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イバーラク空戦録  作者: 南雲司
11/12

虚無の咆哮

[ダンジョンアタック]

 湯石ダンジョンだ、ガオッケンはそう思った。

 あまり知られてないが、水車の元となる湯石はダンジョンで採れる、とガオッケンは勇者に教えて貰った。聞けば湯石の一番の生産地であるドワーフの坑洞も奥にダンジョンを抱えているらしい。そして、エルフの経済を支えているのも湯石だ。このダンジョンから採掘しているに違いない。

「ダンジョンに潜るぞ」戸惑う兵士達。

「中に防衛陣地を作る。森の中では防ぎきれん」

 思惑はそれだけではない。ダンジョンの管理をしている者がいる筈だ。恐らく地位も低くはない。その者を人質に取れれば無傷で撤収する事が出来るかもしれない。

 冒険者達が言うように無限にお宝や食糧を産み出すダンジョンコアがあれば長期間の籠城も出来るだろうが、そこまでは考えない。ヨタ話の類いだろうからだ。


 洞穴の入り口は十人程が横並びで入れるぐらいに広かった。ただの洞窟に見えるが、成る程ダンジョンだ。隠蔽魔法が掛かっていて本来は隠されている筈だったろう。

 百名程残し、入り口の防衛に当たらせる。人数が多いのはその辺の木を切って掩体を組めということだ。あとの百人で奥に進む。時折木の枝を粘土で継ぎ合わせた様なゴーレムが襲ってきて、やはりエルフのダンジョンだと確信を深める。野蛮人らしい雑な作りのゴーレムだった。


[動揺するヘタレ]

「マスター、嫁達及び非戦闘人形の送還を進言します」

「なんで?」

「敵の侵入です。戦力から言って程なく、マスター言うところのコアルームまで達するでしょう」

 虎治はあわてた。死に戻りのギフトがあるとは聞いている。だが、戻るのは此処、コアルームなのだ。

「駄目じゃん、全員前に出して徹底抗戦させようよ」

「アルファ雄はハーレムを護るために命を掛けるものです、雌を盾にする等、風上にも置けません」

「だって俺死んじゃうじゃん」

「……今、ユグダのダンジョンマスターに了解を得ました。死に戻りポイントをユグダに変更」


[忍び寄るエルフ]

 時折、入り口から遠話が入る。何度かエルフの襲撃を撃退したらしい。

「隊長の言う通りでしたよ」

 隠蔽魔法を使わずに至近まで接近されたと言う。予めそうもあろうと聞いてなければ奇襲を許したかもしれない。射角を得ようと洞窟から出た者が二人戦死した。掩体の内側であった事から気球から射たれたのだと思われたが隠蔽破りが効いていないようで、発見できなかった。

「気球に大出力の魔石を積んであるんだろう、何人倒した」

「…いえ、…ひとりも」

 怒鳴り付けようとして、ガオッケンは直ぐに思い当たる。ボルトを回収してなかった。この短時間でもう対抗魔法の付与をしたか。

「鏃の付与は四種類以上で回せ、エルフの対抗付与は三以上設定出来る」

 おそらくは、もっとだ。了解と短く返事をして遠話は切れた。


[遅滞]

 マスターは役に立たない。

 これは始めから想定していた事だ。

 なので送還と手作りに拘っていた何種類かの[人形]を吸収させて貰うと、コアはマスターの首を刎ねた。

 速やかに死に戻って貰う為である。

 次いでアーカイブに自身のバックアップを録ると、逐次追加モードにする。

 出来るだけ情報を[持ち帰り]しなければならない。

 その傍ら、人形を量産する、量産する、量産する。

 時間稼ぎにしかならないように見えて仔細なデータを集められれば、それだけ正確な戦力の分析が出きる。

 人形は形を成すと逐次前線たる上階へと進む。


 結節点からシグナルが来た。

 ダンジョンマスターの不在に怯えているようだ。

 結節点に知能と呼べるものはない。

 故に説明も説得も出来ない。

 あやすような信号を送って宥めるが、いつまでも持たないだろう。

 暴走したとして何れくらいの被害が出るのだろうか。


 このコアの心配している被害とは情報の損失の事で、本来は有る意味絶対的な上位存在である情報子が消滅することを指す。

 これは魔素による干渉が極めて困難になると言うことであり、魔法による存在を否定する。


[陸戦隊出動]

