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イバーラク空戦録  作者: 南雲司
7/12

穽陥

[齟齬]

 水上機母艦の司令は苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

 この危急の時に何機かの水戦のエンジンが不調なのだ。

 酷いのになると、離水すら出来ない。

 離水出来ても高度を取るのに難渋するようでは、とても戦闘に使えない。


 訊けば魔素の吸い込みが悪くなっていて、付与のブレイクもまるで機能していないと言う。

 やむを得ず、無事な水戦だけで編成し変則二個中隊十五機で発進させた。

 が、すぐに戻ってきて着水するものが一機。

 エンジンの不調は同様の症状だった。



[城塞]

 敵には十分な備えがない。

 録に戦闘らしき事もせず、王国軍機動部隊は首都を指呼の間に捉えた所で停止した。後続を待つのだ。

 空軍の飛空艇が交代で上空援護をしてくれている。


 うちの空軍は強い。

 かつては手も足も出なかった敵、羽ばたき気球を苦もなく叩き落とす。

 強敵と言う敵飛空艇も王都防衛で打ち破っている。

 空襲は危機ではない。


 陸軍にとってそれは奇妙な感覚でもあった。

 空襲とそれに続く強襲に苦しめられた経験しか無いからだ。


 戦闘車両を円形に配置し陣を敷く。

 それはまるで鉄壁の城塞のように見えた。


[城下の盟]

 何度か目の近付く事も出来ない羽ばたき気球の空襲の後で、二十機程の敵飛空艇が現れた。

 と、見る間に撃ち落とされ、僅か数機の味方飛空艇に追い払われた。

 陣地内の歓声は敵王城にも届いたことだろう。


 翌日後続の一部が到着すると程なくして敵軍から使者が来た。

 こうして王国軍本隊の到着を待たず、敵首都は陥落した。


 兵を跨乗させた戦車の隊列が入城し、市民は戦闘を回避できた事に安堵した。

 とても打ち破ることの出来そうにない軍に見えたのだ。

 翌日三艦の飛空艦が飛来し、王国軍の将軍と空挺隊それと空軍司令が降り立った。

 勇者でさえ打ち破れなかった英雄は、にこやかに微笑み意外に優しげに見えた。


 武装解除を確認し城下の盟を結ばんと入城した王国側に、

しかし、隣国はもう一つ隠し玉を用意していた。


[羽気球]

 交渉は城内の中庭に設えた東屋で行われた。

 陸軍は弁務官を寄越し、王国側の筆頭は空軍司令と言うことになるが、勿論サルーは口出しするつもりはない。

 隣国の方は宰相補佐が出向いていて、弁務官が鼻白んでいた。

「一体、イェードゥは本気で交渉する気はあるのか」


 司令は外に大きな影が差してきたのに気が付いた。

「羽気球だ!」

 差程厚くもない東屋の屋根を無数のボルトが貫く。

 弁務官が死に、宰相補佐が大怪我を負った。

 それぞれに付いていた従者と書記官にも死者が出た。


 司令はと言うと、咄嗟にテーブルの下に潜り無事だった。

 羽気球は上空を警戒していた鷲型に撃墜されたが、急降下速度の極端に遅い王国飛空艇の欠点が露呈した事件でもあった。

 発見から補足撃墜迄が遅すぎて凶行を許してしまったのだ。


 この事件はしかし、大勢には差程の影響は与えなかった様に見える。

 隣国王家は被害を受けた事を盾に関与を否定し、しかし、概ね王国側の条件を受け入れたからだ。


「意外だねー、水上戦闘機引渡し同意するなんて」

 まあ、王国空軍に完膚なきまでにヤられちゃってるけどさ、他の戦線なら全然行けるっしょ。勇者いないし、増産出来ない筈……!もしかして高性能水車独自開発に成功した?


[存在しない世界]

 なぜ、あると思うのだろうか。

 シャオは不思議で仕方がない。

 勇者はもとの世界に帰れると信じているようだった。

 異世界とは刹那の時空に凝縮された無数の平行世界、

この時間軸の過去から分岐した世界の事だ。

 それは概念上の物でしかなく何処にも存在していない。


 ただアカシックレコードを通じて、何処かの分岐の何れかの過去の幻影を具現化する事は出来る。

 膨大なエネルギーを必要とはするが、

精密な式を書いてやれば同じ質量の土塊を消費して、

例えば勇者を召喚出来る。


 勇者にギフト為るものが附加されるのは、

アカシックレコードを通じて具現化するためのコードが、

除去されずに残っているからだと考えられる。

 深層下でレコードと繋がっているとも言える。

 義塾で教えているような術式だと無駄が多すぎて、

しかも符号があちこち逆だし、とんでもない事になるが。


 つまり、勇者の故郷は始めから存在していないのだ。

 どうしてもそれらしき物を探すなら、

 アカシックレコードその物が故郷だろう。

 シャオは、そう思う。


[高性能な不具合]

