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第1話 入学する学校を間違えた?

満開だった桜が散り始め、緑が芽吹く季節。

私は高校の入学式へ参加するため、学校の校門前までやってきた。


家から学校まで歩いている時から、心臓が飛び出そうなほど緊張をしている。

周りの生徒たちはもう友達らしき人たちと歩いている子や音楽を聴きながら歩いている子など様々いた。


新しいクラスに馴染めるか、初日から友達が出来るかどうかという不安に駆られ、足に重りがついているのかと思うほど学校への道のりは長く感じた。

校門を通る前におばあちゃんから教えてもらった、手に人の文字を書いて食べるという緊張を解くおまじないをする。

そして人はみんな人間ではなく食べ物、絶対に大丈夫と自分自身に思い込ませる。


いざ校門をくぐろうと歩き出すと、春なのに氷のような冷たい風が強く吹き、前髪を崩したくないので押さえた。

風が吹き終わり前髪を直していると、突然目の前にダークホールのような黒い円型の穴が出現していた。

目の前のおかしなモノが現れたので私は夢かと思い目を閉じて、もう一度開けでみたり、目にゴミが入ったのかと思い、目をこすってみたが、夢ではないようだ。

そのダークホール(仮)は、まだそこに存在した。

周囲を見渡しても私以外には見えていないのか、誰もそのダークホールには目もくれず素通りした。


私もこのダークホールを避けようと歩くが、体が自然とその不思議なホールに招かれるように吸い込まれてしまった。




◇◆◇




謎のダークホールに吸い込まれたが、特に体の異変はなかった。何にも問題なかったと安心していたが、目の前にある学校が先程よりも大きく立派に変化していた。敷地も先程いた学校よりも遥かに広そうに見える。

左側に置いてある学校名の書かれた看板を見ると、私が通うはずの学校名とは違う、『イシュタリアンスクール』と書かれた立派な看板が立っていた。


……ここはどこ?


誰かに話かけようと思うが、周囲に人はいない。どうしたらいいかわからず、立ちすくむ。


とりあえず、スカートのポケットに入れておいたスマホを見てみるが、電源ボタンを何度押しても画面は真っ暗のままだ。画面もタップするが反応しない。朝、充電を100%にしたはずなのに何故なんだろう。


何かヒントはないかと思い周囲を見渡すが、先ほどとは違う場所に来たぐらいの情報しかわからない。


次に自分の身のまわりものがおかしくないかと確認すると、制服の色や丈が違う。

私が入学予定だった高校の制服は全体的に黒を基調としていおり、リボンが赤色のセーラー服を着ていたはずなのに、今着ているのは紺色のブレザーで中は白いシャツ、ネクタイは赤色、スカートもブレザーと同じ紺色の制服。

いつのまに着替えたんだ、自分。

だが、肩に下げていたカバンは変わらない。これは学校指定のものではなく、個人で用意したものだ。

制服と学校は変わり、持ち物の変化はない。


改めて考えても、一体何が起こったのか、さっぱり分からない。

だが、変なダークホールのようなものを通ったことが原因であることだけはわかる。


数分ほど校門の前で、自分が入学するはずの学校ではないことに戸惑っていると、学校のチャイムが鳴る。

私はその音に反応し、ここで突っ立っていても何にも変わらないと思い、とりあえず校門をくぐってみる。

校門から昇降口までまあまあの距離があり、敷地の広さに改めて驚いた。昇降口の扉に貼ってあるクラス表を見て、自分の名前の書いてあった1-Bに向かってみる。相変わらず全く人とすれ違わないので、私だけしかこの学校にはいないのでは?と錯覚してしまいそうになる。

教室にたどり着き、扉を開いた瞬間、全員がこちらを向いた。


クラスメイトたちはみんな着席していた。

おそらくこれはギリギリの時間に入ってきたんだろうとみんなの視線で感じさせられた。


入学式から時間ギリギリで入ってくる人なんていないものよね。


みんなの視線に気まずく、足が震えながらも、唯一の空席である廊下側の1番後ろの席に座る。

隣の男の子はやけに顔が整っていて綺麗な少年が座っていた。


その後、このクラスの担任になると思わしき人物が教室に入ってくる。出で立ちはしっかりとしていて、顔はやや厳しそうなつり目でこちらを見て教壇の前に立った。「ホームルームを始める」と言って、彼は自己紹介をする。


「はじめまして。このクラスの担任をすることになったヴァンパイアのリュウ・シバモトだ。これからよろしく」


先生は簡潔な挨拶をし、これから行われる入学式の流れを説明していた。


みんなが真面目に話を聞いている中、私は先程先生が言っていた言葉が引っかかっていた。


まず、ここは海外なのか名前から自己紹介をするスタイルと最初は思ったがその予想は外れ、次に先生はヴァンパイアと口にしていた。


ヴァンパイアは吸血鬼。この世界に吸血鬼って存在するんだっけ?

