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帝の探偵  作者: 五十嵐 日陰
14/20

別れ

 式典で全然進められなくて女将さんに散々怒られとんでもない量の仕事を押し付けられた。丸一日あっても足りないぐらいだ。

(今日中に終わるか?)今日と言っても日は真上に上がっており手を休める暇はない。足早に廊下を渡っていると。

 「あの、」と声を掛けられた。そこには一人の女性が立っていた。姿を見るにどこかの女中だろう。

 「どうされましたか?」ユイは勘弁してほしいと思いながらそれを隠し女性に聞いた。

 「私、三郎という方を探しているのです。」

 その名前に聞き覚えがあった。

 「私の昔馴染みで、結婚をするはずでした。」この話も聞き覚えがあった。史郎から動機についてはある程度聞いていた。

 「ですけど、好きな人ができて、彼に別れを告げたいのです。」

 その言葉にユイは驚いた。

 「彼が言っていたんです。『君が幸せなら俺は何でもする。』と、だから自由に生きたいと思ったの。」

 聞いているだけで吐き気がした。

 「結婚する予定だったけど、でも心の底から好きになれる人が現れて、その人、富豪らしくて顔立ちもよかったから、この人と一緒に生きたいと思ったの。それで、その人のお近づきになるために女中になった。」

 こんなの駆け落ちじゃないか。

 「彼には、帝の元へ働くと言ったわ、あんまり心配かけたくなかったから」

 「だから、今までよくしてもらった礼と言うか、感謝を伝えたくて。」

 どうして――

 「そして、別れを告げたくて」

 じゃあ、彼のしたことは一体何だったのか、あんな奴に同情したくないが。ただ、聞いているだけで吐き気がした。

 「ごめんなさい、一方的に話してしまったわね、」

 きっと彼女は育ちがいいから周りのことなど気にしちゃいないんだろう。都合のいい事だけを考えて、何でもうまくいくと思って。

 「……」ユイは無言だった。

 「処刑場」

 「へ」

 「彼はそこに居ます。帝を暗殺しようとした罪で」

 ユイは女性を見た、冷たく凍ったような目で。

 「私が言えるのはこれだけです。」

 ユイは女性を通り過ぎ仕事へ戻った。


 東海道が通る人通りから外れたとある場所、刑場はそこにあった。

 「これより公開処刑を始める。」と大声で宣言された。

 見物人が一気に注目する。

 「何か言う事はあるか……」史郎は三郎に対して言った。

 「…………」縄で縛られ、磔にされている三郎は何か言う様子は無く俯いていた。

 「まって!」刑場に響く叫び声が聞こえた。見物人の最前列に女性が立っていた。息が上がっているようで肩で呼吸している。目には涙を浮かべていた。

 「!」三郎は俯いていた顔を上げ、驚いた表情を浮かべた。

 「どうした?」それに気づいた史郎は声を掛けた。

 「千香……」と呟く。

 「ねぇ……どうして、どうして」その叫び声は涙も混じっていた。まるでこの世の終わりかのように叫んだ。

 「……ごめんな、幸せになれ。」と言って三郎は笑った。その笑顔には涙も混じっていた。その瞬間――

 グッサッ

 彼の胸元に槍が刺さる、胸から血が流れ出て、槍に血が伝う。

 三郎の口から血を吹き出し、そのまま絶命した。

 「いやあああああああああ――」彼女は膝から崩れ落ち、泣き叫んだ。彼女の叫び声は空へ消えた。

 

 ここはとある墓場、帝はお忍びでそこに訪れていた。天気は下り坂今にも雨が降り出しそうである。鴉が何処かで鳴いていた。

 「お身体が冷えます。中に行きましょう。」側近がそう声を掛ける。

 「いや、まだ此処に居るよ。」そう言って目の前の墓を見つめる。墓には菊が供えられていた。

 「左様でございますか。」

 「私のせいで意味のない者の命を奪ってしまったんだ……」帝の目の前にある墓はかつて帝の補佐をしていた官僚、そして額に弓で射られ亡くなった者だった。

 線香の煙が辺りを漂う、雨が近づいてくるにつれ供えた花が大きく揺れる。

 ただ、静かだった。

 「……行こうか。」そう言って帝は来た道を戻った。

 遠くの山で雷が聞こえてきた。

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