 水車工房の一角で職人達が首を捻っていた。いま完成したばかりの水車の起動出力が三割方高いのだ。

 民生用なので軸や支持架の強度が足りない。


 これ迄にも同様のミスが無かった分けでは無いが、概ね湯石の選定で錯誤があっての事だ。此とは事情が違う。

 大きさ、形状の歪み具合、表面の手触り、何処からどうみても、このような高性能の水車が出来る筈のない湯石だったのだ。


「仮組ばらして、軍用に組み換えな」仮組での試験運転で良かった。

 親方は叱るでもなくそう言ってその場を離れた。

 さあて、期限間に合うか?大急ぎで一つでっち上げないと。


 やけに性能の良すぎる物があちこちの工房から出てきている。その所以で事故を起こした三軒隣は監査中だ。終わる迄仕事にならんだろう。検査をうるさい位に徹底させよう。

 親方はそう思った。


[新貴族]

 宰相と長官の会談は長引いていた。

 空軍司令の功績が大きすぎて、空軍府、兵部省の権限に収まらない。その事の相談である。

 宰相も困っていた。以前の体制なら爵位と領地の一つも挙げて遣れば良かったのだか、今はそうも行かない。


[水車革命]からこの方、地域の経済格差の開く事(はなは)だしく、軍備にも如実にょじつに影響した。

 強い所は良いとして、脆弱化した封領を立て直すには貴族が邪魔で、仕掛を仕組んだのが先の騒動である。

 今の王制に取って封領貴族は要らないのだ。


「一代ユンカーとして大きめの領地を与えたいが」宰相。

 ユンカーは小貴族である。小領を持つが、経済力ではなく、個人的な武辺を期待されている。

 故に粛清の対象から外れ、また、先の変事に際し大貴族放追の立役者となり王家の重要な基盤としての存在を顕著にした。

「駄目だな、騎士団が放っておかない」

 騎士団にはユンカーの跡取り候補の子弟が、半ば自動的に入る。跡取りがいなければ当主自ら出向く。


 うんうん唸る重鎮二人。法服貴族ならどうかと言えば、これは官位に付随するもので、空軍司令が兼任となると文官の反発を招きかねない。

「この際、新貴族をでっち上げましょうか」

「詳しく」

 漸く話に終わりが見えてきたようだ。


[シャオの魔法講座(初心者クラス)]

 単に出力の事を考えれば、噴進発動機には水車よりは気孔を一つも潰していない湯石の方が有意である。

 実際、初期の発動機はそうなっていた。

 しかし、湯石発動機には欠陥があった。

 出力ムラが大きすぎたのである。

 その為、初期噴進発動機は緊急用の補助として扱われていた。


 水車噴進発動機は回転によってムラを均すことが出来た。

 出力は大分落ちたが、安定した推力に依って寧ろ速度は上昇した。


 水車二連タンデム、水軍が苦労しているのはタンデム化による干渉をうまく排除出来ないためだ。

「そこが駄目、大きく息を吸って」

 シャオが水軍技官達に魔石に術式を刻む指導をしていた。

 なんで息するのが関係あるんだ?

「リズムが大事、呼吸はリズムの基本」

 相変わらずの謎理論。

 しかし、水軍技官達は大真面目に深呼吸を繰り返すのだった。


[走る司令]

 陸軍の弁務官が死んだ事は、空軍にも影響を与えた。

 ひとつには人材の提供を求められた事、参謀長が軍府に居残りしているため、気の効いた小尉を副官に付け司令自ら奔走する羽目になった。

 艦隊司令の中尉改め大尉は、流石に撤収準備に当たらねばならず、ついでだからと、指揮権をそっくり渡した。


 水戦関係の資料は空軍の受け持ちで、受け取りに行った准尉が泣き付いてきた。

 言を左右して渡してくれないと?まだ捕虜の交渉残ってんだけどな、ま、いいか。少尉適当にやっといて、飼ってても飯代馬鹿にならないし早急に引き渡す方向で、あ、お代は出来るだけで良いから引っ張ってね。


 イェードゥ工廠に行ってみると、ドワーフのじいさんが口角泡を飛ばしてなにやら主張していた。イバーラク語ペラペラだな。

「儂の研究渡してなるものか!」

 ん?言を左右って、諸に拒否ってるぞ?

