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帝の探偵  作者: 五十嵐 日陰
13/20

結び目

 「なぜ、分かった?」押さえつけられた三郎は今押さえつけている史郎へ睨みながら問いかけた。

 「否定はしないんだな。」

 「ここまでされたら否定なんてできるわけないだろう。」彼は諦めきっているようだった。

 「決定打となったのは、弓矢の文だ。」

 「何故だ。」三郎は大きく目を見開いた。盲点だったらしい。

 「普通の人は余った所は右上と左下になる。しかし、弓矢に結ばれていた文は右下左上だった。こういう結び目になるのは左利きということだ。」

 「と言う事は、文を書いて結んだのは左利きだということが分かる。」

 「弓使いの中でも腕がよく、尚且つ左利きなのはお前しかいないからな。」

 「成程、俺が式典で帝を暗殺するのを予想して、捕まえようとしたんだな。あの女も協力者か。」あの女とはユリの事だろう。

 「――何故帝を暗殺しようとした。」

 「……俺が結婚する話を知っているか。」

 「ああ、噂程度だがな。」

 「俺の相手は長年苦楽を共にしてきた昔馴染みになるはずだった……」

 「だが、帝は彼女を引き抜いたんだ。女中としてな。」

 「女中はよっぽどのことがない限り、結婚ができない。」

 「俺があいつに結婚させないためだろう。だから……だから、殺せばいいと思ったんだ。」

 「ふざけたことを言うな。お前の身勝手な理由のせいでどんな影響を及ぼすと思う?」思わず叫んでしまった。だが史郎の声には怒りと憎悪があった。三郎にとっては重大な理由かもしれないが、史郎にとってはしょうもないと思う事だった。誰だってうまくいかないことはある、それを乗り越えるかが大事だ。だか三郎はそれを諦めた。そして実行したのだろう。

 「重罪いや死刑でも許されない行為だ。」冷たい声で言う。

 「ひっ捕らえよ。」周りにいた警備達が三郎を連行した。

 式典は何事もなかったかのように進められた。


 「ご苦労だった。」帝は言った。式典の翌日ユイは犯人を捕らえた事を報告した。

 「彼の動機については心当たりがありますか?」

 「さあ?名前も聞いたことがない。名簿も確認したがそれらしき名前はいなかったぞ。」

 「左様でございますか。」では一体その女性は何者なのか。

 「それに私は女性の顔は一度見たら忘れないぞ。」

 「は、はあ」返事に困った。確かに帝は女好きだ、側室も多くとっており側近からは呆れられる程と祖父から聞いた。

 だが、子供は正室しかいない、夜の営みは正室とだけにしているのだろう。一途な所もあるようだ。

 「だが、このようなことがあった以上、警備を増やさなければならないな。」

 帝の警備は四六時中行われる。交代制で六つ(6時)半日で交代する。帝の部屋の前とそこへ続く廊下にも配置されている。その人数はざっと数え50を超えている。

 「報告は以上です。」部屋から出ようとした時。

 「ちょっと待ってくれ」帝に呼び止められた。

 「これを」差し出されたのは髪飾りだった。

 「え、」見てみると桜と百合があしらってある。

 「私のために頑張ってくれたからね。ちょっとしたお礼だ。」

 「あ、ありがとうございます。」

 「きっとあの衣装に合うと思う。」

 「!」実はあの髪飾りシュラ様のところには似合うものが無かったので、少し質素な物になってしまったのだ。もしかしてそのために……と思ったがまさかと思い考えるのを辞めた。

 「では、失礼いたします。」そう言ってユイは部屋へ出た。

 「……また見てみたいな。」帝の言葉は誰の耳にも入らなかった。


 自分の仕事場へ戻るため廊下を歩いていたら史郎に出会った。先程まで誰かと話していたようだ。

 「あいつ、処刑らしい。」そう史郎が声を掛けた。

 「妥当でしょう。」素っ気なくユイは答えた。

 「ああ、そうだな。」

 「一体あいつの女はどこの奴なのか。」

 「……他の者の女中になった可能性は?」

 「それも一理あるが、調べるとなるとキリがない。」

 「まあ、いいでしょう。結婚相手が罪を犯したことも死んだことも知らないままのほうが、――幸せでしょう。」

 「そうだな。そうだ、お前も刑場へくるか?」どうやら、史郎は死刑執行の手続きで三郎と同伴することになったらしい。

 「遠慮しときます。人の死は見ていて気持ちのいいものではないので。」

 「そりゃあそうだ。」

 「では、仕事に戻るので。」

 「ああ、お疲れさん。」

 まだ疑問は残るがこの事件はこれで終わりだろう。

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