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第11話 久しぶりの帰宅


目を開けると我が家の玄関の前にいた。

インターホンを鳴らすと、お母さんが出迎えてくれた。


「はーい」と明るい声がして、玄関が開く。お母さんは優しい顔で迎えてくれた。

本当に我が家に帰ってきた。嬉しい。


「ただいま」


「おかえり、すぐにご飯を作るから!

ヒマリは先にお風呂に入っていて」


そう言われて私はお風呂場に向かった。

学生寮はシャワールームのみで浴槽は無いので、久しぶりに湯舟に浸かる。体温より少し熱めのお湯が私の身体を包み込む。身体が温まるだけでなく心まで落ち着いた。


普段よりも長湯し、惜しみながらもお風呂から上がり、リビングに向かう。

香ばしい香りが部屋中に蔓延していた。これは唐揚げの香りだ。

テーブルの上を見ると、ご飯と味噌汁と唐揚げとサラダが乗っていた。


「ちょうど良かったわ。ヒマリはこのスーパーの唐揚げ好きだったよね?」


「うん!この唐揚げ、生姜が効いていてさっぱりしてて美味しいんだよね!ありがとう!いただきます!」


そう言ってモグモグご飯を食べる。1ヶ月ぶりのこの唐揚げは美味である。


「そういえば学校はどう?楽しい?」


これってどこまで話していいんだろうか?

よく分からないので楽しいと言っておこう。


「新しい友達は出来た?」


母は不安そうに聞いている。母を安心させるために明るく話す。


「もちろん!一緒にご飯食べてくれる友達はいるから安心して!」


「よかった。誰も友達のいない学校に行くって言ってた時から心配だったけど、馴染めているようで安心したよ」


ご飯が食べ終わり、自分の部屋に戻る。

まだ1ヶ月しか経っていないのに、この久しぶりな感じ。不思議に感じた。


ご飯を食べている間にこの世界のスマホを充電していて、やっと使える。

ベッドに横になりながら、スマホと見つめ合う。

まずSNSを見ると、友達も新しい高校の友達を作っていてその写真をあげていた。


みんなも高校生活を楽しんでいそうで安心した。

1ヶ月ぶりに会いたいなと思うが、急すぎて誰も会ってくれないよな。

でも1番仲良しだった、凛ちゃんに連絡してみる。



ひまり:凛ちゃん、久しぶり!

マジでめっちゃ急なんだけど、明日の予定空いていたら、駅の近くのファミレスで話さない?



すると、凛ちゃんからすぐに返事が来る。



りん:もちろん!!

私もめっちゃ話したかったから、ひまりから連絡きたの嬉しい!!

明日11時に集合でいい?


ひまり:もちろん!了解!!



急遽、明日人と会う予定が出来た。

とりあえず母親に言いに行くのが面倒なので、チャットで伝える。



ひまり:明日凛ちゃんと遊びに行くよ!

11時に集合するから、10時までに起きてこなかったら起こして欲しいです。


母:了解



ベッドの付近の小さなテーブルの上に充電しているあっちの世界のスマホを見ると全く反応しない。

こちらの世界ではあっちの世界のスマホは使えないようになっていた。イブキくんたちと全く連絡が取れないのは少し不安だが、使えないならしょうがない。


とりあえず、前に読んでいた漫画が一気に数話配信されていることに気がつき、寝る間を惜しんで読む。


寝る時間が遅くなり、起きたのも家を出る1時間前の10時に母親に起こして貰えた。

やっぱり頼んでおいて正解だった。


急いで支度をして、約束の場所まで行く。

最寄り駅のファミレスなのでそこまで時間はかからないが、それでも1時間きって準備は結構ギリギリに感じる。

自転車で行こうと思ったが、自転車置き場はすぐに埋まってしまうので、歩いて行くことにした。


イヤホンを耳に入れて、音楽を聴きながら歩くこと10分。

11時まであと2分のところで着く。凛ちゃんは自転車置き場のところにちょうどいた。


「おはよー!」


「おはよう!」


「久しぶりだね!」


「ホントにそれな!とりあえず中入ろう!」


中に入りお昼前だったか、スムーズに席に案内された。

まずはドリンクバーとポテトを頼んだ。

ドリンクバーで飲み物を選んでから、話を始める。


「凛ちゃんは新しい友達出来た??」


「何とかね!」


「よかった」


陽葵(ひまり)こそ、どうなの?誰も知り合いもいない学校に行ったけど、大丈夫そう?」


そういう設定になっているんだ。急に連れて来られたはずなのにみんなの記憶ではそういうことないってことは魔法がしっかりと効いていることをまた実感した。


「もちろん!友達出来たよ!めっちゃ美人な子とめっちゃイケメンな子が友達で、ホントに毎日眼福だよ」


「凄いじゃん!!写真とか撮ってないの??」


興味津々で聞いてくるが、あちらのスマホにしか写真は残っていないので見せることは不可能である。

あと凛ちゃんに言われてから気が付いた。


「そういえば、1度も写真撮ってないや」


「ええ!?マジ!?もったいない!