 サルー司令は陸戦隊に動員を発した。

「あー、諸君連合軍は講和を打診しておきながら卑劣にも我が同盟たるダンジョンに攻めいった」

 自分で言ってなんだけど、どこが卑劣なんだろうね。

 普通にまだ戦争中だし。

「んでだ、かわいいねーちゃん達を助けにいくよー」

 うん、士気は万全だ。


 最初にシャオから次いで森人の族長から、ダンジョンの急を告げられた。ダンジョンマスターは既に森に避難して来ていて、コア、あの喋る黒い球体だな、が防衛の指揮を取っているらしい。

 マスターになんで一人で?と訊いてみたが、

「だって、えぐ、くび、えぐえぐ、きられて、えぐ」

 えぐえぐ泣くばかりで、さっぱり要領を得ない。

 シャオにダンジョンに転移出来ないかときいたら、

「歪さがさらに増してて危険」

 マスターの転移は特殊らしく解析の目処も立たないそうだ。

 しゃーない、歩いていくか。


 その経緯があって陸戦隊を召集した。

 ずっと後になって知ったのだが、[かわいーねーちゃん達]真っ先に避難させたのだそうだ。

 どうやって森に入ったんだ?


[三顧の礼]

 王都から連合軍が逃げ出し始めている。共和国軍を恐れてと言うわけでもなく、なぜか連合軍兵士にだけ掛かる疫病が流行っているのだ。

「天罰だ!」

 そう叫ぶ市民をいつまで押さえておけるのか、もう講和も掃討もない、そんな状況らしい。空軍と水軍航空隊は交代で王都上空を示威飛行するのが日課になった。市民が歓声を上げて手を振ると翼を振って応える。共和国軍の到着はまだまだ先だが、もう戦の結果は見えていた。


 その中でせめて名伯楽を得ようと逃走の姿勢を保ちながら、残っている小国があった。

 キーナン公国という。名伯楽とは、王国空軍技官シャオ・ハイマオを育てたと見なされているグル師の事である。協会長を辞任し、協会も脱会したと言うなら、何某(なにが)しかの(ただ)ならぬ経緯(いきさつ)を予想しても良さそうなのだが、早く逃げ出したいとの焦りも有って頓着しない。


 足を運ぶ事数度、グル師も元はと言えばただの学者馬鹿、三顧の礼に感動の上逃避行に同道する事と相成った。後にキーナンは魔導大国と呼ばれる程に魔法の隆盛を見るのだが、シャオの事で味噌を付けたとは言えグル師も協会長を勤めただけあり、一流の魔法教育の大家で有ったようだ。


[戦闘]

 「くそっ!キリがねーぜ」

 四つ足や二本足、稀に六本足のゴーレムがワラワラと湧いてくる。話しに聴くような安全地帯為る物は此処にはないらしく、ひっきりなしの戦闘になっていた。

「交代で休め」

 二十人ずつ五つの班に別けて十分で交代させた。これなら、四十分休める。忙しない様だが相手が休んだり様子見をしたりしないのだ。全力で動き続ける必要があり、十分とはほぼ限界なのだ。

 陣は縦長に為る。最後尾の休憩を終えた班が前線に移動し交代し戦線を押し上げる、交代した班は少し下がりそこで休憩に入る。目の前でギャンギャンギャリンと白兵戦でいつ抜かれるか気が気でないが、十分もすれば前線はさらに上がる。多少は休んだ気になれるだろう。

 その内細切れな休憩にも関わらず仮眠を取る豪の者も表れた。


[駆逐]

 王都に入城した共和国軍は治安の回復に勉める事に為った。連合軍が撤退して、共和国軍が到着する、僅か二日ばかりの間に、何が原因なのか市民同士の衝突が大小五件程、武器を持った兵士が居なくなった事で跳ねっ返った、一見意味不明な数を恃んだ商店の略奪狙いと思われる暴動もどきが数件、落ち着いていれば二個小隊程で済む治安維持も、大隊規模の兵が必要とあって、追撃は跨乗戦車二十両と空軍に任せることに為った。

