無敵竜骨戦艦
[飛竜(騎士団)]
連合軍を奇襲した騎士団の分隊は、大きく迂回しながら本隊との合流点に向かっていた。追尾がないか時折振り返る殿の騎士から声が上がった。
「6時、敵飛空艇、多数!」
「散開!固まっていると殺られるぞ!」
騎士団の敵空軍との交戦は少ない。それも比較的低速の羽気球だけである。水素反応の矢をつがえた弓を向ける者がいても可笑しくはない。
複数の騎士がそうした。
そして唖然とした。
狙う間もなく殺到し一連射で飛び去って行ったからである。
火薬式の銃器に付与が付かない事が幸いした。
撃ち抜かれた馬が三頭、戦死した者が二人、の被害で済んだからである。
落馬した者を拾うために、何頭かの騎馬が引き返す。
敵飛空艇は大回りで射線に就こうとしている。
速やかに何処か掩体になる物を探さねば。
と、引き返した騎士の一人が叫んだ。
「飛竜!」
飛竜は忽ちにして到達し敵飛空艇の一機を食らった。
散開して逃げる敵飛空艇。
「ありゃ、本隊の方角だ」
分隊の危機は去った様であったが、気掛かりは増えた。
[飛竜(勇者)]
壊滅した何個中隊と違い、送り出した二個小隊の練度は低い。勇者は、一個小隊を率い後を追うことにした。
反省から爾来、自らも操縦捍を握る事にしたのだ。さして訓練の時間も取れず、練度は高いとは言い難いが、勇者にはギフトがある。
空戦で被弾してもそれは相手に返る。例え撃墜されたとしても、それで破壊されるのは、撃墜した方の機体なのだ。
相手が竜であってもそれは変わらない。
「始めから僕が出てれば良かったのかな?」
勇者は機上で一人言ちる。
飛竜は巨大だった。
ワイバーンとか翼竜とかの想定をしていた勇者は些か怯む。
いや脅えたと言って良い。
操縦捍を握る手が汗で滑る。と、竜が追い掛けていた陸戦を放置し勇者に向かってきた。
急旋回で避ける。
大丈夫、この機体には最高の改造水車エンジン積んであるんだ、逃げきれる。
当て舵の甘い勇者の機体は急速に高度を失う。
「自分で墜落したら駄目じゃん!」
そう、ギフトが効かない。
必死で引き起こした勇者の目の前に竜のアギトが待っていた。
「ありぁ、間に合わなかったかぁ」
司令は進行方向に立ち塞がる巨大なキノコ雲をみて呟いた。
[壊滅]
王国にとって運の悪いことに飛竜が二度目の核爆発を起こしたのは、連合軍を迎え撃つためほぼ終結を終えていた、騎士団本隊陣の直近であった。
しかも陸軍騎兵連隊所属の、無限軌道戦車百二十両も快速を生かし既に合流していた。つまり、王国の最大戦力が一矢も交えず壊滅した。
絶対の自信を誇る付与火砲と共に。
対して連合軍は十分な距離が在ったため、兵馬がおののく事だけで済んだ。
検分と戦利品漁りで数日を掛け、被爆から後に多数の死者を出す事になり、不義の戦の呪いと噂されるが、後々の話である。
連合軍は押っ取り刀で駆け付ける王国軍を次々に敗走せしめ、王城に迫った。
空軍は新旗艦率いる艦隊全てと、虎の子の鷲型四機、ペラ飛空艇二個中隊を喪っている。ほぼ壊滅と言って良い状態だった。
特に歴戦の指揮官であった艦隊司令のヤーモット大尉を喪った事は、空軍府に衝撃を与えた。
「中佐に任ず」死者への二階級特進。
普段通りに振る舞おうとする、司令の後ろ姿が力無くみえる。
シャオはウロに引き篭りきりになっていた。
[融合]
混濁していた意識が次第にはっきりしてきた。
(ああ、飛竜に食べられちゃったんだっけ)
ここは、どこだろう、飛竜の腹の中と言う感じはしない。
唐突に悟る。
(飛竜の心の中か。精神が混ざっちゃったのか)
どちらも、アカシックレコード由来の存在であって見れば、親和性が高いのだろうか、いや飛竜を作る時雛形として手近な存在勇者の精神構造を使ったのではないのか。ならば、密着爆縮の折り精神が融合しても可笑しくはない。
シャオならそう考えただろう。
だが勇者はやけに鈍くなった脳の働きに苛立ちながら、次の目標を探すのみだった。
そして、ふと気付く。
(水車食うより、ユグドラシルだろ)
そうだ、それが目的だ。ユグドラシルを食うんだ。
[死ぬなら空だよね]
「本当にやるんですかい?」
司令は操舵手養成用の複座機の前席に座っていた。
「もちろんだよー」
人的損害を最小に留めるための飛空艇の単座機化が進み、一番機の操舵手であった曹長の乗機も改修を終えていた。
つまり、俺の乗る機がない。
これはゆゆしき事だ。
なので操舵資格を取る事にしたのだ。
メンドクサイ気室操作も簡略化されていて、俺でも出来そうだったし。
「でも、いきなり空戦訓練てのも…」
「基本操作覚えたからねー、次はこれでしょ」
追いつ追われつ
実際は追われつ追われつ
だけど上達ぶりはアピールできた。
死ぬなら空だよね。
[森の陽炎]
「え?あれが欲しいの?」
森人が来て、竜骨をくれと言う。
大型ドックに据えた巨大飛空艦のそれだが、やっと据え終えたばかりで今回の敗戦?まあ、放置になったわけだ。
入手する筈の多数の大魔石もこの情勢じゃ無理だし。
いっか、持ってっていいよ。
てか、重たいよ?
