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帝の探偵  作者: 五十嵐 日陰
11/20

式典

 ついに当日だ。

 いつもは質素な雰囲気の建物はかなり華やかに彩られている。まだ朝方なので空気は澄んでいるが肌寒い。

 自分の服もいつもの下働きの服とは違い色彩が華やかだ。なぜなら――

 「帝の護衛をさせていただきます。ユイと申します。」

 「帝があんな子護衛にするか?」

 「頼りねえよな、大丈夫なのか今回の式典。」

 そう言われるのはしょうがないだがこれも帝の命令だ。

 「大丈夫かユリ様信用無いようですが」史郎が言ってきた。

 「それは一番自分が分かっています。」嫌そうな顔で史郎へ向けた。

 「まあ、頑張れよ。」

 「勿論です。」

 だが、ざっと見た感じ怪しい者はいなかった。

(護衛もまあまあの配置に居る。)

 歩きながらも近くにいた重要役人へ頭を下げる。どんな役人でも怪しまなければならない。

(今の朝鮮の使者か……)目線の先の人達は知らない言語で喋りかなり優美な格好をしていた。

 「恐らく帝は建物の正面に座る……」確かに建物の正面はいつもは締まっている扉が開いており、中には豪華な畳座布団がひいてある。

 「なら、狙うのはここだな。」そう言いながら振り返った。凝視するのは建物の向かいだ。ここは帝を狙うに正面で好都合だ。

 「なるほどな……」少しにやけた。

 「どうも、お元気で。」少し遠くから声を掛けられた。シュラ様だ。相変わらず美しい。

 シュラ様は小袿(こうちぎ)を着ており一番上は美しい藍色の着物を羽織っていた。髪飾りは金の簪を刺しており奇麗な花があしらわれている。とても目立つ衣装だが、どこかおしとやかな印象を受ける。

 「おはようございます。シュラ様。」

 「服装どうにかならなかったかしら?もっといいのあるのに」と不満げだ。

 「申し訳ございません。これでも護衛を任されているので。」実際、この服は護衛として支給されたものだ。正直色合いが質素だ。楽しく服選びをしていたシュラ様にとっては不満だろう。

 「でも()()()来てくれるんでしょ。楽しみにしているわ。」と微笑んだ。

 そしてシュラ様はすれ違いどこかへ向かった。

 向かった先を見ると、そこにはキク様がいた。

 キク様は朱色の衣を羽織り肌を露出させている印象を受ける。胸の辺りは特に出しておりそこには色気が感じられる。髪飾りもとても豪華でよく見ると宝石が使われているようだ。シュラ様とは対称に堂々とした印象だ。

 2人は何の話をしているか、仲良く談笑しているように見える。どんなに敵対関係でも社交は大事だ。少しでも無礼ことをしてしまってはお家同士の問題は考えただけで恐ろしい。

 きっと2人の笑顔はどちらも作り笑いだろうなと心の中で思った。

 「今回ユリ様が欠席だそうですよ。」そんな言葉が聞こえ肩を震わせた。

 「行方をくらましてひと月ですが、どうされたのでしょう?」

 「“お家”としてどうかと思いますが。」

 その後の話は聞き取れなかった。まるで嫌味かのように笑っている。何故私は家出したのか――思い出したくもない、ユイは暗い顔でうつむいていた。

 

 尺八の演奏が周りに響く、話し合っていた者たちは静まり返る。

 いよいよ式典がはじまる。位が高い官僚たちは次々と座り始める。

 中心の大通りからシュラ様とキク様が歩いてくる。皆その二人に釘付けだ。流石、天下一といわれる美貌のシュラ様、どんな男も落とせてしまうと言われるキク様だ。

 それに比べ私は……と思いながらその場を離れる。

 2人が席に着いた後、建物の中で誰かが座った。すだれで見えないが恐らく座ったのは帝だろう。皆頭を深々と下げた。

 私は息をのんだ。相手は今を狙うだろう、それを阻止するために私は使える物は使い、最善を尽くす。だから―― そして、ユイは指示を出した。横笛の甲高い音が響く、ユイは会場の中心へ立った。帝の目の前だ。正面から見てしまうとユイの姿で帝が見えないだろう。琵琶の繊細な音が聞こえ始めた。そうしてユイは舞い始めた。帝を()()ように。

 

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