 殲滅は無理なので追い払え、駆逐せよとの命令が下った。下手に追い付いて捕虜を取るのも煩わしいのだが、王都から略奪された物もあるらしく、輜重は鹵獲ろかくせよとの命も付随していた。


 強襲艦から飛び立った空軍機は索敵機動を取り輜重隊と思われる車列の位置を報告、それを受け跨乗戦車と援護の水軍機が走る。途中延びた敵兵の列を追い越すが互いに構わない。殿の陣を構築する間もなく殺到してくるのだ、どうしようもないではないか、長々と延びて指揮の取りようもない隊列の指揮官はそう思う。

 元より戦車隊の方も構っている暇はない。道を塞ぐなら轢き潰して行くまで。

「停まれ!」

 輜重しちょうおぼしき車列の先頭に追い付いた指揮戦車は鹵獲宣言をする。

「こりゃ傷病兵搬送馬車じゃねぇか」

 搬送しているのが病人であったため、急ぐ事もならず遅れたらしい。略奪品の車列は随分と先行しているようだった。戦車隊指揮官はその情報を得るとすこし距離を置いて追尾してくる強襲艦に報告、車列を解放し先を急ぐ事にした。

「諸君等の無事な帰郷を祈る」

 敬礼して去る指揮官。この時のエピソードは戦後長らく美談として伝えられ国交の回復に大きく寄与する事となった。


[放射能症]

 この状況を作り出したのは[疫病]で倒れる兵が、急激に増加した為である。

 一人の傷病兵を搬送するのに二人の兵が必要だ。

 小国の軍から離脱が始まった。

 バラバラに逃げる軍は既に連合国軍ではなくなっていた。

 まともな撤退戦の用意も出来よう筈もない。


 医療機関では解明できなかった連合国軍人の奇病は、魔導師協会の協力を得る事で、放射能症である事が解って来た。王都に遺されていた病死体は埋葬するにしても、動かすに動かせず残されていた病人達の治療が出来るようになり、陸軍元帥のマーガタ・クノ・ムグンは、ほっとしていた。

 疫病の恐れがあれば生きたまま焼却せざるを得ないところだったのだ。如何いかに敵とは言え、下したい命令ではない。


 治安回復の目処は直ぐに立ち、傷病捕虜の処遇が問題となっていた。ヨードを大量に飲ませ放射性物質の体外排出を試みる一方で、直接消去の術式の開発が急がれた。全てが上手くいったとしても助かるのは重い後遺症を抱えた数人だけだろう。

 だが、いやだからこそ、誰もその事を口にしようとはしなかった。


[落ちちゃったか]

 ダンジョンの入り口は既に突破されてはいたが、森人達はそこから先に進むことが出来ずにいた。少し奥まった所に瓦礫や雑木で組んだ掩体を構築し連合軍は頑強に抵抗してくる。射角の狭まる洞窟内では十分な圧迫攻撃が出来ない。掩体に掛けられた防御の付与魔法も優秀で森人の精密射を阻害していた。

「あれ、何とかしないと駄目だねー」

 到着したばかりの空軍司令は迫撃砲の使用を命じた。かなり強い物理防御の付与でなければ防げないだろう。その陣を抜くとその後方に同じ様な掩体があった。

 連合軍の兵士達は、弱兵と聞かされていた空軍が相手とは、最後まで気付かなかった。迫撃砲を撃ち込んだ後の果敢な突撃は精兵のそれで有ったからである。


 森人に頼んで捕虜を後送する。

 重症者も多いが、外には丸太気球も待機している。

 活躍してくれるだろう。

 いくつかの陣を抜くと敵兵の変わりに人形兵が出てきた。

 コアの言っていた不備は解消されたのだろうか。

「ありゃりゃ、落ちちゃったか」

 明らかに敵対の様子だ。

 コアが奪取された事を意味した。


[別名]