ん?
丸太空軍全部引き連れてきた?
牽引するの?
空を見上げて良く見れば、カゲロウのように揺らいでいる。
てか空全部カゲロウじゃん。
これみんな丸太?
やべーな、奇襲し放題じゃん。
敵でなくて良かったぜ。
開放したドックの空門から竜骨がしずしずと出てきた。
たぶん竜骨の上で、もやってるような、いないようなみたいのが丸太気球だろう。
こんなもんどうするんだ?
戦艦を作る?
そんなでかいの、森におけないでしょ。
竜骨の幅であれば問題ない?
随分と細っこい戦艦だな。
森人の考える事は分からん。
なんていうか、シャオと同類だな、こいつら。
外に出きった竜骨はゆっくりと浮上を始め、端の方からカゲロウに変わっていく。やがて完全に見えなくなり、あれだけあったカゲロウもいつの間にか消えていた。
[太子]
四機の鷲型で代わり番こに王都方面に出撃するのだが、焼け石に水だった。王都の陥落は目に見えていて、空軍も王国の降伏に歩調を合わせて手を挙げる算段だった。
「処刑された?」
王都から脱出に成功した単気球には、陵辱の後も生々しい憔悴した太子も乗っていた。
「連合軍がやったのか?」
「王弟殿下が…」
訊けば有事の事ゆえ殿下も開放され、一部隊を任されていたらしい。その部隊を使って王を襲い、簒奪し、城門を開いた。その際の出来事らしい。
そして、連合軍により王共々王弟も処刑された。
「約束が違う!」と喚きながらの死であったそうな。
太子はどさくさに紛れ身を隠した。連合軍が探していたのは男子であったため見つからずに済んだ。
しかし、これでは降伏出来ないぞ。
恐らく連合軍は侵攻に正当性が無い事に気が付いた。
なので、傀儡に使える王弟も殺すことにしたのだろう。
クレームの出所を消し去る気だ。
ならば隣国首都消滅の実行犯に仕立てねばならない、空軍はどうなる?
「全軍府に伝達!」つい大声になる。
「森に逃げるよー!いそげー!」
新型というより、やっつけ仕事ででっち上げた二隻の飛空艦に人員と機材積めるだけ積み込んで、俺たちは逃げ出した。
あと、気掛かりなのは、長官だが無事でいてくれよ。
太子の面倒は森人が見てくれることに為った。
着るものも胸元のゆったりした森人式の装束で女性用だと言う。
太子もこっちの方が良いだろうと任せた。
なぜ森人が気に掛けるのか訊いてみたら、神樹様の御声掛かりだと言う。
干渉はしないんじゃなかったのか?
[事情]
水軍と陸軍が機能していたらもう何ヵ月かは持ったかも知れない。衆寡敵せずでどのみち負けたのだろうけれど、展開の綾と言うか、世論を味方に付ける時間を稼げたかもしれない。
水軍は優秀すぎる噴進型発動機が仇となって水車の性能変動でトラブルが多発、航空隊が使えなくなっていた。そこへの連合軍の圧力。港湾を放棄して湖水上の島嶼への避難を余儀無くされていた。
陸軍はと言えば、主力が例の属国側からの侵攻を警戒して動けず、機動部隊だけを差し向けたのだが壊滅。
今更だけど、やりようなかったのかなぁ。
[予感]
「司令、シャオ様が」なんで様つけるの?で、なに?
「お隠れになりました」えぇー、死んじゃったの?
