第二の世界
今、全人類が熱狂するのは現実のスポーツでもなく、現実のゲームでもなく、現実の恋愛でもない。仮想空間でのスポーツ。仮想空間でのゲーム。そして仮想空間での恋愛。これこそが現代の人類の行き着いた終着点にして至高の娯楽。ありのままでは無い世界こそが人間の行き着いた成れの果てと呼べるものだった。
この第二の世界《Love second》が発表されたのは今から遡ること3年ほど前。日本の有名自動車企業であるHEAVENが発表した。当初は日本のみならず海外にも嵐を巻き起こす程の大ニュースだった。なぜなら、既に《Love second》は完成されていた為だ。それは確約も同然。あとは全世界に実装するのみ。それに2年の月日を費やした。そして去年。ベータテストを終え、遂に一般へ向けた配信がされた。必要なのはVRゴーグルと専用のプロテクター。そして自身が乗る土台。合計金額は8万円弱と値段も申し分が無く、実装された世界もまさに第二の世界と呼べるほどの高クオリティだった。
あっという間に人々は釘付けになり、現実で仮想現実に魅了された者が次から次へと《Love second》に入り込んで行った。
自動車企業で有名だったHEAVENは自動車企業という実績と肩書きを捨て、全てを《Love second》に注いだ。何故なら現実世界に関心を示さなくなった人々が現実世界で車を必要とするわけがないから。というのが企業としての裏の理由。
しかしこれは企業らの主観に過ぎなかった。いや、ここで言えば欲望に溺れすぎて客観的に見れなかったのだろう。この世界には僅かに仮想空間に興味を示さない人間もいた。それは現実世界に充実した者。しかしそれでもごく一部の人間に過ぎなかった。
そんな者たちはさらに一年後、現実世界の過疎化を知る事となる。
さて。それにしても《Love second》は本当に自由だ。それは現実世界の自由の域を優に超えている。それが人々を釘付けにした魅力なのだが。そしてその魅力を特に感じやすいのが現実世界に充実出来なかった者だ。奴らは現実世界での姿から声帯までもを変化させ、《Love second》に入っていく。そして《Love second》内で偽りの姿の異性と出会い、本物の恋に発展していく。これ以上にない矛盾を彼らは平然とやってのけるのだ。
そして《Love second》での存在意義を見出すことで自身の承認欲求を満たすことが出来る。
最終的には、廃プレイヤーとなり、年中無休で《Love second》に居続ける廃人となってしまう。これが現実世界での社会問題だ。