帝
なぜ帝がここにいる?しばらく思考が止まった。
「え、えと……」
「いい、気を楽にしろ」
帝は笑みを浮かべながら言った。
「は、はい」
正直どう話したらいいのか分からない、だってこの国で一番権力が高い方だ。何か手違いでもあれば首が一瞬で吹き飛ぶ。
「あ、あの、久しぶりて……」疑問に思ったことを言ってしまった。
「ああ、そのことか、」
「昔、君の祖父には世話になってな、その時に一度だけあったことがある。」
そうだったのか、だが記憶にはない、祖父と一緒だったということはそんなに前ではないと思われる。いつ会ったのか思い出せずに首をかしげていた。
「さて、昔話は置いといて、本題に入ろうか」
「‼」そうだ、なぜ私が帝の下に呼ばれたのか。傾げていた首を上げる。
「ユリ、私の探偵になってくれるかい?」
「へ?」なんて?
「いきなり言っても流石に驚くか……」
「あの、探偵……ですか……?」
「ああ、最近私の命を狙っている不届き者がいるようでな」
「!」
「そこで、調べて未然に防いでほしい、それに君は誰に似たのか博識だからね。」
この言葉を聞いてやっと理解した。私は帝を守ってほしいと頼まれたのである。つまり、探偵という肩書のボディーガードになったのである。
「どうか?やってくれるかい?」
こう聞いてくるがおそらく強制だろう。
「はい!やらせていただきます。」
こうなったら吹っ切るしかない、そう思って返事をした。
(……でもこのまま下働きをやらせてもらえるとは思わなかった。)
正直、家に戻されると思っていたが、おそらく帝は事情を知っているのだろう。
それに――
「下働きをやっていた方が探偵としてはやりやすいだろう。あの呉座谷ユリが探偵をやっていたら大問題だ。」
確かにそうだと心の中で思った。
あと、
「それで、ユリ様どうされます?」
先ほどの公家だ。
「ユリっていうのはやめてくれないかな?これでも家出中だから……」
「かしこまりました。」
名前は史郎というらしい、帝から助手の立場として任命された。
(本当はやりたくなかったんだろうな)しょうがない、彼だって逆らったら首が吹き飛ぶに違いない。
そう同情しながら
「別に、式典までは下働きとしてやっているから。」
「左様でございますか。」
「あと、いいよ敬語を使わなくて、この姿だとあなたの方が立場は上だから。」
「そうか、」一息ついて、
「はあ~」どでかいため息をついた。
「ほんとさ、ハラハラしてたんだぞ、あの帝様にあんなこと言うからな。」
心当たり大ありだ。私も失礼承知で言ったからな。
「その節はすみません。」
「俺も初めて会ったからな、緊張したよ。」
「え、そうなんだ。」てっきり側近かと思った。
「まあ、よろしく頼むよ。」目を向けて手を差し伸べた。
「うん、こちらこそ。」ユリも手を出し握手をした。
いつも通り、下働きとして部屋の掃除をしている。
ほうきの規則正しい音が耳にいい。
「ふう……」
掃除が終わった。そろそろ昼食になる。
「戻るか……」
今日は私が好きなぬか漬けだったなと思いながら食堂へ向かう。
昼食をもらい、いつもの席に座った。
少し早すぎたかなと思いながら、食べ始めた。
「お隣失礼します。」アミがそう言って座った。
「お疲れ様」
「ええ、きょうユイさんの好きなぬか漬けですよね。」
「うん、おいしい!」
そんなたわいのない話をしていたら、突然――
「ねえねえ、大変!」
リンが食堂中に聞こえる声で叫んだ。食堂にいる人たちはこちらを見ている。
「どうしたの、そんな大きな声で。」耳をふさぎながら聞く。
「それがね、それがね。」
相当焦っているようだ。
「落ち着いて!」
その言葉を聞いて一旦冷静になったようだ。
そして一呼吸おいて言った。
「シュラ様の壺が割れたんだって。」
「え!」
これが探偵呉座谷ユリの最初の事件になる――。