良く訊いてみると行方不明なのだと。もっと国語勉強してね、心臓に悪いから。ウロに入って中々出てこないので森人が見に行ったら影も形もなかったと言う。シャオの事だからこっそり隠蔽魔法で抜け出すのもありだけど、理由が分からん。やだ、いやな予感する。
[曹長]
一度にはとても移動出来なかったので、陸戦隊を軍府の留守番に残してピストン移送していた。護衛に鷲型二機とペラ型二機を組ませて一個小隊にして交代で当たらせた。
最後の移送となるこの日、帰ってきたのは簡易型飛空艦二隻、ペラ型二機、鷲型は一機だけだった。
「曹長が…」
報告したのは二番機の少尉で、泣いているのか鼻声だった。
水軍の飛空艇が現れたと言う。友軍機かと思っていたら、敵の滷穫機で、一番機=曹長の乗機が火に包まれた。開いた降下布も燃えていて、曹長は墜落死した。
「シールドは、真空シールドは機能しなかったのか?」
ワンタッチで展開出来るのが仇となった。魔石の節約のためシールドを切っていたのだ。直ちに反撃して二機撃墜し、二機取り逃がした。
「少尉に任ず」
もう戦闘部隊の大半が二階級特進しちゃってる。でもクルーのは格別だ。声が震えないように気を付けなくちゃならなかった。
[ユグダの息子]
いきなり押し掛けてきたのに、森人達は好意的だった。沈んだ艦には多数の森人の射手も乗っていたんだ、追い出されても不思議はないのに。
「ユグダの息子、気の触れた息子、エルフシズメル」
幾分か流暢になった王国語で族長が語り掛けてきた。しかし、分からない。通訳頼む。
「飛竜は森人が倒す、と言っている」
今の王国語だよね?
通訳できるんだ。
「気合?」
なんかシャオとキャラかぶんだよな、いいけど。
空から森人の声が降ってきた。
「プテラ!ユグダシプテラ!」一斉に走り出す森人達。
「飛竜が来たと」通訳さんさんきゅ。
「ペラ回せー」
[空飛ぶ神樹]
参謀長からストップが掛かった。
「あの中を飛ぶ気ですか?」空一面カゲロウだらけだ。あ、むりだわこれ。
「発進中止!掩体へ戻せ!」兵曹の誰かが仕切る。
命令の先取りは駄目だよ。
てか、ウチじゃ普通だけど。
コンマ一秒争うような戦闘ばかりしてたからねー、仕切れる奴が仕切るみたいな習慣ついちゃった。
うぉっと、ブレスだ。
森、盛大に燃えてるなぁ、神樹大丈夫か?
て、いきなり火、消えたし。
え?真空魔法の応用?そんなのもできるんだ。
戦況はさっばり分からん。
飛竜が暴れてるのは分かるが、森人の丸太気球が殆ど見えない。
二機ばかりブレスがかすって隠蔽が解けたのがあったので居るのはわかるんだけど。
てか、丸太気球、知らぬ間に丸太じゃなくなってる。
なんか、前衛芸術の彫刻みたいになってるし。
「ありゃなんだ?」
なんだかやたら長いもわっとしたのが、飛竜に近づいていく。
あの長さは竜骨か?
もう飛べるようにしたんだ。
飛竜は気付かない。
顔面狙ってひっきりなしに魔法が飛んで来るんだから、
気付くどころか、回りの様子も録に掴めていない筈ではある。
もわっとした竜骨が膨らんだと思ったら神樹になった。
すげー、神樹が空飛んでる。
[転移]
周りになにか居るのは分かってた。がブレスを吐き散らしても、四肢や長大な尾を振り回してもまるで手応えがない。そのくせ、顔面目掛けて魔法を放ってくるのだ。効きはしないが煩わしい事この上ない。
と、突如目の前にユグドラシルが現れた。食らいつく、歯応えがない、食いつこうとした辺りはスポンと消えて周りの枝が絡み付いてくる。あぁ、エルフの魔法だ。あのシャオとか言う娘の魔法だ。どこに居る、焼き付くしてやる。
しかし、いくらブレスを薙いでも枝は燃えない、湯気さえでない。勇者=飛竜は恐ろしくなってきた。絡み付いた枝がギリギリと締め付けてくる。
勇者は転移の魔石を使った。
(あれ?どこに持ってたんだろう)
不思議に思ったのは一瞬で、湖に向かう事にした。水車を幾つか食べればあの厄介な枝を焼き尽くせると思ったからだ。
[鍵]
シャオは眉を潜めていた。
飛竜の存在の節操のなさは厄介で何度紐付けしてもぶつんぶつんと千切れてしまうのだ。
お陰で森を急襲する飛竜を見付けるのが遅れた。
爆縮の際のリセットルーチンさえ阻害出来れば良いと思っていた。
