでだろうか。
いや……彼らは私とはまた違う世界に生きているから、もしかしたら渋谷を見たらそう感じるかもしれないとは思ってきた。
「シュウヤは何かやりたいことはないのかしら?」
「俺はみんなとシブヤに行けるだけで満足だ。ユアやヒマリ達が見たいものを見に行こう」
なんて良いヴァンパイアなんだ。最早人間よりも良い人すぎて、シュウヤくんの誠実さや優しさを少し分けていただきたいぐらいだ。おばあちゃんも言ってたな、良いなと思った人の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいと。物理的に飲むのは無理だが、そのぐらいしないと私には真似出来ないことだ。
「わかったわ。
とりあえず、ワタクシとヒマリさんのやりたいことである流行のもの見たり、食べたりするということでいいかしら?」
みんな返事をし、満場一致する。
揉めずにサクッと話が進み、みんながあまり欲の無くてよかった。目の前にあったクッキーをつまむ。サクサクしていて美味しい。
「あら、もうこんな時間なのね。今日は早く家に戻るよう、お父様から言われていたことを忘れていましたわ」
ユアさんはもう帰るようだ。
テーブルにはまだお菓子はたくさん残っているにもったいないな。
そんな風に思っていると、隣で同じようにお菓子を見つめているヒナタくんに話しかけられる。
「ヒマリちゃん、このお菓子持ち帰りたい?」
ヒナタくんが神のような提案してくれる。
「え、いいの?」
「ユア、いいよね?」
「もちろんよ!全て廃棄してしまうから、好きなだけ持ち帰っていいわ」
言い終わると彼女は階段を降りていった。
ユアさんからの許しを得て、どのお菓子を持ち帰ろうかと検討する。
そういえばお菓子を持ち帰るために必要な袋を持っていない。さて、どう持ち帰るかと考えていると、タクトくんが袋をカバンから出して、私とヒナタくんに渡してくれる。
「ヒナタも甘いもの好きだから、いつも持ち帰るんだ」
ヒナタくんを見て優しく微笑む彼に、なんて仲が良いんだと感心する。
「そうなんだ!
でもヒナタくん、甘いもの好きなのにさっき食べなかったのは何で?」
疑問に思ったことを口にする。
ヒナタくんは恐ろしいものを見るような目で私を見る。
「流石にあの空気では食べられないでしょ。
だから、ホントにヒマリちゃんって凄いや」
褒められている気が全くしないが、欲には抗えないのである。
話を変えよう。
「ヒナタくんは何のお菓子が好き?」
「俺はね、プリンかな」
「いいね!プリンは柔らかめ?それとも固めどっちが好き?」
「俺は固め派かな」
「おお!いいね!私もどちらかといえば固め派だから一緒だね!
じゃあ、ここに置いてあるプリン全部譲るよ!」
テーブルの上には人数分用意されていたプリンを彼の前に差し出す。私の分は食べてしまったので、5つしかないが、彼は嬉しそうに顔を輝かせた。
「え?いいの?」
「もちろん!大好物はお譲りするよ!
その分私は他のスイーツいただくね!」
そう言って、私は袋に入れられるだけスイーツを詰める。詰め放題をやっているようだ。上手くお菓子を配置しないと割れてしまったりするので繊細な作業だ。多少潰れてしまっても味が美味しければいいと思い、隙間なく詰める。
結局1袋じゃ収まらず、2袋分のお菓子を貰うことになった。
「ヒマリちゃん食いしん坊だね」
「いいの!今日と明日はチートデイだから好きなだけスイーツ食べても問題ないもの」
「チートデイ?