 居残って受け渡しの交渉をしていた兵曹達に訊いたら、後から割り込んできてわめき始めたらしい。

 いやいや、ここの研究成果ってそっくり国のもんだし、つまり貰ったうちのもん。

「ならば儂を倒してから」

いやいやいや、てか爺さんなに研究してるの?場合に依っちゃ…。ん?発動機?ジェット型?なにそれ。多分だが、それいっちゃん欲しいやつ。なんならウチ来るかい?


 爺さんもついて来る事になった。


[なぜか空戦]

 二番艦とトルーパーズはお土産満載で属国に帰っていった。

 念のため言うと、属国化した事への賠償の一部で略奪じゃないからね。

 俺たちはと言うと陸軍さんの居残り組と滷獲資材を積んで、主力二艦が逃げ出す迄の時間稼ぎ、遅滞作戦中だ。なんでって?まあ、みりゃわかるさ。


「先頭接敵します」

「無理しないでねー、時間稼げたらとっとと逃げるんだから、死んじゃ駄目だよー」

 二機の鷲型が、エネミーの顔に射弾を浴びせてすぐに離脱する。そうそう、逃げ回ってればいいから。

 後続の二機も続いて下腹を狙う。

 俺達は上昇中だ、得意の逆落としだぜ。ありゃ、ブレスだ。

「四番機被弾、離脱する」

 右翼が半分になっちゃってるけど、飛行には支障ない。

 ただ空力的にバランスが悪くなるんで戦闘は無理だろう。


「直上、司令行けます」

「んじゃ、行くよー、目標直下[飛竜]、パワーダイブ!」

「イーハー!!」


[神樹]

 神樹は人間ではない。

 定義にも依るが森人の言うように、一柱の神の現し身とかでもない。

 勿論、精神生命体とか知性体とかでもなく、ただの結接点だ。


 情報を取り込み固定化して蓄積する仕組み=アカシックレコードを保護し情報を選別する。

 その過程で情報を得るための経路やその経路の保護を行う機能も、またレコードの一部で、結接点である神樹を経由して作動しているのだ。

 そこではシャオのような重要な情報源として紐付けられた個体が、干渉する余地が発生する。

 シャオが今試みているように。

 だがしかし、神樹は人ではない、神でも、知性体ですらない。


 神樹=レコードは、膨大な情報損失が発生する可能性に対し、様々な干渉を行った。

 複数ある結接点で発生する湯石=神樹の種、の脆弱性の解消。

 既に頒布されてしまった湯石=水車、の内部術式の書き換え。

 しかし、これはたまたま情報集積コードと接触する事が、

出来たものに限られ、

神樹=レコードは、特に既に不都合の発生している湯石=水車の発見、処理のため有用と思われる個体を具現化させた。


 神樹は人ではなく、神その他の知性体でもない。

 ただ情報収集を支援するだけのシステムだ。

 そこには、人間や自然への配慮は存在しない。

 情報の再生産が可能なだけの量が存在していれば十分なのだから。


 シャオは自分の干渉が何をもたらしたかに、気付いた。

「飛竜?」


[撤退]

「退避!撤退だ!!全速で逃げろー!」

 余程危急の時でも、何処かのんびりしている司令が遠話函に怒鳴った。

 鷲型のクルーはベテラン揃いだ。

 それだけでなにか不味いことが起こったのだと察した。

 飛竜が地に這いつくばっている今、なぜ止めを差そうとしないのか、

誰も訊かずに、すぐさま離脱、全速退避に入る。


 俺達の逆落としが良い感じに飛竜の後頭部に決まって、それから五機の鷲型が主導権を取った形になった。落とせるかな~なんて欲も出てくるけど、ダメージらしいダメージと言えば、頭部に爆裂弾ぶち当てた時の脳震盪位の物で、

「無理すんなよー」

じりじりとイェードゥ首都に向けて押し込まれながらも、遅滞作戦は概ね順調だった。

 途中から隣国軍の羽気球と水戦が参加してきた。


 てか、水戦隠してたやつ出したのか。協定違反だ。でもま、俺達は飛空艦逃がせば終了だけど、こいつらは市民の避難まで担保しないと駄目なのか。視なかった事にしよう。


 通話距離ギリギリの位置から大尉から離脱完了の連絡があった。そのまま帰っちゃって良いよー、俺らもうちょっと付き合うから。

(司令、聞いて)

 ん?シャオ?遠話じゃないな、頭の中に響いてるぞ。

(神樹の検索網に便乗してる。これは念話)

 神樹使いこなしてるなぁ、おい。でなんだい?今忙しいんだけど。

(神樹が飛竜を呼んだ)

 神樹が犯人か!今飛竜とやりあってる!