そういう一軍のところにいたら写真撮るのは当たり前だと思っていたけど、逆にそこまで美男美女だと載せない派もいるか!

でもめっちゃ気になるわ〜!!」


「今度、渋谷行くからその時に写真撮ってみるよ!」


「マジ!?マジで撮ってきてよ!!気になるからさ!!」


「おけ!見せます!

ちなみに凛ちゃんの友達も見せてよ」


「いいよ!」


この子とこの子と言われて3人で撮った写真を見せてくれた。2人とも優しそうで穏やかな雰囲気だった。


「この子たちさ、同じ漫画とアニメが好きでめっちゃ盛り上がったんよね!」


「マジ!?」


「そうそう!GWに渋谷でポップアップストアやるみたいでさ、3人で行こうって話になっててるんだ!

この作品なんだけどさ、めっちゃ良くない?」


そう言われて彼女のスマホの画面を覗くと、主人公を口説くと思われるヒーローキャラがかっこよすぎて私も好みだった。


「これ今期やってるアニメなんだけど、アニメやる前から人気だったんだけど、1話が放送されてからも人気すぎて5月のGWに先行グッズを販売するショップがやるのよ!

私の推しがこのイツキくんなんだけど、イツキくんめっちゃ良いのよ。ホントに顔面もカッコイイんだけど、行動も鬼イケメンでさ、毎回キュンキュンしながらアニメも原作の漫画も楽しんでる」


凛ちゃんに布教されて、凄く見たくなってしまった。今はまだ3話しか放送されていないのでちょうど見やすい話数ではあるが、あっちの世界じゃ絶対見れないから待つのはしんどい。


「うわ〜ここまで教えて貰ってしまったら気になって仕方がないんだけど」


「一緒に見ようよ」


彼女は悪い顔をして誘う。こういう時のオタクは一緒に沼に落ちてくれと誘う妖怪のようだった。私も同じことをするけれど。


「見たいけど、私の学校はスマホ禁止でさ、朝に預けられて放課後まで何にも見れないんだよね」


「ええ!?!?昨今そんな鬼畜な学校存在するの!?」


彼女はとても衝撃を受けていた。

実際この世界のスマホは見れないのは本当なので、申し訳ないが鬼畜学校という設定にさせてもらった。


「そう。だから、今期のアニメとか新しい漫画とか読めないし、新ジャンル開拓とか全然出来ないからさ、ちょっとしんどい」


「そりゃそうだよね。SNS出来なきゃ情報も回って来ないし、オタクセーブ期間なんだね」


「そうそう。だから布教してくれるのはいいんだけど、見れないから悔しいって思っちゃう」


「ごめんね。そんな学校に入っているとは知らなくて」


「ううん、私も知らずに入学しちゃったからさ、しょうがないよ。だから連絡来ても返事出来ないから、そこのところよろしくね」


「了解!」


その後、普段は出来ないオタクトークを繰り広げながらファミレスの後にカラオケに行き、またファミレスで喋って帰ってきた。


久しぶりに好きな話がたくさん出来て楽しかった。

明日もまったり漫画やアニメ見て過ごそう。




あっという間に日曜日の19時となった。

あと1時間しか家に居られない。あっちに持っていきたい漫画多いが、たぶん魔法で返送されるだろうから無理だ。

実際、入学初日にカバンに入れてあったライトノベルは本棚に戻されていた。学校の休憩時間に読もうと思って本屋さんで厳選して買ったのに、それに気が付いたときは少し落ち込んだ。


特に持っていくものもないから、早めに帰ろうと思う。

家族に帰ることを伝えてから、玄関から靴を運び自分の部屋の鏡の前に立つ。


いざ立ってみたが、何て言えばいいのか教えて貰うことを忘れていた。

帰る時には特別何にも言われなかったけど、とりあえず鏡に向かって帰りたいと叫べばいけるのかと思い、とりあえず実践する。


「おじさん帰りたいです!!」


そう言うと、部屋の鏡にダークホールが出来た。正解だったようだ。その中に飛び込む。


すると見慣れてきた校長室に戻ってきた。


「おかえり」


「ただいまです!」


「リフレッシュ出来たかい?」


「はい!」


「それはよかった。ヒマリちゃんが思っていたよりも早く帰ってきてくれて助かったよ」


おじさんはなんだか上機嫌そうだ。


「いえいえ、あのままいたら帰れなくなりそうだったので早めに帰ってきました」


「そうか。明日からも勉学に励んでくれ」


「はい!」


そう言って校長室を出る。


まだ19時過ぎだが、ご飯は家で早めに食べてしまったので、何かやるといっても特にやることも思い浮かびもしなかったので、寮の自分の部屋に戻ろうと思う。


B棟を抜けて中庭に行くと、2日前と同じようにイブキくんがまたベンチに座っていた。

デジャブだ。一応この世界のスマホを確認すると、ちゃんと2日間の日付は進んでいる。

また彼に気付かれないよう足音を立てずに移動する。


「ヒマリ、どこに行っていたんだ」


彼の見えないところを歩いていたはずなのに、私の正面に彼はいた。思わず、ビビってしまう。


「え?どこへと言われても」


正直に話すことが出来ないため、しらばっくれる。


「金曜日、図書室に忘れ物取りに行くって言ってたよね。

心配だったからその後追って行ったんだけど、ヒマリはいなかった。どこに行ったのかとB棟の全ての場所を探したけれど、ヒマリはどこにもいなかった。

スマホにも連絡したが全く反応が無くて、まるでこの世界からヒマリの存在が消えてしまったようだった」


彼はとても冷たい声で怒っているようだった。彼の言ってることは正しいので凄く焦る。確かにあの時に嘘をついて彼と分かれてしまったのはよくなかった。だが、まさかついてきて私のことを探すなんて思いもしなかった。


