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ひこうき雲

作者: 36’

1日クオリティです。

 望月(もちづき)(あめ)はこのクラスでは1番の美少女としてクラスからの人気者…という訳ではなかった。確かに彼女は顔立ちも整っていたし、可愛い部類に入ると思うのだが、クラスメイトは彼女から距離を取っていた。

 なぜかと言うと、壁を作っているから。

 いつも教室の隅で本を読んでいる彼女はまるで「話しかけないで欲しい」という雰囲気を作っていた。なので、いじめられない距離感、くらいがクラスメイトとの間にあったのだ。

 それでも、成績が良いようで学年1位を当たり前のように取る望月に男子の何人かが興味を持ち、玉砕覚悟で告白されたという話をちらほら耳にした事がある。その時、告白した男子から聞いた話を再現するとこんな感じだったそうだ。

 放課後。彼は望月を屋上に呼び出し、そして告白をした。

「望月さん、好きだ、付き合ってくれ!」

「…私と喋ったこと、あるっけ?」

「ないけど、俺、分かるんだ、いつもクラスのみんなから距離取っててさ、辛そうなんだよ!、だから俺が幸せにしてやりたいんだよ!」

 ストップ。痛すぎるだろその言葉。

 なんだ俺が幸せにしてやりたいって。そんな結婚まで見据えてるのかよ。とにかく続きを再現すると、

「…じゃあさ、空見て」

「…は?」

「いいから」

「ああ…、空がどうかした?」


「もし、明日雨が降ったら、付き合ってあげるよ」


 彼女はそう言って帰って行ったそう。

 それから彼は家に帰って天気予報を見て、降水確率10%に全力にお祈りして叶わなかったそうだ。

 …何だろうな。天気で付き合うって。俺は彼の話を聞いて疑問に思った。

 普通、告白というのは重要なイベントだと思う。それを受けるかどうか天気で決めるなんて、本当は誰でもいいんじゃないのか…?、なんて、彼女に呆れてしまった。




 とまあ、彼女の話はここまでで。

 そんな望月と同じ図書委員になった。

 元々は彼女だけだったそうだが、1人だけだと力不足だったので、男子である俺が呼ばれたって感じだ。

「一ノ瀬くんだった?」

「うん、よろしく」

「よろしくね」

 壁を作るというイメージからはかけ離れた、普通の挨拶だ。

「それで望月…、俺は何をすればいいんだ?」

「一ノ瀬くんは本の整理をお願い、私机拭きやるからさ」

「大丈夫か?、机拭きって大変だろ?」

「あ、もしかして一ノ瀬くん、私の事バカにしてる?」

「してないよ」

「してるでしょう?、ほらほら?」

 …何だろうか。めっちゃクラスの時のキャラと違う気がするんだが…。

「まあ、とにかく、私は机拭きやってるから、整理よろしく」

「…了解」

 望月が大丈夫と言ったので大人しく本を整理する事にした。うわ、いっぱいあるな。

 分類を見て、その棚に行き、本を収める。この作業を後何回繰り返す事になるのだろうか。長時間労働になりそうな予感がしてため息をついた。

「何やってるの、次は?」

「あ、すまん、早く作業進めないと…って、望月?」

「はい、望月雨です」

「そういうことじゃない、なんで、机拭きは?」

「終わったけど」

「はあ?」

 冗談だろ?、だって俺はまだ1冊しか本を戻していない。

「一ノ瀬くんが遅いだけだよ」

「初心者だからな」

「分かってるよ、冗談だって」

 そう言って彼女ははにかんだ。バカにしてる気持ちもあるだろ、それ。

「これなら私1人でやれば良かったな」

「俺帰るぞ」

「冗談だってば、あはは…、え、冗談だよ?、なんで帰ろうとしてるの、ねえって!」

 俺が図書館の出口に向かって歩くとあわて始める望月。それを見て思わず笑ってしまった。

「なんで笑ってるの!」

「ごめん、必死だったから」

 顔を赤くしながら抗議する望月を見てまた笑ってしまい、司書さんに2人揃って怒られてしまった。


 閉館間際の図書館には、もう俺と望月の2人しか残っていなかった。

「初日だったけど、終わる頃にはめっちゃ手際良かったね」

「始まる頃には手際悪かったのかよ」

「そうじゃん、小説の棚に辞書戻してたし」