(高性能水車発動機が目的、取り込んで体内で爆発させる)

 はい?飛竜は無事なの?てか爆発の規模は?

(飛竜は死ぬ。爆発は一割位に抑えられる)

 やばくね?いまパクって水戦が食われた。

 飛竜はバランスを崩し墜落した。

 具体的な爆発の規模は?

(その位置なら敵首都はまるまる範囲内)

「退避!撤退だ!!全速で逃げろー!」


[叙爵]

 巨大なキノコ雲を尻目に、這う這うの体で逃げ出した俺達は、途中片羽飛空艇を拾って長駆属国首都まで飛び、艦隊と合流した。

 てか、何処かで追い抜いたらしく、先に着いちゃったけどね。

 連絡艇が迎えに来てて、俺だけ先に帰ることにした。

 でっかいキノコ雲がどうしたと、騒がしい兵達を置いて空の人になった。

 久し振りの連絡艇は、のんびり感じるかと思えばそうでもなかった。ペラ飛空艇並にかっ飛んでないか?

「わかります?此処んとこ調子が良いんでさ」

 操舵手が上官の独り言をインターセプトして応える。俺の次の代になる前に直さないとなぁ。


 兵部省に行くと、例のごとく紙切れを突き出された。

「昇進はちょと早いんじゃ」

「叙爵のの方だよ」

「まじで?領地貰えるんすか」

 眼で読めと促される。

 なんだ?無領所貴族?法服とは違うのか?あ、官位が着かないのか。貴族院の登院資格があって年金が貰えるんだ。これはあれだ、体制固め?

 今回は陛下直々の叙爵となるので身形を整えるようにと言われた。

 ちゃんと戦勝報告もしたよ?飛竜が出てきて台無しになっちゃったてのも。


[木目人形]

 シャオは見るからに自分そっくりな人形?を前に小首を傾げる。

 皮膚が木目調なので間違えられる事は、たぶん、ないが、神樹の意図が把握できない。

 そもそも意図があるかすら不明ではあるが。


「なに?」取り敢えず訊いてみる。

「当該世界で発覚した重大な不具合に付き、呼称人族との緊密な接触の要ありと認められた為、発現した」

 わずかに眼を見張るシャオ。

 まるで人のような考え方をする。

 いや、人に寄せたのか。

 これから先シャオにくっついて歩くらしい。


 ウロの外に出ると、また森人達が平伏していた。


[飛竜]

 滅びた都の傍ら、竜がうずくまっていた。体内での核爆発があった筈なのに、まるで損傷が見当たらない。と言うのも再生したからでもとの体は爆発の瞬間に蒸発している。水車の爆発の折り、そのエネルギーの大分を別空間に蓄えていて、それを再生にあてたのである。

 爆発の規模が一割程度に縮小された所以ゆえんでもある。    

 しかし、水車の持っていた質量以上の再生は本来出来ない。それを強引に行ったのが魔素による物質=空間の書き換えである。竜は無限とも言うべき魔素を、神樹から供給されていた。

 身じろぎした。

 準備は整ったようだ。

 竜は標的を求めてゆっくりと(こうべ)を巡らせた。


[檄文]

 テイコクにいくつかある属国のひとつに元王国騎士団副団長は小領主として、封じられていた。

「王国がテイコク首都を焼き滅ぼしたそうです。勇者様」

 何処をどう掻い潜ってか、勇者は此処まで逃げのび、元副団長の庇護下にあった。

「どのような魔法を使ったのか、建物はひとつ残らず崩壊し、生き残りも避難が許されず一人もいないとか」

 語る小領主の顔は苦渋に満ちている。王国討つべし、すぐにその結論に達した。もとより小領主には王国に恨みが、勇者にはユグドラシルに迫るための橋頭堡の必要がある。


 即座に檄文を書いた。

一つ、悪辣非道なり王国、将に中原諸国を討ち滅ぼし冨奇港間を独り扼せんとす。

一つ、テイコクの民、依る辺を喪い人道を迷うこと甚だし。

一つ、悪逆無道なるを撃ち、人間(じんかん)衆生を安堵せしむる事、之諸公諸君の責務ならんや。

一つ、我、王道を奉じ狭義正道を糾合せんと欲す。

 王国を討ち大果を採られよ。

 勇者記す。

 要約すれば、王国打倒に参加すればテイコクは切り取り自由だ、是非参加してね、となる。なにしろ、政権はまるっと蒸散してしまっているのだ、勇者の署名にはテイコク最後の権威があると思われた。

