戯れ言 婦長キレる(心臓が逃げた時の話し) 心疾患兄妹編
前回「戯れ言 妹が手術当日に帰宅した時の私の反応 心疾患兄妹編」での裏話的なお話しです。
「何やってるんですか・・・・・・」
ナースステーションで静かな怒気を込め、婦長が副医院長に詰め寄った。
後から妹から聞いた話しだが、その時の婦長は死ぬほど怒っていたそうだ。
「本当に面目ない」
事の成り行きとしては、心臓の手術直前の私の妹に、小さいときから診てくれた副医院長が、麻酔をかける間際「嫌だったら、しなくていいよ」と言ったことが原因だった。
妹からしてみれば、すでに第二の父と呼んでも良い存在だ。
『なら、やめる』
妹の即答で現場は騒然となった。何とか最後の説得を試みるも、ついには泣き出す始末。
おそらく、ここまで来るのにギリギリまで葛藤しながら挑むつもりだったのだろう。だが、副医院長の一言で張り詰めたメンタルが決壊したダムように崩れて行った。
「そりゃ、しなくて良いって言われたら誰だってやりませんよ! しかも年頃の女の子なんですからね! 何度も手術して、また新しい傷を作る訳だし、その辺の配慮もしてくれないと困ります!」
「申し訳ない」
多くの患者を診てきたはずの副医院長がそう言ってしまったのは、「頑張る!」と答える妹を妄想してしまったのだろうか。それとも、何とは無しについ口を滑らせたのか・・・・・・。
生まれた時から世話になっている病院だ、今日と言う日に向けて循環器科を中心に、内科と外科医、麻酔医、そして馴染みの看護師達も妹を励まし、説得を続けながらここまで来て全てが水の泡となった。
「漫画やドラマみたいに「頑張る!」なんて言える子そういませんよ。タイミングも最悪です。本音はみんな不安なんですから。オマケに「落ち着くまで帰っても良いよ」とか言ったそうじゃないですか! 妹ちゃんホントに帰っちゃって、死んじゃったらどうするんです?」
副医院長としては思いやりのつもりだったのだろう、だが、今回は完全に裏目に出てしまった。
そして、妹は自分にも周りにも素直過ぎた。
周囲の関係者も片付けに追われ意気消沈。「えらいことになった」と一同頭を抱えたそうだ。
(手術直前の心臓が逃げれば、そりゃそうなるわ)と、後日私は失笑してしまった。
「はい、みんな。作戦会議。どうやって妹ちゃんを再度説得するか考えて」
「単純に、このままだと死んじゃうと伝える」
「それ、本人も解ってるから却下!」
「家族からの説得」
「お母さんが既にやってるし、お兄ちゃんはヤレしか言わないから性格的に無理。それにお兄ちゃんも心臓だから、リアルに考えの違いから喧嘩になってヘソ曲げる可能性も高いので却下!」
「ドラマみたいな説得!」
「フィクションとノンフィクションの区別くらいつく歳だし、性格上馬鹿にされたと思ってたぶん余計に嫌がるので不採用」
「物で釣る」
「具体的には?」
「アイドルのコンサートに行けると言って、チケットを先に購入して呼び戻す」
「採用! すぐ手配して!」
「ガッテンだ!」
男性看護師がステーションを飛び出した。
「副医院長先生・・・自腹でお願いしますね」
「・・・・・・はい」
後日、本当にチケットを用意した結果「やるぅ・・・」と妹は泣きながら釣られて行くのだった。
そして私は、車に乗って病院へ向かう妹を見た時、心の中でドナドナが流れていたことに気がついた。
尽力して頂いた当時のスタッフの皆様、ありがとうございました。
ついでに、私もライブについて行きました。(自腹だったけど)