「ごめんなさい」


「ヒマリはどこに行っていたの?」


「ごめん、それは言えない」


「何で?」


「そういう約束なの」


これを話してしまったら、私の学校生活は終了となってしまう。


「わかった……。



とりあえずヒマリが帰ってきてよかった」


そう言って彼は私に近づきハグをする。

私の脳みそはバグった。


(この状況で何故ハグされている?)


私はハグを解除し、彼から1歩引く。


「いきなりごめん。君がいるって確認したかったんだ」


「あ、そうなんだ!?

私初めてハグされたからそういう挨拶的なものって分からなかった、ごめん」


「初めてだったの?」


「そうだよ。ハグなんて外国人じゃないんだからしないって」


「がいこくじん?」


「は、えーっと、違う種族の人とはしないからさ、びっくりしちゃって」


「確かに。違う種族とはしないよね。驚かせてしまってごめん」


私は辻褄を合わせることに成功した。


「全然!もしまたすることがあったら言って!」


「わかった。


この前と洋服が違うようだけど、その服も可愛いな」


「え、あー!ありがとう」


彼は私のことをよく見ている。そう言われてイブキくんの服を見るが、私服を着ていた。この前は制服のままだったので、時間が進んでいることを確認出来た。

彼の観察眼が鋭すぎて、いつか人間界に戻っていたこともバレていそうな気もする。


「女子寮まで送るよ」


彼は歩き始めたので、その隣を歩く。

そういえば今日のイブキくんは私服なのかと気が付き、まじまじと見てしまう。制服の時もカッコイイが、私服はシンプルだが、似合っている。

似合っているよとか言えばいいが、そんなことしたらカップルみたいじゃないかと思い、心の中にしまっておいた。

無言のまま女子寮に到着。


「送ってくれてありがとう!また明日ね!」


「うん」


そう言って彼は帰っていった。私も自室に戻ると、まずこの世界のスマホを確認する。


チャット開くと、かなり連絡が溜まっているようだ。

確認すると、イブキくんから10回も電話があり、今どこにいる?と入っていた。ホントに申し訳ないことしてしまったようだ。後で何かお詫びしないといけないと思いながら、次にユアさんからのメッセージを読んだ。



ユア:来週の放課後、またあのカフェでシブヤの行きたい所を相談しませんか?



(お誘いメッセージだ。早く返さないと)



ヒマリ:もちろんです。日付はまた学校で決めましょう。



するとすぐ返事がきた。

Goodの書かれたスタンプが送られてきた。

次にシュウヤくんからだ。



シュウヤ:さっきは悪かった。

ユイトとは昔からの知り合いでちょっと昔な。


ヒマリが気にすることじゃないから、気にしなくていいからな。



1番早く返信しないといけないメッセージだった。2日も空けてしまった。



ヒマリ:シュウヤくん返信遅くなってごめんなさい。


そうだったんだね!

気遣ってくれてありがとう!!



すぐに既読がついたが、何にも来なかった。なんだかそれが彼らしいと思った。

最後にイブキくんにお詫びのメッセージを送る。



ヒマリ:イブキくんさっきはありがとう。

そして、心配をかけてごめんなさい。


お詫びとして、イブキくんの好きなことをしましょう。もちろん、何でもしますので!!かかってこいです!



すぐに既読が付いた。



ユイト:いや、僕の方こそ勝手に騒ぎ立ててごめん。


ヒマリと好きなことを出来るのか。まだ思い付かないから、決まったら言うね!


ヒマリ:了解です!



それでメッセージは終わりかと思いきや、まだナルミさんからも来ていた。



ナルミ:来週末、親睦会をやったレストランの新メニュー試食会があるんだけど、ヒマリも来る??



めちゃくちゃ気になるが、何人来るかも分からない試食会には陰キャとしては参加出来ない。断ろう。



ヒマリ:ごめんなさい。

その日は予定が合って難しいです。

誘ってくれてありがとう!



ナルミさんも即返事をくれる。



ナルミ:わかった!また何かあったら誘うね!!



相変わらずの陽キャだ。こういう人が交友関係と青春を楽しめる人だ。


なんかただ返信をしただけなのに疲れた。

シャワーを浴びて再びベッドに横になる。

明日からまた始まるのかと少し嫌になってきたが、それが学生の本分なので登校する。

とりあえず寝ようと思い、そっと目を閉じた。

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