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帝の探偵  作者: 五十嵐 日陰
18/20

姉妹として

 「志乃!志乃!待って!」

 「遅いよー梨夏、早くしないと置いてっちゃうぞー」

 「待ってよー」

 野原で駆けまわる子供、そこには笑顔があった。

 ずっと一緒にいて楽しかった。


 「梨夏ー早くしてー」

 「ごめんって、志乃、ちょっと待ってて。」

 「もう、先行くね。」

 「あ、ちょっと!」

 一緒に働けたのも嬉しかったし、楽しかった。


 何時からだろう。

 志乃と距離を感じたのは。

 「梨夏、早くして。」

 「私は行くね。」

 「じゃあね。」

 待ってよ――待ってよ――いつも、いつも先に行っちゃう。お願い、行かないで。

 お願い!


 「はっ!!……はあはあ――」馬鹿だ。私はずっと志乃が姉妹のように思っていた。

 本当は違っていたのかな――


 「お待たせしました。」

 ユイは物置に本憲、梨夏、史郎、を呼んだ。

 「これから真相をお話しします。」

 「どういうこと、私はちゃんと話したわ。私が金具に服を引っかけて――」

 「そこです。先ず、金具に服を引っかけ外そうとして引っ張ると布が破けたり、糸がほつれたりします。」

 「しかし、あなたにはそれがない。」

 「!」梨夏は目を逸らした。

 「と言う事は、あなたが服を引っかけた事は嘘になる。」

 「じゃあ、おまえが志乃を――」と本憲が言いかけたところで。

 「いいえ、違います。」とユイは断言した。

 「あなたは彼女が死んだとき、とても落ち込んでいました。私達がいない時もです。それが演技に見えますか。」

 「じゃあ、誰が?」

 「それは、志乃さん本人です。」

 「!まさか、自殺か。」梨夏の方を見ると両肩が震えていた。

 「だが、おかしくないか。どうやったら、このいかにも重たい箪笥を一人で倒せるのか?」

 「ですから、今からそれをお見せしましょう。」ユイは史郎に頼み箪笥を用意した。

 「先ずここに毛布のような大きめの布を用意します。」

 「そして箪笥を奥の方に倒し前の足を浮かせます。」そう言って史郎は箪笥を奥に倒した。

 「そしたら、布を箪笥の下に滑り込ませ、箪笥を手前に倒します。」

 「最後に布を引っ張れば……」箪笥が倒れてくる。

 本憲がユイが箪笥の下敷きになってしまうことに気づき「ユリ!」と叫んだ。

 しかし、打ち合わせをしたのか史郎が倒れる寸前で箪笥を止めた。

 「ありがとうございます。」ユイは史郎の方にお礼を言った。

 「こうすることで、一人でも箪笥を倒すことができるのです。」

 「本憲様が調べてくれました。あなた達は当時、持ち場は物置の整理ではなかったと。」

 「そうよ……志乃は自殺をしたの。」

 「どうして、」本憲が聞いた。

 「原因は貴方よ。」と本憲に向かって言った。

 「!」

 「志乃は貴方の事が好きだったの。」

 「でも、貴方はお隣の彼女に夢中みたいで、」ユイはその言葉を聞いて歯を食いしばった。まさか、私の行動も自殺した一因になっていたとは、思っていなかったからだ。

 「だから、志乃は彼に振り向いてもらうために精一杯努力したわ。もしかしたら妻になれるかもしれない。って」

 確かに、本憲は妻をたくさん持っている。妻の一人になる位、容易だったかもしれない。しかし、本憲はそんな努力に目もくれずユイに夢中だった。だから――ユイはそう結論付けた。

 「あとね、志乃に殺してほしいって頼まれたの。」

 「でもこれだけは、断った。」

 「だって、そんなの姉妹じゃないでしょ。」

 

 ――

 「お願い、私を殺して。」

 「どうして、」

 「できるでしょ。」

 「なんでよ。」

 「女はね目立たなきゃ誰にも気付かれないの。」

 「本憲様に気付いてもらうには――死ねばいいのよ」志乃はまるで何かに取り憑かれているようだった。

 「それとこれとは、話が違うわ。」志乃は声を震わせながら言った。梨夏は恐怖で一杯だった。

 「私達、姉妹でしょ。」志乃はニコッと笑った。

 「そんなの、姉妹じゃない。」梨夏は言葉を吐き捨て立ち去った。

 「そう。なら、私がやるまでだわ。」

 ――――

 

 「結局、私達は姉妹でも何でもない、私は彼女の死を止められなかったもの……」

 「本憲様」梨夏は本憲の方を向いた。

 「これだけは覚えておいて、貴方に夢中な人はごまんといるわ。そこのところ、よく自負して。」

 「さようなら。」

 それから、梨夏は橋から飛び降りたと聞いた。まるで、志乃の死を追いかける様に。


 「そうですか……」

 この話がユイの耳へ入ってきたのは史郎の報告を聞いた時だった。

 私がこの仕事をやっていなければこんな事にならなかったのかもしれない。ユイは気落ちした。

 「こんな所で何をしているのかね。」

 「本憲様、」

 「見事な推理だったよ。流石だユリ」

 「だから、私はユリではありません。」

 「今、報告中なので辞めてもらえませんか。」と史郎は言った。顔を見るとすごく嫌そうな顔をしている。苦手なのかなとユイは思った。

 「じゃあ、ユイ話を変えよう。」

 「なんでしょうか。」

 「私の妻になれ。」

 「は?」ユイは心底不機嫌な顔をした。史郎は目を丸くしてこちらを見ている。

 「やっぱり私は君のことが夢中になる位好きなようだ。だから――」

 「そんなこと言ってる暇があったら。今の奥さんたちを大切にしてください。話はそこからです。」

 「行きましょう。」そう言ってユイは史郎と場所を変えて話すことにした。

 「やっぱり面白いな――」本憲は不敵に笑った。

 

 


 

補足

梨夏は志乃のことが好き

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