「エルフ」と呼ばれたので、シャオは恩寵の短剣をダンジョンマスターの喉元に突き付ける。

「エルフをエルフと呼んで良いのはエルフだけ」

 これで三度目だ。重要人物であってもエルフ達は頓着しない、このままでは何時か命を落とすだろう。切っ先が触れた皮膚からついっと血が零れる。

「痛い痛い、血が出た、ヒトゴロシー」

 シャオは呆れた。この程度痛みの内には入らないだろうに。

「今度エルフと言ったら…」

 どうしようかと、暫く考えて

「頭の皮を剥ぐ」

 確かエルフの刑罰にそんなものがあった筈だ。

「インディアンかよ!」

 しかし、その突っ込みは通じない。コテンと首を傾げるシャオ。

「エルフと言わないのであれば、その呼称でも良い」

 森人の別名が一つ加わった。


[終盤]

 時は少し遡る。

 二層程降りて、やけに広々とした空間に出た。ゴーレムはいない。ガオッケンは見張りをたてると六時間の休憩を命じた。まだ被害は数人の軽い怪我で済んでいるが、疲労は蓄積している。限界に至る前に回復しておかなければ、瓦解する。


 コアは大分前から人形を作っていない。DPが切れたのだ。このDPは、虎治の物とは別立てで凡そ百倍程は有ったのだが切れる時は切れる。次にDPが入ってくるのは十時間後でその前にコアルームまで到達されるだろう。残っている十数体の人形を左右の壁際に並べ、コアは待つことにした。


[何故ここに?]

 流石に神樹のウロで嫁達といちゃつく事は御法度ののようで、虎治は追い出された。がそれだけではないのだろう。

 シャオが虎治の視線を鬱陶しく不快に思っていた事も、迂闊な言動で自らを死地に追いやりかねないダンジョンマスターを安全地帯である、神樹のウロから追放する要因となり得る。

「ここに住む、おーけー?」

 空軍府の、森内飛び地拠点の一つに借家を借り、そこに虎治を押し込める。

「狭いよ、嫁だけで二十人は居るんだよ?」

 森に避退してからも新[嫁]の召喚に(いそ)しんで居たらしく、数が増えている。その召喚場面にシャオが鉢合わせしたのが今回の仕儀ではあるのだが、少女達に罪はないとも思うシャオ。

「暫く我慢する、今空いているのはこの家だけ」

「えー、いつまでさ」

 あすには工兵に頼んで増築をと言うシャオに、騒音がー、とごねる虎治。

「節操のない下半身が原因」

「だってー」

「それなら、ワタクシが増築を行いましょう」

 声のした方へ二人が眼を向けると、黒い球体がプカプカ浮いていた。

「コア!何で居るんだよ。行きなり首を切るなんて酷いじゃないか!」

 コアは取り合わずシャオに語り掛ける。

「こちらの魔素をお借りしたい、程なくあちらの状況が落ち着きますので、其迄の最小の改変に止めます」

「わかった、それの下半身の管理も頼みたい、でなければ無限の増築が必要になる」

「了解しました」

 こうして神樹の森と歪な決節点との契約は成った。

 暫くコアを見つめ、コテンと首を傾げるシャオ。

「何故ここに?」

「コアルームが攻略されたので此方に退避させて貰いました」

「決節点が不安定になる」

「それについては、工作済みです」

 問題ないらしい。


[突破御殿]

 何度かの戦闘を経て漸く戦車隊は目標らしき車列を捉えた。

 先頭の前十メートル程のところに砲弾を撃ち込んで車列を停める。

 指揮官らしき者がいきり立って反撃を命じるが兵は反応しない。

「王国より持ち出した物を返還すれば解放する」

 そう言うのだが、傍らの兵の弩を取り上げた連合軍指揮官は

 [パン!]

