第13話 二つの宝物
違う。違うよ。違うんだよ。
私が動画の中でむきだしになれたのは、遠くから支えてくれる人の言葉があったからだ。
どれだけ蓮と一緒に撮影をしていても、私の心から離れていかなかった大切な人の存在。離れるどころか、どんどん膨らんでいった俊への想い。
この気持ちはきっと、岩にぶつかったって、散っていかない。大きな私の波だ。
「私、俊が好きだよ」
雲から覗く太陽の光が、見計らったかのように、私と俊の間をすっと照らす。
俊との距離は、1メートルほどしかない。あんなに遠くにいた彼が、手を伸ばせば触れることのできる場所にいる。そう思うと、全身が震えるくらい嬉しかった。
俊の目が大きく見開かれる。
どうして、なんで、とその目が私に聞いている。たぶん俊は、私が蓮のことを好きなんだと思っていたんだろう。私は俊の目を見つめながら、口を開いた。
「中学卒業の日、俊に好きだって言われて、本当は嬉しかった。でも私、まだ子供で、好きっていう気持ちが分からなくて。俊と友達でいられなくなるかもって思うと、怖くて頷けなかったんだ。だけど竜太刀の町に来て、俊がずっと私のことを気にかけてくれているのを知って、本当は俊のこと、好きなんだって気づいた。蓮に対しては、相棒みたいな居心地の良さを感じてたけど、恋じゃなかった。蓮の夢にのっかって活動していくうちに、自分の心と向き合う時間が増えたの。苦しい時、いつも心に思い浮かぶのは俊の顔だった」
俊はじっと私の言葉に耳を傾けている。
遠くからまた、波の音が聞こえたような気がした。
「この町って不思議なんだ。竜太刀岬がそばにあって、岬の岩に波がぶつかっていくのを、私はいつも想像してしまうの。実際に目にしてしまうと自然ってなんて怖いんだろうって思う。でも私も、あんなふうに全力でぶつかってみたい。自分が好きだと思う人に、まっすぐ……」
蓮がくれたのは、本当の心を隠さずに見せる強さ。
俊がくれたのは、たとえ道に迷っても絶対にそばにあると信じられる温もり。
どっちも大切な、宝物だ。
「俊がずっと『がんばれ』って言ってくれたこと、言ってくれない時も『がんばれ』って思ってくれていたこと、私はすごく嬉しかった。心のいちばん奥深くがあったかくなって。遅くなったけど、やっと気づいたの。私は俊のことが好きだって」
私が言葉を発すれば発するほど、俊の瞳に涙が溜まっていくのがわかった。雲がかっていた空から、風に乗って雲が流れ、晴れの空が広がる。日の光は俊の瞳に反射して、宝石みたいだと思った。
「俺、凛のことを、諦められなかった……。何度も、もう連絡をするのはやめようって思ったけど、できなくて。格好悪いよな。男がウジウジ一人の女を思い続けるなんて。でも凛は俺にとってたった一人の大切な人なんだ。だから、だから……今すごく、嬉しい」
俊の瞳から、大粒の宝石がこぼれ落ちるのを見て、私もつられて込み上げてくるものを抑えられなかった。二人して嗚咽を漏らすように泣き続け、そして俊が私の身体に触れた。
二人の距離は、もう0kmだ。
「実は俺さっき……蓮に会ったんだ」
「え、蓮に? いつ? どこで?」
ひとしきり涙が出て落ち着いた頃に、俊が信じられないことを言った。
「凛の通っていた高校の前で。なんか必死な形相で校門から飛び出してきた男がいて。なんとなく、凛が話していた蓮ってやつの特徴に似ていて。だから、違うかもって思ったけど声かけたんだ。『もしかして、蓮、ですか』って」
今度は私の目がどんどん見開かれていくのを感じた。
俊と蓮が、言葉を交わしていたなんて。そんなこと、さっき蓮と話した時には何も言っていなかった。蓮は私に、あえて俊の話をしなかったのだ。
「そしたらあいつ、なんて言ったと思う? 『俺、いまから風間さんに告白してきます』ってよ。初対面なのにいきなりそんなこと言われて俺は拍子抜けしちまって。でもその後にちゃんと、『風間さんを支えてくれてありがとう』って頭を下げてきたんだ。だから俺も、『凛のそばにいてくれてありがとう』って言って、それですぐに別れた。颯爽と走っていくあいつを見て、俺は高校生の凛のそばにいたのが蓮でよかったって、思ったんだ」
きらきら光る宝石が、この場所でいくつも手に入った。
蓮との撮影の日々も、俊と想いが結び合ったことも、全部私の宝物だ。
意気地なしだった私を変えてくれたのは、この竜太刀の町と、二人の男の子たちだ。
「ありがとう、俊。私はこの場所でいろんなものから、卒業できた気がする。新しい一歩は、俊と一緒に歩いてく。だからこれからも、よろしくお願いします!」
さぶん。
遠くて聞こえないはずの波の音が、想像だけも耳の奥で鳴り響いている。
もう痛くない。岩に波がぶつかっても、私は自分の足で立っていられる。
蓮と一緒に駆け抜けた青春の思い出を胸に、俊と繋がれた奇跡を、ずっと大事に抱えて。
【終わり】