その為の魔石は司令に持たせた。
しかし、それで足りるのだろうか。
勇者が融合した事で時空への関与能力がいやました様でもある。
無数の微細な光点の浮かぶ漆黒の闇の中で揺蕩いながら、シャオは更に思考する。
森人の[戦艦]を鍵にしよう。
(しーきゅーしーきゅー、はろーはろー、森人さん応答せよ)
飛竜に襲われたのはテイコク崩壊の後もなんとか勢力を保っていた湖水軍であった。そのため、その報は王国空軍には届いていない。
湖水軍を襲ったのは勇者の記憶によるもので、高性能水車がまだ保持されていると判断したからだ。しかし、そこに在ったのは神樹=ユグドラシルに依って書き換えられた物ばかりであった。
怒り狂った飛竜=勇者は艦隊を焼き尽くし、艦船用の水車を食らった。(あれ?高性能でなくてもいけるじゃん)水車は魔素の塊である。補充するだけなら却って都合が良い。それなら、今もっとも水車の集まっている所、王国首都に向かおう。
王国水軍の動向を勇者は知らず、水軍も飛竜を感知していなかったのは、後に湖上の水運が復旧する際の助けになった。
「ネーネヤシガ!」「ネーネヤシガ!」飛竜を撃退した森人達が口々に唱えるチャント。
これは知ってるぞ、巫女様万歳とかそんな感じだろ?
通訳嬢曰く
「半分正解」
後の半分は?
しかし、答えを聴く前に「ミコサマ、よぶ、くる」
森人の若者が俺の腕ひっ掴んで引っ張る。
通訳の女冒険者は役目は終わったとばかりとことこと歩き出す。
通訳さんどこ行くの。
これって、意味不明地獄のパターンだよね。
君居ないと…。
えと、いきなり景色変わったけど結界の内部だよね?
いいの?
人族いれちゃって。
「イラセタモリヨー」
なんか偉いさんぽい人が丁寧におじぎして、大きな門を潜れと促す。
この方向って神樹の方向だよね。
門に入るとまたもや別世界だった。
(ここは、ウロの中、只の人が神樹と交信出来る唯一の場所)
シャオ!
どこに居るんだ。
みんな心配してたぞ。
(迷子?)
小首を傾げるシャオを幻視する。
神樹からレコードのアーカイブに分け行って飛竜の事を調べてたら抜け出せなくなったらしい。
「食事とかどうしてる」
(問題ない、欲しいものが好きなだけ出てくる)
ギクリとした。
これは、あれだ、肉体が滅びて精神が神樹と融合したとかのパターンじゃね?
(融合したのは勇者)はい?
(飛竜と融合、先の飛来はそれに因る混乱が原因)
また勇者か、つくづく祟る奴。
(それより、司令、これに乗って)うぉっと!
目の前に鷲型をふた回り程小振りにした飛空艇が現れた。
(森人の丸太気球)え?これが?
(操舵席回り以外は整形した真空に隠蔽魔法応用の表皮を貼った物)
手触りは見た目同様木質だ。
すげーな森人。
鷲型と同じ段差のある複座。
(操舵席は前、後ろは真空制御席)
後席には既に誰か乗っていた。
「急いで。飛竜が王都に向かっている」
伝声管を通してシャオの声、振り返ると、木目人形が座っている。
「同期した」
端的なご説明ありがとう。
主語と目的語ないと分からんぞ。
「主語=シャオ、目的語=木目人形。逆でも可」
ウロの中である筈なのに離床すれば既に森の上空で、眼下に神樹が見えた。
「空軍にも出動命令出したいが」
「足手まとい」
いや、皆俺より優秀な操舵手だぞ?うお、なんだこの加速は。
「高性能水車を使っている。この飛空艇は餌」
え?俺たけで出撃?
てか、食われちゃうの?
「飛び降りれば問題ない」
そっかー、それなら安心って、核爆発するじゃん。
ダメダメじゃん。
「戦艦が先行している、心配ない」
なんか、考えてくれては居るらしい。
「それより魔石、忘れない内にそこの窪みに」
あー飛竜に食わせろとか言ってた奴か。
この窪みかな?ぽちっとな。
これ食わすとどうなるんだ?
「たぶん眠くなる」は?
魔素の運用を阻害するんだそうだ。
「戦艦?出たって事は森人空軍も出てるのか?」
「丸太気球は神樹の魔力に依存している。森からはあまり離れられない」
空軍府にきてたぞ?あの辺りが限界なんだ。
てことは、竜骨戦艦と俺だけかよ。
「戦艦の方に追い込むのが第一、その後離脱して機体を食べさせる」
難度むちゃくちゃ高くない?