 跨乗兵に射殺された。

「次席の者は誰か!」


 強襲艦の一隻が降下して艦首の搭乗扉を大きく開けた。

 連合国軍兵士の口もあんぐりと開いた。

 馬車や水車車は置いて行く、一時的に捕虜として扱うと宣言して敵国の兵を人夫に使い、被鹵獲物資の回収は滞りなく終わった。


 なお、この作戦での戦死者はいない。

 車側から立ち上げた圧縮真空の掩体が跨乗兵達を護ったからである。

 この指揮官は後に敵中突破三千里と言う本を書いて[突破御殿]と呼ばれる屋敷を建てた。


[最終局面手前]

「えー、ダンジョンコアは壊しちゃ駄目です」

 サルー司令は人形との戦闘が一段落付いたところで、シャオからの念話による新情報を開陳する。

「壊しちゃうとこの辺りの生き物が一瞬で死んじゃうそうです。酸欠みたいなものですね、欠乏するのは魔素ですけど」

 厳密に言うと欠乏するのは情報素子なのだが、素人に区別は付かない。いや、玄人でも分かっている者は少ないだろう。

 生き物には勿論人間も含まれると付け足す。

 暫しの休憩の後、進軍を再開する。

 出てくる人形はいない。

 魔力かなんかが枯渇したんだろうと、サルーは思う。

 確か、充満する魔素も一旦加工してからでないと使えず、意外に時間がかかるのだと、やけに人間ぽいコアが溢していた。

 となると、後は二個小隊程の連合軍が相手だ。

 ならば人形と違い考える頭がある。

 分岐に行き当たる度に斥候を余計に放つ。

 進軍速度は落ちた。


[マリーの憂鬱]

 ブラッディー・マリーにとって取ってこい遊びは命懸けの物に変貌していた。最初のうちこそツノウサの届く前にボールをかっ浚ってふーふー言わせて悦に入っていたのだが、いまやぎりぎりだ。

 咥えた瞬間に首を振って交わさねば、ボール毎顎を突き破られかねない。

 そうなれば、ご飯が食べられない。

 命の危機極まる。

 サルー司令ならなにか考えてくれるかもしれないが、長官と来たらギリギリの攻防に歓声をあげるばかりで、彼女の憂慮に気付く気配もない。

 なのでマリーはストライキをすることにした。

「マリーや取ってこいするよ」うず

「おや、今日は体調でも悪いのかな?ツノウサおいで」うずうず

「そーれ」…「パンッ」うずうずうず

「もう一回いくよ」わうわうわう。

 マリーの命懸けの遊びはまだまだ続きそうだ。


[ようこそ]

「状況を再開する」

 一度部隊を再編の後ガオッケンは進軍を再開した。

 今度は殿に兵を配置している。

 残してきた部隊からの遠話が途絶えた。

 落とされたのだろう。

 エルフ達が追い付くのはまだ先とは思うが、用心に越したことはない。

 広大な空間の尽きる辺りに岩壁には不似合いな扉がみえた。

 エルフの管理者がいるならあそこだ。

 ガオッケンは先行する部隊に追い付いて先を急がせる。


 一番にあの扉に入ろう、なぜか、そう思った。

 斥候長は頑固だった。

 指揮官の要望をにべもなく断る、と五名の部下と共に扉の中へ突入した。

「隊長、エルフは居ません」

 続いて入る。


 両の壁際には雑多な木製のゴーレムが十数体並んでいる。

 驚異には見えない。

 奥まった所に祭壇の様なものがあり、黒い球体が浮いていた。

 エルフは?

 いる筈の管理者はどこだ?

 外の兵を入れて隠し部屋を探させようか。

 それとも外の広大な空間に紛れたか。

「わたくしダンジョンコアは当ダンジョンの陥落を宣言します」

 やにわに、黒い球体から女の声がした。

「ようこそ、…」


[マスター]

 決節点は怯えていた。

 存在を存在足らしめるダンジョンマスターの不在が、

 徐々に巨大な空白となって決節点を苛むのだ。


 コアは限界を感じていた。

 決節点の生き物の耳では聴くことの出来ない咆哮は、

 すでに耐え難い程になっている。

 程なくこの辺り一帯の情報素子を吸収して、決節点は消えるだろう。

 それに伴う大量の[死]については頓着しない。

 が、虎治の帰還に差し支える。

 それだけは困る。


 なのでコアルームにガオッケンが入ってきた時、こう言った。

「ようこそ、貴方が新しいダンジョンマスターです」


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