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帝の探偵  作者: 五十嵐 日陰
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朱色の布が宙を舞う、色とりどりの水晶が髪と共に揺れる。帯はひらめき回れば廻るほど表情を変える。純白の足袋は土で汚れていたが気にせず舞っていた。いや、そのことすら誰も気にならなかった。皆この舞に注目していた。

 反応は人それぞれだった。

 内容にないものをするではないと怒る者、呆れる者、更には何をするか興味を示している者もいた。

 「素敵ねぇ」シュラは目を丸くしていたが、すぐに()()()()に気が付きニコニコし始めた。

 キクはユイを睨んでいるようで「何なの……」と嫌味を漏らした。

 着ている服はシュラ様の踊り子の衣装だ。あの時、シュラ様にお願いをして快く譲り受けてもらった。

 呉座谷家は昔から帝に仕える家系ではない、湯湯原家、一ノ澤家、よりも家系としてはとても浅い、仕え始めたのは先々代帝の代である。ではなぜそんな家系がお家と呼ばれるのか、それは、舞である。呉座谷家は代々伝わる芸妓の家系であった。そのため、先祖が舞った舞に惚れ込んだ先々代帝は妃に迎え入れ呉座谷家が成立したそうだ。

 ユイ、いやユリが舞っているのは芸妓の舞ではない、亜細亜(アジア)の国からの踊りと舞を組み合わせている。舞う人にとってはそんな踊りは外道と呼ばれるが普通の人は目を奪われるような代物だ。

「これか……言っていたやつは」史郎はその舞を見ながら呟き、隣に止めていた馬に乗り手綱を引っ張り走らせる。出店で賑わっている大通りではなく裏道を使っていたが式典でもあるので人通りは多い、人が馬を避けながらすれ違う。史郎が向かっていた先は今まさに帝へ弓を放とうとする、歩射の名手 三郎だった。

 (邪魔だな……)三郎は帝の正面で舞っているユリに対し舌打ちをした。今は射ることに集中している。そう、周りのことなど気にしちゃいない。そう彼は気付いていなかった。

 そこからの史郎の行動は早かった――馬に跨る体を思いっ切り飛び降り、まだ体が空中にいる間に刀を鞘から抜き出し三郎の眉間ギリギリに突き出した。三郎は抵抗しようとしたが手に持っている物は接近戦では全くと言っていいほど役に立たない弓だ。それと対照に刀を持ち鍛え上げている史郎にかなうはずもなく、あっけなく拘束された。だが誰もそんなことに構うはずもなく皆、舞に夢中だった。


 ユイの舞を正面で見ている帝は少し昔のことを懐かしむように思い出していた――


 何年前だろう。

「顔を上げろ。」そう帝が言う。

 その正面には首を垂れた小さな少女と年六十程度の老人がいた。

「この者がお主の言っていた()だな。」

「ええ、彼女の名はユリです。」そう言って少女はぺこりと会釈をする。少し緊張しているようだった。

「彼女はとても賢い、もしかしたら私を超えるかもしれません。」そう言うのは帝の側近でユリの祖父である。歳に比べはっきりとしており老いを感じさせない、真剣な眼差しで帝を見ていた。

「そうか」

「ユリ、では、いつか大きくなったら私のそばで使えてくれるかい。」そう帝が問いながらユリを見る。

 小さな少女ユリは下を向いていた顔を上げ帝を見た。

「私は帝様の家来です。だから、仕えているも同然です。」彼女は堂々としていた、子供ながらにまるで大人が発言しているように聞こえる。

 その声には覚悟があった、“家来”としての覚悟が。

「本当に賢い子だ。将来が楽しみだな。」と帝はほほ笑んだ。


 ――そんなことを思い出しているうちに舞が終わった。まるで一瞬の出来事のようだった。帝はただ、ユリを見つめていた。

 歓声が沸き上がった。拍手の音が鳴りやまない。ユイは帝の方を向き一礼をした、あの頃と同じ、堂々としていた。

 「素敵だったわ。」シュラは終始笑顔だった。

 キクはじっ、とユリを睨んだ。まるで嫉妬するかのように。

 「くっそっ!」三郎が叫んだ。だがその声は拍手によってもみ消された。

 史郎は上から会場を見下ろした。




この話書きづらかった…

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