まあいいや!せっかくあるなら食べた方がいいよね」
「そうそう!食べ物を粗末にしちゃダメなんだからいいの!」
自分にも言い訳して、残っているお菓子のほとんどは2人で持ち帰ることになった。
「勿体ないから、入りきらなかったお菓子は食べちゃおう」
ヒナタくんはそう言って、6人でいる時に全くお菓子に手をつけられなかった分、今もぐもぐと食べている。ハムスターみたいで可愛いなと思った。
ヒナタくんがお菓子を食べていて、帰る雰囲気ではないので、気になっていたことを尋ねる。
「そういえば、4人はいつから仲良くなったの?」
シュウヤくんが答えてくれる。
「俺とユアは小さいときから家族ぐるみの仲だが、ヒナタとタクトはミドルスクールからだ」
たしか、この前も言っていたな。確かミドルスクールって中学生辺りってことだよね。
そうなると、ヒナタくんとタクトくんはイブキくんのことを知らないのかな。
「そうなんだ!ミドルスクールってどんなところだった?」
するとヒナタくんが袋に入れられなかったまだ残っていたお菓子を食べる手を止めて、説明してくれる。
「俺たちが通っていたミドルスクールはみんなヴァンパイア族しか通えない学園だったんだ。しかも、貴族以上のね。だから、俺たちもユイト・イブキのことは見た事もなかったよ!ねえ、タクト?」
隣に座っているタクトくんに話を振る。
「ああ。だから気になったんだ。
ユイトは何故シュウヤと関わりがあるのかを少し調べさせて貰ったけど、ユイトの父親が貴族のヴァンパイアで母親が人間らしい。おそらく彼は人間と吸血鬼のハーフの子供。
そして、その貴族の家から母親とその子供は追い出されてしまった。そこからは記述されていなかった」
なんて可哀想なんだ。ただ生まれただけなのに、家からも種族からも追放されるなんてあってもいいことなのか。
「ヴァンパイア族って、人間の血が好きな癖に人間のことは嫌いだよね〜。
ただの飲みものとしか見ていないところ、俺は苦手だな」
ヒナタくんは気を紛らわせるためなのか、お菓子をモグモグしながら発言する。話は恐ろしいが、ゆるっとした空気が流れる。
すると階段から足音がして見ると、帰ったはずのユアさんが戻ってきた。
「みんなの様子が気になって戻ってきてしまいました。
ワタクシもヒナタの考えと同じですわ。
小さい頃のワタクシは、人間はただの家畜としか見ていませんでしたが、今ではワタクシたちと同じく考えや感性を持っていると知り、それを実際に体験するためにこの『イシュタリアン・スクール』に入学しましたのよ。
ヴァンパイアと人間とのハーフの子が居てもなにも問題はないわ」
ユアさんも昔は人間を家畜だと思っていたのか。教育って恐ろしい。私はほぼ人間だから、ユアさんがそのまま育っていたら、「そこの家畜」とか呼ばれていたのかな。私はMじゃないからあまり嬉しくないが、もしMだったら危なかったかもとかいらない心配をした。
すると先程まで黙っていたシュウヤくんが口を開く。
「俺も昔は大人たちが言うことが全て正しいと思っていた。だが、あの時にユイトと別れてから分かったんだ。
ただヴァンパイアと人間のハーフなだけで差別され、家まで追放されるなんて酷すぎる話だと。
ただその家に生まれてきたユイトには罪はないのにって。
それに気が付いたのももう少し経ってからだから、あの時に助けられなくてすまなかったと謝りたいんだ」
それはシュウヤくんが抱えなくてもいい問題だとは思うけど、そこまで後悔しているのなら話し合いををして、また仲良くなって欲しいなと心の中で願った。
「それなら校外学習の帰りに謝ろう!
何か口実がないと、仲直りするのって難しいじゃない?
だ・か・ら、校外学習でユイトくんのことを知って、そこで謝った方が仲直りの成功確率高まりそうだと思うんだけど、どうかな?」
みんなに提案すると、賛同してくれた。
「いいと思いますわ!そう思わない?」
「ああ、その案に賛成だ。
ヒマリ、みんなありがとう」
シュウヤくんはみんなに頭を下げる。
みんなは謙遜し、ユアさんの一言でシュウヤくんは頭を上げた。
「外に車を待たせてしまっているので、ワタクシはこれで失礼しますわ」
ユアさんはそう言って足早にこの場を去った。
本当はもっと早く帰らなきゃいけなかったはずなのに、シュウヤくんが心配で残ってくれていたのか、優しいな。
これってもしかすると、ユアさんはシュウヤくんのこと好きなんじゃないか?
だがこれは友愛パターンもあるので、正直ユアさんはまだ分からないが、シュウヤくんの方はユアさんのことかなり好きだと思う。そうじゃないといちいちフォローしないし、あんなに優しい目を彼女には向けない。
だが、彼女には親が決めた婚約者がいる。
だから諦めようと思ったが、まだ気持ちに抗えないとみた。
よし!シュウヤくんの恋を応援しよう!!と決めた。