[余白]
水車の元となる湯石は、シャオの言に依れば神樹の種である。勿論それはシャオ一流の比喩であって、湯石から神樹の芽が出てきたりする事はない。湯石は密に折り畳まれた膨大な空間魔法の術式で殆どが魔素でできている。ただし魔素に質量はないので、存在としての数の事だ。
そして、その魔素=術式を固定化するのが物質で主にケイ素だが質量さえあればなんでもいいらしい。
湯石も長い年月を掛けて成長する。水を吸い込み水蒸気を吐き出す過程で不純物の一部を取り込み紐付けられる物質を増やす。その物質が十分に増えれば術式が展開し新たな結接点が生まれる。
もっともそこまで育つことは本当に希で殆どが動植物に魔素を吸い出されて崩壊してしまう。
「湯石って魔法的に無茶苦茶固いんだろう?」
「育つまでに数万年掛かる。数万年掛けて齧ればどんな固い物も消える」
王都までのさして長くもない道中、俺とシャオ人形はそんな話をして退屈をまぎらわせた。
「戦艦が飛竜を見つけた。割りと近い」
おっと、切り替え切り替え、戦闘モードおん。
[消失]
まず王都から引き離す事から始めた。これは水車発動機のおかげである意味簡単だった。此方を認めるや否や、猛然と向かって来たからだ。
ただ逃げれば良いって、飛竜の方が早いじゃん、
うぉっと!
木目シャオの真空操作は中々のもので、
飛竜の鼻先寸前で交わす事数度、
「反転して機体を食わせて」
戦艦が丁度良い位置に居るらしい。
水平飛行で鼻先に突っ込んで寸前で背面になる。
ベルトは外してある。
俺降下訓練さぼってたのまじで後悔。
「シャオ!」
シャオが降りてこない!
(慌てすぎ、あれは人形)
そうだった。
真上に広がった降下布が邪魔で滑空する。
おぉ、竜骨戦艦から芽吹いた枝に絡み捕られて、
てか、繭みたいになってる。
なんか光だした、やばくね?
(大丈夫、予定通り)
シャオ何処で見ているんだ?
(戦艦の舳先)え?
見ると、確かにシャオらしい人影が此方を向いて小首を傾げていた。
なにしてんだ!飛び降りろ!そこから離れろ!
(制御が繊細、付いていないと暴走する)
さようなら、最後にシャオはそう言った。
繭は竜骨戦艦を引き込んで爆縮を起こし、
しかし、続いて起こる筈の核爆発は起こさず唐突に虚空に消えた。
なんで皆いなくなるかな…。
[勇者のエピローグ]
目の前の巨大なゲートを見上げる。
ああ、これは知っている門だ。
しずしずと門が開く。
その向こうには見覚えのある町並み。勇者は駆け出した。
帰ってきた、帰ってきたんだ。
しかし、門までの距離は近づくに連れ延びていく、無限に無限に。
勇者は走る、永遠に。
永遠に走り続ける。
[エピローグ]
森の麓に水車車が来ていた。見張りに立つ森人はその車に見覚えがあった。以前見た時にはピカピカに磨き上げられていた車体は薄汚れアチコチがベコンベコンに凹み部品のもげたらしい破断面もある。森人は隠蔽から姿を現し手招きをした。
今、森の客人となっているクウグンの長の車だからだ。
参謀長が出迎えた。
「長官ご無事で」
「司令君はどこ?」
まだ戻って来てはないが、森人と組んだ陸戦隊の救出班が確保に成功して連行してくる所だと伝える。
「連行?」
「はい、勝手に単機で飛び出して、飛竜と空戦したそうです。なので暫く営倉に入って貰います」
「相変わらず血の気が多いね」
後部座席から小柄な女性が、そっと降りる。
「シャオさん!」
「どもども」
手刀を切ってその場を離れようとするシャオ。その襟首がむんずと掴まれた。
「やっと捕まえたぜ、溜まってる図面何とかして貰うぞ」
「工厰長は理不尽」
ズルズルと引き摺られていくシャオ。
司令がやっとの事で帰還すると、広場で長官と犬が取ってこい遊びをしていた。声を掛けようとするが何故か喉が詰まる。そこへ少女が走り込んできて背に当たる。噎せた。
振り返るとシャオだった。
工厰長が逃げ出したシャオを見付けたのは広場で、シャオは大声で泣く司令に抱き付かれて途方にくれた顔をしていた。