 テイコク内の種々の軍閥も含め、近隣諸国、諸公が応じた。まだ春も浅く雪も消えたばかり、初夏には連合軍の津波が国境を超えた。


 テイコクから始まった水車革命は、瞬く間に周辺諸国に拡散浸透し、各国の経済を大いに変えた。良き事ばかりではなく、大量の失職者や広がる経済格差のため、賓農を生んだ。

 封建領主達の手に余る事態で元より中央集権国家であったテイコクと、貴族制度の解体に乗り出した王国以外の諸国は、一部を除いて青息吐息の死に体とも見えた。

 起死回生の一策と見えた王国討伐に、諸国が無批判で乗り出した理由であるだろう。飛竜は多数の目撃があり、テイコク壊滅の因となす有力な情報もあったにも関わらずの、早急な出兵の理由と言う事である。


 もし王国に非がない事が判明したとしても、勇者に責を押し付ければ良いのだ。


[水軍]

 後部に配していた事もあって、水軍の噴進型発動機への換装はスムースに進んだ。三連タンデム二機を並列に並べた重量バランスは後部気室の圧縮率を変えて対応している。

 速度は素晴らしく空軍のそれを大きく上回った。ただ主翼の脆弱性があって高速での急旋回は禁止されていた。まあ、本質が気球なのだから翼がもげたとしても落ちることはないが、戦闘中に制御を失するのは命の危険を伴う。

 連合軍が宣戦布告をしたのだ。換装に慣れたのか技士達のピッチが上がる。開戦には間に合いそうだ。


[閑話休題]

 平行進化と言うものがある。遠く離れた時間、場所であっても、必要とされる役割に相応しい進化と言うものがあり、良く似た姿形を持つことになる。

 例えば、魚竜とイルカ。技術で言えば、勇者のジェット機と王国の噴進型飛空艇。勇者が[現代人]の関与を疑う程によく似ていた。

 それを作れる技術があり、必要とされる物が同じなら、良く似た物が出来るのだろう。勇者はそれに思い至れなかった。帰郷の念が強すぎる余り、無意識がそれを排除してしまったのかもしれない。


[飛竜再び]

 「2時飛竜!」スクワイアが叫ぶ。

 一般には騎士の従者として知られているが、スクワイアとは騎士見習いの事で、ユンカーの子弟か、特に優秀と認められた兵しかなれない。単なる従者は[フォロワー]と呼ばれる。階級で言えば、スクワイアは陸軍なら伍長水軍なら三等水曹にあたる。フォロワーは普通に兵卒だ。

「この忙しい時に!」

 騎士団は遅滞作戦中だ。連合軍の先陣に突撃を仕掛、反撃を受ける前に離脱する。

 その離脱の退路上に飛竜が飛んできた。

「構うな!直進!」

 この判断が騎士団の一分隊の命運を救った。


 接敵の報を受けた勇者は、援護の陸上機を発進させた。なぜか、旨く改造出来ない水車が日増しに増えてきて焦らないことも無かったのだが、その代わりに無改造でもそれなりの出力が出る事が分かり、今はそちらの方を主に使っている。

 陸上機の降着装置にバネ式の橇を使い、草地なら離発着が出来るようになっていた。

「飛竜だ!」

 寝耳に水の通話であった。


 シャオが突然現れた。

「て、おい、何処から出てきた!」

「アカシックレコードの家?」小首を傾げるシャオ。

「てか、なんでシャオが二人?!」

 意味不明な応答は無視して判るかも知れない疑問は…。

「生き別れの妹」

 うそつくな!顔が木目だし、人間ですらないだろうが、神樹関係か?大きく眼を見開くシャオ「なぜ判った!」わからいでか。


「また飛竜が現れた」

「で、どこだ?」

「前線」

 懐から魔石を取り出すシャオ。

「これを飛竜に食べさせると良い」

 なに?これ?てか、どうやって?

「それを考えるのは司令の仕事」

 前線には、新旗艦の五番艦が向かっている。既に通話距離は離れているし、騎士団見捨てるわけにも行かないから戻れとは言えない。

 仕方ない、出撃するか。

「ペラ回せー」ペラ着いてないけど。


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