「それはごめん…、望月、お前クラスとキャラ違うな、本当」

「…まあ、そうだね、一ノ瀬くんには、あんまり敵対心湧かないし」

「他のクラスメイトには湧いてるんだな…」

 とは言ったものの、なんかこのままじゃ気まずい雰囲気になりそうだったので、俺は話題を変えた。

 クラスメイトとの話は、もう触れない方がいいだろう。望月にも望月で、色々あるんだと思う。

「なあ、明日はどんな仕事をするんだ?」

 話題の変え方が不自然な気がするが、俺の頭じゃあこれくらいしか思いつかなかった。

「…ん、明日も本の整理かな」

「分かった、ありがとな、また明日」

「待って」

 このまま帰ろうとすると、望月に呼び止められた。

「何?」

「あのさ、良かったらでいいんだけど…」

 と前置きして。


「一緒に帰らない?」


 一瞬モテたのかと勘違いしてしまったが、望月はただ単に暗い外を見て1人で帰るのが怖くなってしまったそうだ。

 クラスメイトとは言え、今日初めて喋った男子にそこまで出来るのか…とは思いつつも、一緒に帰ってあげることにした。

 何かあったんだろうな。前に。

 そう考えればクラスでのあの壁も、わかる気がする。でも、俺は触れない。

 望月も触れてほしくないんだと思う。今後気をつけるようにしよう、すると、彼女から話しかけてきた。

「その、私のわがままを聞いてくれてありがと、本当」

「帰り道一緒だったしな」

「私、怖いんだ、1人で帰るのって…前にあった話なんだけど」

「いいよ、そんな話」

「…え?」

「俺に話さないでいいよ、知りたくない」

「…本当、ありがと…」

 目を押さえる望月。泣いてるのかもしれない。だけど俺は何も言わない、言うべきじゃない。

 …俺は望月の事を、知るべきじゃないのだ。

 お互い、何も喋らないまま、彼女の家の近くまで送ってあげた。


 それからも図書委員の仕事は続く。

「本の整理終わったから、机拭き、手伝うよ」

「え?、本当に?、1週間でこんなに上達するなんて…」

「俺をバカにしてるだろ」

「まあ、バカにしてた」

「おい!」


「一ノ瀬くん、この本取れる?、私の身長じゃ届かなくて」

「はいよ」

「ありがと!」

「小さいんだな」

「あ、聞こえてるんだけど!」

「聞こえるように言ったんだよ」

「めっちゃうざいじゃん!、やめてよ!」


「一ノ瀬くん…ねえ?、聞いてる?」

「あ、ごめん」

「全く…棚にもたれて寝ちゃうって…本当バカじゃん」

「前の時間が体育だったんだよ…というか、望月も同じクラスだから体育じゃん」

「私はいつも早い時間から寝てるから大丈夫…ふわああっ」

「大丈夫じゃねえじゃん」

「うるさい!」


 と言った感じで、図書委員になって1ヶ月が経過した頃。

 クラスではいつも望月のことばっか見て、いつも望月のことばっか考えて…。どうしたんだ、俺。

「多分、好きなんだよな…望月のこと」

 チョロインかよ、俺。

 そんな突っ込みを入れながら図書館に行くと、珍しく望月がいなかった。いつも俺より早く来るから、ちょっと意外だ。

 本の整理と、それに机拭きをしていると、声を掛けられる。

「お疲れ、机拭きもしてくれたんだ、ありがと」

「いなかったからな、どうしたんだ?」

「告白されてた」

「はあ!?」

 望月への好意を自覚してしまったので、思いの外驚いてしまった。

「…どうしたんだ?」

「明日、晴れだったら付き合うことにした」

「…そんなので付き合うとか、決めていいのか?」

「だって、明日は雨だよ?」

「え?」

「私、両親が気象庁関連のお仕事してるんだ、だから天気の事は専門なんだよ」

「そうなんだ、ってことは付き合いたくないのか?」

「うん、私、他に好きな人がいるし」

「へえ」

『へえ』では済まされない事だが、とりあえず平然を装ってそう答える。

「ちなみに誰なんだ?」

「なんで一ノ瀬くんに教えなきゃいけないのよ?、やだ、教えない」

「はいはい、冗談だって」

 冗談じゃなく聞きたい気持ちを抑えて、俺はそう答えた。


 翌日。

 快晴だった。

 …え?、何で…?

 今日は雨じゃなかったのかよっ!