逸話とか都市伝説じゃないんだという衝撃。

そして、その状況に誰もツッコミをしないこの空間。

一体なんなんだ。カオスすぎる。

確かに言われてみれば男の人なのにやけに肌が白く見えるし、上の歯は犬歯のように2本尖った歯が見えた。

先生が言っていることは本当なのかもしれないと変に冷や汗が出てきた。


「次に今から支給するこのピンバッジを絶対に無くさないように。これはこの学校の生徒である証だ。今すぐにでも、制服の左胸のところに付けるように」


先生は金色に輝く学校の紋章が描かれた小さなピンバッジを生徒に配る。

回されて受け取り、早速付ける。やっと入学式っぽいと実感し、少し安心する。

だが、まだ私はこの状況を全く理解出来てはいない。何か他に情報はないかと先生の話に耳を済ましたが、入学式の説明でHR(ホームルーム)は終了してしまう。

体育館に向かうため、みんなは廊下に出て整列する。周囲にいる子たちも普通に人っぽく見えるけれど、みんな吸血鬼なのかと周りを警戒しながら、歩く。

特に変な動きもなく無事に体育館に着き、用意されたパイプ椅子に座り、入学式が始まる。


1年生の代表生徒の挨拶やこの学校の生徒会長の挨拶が終わる。生徒会長はなんだか見覚えのある名前だった。勘違いかもしれないけれど。話し方は爽やかでとても秀才そうな雰囲気を持ったまたしても顔が整った男だった。あれはクラスでいや、学校でモテるに違いない。

そんな妄想をしていると、最後に校長先生の挨拶の時間になった。

ここまでは普通の学校だと安心していると、校長先生の顔にも見覚えがあった。

目を凝らして見ると、お父さんの兄である中田(なかた) (しょう)おじさんが登壇していた。幼少期、おじさんの家に遊びに行くといつも不思議な話を聞かせてくれるちょっと変なおじさんだとは思っていたけど、こんなところで再会するとは思わなかった。おじさんを見るのは約10年振りだが、あまり老けておらず、昔と変わらず優しそうな笑みを浮かべる人だ。


何故ここにおじさんがいるのか、意味も分からずガン見していると、おじさんも私の視線に気が付いたのか、私と目が合う。彼も驚いたのか目を丸くし、一瞬言葉が詰まっていた。

その後、先程の動揺した様子はなかったことのように挨拶を終えていた。

入学式を無事に終え、安堵していると、担任が私を呼び止める。


「校長が君を呼んでいる」


そう簡潔に言われ、慌てて校長室へ向かう。


そういえば校長室の場所は知らないが、とりあえず適当に進んでみると、校長室の前にたどり着いた。

扉をノックをし、校長室へ入るとおじさんが立派な椅子に座り、こちらを見ていた。


「ヒマリちゃん、何故ここにいるの?」


この学園の校長であり、私の叔父は尋ねた。


「それは私も知りたいよ」


そう伝えると、おじさんは1人で考え込むように顎に手に置いた。そして、1分ほど考え込み、視線は再び私に向く。


「ーーいいかい、君は人間だとバレずにこの学校で過ごすんだ」


(何を突然言い出すんだこの人は)

私の心の声は露知らず、おじさんはそのまま語り続ける。


「この学校に通う生徒たちは人間ではなくアンデッド。色々なアンデッドたちが共に学び、暮らす世界であり、唯一この場所だけは人間について学ぶことが出来る」


私の頭の中がハテナマークでいっぱいになった。


「人間じゃなくて、アンデッドってどういうことですか!?意味が分かりません!!」


「そうだよね。この世界には5つの種族の者がいる世界で、人間は誰1人もいないんだ」


「人間が誰もいない……」


そしたら目の前にいるおじさんも人間ではないのか?という疑問が頭に浮かぶ。するとおじさんは私の疑問に答えるように話し始める。


「僕はウィザードと人間のハーフさ。弟、いや君のお父さんも実はそうなんだけど、ウィザードとしての能力が低くてね、この世界ではなく弟は人間界で暮らすことにしたそうだ」


「なるほど!


