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帝の探偵  作者: 五十嵐 日陰
17/20

箪笥

  騒ぎが一気に広がり野次馬も増えてきた所だ。他のものは入れないように物置は封鎖されている。

 「すまない、通らせてくれ。」人込みの中から声が聞こえた。

 「一体、何御騒ぎだ!」本憲が部屋を見て言った。

 「本憲様、」ユイは振り向いて答えた。

 「ユリ……いや、ユイこれは……」一瞬本名を言いかけたのでユイは睨み、本憲は慌てて言い直した。

 目の前にあるのは倒れた女性、血が付いた箪笥、箪笥から出たであろう衣類が散乱していた。女性の上にも下にも衣類が散乱している。

 「見ての通り死体です。」

 「よく、冷静に言えるな。」

 「最初は焦りましたよ。」

 「亡くなっていたのは、あなたの部下なんですから。」

 本憲は血の気が引く感じを覚えた。

 「それは……本当か……」

 「ええ、箪笥の下敷きに……」ユイは気分が落ち込んでいるように見える。それもそのはず、昨日まで一緒に働いていた者がこんな姿になっているからだ。

 「でも、なぜこんなところに年季の入った箪笥が置かれてるんだ?処分すればいいのに。」

 「此処は入れ替わりが激しいですから、この箪笥も新しく来る人に譲り渡す予定だったのでしょう。」

 「志乃、志乃!」入口で叫ぶ声が聞こえた。見た感じユイと同じ下働きのようだ。役人の静止を振り払い中へ入っていく。

 「お願い!目を覚まして――」亡くなっている下働きを揺さぶりながら必死に声を掛ける。

 「君は。」

 「同じく同僚です。」ユイが同僚を慰めながら答える。

 「亡くなった者は志乃というんだな。」

 「私は分からないです。顔しか見たことが無かったので。」ユイのような下働きはごまんといる全員の名前を覚えるなんて至難の業だ。

 「じゃあこの者は?」

 「いえ……」

 「そうか……」

 「君、名前は。」その後遺体は処理され、本憲の仕事場で話を聞くようになった。ユイも本憲の隣で話を聞くことにした。

 「梨夏と申します。」下働きの者は何とか正気を取り戻し受け答えもできるようになった。

 「志乃という者の関係は?」

 「幼馴染だったんです。」泣き止んだとはいえ、梨夏は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 「遊ぶ時も、勉強するときも、姉妹のようにずっと一緒でした。」

 「私のせいなんです……」

 「どういうことだ?」

 「次の新入りのために箪笥の中身を片付けろ、と私と志乃で頼まれていて、私が角の金具に服を引っかけてしまったの。」

 「それで、頑張って取ろうとして引っ張ったら……」

 「どうしてすぐ助けようとしなかったんだ。」

 「助けようとしたわ、でも、もし私が倒したって分かったら……」

 「私、怖くなって逃げてしまった。罪から、逃げてしまった。」梨夏の頬には涙があった。

 「分かった。これは事故として処理をしよう。大丈夫だ。君は罪に問わない。」

 「分かり……ました。」涙は無くなったものの、表情は一段と暗かった。

 

 「ありがとうございました。」梨夏は退出をした。

 「おかしい……」ずっと話を聞いていたユイが口を開いた。

 「どういうことだ?」

 「普通、箪笥の金具に布を引っかけた時、無理に引っ張ろうとすると、布が破けたり、糸がほつれたりしますよね。」

 「なのに、梨夏さんはそれが無かった――どういうことだと思います?」

 「まさか、さっきの話は嘘だと……」

 「あともう一点、現場を見て不自然だったんです。」

 「どこがだ?」

 「箪笥が倒れた時、衣類が散乱していましたよね。」

 「ああ、それがどうした?」

 「箪笥と志乃さんの下に布があったのを覚えていませんか?」

 「!言われてみれば……」

 「普通、上から物が落ちてきた場合、志乃さんの上に物があるはずです。」

 「しかし、そうではなかった……」

 「じゃあ、もしや梨夏が――」

 「調べて欲しい事があるんです。頼めますか?本憲。」

 本憲はその言葉を聞いて口角を上げた。

 「ああ、いいぜユリ」

 「__では、お願いします。」そう言って、ユイは足早に退出した。

 「……否定しないんだな。」本憲はユイの正体に確信を持った。


 ユイは早足で廊下を歩いた。

 「ごめんなさい……ごめんなさい――」物置で静かに泣く声が聞こえた。

 ユイは俯いた。

 

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