 俺は急いでテレビをつける。この時間なら天気予報がやっているはずだ。そして絶句した。

『今日は雨の予想でしたが、その予想に反して太陽が輝いています、どうやら高気圧が予想より東に張り出してきた…』

 俺は急いで準備すると、朝ご飯のパンを右手に装備して高校へと走り出す。

 いつもなら気分が上がる快晴だが、今日は全く気分が上がらなかった。汗で制服が気持ち悪い。

 何とか高校に到着し、クラスに飛び込む。望月の席には…カバンだけがあった。

 俺はカバンを自分の席に置くと、何も考えずに屋上に向かった。

 別に意味はない。でも、天気が分かるところと言えばグラウンドと屋上しか思いつかなかった。

 階段を3段飛ばし。起きたばかりの足には辛いが、もう少し頑張れ、一ノ瀬。

 やっとついた屋上のドアを開けると、そこには学年一のイケメンである辻本(つじもと)先輩と望月がいた。

 先輩は俺に気づくと、邪魔が入ったという目で聞いてくる。

「どうしたんだ?、今は都合が悪いんだが?」

「一ノ瀬くん…!」

「望月を…望月を返してください…!」

 ヤバい、息切れが激しい。階段を3段飛ばしとか2度としない。絶対。

「無理だね、だって雨はもう僕の彼女だか…」

「何にも知らないくせに名前で呼ばないでくださいよ」

「はあ?」

「望月は先輩と付き合いたいとか思ってないんですよ!、分かってるんですか!」

「…彼女から今日、晴れになったら付き合うと言ったんだぞ?、見てみろ空を、快晴だぞ!」

「そんなのが、好きって気持ちなのか?」

「…は?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 先輩に対して、無礼すぎる発言。

 でも、晴れたから付き合うなんて、そんなの絶対幸せにはならない。俺は感情的になってそう言い切った。

「…そんな事言ったって、もう彼女は僕の恋人なんだから、今更僕を止める事なんて出来ないよ、手遅れだ」

 何言ってんだよ。


()は、もう俺の彼女なんだよ!」


「…え?」

「…え?」

「雨はいつも俺に優しくしてくれた、冗談だって付き合ってくれた!、そんな雨が好きになって、昨日、告白したらOK貰えたんですよ、だから先輩が何言ったとしても無駄ですから!」

「本当か?、望月さん?」

 先輩が望月に聞くと、彼女はこくっと首を2度ほど縦に振る。

 それを肯定と見た先輩は俺に向かって、

「すまない、君が先に望月さんに受け入れられたのなら、望月さんの気持ちを尊重するよ、幸せにしてくれ」

 そう言って先輩は諦めたかのように屋上を去っていった。なんと言うか、先輩、すみません…。

 後には、俺と望月が残される。

「一ノ瀬くん…」

「望月、ごめん!、勝手なことして…」

「いや…ううん、別にいいよ、辻本先輩の事は好きじゃなかったし、前にも言ったように好きな人いるからね、むしろ嬉しかったよ…どうして私がこうなってるって分かったの?」

「いや、図書委員の仕事を聞こうとしたら望月がいなかったからクラスメイトに聞いてみたら屋上に行くのを見たって言われて、それでここに来たら望月がいたから止めに入った、昨日のも聞いてたし…」

 長々と言い訳、しかも嘘だった。

「そっか…ありがと」

 俺のそんな苦しい言い訳を一応信じてくれたらしい。

「それでなんだけど」

「あ、図書委員の話?、そうだったね、目的は…」

「違う」

「違うの?、じゃあ他になんの用事が…」


「俺は望月の事が好きなんだ」


「どうせ嘘とか言うんでしょ?」

「嘘ならこんな屋上でやったりしない」

「…本気の告白か…まあ、一ノ瀬くんらしいね」

「どういうことだよ、それ?」

「褒めてるだけだから…、実はね、一ノ瀬くんは他の人と違うと思ってたんだ」

「何がだよ」

「他の男子はいっつも私に向かって『何かあった?』とか『俺が何とかしてあげるよ』とか言って私の事情に介入しようとしてきたんだ、でも一ノ瀬くんだけはわざと話題を変えたりして、事情に踏み込んでこなかった」

 …やっぱりバレてたか、あの不自然な話題変え。

「だけど告白はしてくるんだねえ?、そういう配慮が足りないんだよ、一ノ瀬くん?」

「仕方ないだろ、好きになったんだし」

「ふふっ、それもそうだね、じゃあさ」


「明日、雨になったら、付き合ってあげるよ」


 俺は空を見上げる。

 ひこうき雲が真っ青な空に掛かっていた。

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お願いします…。(懇願)


2022/06/23 追記

そういえば空に浮かんでる雲で天気を予想出来たりするんですよね(真のオチが分かりにくいかもと不安になりました)

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