……ってことは私もただの人間ではなく、ウィザードということですか!?」


「一応はそういうことにはなるけれど、君の場合、約10%程度のウィザードの血が流れているが、ほぼ人間に近いウィザードと言うべきなのかな……。


……期待させて悪いけれど、残念ながら君は魔法も使えないし、魔力もほぼ無いから何にも出来ないんだ」


おじさんは申し訳なさそうに説明した。

淡く抱いた期待はすぐに弾け飛んだ。


(何だそれ。それは人間とほぼ同じではないか。

せっかく異世界に来て魔法使いだってわかったのに、何にも出来ないなんて悔しい)


「でもね、この世界ではウィザードが1番偉い存在だと言うことは知っておいて欲しい。


君はほぼ人間だけれども、この世界の人口の3%未満のレアな人種ということは誇れることだ。でも、それも内緒にしておいてくれると助かる」


まだ自分の血が凄いものという実感は全く湧かない。実際は今までと同じように生活して欲しいというお願いなので、分かりやすくて助かる。

一体何故この学校に入学出来たんだろう?という疑問が頭に()ぎり、おじさんに尋ねる。


「実はそれが僕にも分からないんだ。

君もホームルームの時に配られただろうが、学生ピンがこの学校の学生証代わりやこの学園の生徒だと証明出来るものなんだけど、そのピンが付けられるということや、そもそも人間はここの校門をくぐることすら出来ないはずなんだけど、君は入学することが出来た。

まあ僕の親戚として何かしら認められて入学出来たと思うんだけど、こんな不思議なこともあるんだね」


おじさんはこの状況について苦笑を浮かべながら不思議そうに話す。おじさんにも分からないということはイレギュラーが起こったということだろう。

とりあえずこの状況を受け入れるしか道はない。


「ーーあ、安心して欲しい。僕から君の両親に君のことを預かったと連絡しておいたから。

この学校は入寮制でもあるから、君には特別に一人部屋を用意しておいたよ。

これから卒業までの間、絶対に人間だとはバレずに3年間過ごして欲しい」


「分かりました」


(お父さんもお母さんも心配しているだろうな。いきなり娘が異世界に行ったなんて誰も信じないよ。私もまだ信じられていないし)


「あの、私が本来行くはずだった学校はどうなってるんですか?」


「ああ、それはみんなの記憶を書き換えさせて貰ったよ」


「そんなこと出来るんですか!?」


思わずおじさんに大きな声でツッコミしてしまう。


「ああ、僕ぐらい優秀なウィザードではあれば出来るが、普通なら出来ないよ。

でも、本当はこんなことしてはならないのだが、緊急事態だから仕方なくということで理解して欲しい。

だから、君の両親や周りの人は最初からこの学校に来るという記憶に書き換えたよ」


魔法ってそんなことも出来るのか。とても凄い技術なんだろうな。

そういえば、人間だとバレずに生活して欲しいと言われていたが、もしもバレてしまうとどんなことになるか聞かないと。


「少し話は逸れますが、もし仮に人間だとバレてしまったらどうなるんですか?」


おじさんは先程までの穏やかな表情から、怖い笑みを浮かべる。


「それはもうとても大変なことになるから、バレないようにね!」


(なんて抽象的なんだ。もう少しヒントが欲しい)


「大変なこととはなんですか!!」


「1つ話すとしたら、ここの世界の住人は人間を嫌う者もいるから、知られたら何をされるか分からない。だから、知られないで過ごすことが平和に終われると思う」


(なるほど。この学校の生徒は人間について学ぶぐらい興味のある人が多いが、それ以外の人もいるということを頭に入れておかないといけないわけか)


「おっと、こんな時間か。そろそろ教室に戻らないとね。長話しすぎて怪しまれても大変だからね。

何か困ったことがあったら、いつでもここに相談しにおいで」


そういって、おじさんは私を教室に戻るように促した。先程説明して貰ったことを頭の中で整理しながら、教室に急いで戻った。

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