伊瀬…お前… 2
『いやあの、今更言うのもなんだけどさ。急に恥ずかしくなったっていうか』
携帯にはそんなピュアなメッセージが送られていた。
「それだけでかよ…」
彼らしくは無いものの、やはり緊張はするものだ。
つまりは、ここに来て急にヒヨり出したわけだ。
確かに今日俺ん家に来ると決まったのはさっきの通話内でだ。心の準備が出来ていないのも頷ける。
むしろ気持ち的には嬉しいくらいだった。何故なら俺自身も相手がどんなやつなのかを少なからず考えていたからだ。気持ちは同じというわけだ。唯一違う点があるとすれば俺が気になるのは相手の姿形。伊勢が気になるのは自身の姿形による相手の反応。いや後者は俺の推測でしかないが。
とりあえずここで送るべきメッセージは決まった。
『安心しろ。お前がデブだろうとハゲだろうとおっさんだろうと少年だろうと俺は快く引き受けるぜ!』とな。
しかし既読は着くも返信は。
『お、おぅ』と控えめな返信だった。
「いや、いくら何でもチキンすぎんか」
だが俺はあとひと押しで伊瀬の奴も決意するだろうと踏んだ為、最後のチャットを送信した。
『とりあえず、もっかいインターホン押してくれよ。大丈夫だ。俺はどんなお前でも受け入れるぜ!!』と。
さっきよりもビックリマークが1つ多いのも俺なりの気遣いだ。
送ったチャットの既読が着いた2分後。遂に伊瀬からの返信が来た。
『わ、わかった。とりあえず、行くわ。お前の台詞信じるぜ』と。
よし。奴は決心できたらしい。あとは俺が迎え入れるのみ。大丈夫だ。如何なる時も平然を取り繕ってきた俺なら成し遂げる事が出来る。
ピンポーン
響くインターホン。俺は再び玄関まで足を運び、そのドアに手をかける。さっき1回目の時に施錠は外してあった為あとは扉を開くのみ。
「よしっ。開けるぞ?」
そう一言だけ言い、俺は玄関のドアを開けた。
「…ぇ?」
視線の先、僅かに顔が下を向いた。
「あは…は。よ、よう」
え?
俺はここで自身の失態に気づいた。それは先程のメッセージに加えるべき項目が足りなかったこと。何故なら伊瀬は、デブでもハゲでもおっさんでも少年でもなかったからだ。
「…よう」
「は、はっ」
そのまさか。伊瀬は─────女だった。